なんかよくある話   作:天和

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それぞれの話

 

多少の変化があったとはいえ、いつも通りの旅路。

いつも通りに魔獣に襲われ、いつも通りにぶち殺すはずであったが、今回は若干異なる。

主な原因はクレアの発言である。

 

 

バサシが魔獣にビビらないように慣れさせるため、あえて馬車付近での戦闘を行っていたブル一行。

 

ルサルナが守り、クレアが喜々として突撃し、ブルが後ろで偉そうに腕を組んで頷く。

ウルもブルの真似をしてうむうむと頷いていた。

 

ルサルナに雷を落とされたブルはしっかり働くことになり、戦闘に釣られてやってきた大物を相手にすることになったのだが…

 

「その魔獣って、ウルちゃんと似たような耳だよねー」

 

自分の相手をさっさと針鼠にしたクレア。

デカい体に似合わない、小さく丸っこい耳を持った大物に、つい口が滑る。

 

魔獣ごとぶち殺されるか、魔獣をぶち殺した後に可愛がりを受けそうな発言なのだが、ブルの金棒がびたりと止まる。

 

前衛的な芸術作品の創作を中断し、一旦魔獣を投げ飛ばしたブルがゆっくりと振り返る。

クレアは失言を自覚し、帽子をとったウルを盾のように掲げている。

 

「にてる?」

 

こてんと首をかしげるウル。

ブルは体制を立て直した魔獣をあしらいながら、じっくりと観察する。

 

ウルの丸っこく小さな可愛らしい耳。素晴らしい。

この魔獣の耳も、丸っこく小さい。

 

ウルの守りたくなるような、可愛らしい姿。天使か。

中々に獣臭く血なまぐさい、雄々しい立ち姿の魔獣。

 

ウルはブルを見ると飛びついてくる。愛が我慢できない。

魔獣もお前を喰らってやろうと言わんばかりに飛びついてくる。

 

差異は中々に大きい。

しかし馬と違って魔獣は逃げない。

 

「一部目をつぶれば…有り、か…?」

「無しに決まってるじゃない…え、本気なの?」

 

血迷うブル、正気を疑うルサルナ。

 

逃げない動物であることも、ブルの判断を迷わせている。

 

ルサルナからすると、何をどう考えたところで無しにしかならない。

 

血走り、殺意に塗れた理性の感じられない目。

殺傷することに特化した血なまぐさい鋭い爪や歯。

多少の障害を叩き潰せる体格や筋力。

ある程度の防御力を有したゴワゴワした毛を持つ、汚く獣臭い姿。

 

これを有りというのは、まともな理性を持った人類では理解し難い解釈である。

 

視線の先ではブルが魔獣との交流を図り始めている。

 

「暴れんな、暴れんなよ…」

 

諭すように話しかける姿に怖気が走る。

よく分からないが、あれを好きにさせるのは非常に不味い気がする。

 

全力で、目一杯、あらん限りの力で阻止せねば。

 

ルサルナは粟立つ心を奮い立たせるように少し前に出て、全身全霊で魔法を解き放った。

 

「偉大なる大地よ!全てを受け止め抱擁せよ!」

 

莫大な魔力が解放され、空間ごと震えるような感覚。

ついで実際に揺れ始める大地。

 

久方ぶりに身の危険を感じたブルは慌てて逃げる。

ウルとクレアの横に滑り込んだブルは、目の前の光景に絶句した。

 

 

大地が波打ち、割れ、立ち上がる。

 

 

波打つ大地に足を取られた魔獣は、割れた大地に飲み込まれ、津波のように被さる土砂の下に消えた。

 

残ったのは広範囲にわたり草の一本もない、整備されたような地面だけであった。

 

突き立てた杖を引き抜き、ゆらりと振り返るルサルナ。

びくつく二人と一頭。

ウルは丸いお目々をきらきらさせている。

 

可視化されるほどに濃密な魔力が瞳から漏れるその姿は、これ以上ないほど魔王的であった。

 

 

「…どうしたの?怖いものでも見たような顔して」

 

優しげな笑みを浮かべるルサルナ。

ブルごと肥料にしかねない魔法を撃ったとは思えないほど美しい微笑みである。

 

抱擁ではなく喰らい尽くせでは、とは口が裂けても言えない。

言葉なく首を振る三人。

 

「そう…何も()()()()()ことだし、早く進みましょう?」

「了解!」

「分かりました!」

 

威勢よく返事するブルとクレア。

ウルは興奮からか声も出せず、ぶんぶんと腕を振り回している。

 

ルサルナが馬車に乗ると自発的に動き始めるバサシ。

このお方こそが真の支配者であると言わんばかり。

 

大人しく付き従うブルとクレアがそれを助長させている。

ウルは興奮を隠せず、ルサルナに纏わりついてぱたぱたしている。

 

何もかもを許すような穏やかな笑みを浮かべるルサルナと、ぱたぱたと賑やかなウル。

蛇を前にした蛙のようなブルとクレア。

 

一行は概ね穏やかに旅を続ける。

 

 

 

 

 

「やべぇなこりゃぁ…」

「恐ろしさを超えて感動すら覚えるね…これは」

「ううむ…」

 

数日後、通りがかったとある三人。

シャルとジェロ、拉致られたカニスである。

 

逃げること叶わぬと諦めたカニスは、ブル一行を追跡する二人の仲間として加えられていた。

 

三人の前には、整地されたような景色が広がっている。

 

「ルサルナの姉御だな…もし人がやったと仮定すればだが…」

「確かに地魔法を良く使っていたけど、こんなの一人で出来る?」

 

広範囲にわたり草の一本もない平坦な大地。

明らかに他と違い浮いている景色である。

 

自らも魔法が得意とはいえ、ちょっと常識を疑うシャル。

 

「相手を人類と考えるなよ。胸張って人類って言えるのクレアぐらいだぞ?ウルちゃんもちょっと怪しいのに」

 

大変失礼なことを言うカニス。

本人達がいないからへりくだる必要もない。

 

「流石クレア殿…吾輩の姫様であるな」

「ウルちゃんは天使だから人類じゃないよね」

「お前らも人類じゃねぇよ。頭の構造が」

 

二人の返事に思わず突っ込むカニス。

ちょっと失礼なことを言っても、命の心配も可愛がりもされることはないと理解しているためである。

 

ため息の尽きない旅路である。カニスだけが。

 

時折現れる、恐らくはブルが作ったであろう破壊痕を辿りながら三人はブル達を追いかけている。

 

カニスの心労を除けば、こちらも実に穏やかな旅路である。

 

 

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