なんかよくある話   作:天和

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知らない方が良いこともある話

 

数日ほど旅を続けた一行は、とある都市に着いていた。

都市を前に魔獣の群れに襲われているが、特筆することはない。

全て肥料として大地にお返ししている。

 

目の前にあるのは、監視塔や高い壁を擁するやや物々しい都市。

 

 

傭兵都市ゼルドナー。

 

 

過去に魔獣の大発生が起きた際に作られた要塞が元となった都市である。

大発生後もその周囲に魔獣が多く存在し、そのため大勢の傭兵が残り、良い商機と捉えた商人達が集まり拡大された結果、都市と呼ぶほどに大きくなった場所である。

都市の中心には古びた要塞が残されており、象徴になっている。

 

現在はただの町民も数多くいるが、やはり魔獣狩りを主とする傭兵が多く、荒っぽい者は多い。

 

一般市民にはほとんど手は出さない理性はあるが、舐められたり馬鹿にされるのであれば、その限りではない。

 

都市では毎日、どこかで乱闘が起こっている。

 

 

傭兵都市ゼルドナー。

 

基本的に強さこそがものを言う、そこそこ危険な都市である。

 

 

 

 

るんるんと弾むように歩く、揉め事大歓迎なクレア。

因縁でもつけられないかとうずうずしている。

 

そんな姿にため息を吐くルサルナと、どうでも良さそうなブル。

ウルは色々な装備をした人達に興奮している。

 

子供を肩車し、見目の良い女性を連れ、しかも立派な馬までいる一行はものすごく目立っている。

目立っているが、じろじろと見られるだけで特に動きはない。

 

 

一行はまずは宿を確保し、見たい見たいと興奮するウルのため散策することにした。

 

ルサルナは依頼屋に魔物の情報を伝えに行っている。

ウル優先のブルでは、あの老人からの依頼をする気配がなかったためである。

 

何度も遭遇した群れも、猪のような特異個体も、地竜や影の様な個体も報告していない。

 

特に影の様な個体。

せめて対処法を広めなければ、いたずらに被害が増えてしまうだろう。

 

基本ウルしか目にないブルと違い、ルサルナはしっかりしていた。

 

そして、ある程度危機感を持ったルサルナと違って、お子様二人連れのブルはのんびりしていた。

 

買った果実水を片手に、きゃーきゃーはしゃぐウルとクレアを眺めている。

 

勿論、なんだこのガキどもは、と邪魔そうにする傭兵もいる。

 

そういう輩は直ぐに、子供らの後ろに控える悪鬼に睨まれ退散しているが。

どれほど恐ろしい表情で睨んでいようとも、ウルが振り向けば穏やかな笑顔を浮かべる為、その表情の変化に二度見三度見する者が続出している。

 

二度見か三度見する頃には穏やかな笑顔なので、疲れているのかと首をかしげているが。

 

 

ブル達が遊んでいる中、ルサルナはきっちりと報告を終えた。

大都市ナシク、あの老人がいる都市に報告が行くように依頼もした。

 

頼まれたことなのに、なんでこちらがお金を払っているんだろうとは思ったが、面倒なことに巻き込まれたくないので大人しく依頼料を出している。

 

若干もやっとした気分のまま、合流する予定の広場に向かうことにするルサルナ。

 

「あぁー!!魔王だ!噂の魔王!」

 

依頼屋を出た途端、甲高い声が響く。

知らないふりをしようとしたが、あからさまにこちらを指差している。

周囲の人達もこちらと何か喚いている少女に注目している。

 

「ねぇ!お姉さん魔王ですよね!?」

「いいえ知らないわね。他人の空似じゃない?」

「そうなの!?ごめんなさい!」

 

グイグイ詰め寄ってくる少女に素知らぬ顔で嘘を吐くルサルナ。

少女は素直なのか、ただの馬鹿なのか、間違えたことを謝罪する。

 

「いいのよ。間違いは誰にでもあることだから。今後は気をつけることね」

「ありがとうお姉さん!」

 

大人の対応である。ただし、腹は真っ黒。

足早に去ろうとしたルサルナの服を掴む少女。

 

「まだ何か?」

「あの、間違えたお詫びにご飯奢ります!」

「残念だけど、もう食べたの。気にしなくていいから、それじゃあ」

 

当然、食事はまだである。

嘘に嘘を被せていくルサルナ。

おろおろとし始める少女。服の端は離さない。

 

「あ…え、えと…あのあの…」

「悪いけど、少し急いでるの。気を遣ってくれてありがとう。それじゃあ」

 

ついてきてもらうのにいい方法は、と考えるも案が何も思い浮かばない少女。少し涙目。

別に急いでいなかったが、たった今急ぐ理由が出来たルサルナ。

やんわり手を離させ、頭を優しく一撫でして歩き出す。

 

「あ…」

 

悲しげな声が聞こえるが、努めて聞こえないふり。

嘘に嘘を重ね、聞こえないふりまでして純粋そうな少女を騙すのは少し心が痛む。

しかし自らの汚点を曝け出したくないという気持ちの方が強い。

歩く速度はぐんぐん上がり、もはや駆け足。

 

合流する前に外套も新しく購入し、目立つ杖を鞄に放り込み、出来るだけ顔を隠すルサルナ。

どれだけ嫌なのかがそれだけで理解できる。

 

 

「戻ったわ」

「おう…どうした?杖は?外套も買ったのか?」

「私の噂が流れてるらしくて…」

「そ、そうか…仕方ないな…」

「あれ?ルナ姉どうしたの?」

「きがえたの?」

「噂が…流れてるのよ…」

「うわさ?」

「ウル、宿屋に戻ったら教えるからな」

 

ルサルナが戻り、ウルとクレアも近づいてくる。

ブルとクレアは噂と聞いてピンとくる。

ウルは首をかしげているが、ブルに後でと言われとりあえず納得している。

 

一行は素早く宿へ戻っていった。

 

 

 

「もうこっちまで届いてるんだねー」

「俺等はのんびり進んでるから、そんなもんか」

「むぅ…」

 

ルサルナから何があったかを聞き、案外広まるのが早いと感心していた。

ウルは魔王様の品々を取り出そうとしてクレアに取り押さえられていた。

不満気な顔でクレアに抱えられている。

 

「ということで、名前も知られていると嫌だから、ちょっと変えましょう」

「ルナ姉じゃ駄目?」

「確かに。ルナで良いんじゃないか?」

「ブル、もう一度呼んでみて?」

「ん?…ルナ」

 

なんだか鼓動が高鳴るルサルナ。

 

安直ではあるが、ブルにそう呼ばれるのは新鮮だし特別感があってとても良い。

名前を短くしただけなのでこれ以降も使える。

 

ルサルナはその魅力に抗えなかった。

 

付き合いたての恋人かよ、などとクレアは思ったが口にはしない。

誰も好き好んで馬に蹴られたくはないのだ。

 

とりあえず簡易ではあるが、幾らかは誤魔化せるだろうと呼び名はルナに決まった。

 

 

ブル達は知らない。

ルサルナ含め、認識が甘いことを。

ブル達全員に言えることだが、情報に疎い。

 

 

魔獣を狩る者たちは多い。

そうした者たちはゼルドナーに拠点を置いているものも少なからずいる。

腕っぷしに自信がある者も集まる。

 

そうすると、各地の噂が自然と集まってくる。

噂の中で特に人気となるのは、魔獣と同業者についてだ。

 

魔獣は勿論、真実ならば名を上げるために倒したいから。

同業者はヤバい奴らの動向であったり、新たに出てきた強者について知りたい。

ヤバい奴らには手を出したくないし、ヤバくないなら手合わせをしてみたりしたい。

 

傭兵が多い分、そういった話は他の都市よりよく広まるのだ。

 

当然のように、ブル達が仕出かしたことは噂になっている。

大抵は確度の低い噂話の類に漏れないが、ある程度の情報通であったり、噂の発信源を追う者もいる。

 

どのような容姿で、獲物は何か、何人で動いているのか。

当然、知っている者は知っている。

 

ブルはもとより有名であった。

当初こそ、過去とのあまりの差異に同一人物と見做されなかったが、時折バチクソにキレるため同一人物で間違いないとの見解である。

 

そしてルサルナもまた、絵や彫刻にまでなっているため、かなり有名になっている。

 

ルサルナが素知らぬ顔で嘘を吐いていたのも、傭兵の多くは分かっていた。

 

 

では有名であるのに、何故あまり絡まれないのか。

勿論ブルの存在が大きいのだが、それだけではない。

 

 

ブル達は知らない。

 

ゼルドナーにおいての自分達の評価を。

ヤバい奴らの中でも、上澄みかどうかというほどヤバい奴らだと思われていることを。

 

ブル達はまだ知らない。

 




新キャラが増えちゃう…
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