なんかよくある話   作:天和

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百聞は一見にしかずという話

 

噂であれこれ言われていようとも、結局は噂。

噂というのは、大抵元となった出来事に尾鰭が付いたものである。

 

しかし稀に、尾鰭も何もないものや、尾鰭を付けてやっと元の出来事に追い付く噂もある。

 

人は往々にして、聞いただけで分かったつもりになるが、時には自ら体験することも重要なことである。

 

 

∇

 

青い空、爽やかな風。

 

きゃっきゃと笑い合う二人のお子様。

穏やかな笑顔で眺める男と、顔まですっぽり隠した人物。

 

はしゃぐお子様はウルとクレア。

眺める不審者気味の二人はブルとルサルナである。

 

聞いたことがない甘味品が売っており、それを買うためにウルとクレアが売り場の列に並んでいる。

 

ブルはウルに、買ってきてあげると言われて喜々として待っていた。

日々成長するウルに、感涙にむせんでいる。晴れやかな天気にも関わらず、穏やかな笑顔に雨が降っていた。

 

ルサルナは単に目立ちたくないからである。甘味品には興味津々。

 

そうして待っている二人に近づいてくる小柄な姿。

 

「やっぱり、あの人だよ。ほら、これそっくり」

「そうね!片方は顔が分からないけど、きっとそう!」

 

ルサルナは聞き覚えのある声に今すぐ逃げ出したくなった。

逃げ出したいが、ブル達を置いていくわけにもいかない。

 

「すいません、魔王の懐刀で合ってますか?」

「魔王の守護者ですよね!」

 

ずいっと近づいてきた二人。

金髪と紫石英のような瞳がそっくりな少年少女である。

 

魔王と聞いて何となく察したブルだが、懐刀と言われていることは知らない。守護者も。

 

「いや、知らねぇ。初めて聞いたんだが」

「え…でもこの絵そっくりなのに…」

 

少女は否定されて急激に勢いを失うも、手に持っていた額縁をブルに見せる。

 

そこにはルサルナが誰かを踏みつけ、その脇にブルが控える姿が描かれている。

 

「へぇ…見事なもんだな、そっくりだ」

「で、ですよね!」

「ぅ゛っ゛」

 

そっくりどころか本人なのだが、ブルは素知らぬ顔。

横ではまさかの絵画登場に精神の傷が開いたルサルナ。

 

「横の方は魔王ですよね!顔は隠しててもあなたがいるし!」

「ルナ、お前魔王だってよ」

「そそそうなん、なんだしし、知らなかったわぁ!」

「めっちゃ動揺してますね」

 

昨日は素知らぬ顔で対応していたルサルナ。

致命の一撃を受けて動揺を隠せない。

 

あまりの動揺っぷりに少年が思わず突っ込む。

 

「嬢ちゃん、良いこと教えてやろうか?」

「良いこと!?なんですか!?」

「話逸らされるよ?いいの?」

 

半端ではない動揺っぷりに、ブルが時間稼ぎを図る。

良いことと聞いて、とてもわくわくしている素直な少女。

少年はあまりの容易さに呆れている。

 

「知っていた方がいい、だが怖い話だ…それでも聞きたいか?」

「っ、し、知っていた方が良いなら…」

「はぁ…」

 

脅すような言葉に、ごくりと喉を鳴らす少女。チョロさが溢れている。

その姿にため息しか出ない少年。

 

「この世にはな、嬢ちゃん。自分を含めそっくりな人が三人いるんだ」

「さ、三人?三人もいるの?…でもそれが何なの…?」

 

どきどきしている少女。

おちょくりがいがあるなと思っているブル。

 

「そのそっくりさんは本物を探しているんだ」

「探す…?どうして?」

「自分が本物になるためだ」

「本物に…」

 

既に何となく先が読めている少年。

やたらとビビる少女を冷めた目で見ている。

 

「本物になるためには何が必要か、分かるか?」

「な、何が必要なの…?」

 

純にすぎる少女。

 

「それはな…お前を喰らうことだぁ!!」

「ひぅ!?」

 

驚きすぎて、ぺたんと尻もちをつく少女。

大きな声で脅かす古典的な方法に、それはもう見事に引っ掛かっていた。

あまりにもチョロすぎる姿に天を仰ぐ少年。

 

「こんなに驚くとは…ウルには話せんな」

「ふぇぇ…こしがぬけちゃった…」

「大丈夫?その、悪いけど頭の方ね」

 

ウルに話そうと思っていたが、反応が良すぎて止めようと考えるブル。

もし話していたら冷めた目で見られるだろう、これは英断である。

 

涙目で立てない少女を心配する少年。ただし頭の方。

 

「まぁ脅かしたが何が言いたいかというとだな…教えてくれたお陰で、俺はそいつを警戒出来るわけだ。お前は命の恩人だ。これをやるから宿に戻って食べな」

「え?あれ?えっと…どう、いたしまして…?」

「僕は君が生きていけるのか心配になるよ」

 

焼き菓子を手渡され、よく分からないまま帰らされそうになっている少女。

頭の上には疑問符が飛び交っている。

本気で心配している少年。頭の方であるが。

 

「じゃあな嬢ちゃん。また今度」

「ちょっと!わざとこの子にぶつかったでしょ!」

「ああ!?知らねぇよ!小せぇのにウロチョロしてっからだろうが!」

 

少女が理解する前に帰らせようとしたブルだが、売り場の列の奥からいざこざの声が聞こえてきた。

クレアと男の声である。

 

ブルは一瞬で状況を把握した。

クレアがこの子と言っているのはウルのことだろう。

 

息苦しくなるような圧とともに立ち上がるブル。

少年少女は驚きの変化に顔が引き攣っている。

 

「悪いな、用事が出来た。ルナ、行くぞ」

「…えぇ」

 

背景と同化することに努めていたルサルナも、非常事態に気持ちを入れ替える。

ウルとクレアの身の危険というより、都市存続の危機である。

 

鬼の出現に人の波が割れる。

誰であろうと、バチクソにキレている奴には関わりを持ちたくないものである。

 

 

「誠心誠意真心込めて謝罪しないと、赤ん坊からやり直すことになるよ…!」

「誰がチョロチョロしてるガキに謝るってんだ?チビはチビなりに気をつけて…」

「ぁ…にぃ…」

「ぅ…鬼ぃ、さん」

 

赤い血が通っているのか心配になるほど青い顔になるクレア。

言葉の意味が違うように聞こえてしまう。

 

異変に気づいた男の声が止まる。

 

「どうした?続けてみろ」

「ぉ、あ…」

 

男は空間が歪んで見えるほどの圧迫感を感じていた。

立っているのか、倒れているのか分からなくなっていくほど。

 

よろめき、尻もちをついた男をブルが見下ろす。

 

「おいおい、随分とまぁ…小さくなったなぁ。小さすぎて踏み潰しても分かんねぇぞ?」

「あがっ…!」

 

胸元を軽く踏みつけ、地面に押し付けるブル。軽くの基準はブル本人である。

 

つまり、半端ではない。

 

「うちの子が世話になるなぁ。それで?チビはチビなりに…なんなんだ?」

 

痛みと恐ろしさで声も出せない男。

みしみしと軋む音が響き始める。

 

「ちっ…弱(じゃく)い。弱者にしか噛み付けねぇのか?今から来世に期待するか?」

「かはっ、やめ…」

 

一度足を上げるブル。足を下ろす位置は胸元から、頭へ。

 

「にぃやめて!」

「待ってー!!」

 

足を下ろす寸前、二つの小さい塊が勢い良くブルにぶつかりにくる。

ウルと先程の少女である。

 

少女はどうでも良いとして、ウルを避ける訳にはいかない。

ウルをしっかり抱きとめた結果、赤い花は咲くことなく、舗装された地面を砕くだけに留まった。

 

少女は片足のくせに根でも張ったようなブルに跳ね返されていた。

 

「にぃ、わたしだいじょうぶだから」

「ウル、でもな…いや、大丈夫なら良い」

 

ぎゅっと抱きしめる姿は感動的にすら思える光景だろう。

足元の泡を吹く男と砕けた地面がなければ。

 

目を回している少女は少年に介抱されている。

 

 

巻き込まれないように遠巻きに眺めていた傭兵達は、やはりヤバい奴であることを再認識した。

ウルを見るときの穏やかな笑顔は本心からのものであるため、実際に見ても判断が付かないところであった。

 

死にかけた奴は不幸だが、そのお陰でヤバいままだと確信を得れたのだ。

 

 

百聞は一見にしかず。

 

百回話を聞いたところで、一目見ることには及ばない。

大事なことは、やはり実体験である。

 

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