なんかよくある話   作:天和

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なんだか長くなりがち…


開き直れば無敵になれる話

 

アメリアはとてもどきどきしていた。

何故か自分と同じベッドで、さも当然かのようにクレアが寝ている。

 

一緒にルサルナから逃げ回った末に、帰りにくいから泊まっていくなどと言い出した結果である。

 

アメリアには友達がいない。

生まれ育った村には子供がいなかったのだ。

老人ばかりの村の少し外れに、ヒースとともに捨てられていたのだと聞いている。

 

寂しいと感じることはなかった。

ヒースがいたし、村の爺ちゃん婆ちゃんは皆家族のように可愛がってくれた。

 

爺ちゃん婆ちゃんは畑仕事も、剣や盾の使い方も、魔法や勉強なんでも教えてくれた。

それはとても役立っているし、それだけでなんとかなるだろうとも思っていた。

 

しかし現実はそう甘くはない。

 

爺ちゃん婆ちゃんは友達の作り方とか、接し方などは教えてくれなかった。

 

ヒースと同じようでいいんだよ、などと言われても姉弟と友達は違うと思う。

そう言ったら、その時がくれば存分に悩みなさいと言っていたので、ふーんというくらいで流していた。

 

今思えばちょっとくらい、爪の先程度は教えてくれても良かったんじゃないかと思う。

 

肌が触れ合う程の距離で、すやすやと寝息をたてるクレア。

同世代くらいの、ちょっと怖いところがあるけど、逃げるときに助けてくれた優しい面もある女の子。

 

帰りにくいからこっちに泊まるねー、という言葉に、ちょっと舞い上がったのは確かだけども。

 

 

でも一つしかないからって言って、同じベッドで寝るのはちょっと飛び越え過ぎじゃない!?

友達、ていうよりもう親友よね!?心の友…よね!?

 

 

常人の理解の外側を三段飛ばしで爆走する少女、アメリア。

交流のほとんどが村の爺ちゃん婆ちゃんしかいない、交友関係に難がある少女である。

 

もんもんとして眠れそうになかったが、直ぐ側の人肌がなんだかとても温かくて、気がつけばぐっすりと眠っていた。

 

 

 

翌朝、早くからこそこそと動く二人。

しれっと戻ろうとしているクレアと、クレアを既に親友認定したアメリアである。

 

そろりそろりと部屋の前まで忍んできた二人。

不気味な程の静けさが、なんとも嫌な予感をかき立てている。

 

「…一緒に入る?」

「も、勿論よ!」

 

お互いに小声で話し合う二人。

クレアが扉に手をかけ、ゆっくりと開く。

 

きぃ、と小さく軋む音。クレアがそっと覗き込む。

 

「あ…ぁ、ああぁぁ…」

「どうしたのクレア!?え、なに…これ…?」

 

覗き込んだ途端、目を見開き呆然と声を漏らすクレア。

クレアの異変に驚き、覗き込んだ部屋の中は異界であった。

 

壁には一面、机や床にも所狭しと並べられた様々な品。

全てクレアが買い集めた、魔王の品々である。

 

「ふふ…どうしたの?そんなところで突っ立って。早く入りなさい?」

 

奥から聞こえてくる、嫌に優しげな声。

ベッドに腰掛け足を組み、微笑みを浮かべたルサルナである。

横にはウルがちょこんと座って何かを頬張っている。

ブルはその後ろで、まだ寝込んでいる。

 

アメリアは警戒しながら、呆然と立ち尽くすクレアを引っ張り中に入る。

 

「すごく仲良くなったのね。とっても、良いことだわ」

「な、何が…言いたいんですか…?」

 

微笑むルサルナに、言い知れぬ不安を感じるアメリア。

緊張で口の中がからからに乾いていく。

 

「うふふ…別に?ただ…誰彼構わず噛みつく、行儀の悪いワンちゃんの躾をしなくちゃいけないのよねぇ」

 

ルサルナの意味深な発言。

ウルの視線が、すぅっと逸れていく。

ルサルナの発言と、ウルの動きにクレアが察する。

 

「っ…ウルちゃん…バラしたな…!?あああ…!」

「ク、クレア?大丈夫、大丈夫だから…」

 

頭を抱えるクレアの背中をアメリアが優しく擦る。

 

それらを優しげな笑みで眺めて、ルサルナが口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ…決闘をしましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

都市の郊外に人が集まっている。

決闘の話が広まり、怖い物知らず達が見に来ていた。

 

「私は魔王らしく、ギリギリまで手を出さないようにしましょうか」

「か…かっこいい…」

「本調子じゃねぇってのに」

 

どうしてこんなことになっているんだろう。

クレアは空を見上げながら考えた。

 

目の前には、仁王立ちのブル。

その後ろに優雅に杖を構えるルサルナと、ふんすと胸を張るウル。

 

対してこちらは剣と盾を構えたアメリアと、自分。

ものすごく後ろの方で、ものすごく嫌そうに弓を構えるヒース。

 

「私、悪い事した…?」

「それなりに。まぁお前には悪いが…これもルナの頼みなんでな」

 

ぽろりと溢れた言葉にブルが即答している。

悪いと言いつつ、戦意はしっかりあるらしい。

 

救いがあるとすれば、本調子ではないことだろう。

 

「やるわよクレア!私達の力見せつけてやりましょう!」

「眩しい…この世の理不尽が目の前に詰まってるのに…」

 

ぱっと見で溢れ出る自信が分かるほど、理由なき確信に満ち溢れているアメリア。

 

クレアは腹を決めた。

 

「やらなきゃやられる…やってやる…殺ってやる…!」

 

悲壮感に溢れる自己暗示をかけ始めるクレア。

その瞳には光がない。

 

クレアに躾は本当に必要なのか。

世の不条理を煮詰めた存在達を前に、アメリアのきらきらがいつまで保つのか。

 

緊張感が高まる。

 

 

開始の合図となったのは、ウルの魔法。

おもむろに手を掲げたウルが、特大の氷塊を作り上げていく。

 

アメリアがブルに、クレアがウルに飛び込む。

 

破壊されたかのように砕けて降り注ぐ氷塊はクレアに狙いを定めたらしく、恐ろしい程の弾幕がクレアを襲う。

初めて手合わせした時が児戯に思えるほどの密度であった。

 

 

「やあぁぁぁ!!」

 

一方、アメリアは気合とともにブルに斬り込んでいる。

ヒースの狙撃が、少々荒いアメリアの攻撃を上手く支えている。

 

ブルは動きに精彩を欠き、アメリアの猛攻とヒースの狙撃に最初から防戦一方。

 

ルサルナが手を出さないために、アメリア達の優勢である。

さらに状況は動く。

 

 

「ぐっ…」

 

思うように体が動かず、早くもブルが押され始める。

アメリアの猛攻の隙に差し込むように飛来する矢と魔法が、ブルを掠めている。

 

「にぃ!…あっ」

 

ブルに気を取られたウルの魔法制御が緩む。

密度が甘くなった氷の雨の中を、猛然と突っ込んだクレアがウルを掻っ攫う。

 

「ウルは退場ね」

「むぅ…」

 

まだ何もせずにクレアを見送るルサルナ。

ウルをそっと置いたクレアは、ルサルナを警戒しながらアメリアの援護へ向かう。

 

ルサルナに言われ不満そうなウルが、自分のせいで本調子ではないブルに、最後の置き土産。

 

「にぃ!がんばって!」

「しまった…!」

「きゃあ!?」

 

いきなり力が増したブルにアメリアが弾き飛ばされる。

飛来した矢も掴み取り、へし折っている。

 

「終わった…何もかも…」

 

欠片ほどしかなかった希望が口から零れ落ちるクレア。

視線の先に、だらんと脱力し空を見上げるブル。

 

隙だらけな姿ではあるが、不気味な圧にアメリアもヒースも手が出せない。

空を見上げたまま、ブルが呟く。

 

 

 「愛が高まる…溢れるぅ…」

 

 

桁違いの威圧感が漏れ始める。

離れていても、圧迫されるような愛が周囲を満たしていく。

 

手に持つ金棒をゆっくりと掲げる。

 

 

 「うおぉおぁあぁぁ!!」

 

 

溢れる愛を込めた振り下ろし。

爆発したかのような音とともに全身を押されるような衝撃が伝わる。

 

もうもうと土煙が上がり、聞こえてくる笑い声。

 

 

 「くはっ…ははははっ!」

 

 

その土煙を金棒で振り払い、真の魔王が姿を現す。

 

 

 「さぁ…始めようか…」

 

 

「降参します」

「クレア!?ズルい…じゃなくて何言ってるのよ!?」

「だって復活どころか、絶対強くなってるもん。誇りだとか自負だとか全部肥溜めに捨てるべきだよ。物語では化け物は人に倒されるけどさ、所詮物語だよ?現実見ないと。命大事にしよ?今一番大事なのは、何もかも捨てた命乞い。ほら、ヒースもあんなに遠くで白旗振ってるよ?必死に」

「意気地無しー!!卑怯者めー!!」

 

大魔王の復活に心をへし折られたクレアは、孫に囲まれ大往生するかのような穏やかな顔で降参した。

遠くの方で全身全霊で白旗を振るうヒースは、恐らく死物狂いの顔である。

 

死ぬときは皆一緒という考えが頭を過ぎったアメリア。

必死に喚き散らしている。

 

ずしゃ…ずしゃ…と重たい足音が近づいてくる。

冷や汗の量が秒ごとに倍増するアメリア。

真後ろで足音が止まる。 

 

「は、話し合いましょう?人類は言葉という素晴らしいものが」

「そうだな…話し合おうか」

 

希望が見えたことに、ぱぁっと笑顔になるアメリア。

 

「このでなぁ…」

「や、いやだ…やだやだやだぁ!」

 

数秒で失われた希望に、幼子のように首を振って拒否し始める。

クレアは既に額を地に擦りつけている。

 

「じゃあ私と話し合いましょうか」

「あ…」

「ルナ姉…」

 

ようやく腰を上げたルサルナに慈悲を請うように視線を向ける二人。

微笑むルサルナ。

 

「魔法でね」

 

そういったルサルナが杖を振るうと、遠くの方で悲鳴が上がる。

ヒースが大地に飲み込まれていくのを見てしまうアメリア。

 

ついでにご立派な椅子を土で作り上げるルサルナ。

足を組み、即席とはいえ玉座から見下ろす姿が様になりすぎている。

 

「勘弁してください…」

「許してください…」

 

慈悲はない。クレアは悟った。

希望はない。アメリアは悟った。

 

遠くからヒースの命乞いが聞こえてくる。

ルサルナの気分次第で、収穫はいつでも出来る。

 

「爺ちゃん婆ちゃんより先には死ねないんです…命、命だけは…」

 

物理も魔法も勝ち目がないことを理解したアメリアは涙ながらに許しを請う。

神に祈るかのように膝を突き手を組む姿は、場所が場所なら神聖な姿に映るだろう。

 

「ふぅん?随分と頭が高いのね。それが許しを請う姿なの?」

 

しかし、開き直ったルサルナは無敵である。

ウルがきらきらした目でルサルナを見ている。

ブルがウルの目を隠そうか迷っている。

 

アメリアがクレアを見る。

額を地につけ、微動だにしない。

 

「申し訳ありませんでした…」

「ふふ…あはっ、あははは!」

 

玉座から、二人の少女の土下座を見下ろすルサルナ。

邪悪に過ぎる高笑いが響く。

 

楽しそうに笑う姿と裏腹に、涙を流す姿が幻視されるのは気のせいか。

 

高笑いする姿に怖い物知らず達も恐怖に震えるが、同時にどうしてか、涙なくして見ていられない。

 

恐怖と悲しみの魔王、ルサルナ。

遥か未来まで語り継がれる、悲しき魔王が生まれた瞬間だった。

 





「にぃ…?なんでかくすの?みえないよ?」

「これ以上見ないでやってくれ…」
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