なんかよくある話   作:天和

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お子様達の大冒険の話

 

「体が…動かねぇ…!無尽蔵の愛に縛られてやがる…!」

「にぃだいじょうぶ?」

「このまま愛に溺れて果てたらいいのに…ね、アメリア?」

「素敵な終止符よね…」

 

ウルに心配されても、ベッドから降りることさえままならないブル。

ボロボロの体に愛という劇薬をキメ過ぎた結果、限界を迎えた体に反逆されていた。

 

死んだ目でそれを見るクレアとアメリア。

体は未だ安心を求めているのか、二人してウルにべったり張り付いている。

依存性の強い幼子である。

 

ルサルナは開き直り、先走った心に現実が追いついたのか、毛布の奥底で丸まって動かない。

 

 

動ける者はいない。

ウルの両隣でくっつく二人も、この様子だと役には立たないだろう。

 

ウルは決心した。

いつも優しい兄姉達へのささやかな恩返しを。

 

 

 

 

「えと、にぃもねぇもうごけなくて、おへやにごはんもっていきたくて」

「おやまぁ可愛らしいお手伝いさんだね。どうぞどうぞ。量が多いから、隣のお姉ちゃん達にも持ってもらいなさい」

「ありがと!…くぅねえもりあねぇもはなして?」

「もう少し…」

「後ちょっと…!」

 

まずは何においてもご飯しかない。

美味しいものをお腹いっぱい食べると、誰だって幸せになれるのだ。

両手に絡みつく二人に、なんとか離れてもらい料理を運ぶ。

 

「にぃ、あーん」

「あー…んぐんぐ。なんだこれは…旨すぎる…!隠し味は…慈しみ…?」

「毎日が幸せでいっぱいだね」

「幸せを過剰摂取すると頭もぱーになるのね」

「るぅねぇもでてきて!んぐぐ…!かたいまもり…!」

 

ブルに食べさせ、ルサルナを天の岩戸から出そうと奮戦するウル。

賑やかさは足りてそうだが、癒やし手が足りてないのが原因だろう。

ルサルナは引き籠もったまま動かない。

奮戦するウルには、クレアとアメリアがせっせと食べさせている。

 

「こ、ここまでにしといてやる…けぷ」

「ほら口元」

「はいお水も」

 

守りを突破できなかったウルは、汗を拭い捨て台詞。

奮戦中にたらふく食べさせてもらい、お腹もいっぱいである。

 

そっとルサルナの分を置いたウルは、次にすることを考える。

 

ウルはクレアとアメリアに挟まれながら、幸せに溺れて眠りについたブルと、毛布玉になっているルサルナを見て悩む。

 

 

ふと、いつも身に着けている髪飾りに意識が向く。

月のような装飾が施された、大事な一品。

 

ウルは決めた。

お次は大切な二人への贈り物だ。

都市を散策して、二人に似合いそうなものを探しに行こう。

 

ついでに昨日食べ損なった見たことのない甘味品が食べたい。

決して食べることが目的では無いが…たまたま、そうたまたま贈り物を探すときにお腹が空くかもしれない。

 

ブルもルサルナもいないのはちょっと怖いが、感謝の気持ちとちょっとした好奇心、それに旺盛な食欲に負け、行動を開始した。

 

「うごけない…!はなしてぇ…!」

「もう少し…もう少しだけ…!」

「後ちょっとでいいからぁ…!」

 

…行動を開始した。

 

 

やや煤けたようなウルと、少しだけ生気を取り戻したクレアとアメリア。

ウルを真ん中に、仲良く手を繋いだ三人は荒れた広場へ向かっていた。

 

 

うぉ、“申し子”に“狂犬”と…ありゃ誰だ?

おいおい、“勇者”だよ。魔王夫妻に立ち向かった娘だ

しかしあの様子を見てみろ。”堕ちた勇者“じゃねぇか

”勇者“すらも手駒にしたのか…

 

 

好き勝手言われているが、クレアもアメリアもそれに反論する元気はまだない。

ウルは甘味品のことで頭がいっぱいである。

 

 

 

 

 

 

 

「おみせ…ないなった…」

「で、出店だから、本店があるはず…」

「ほ、ほら元気出して?」

 

昨日合ったはずの店がない。

これ以上ないほどの絶望感がウルを襲っている。

恐らくは偶然、嵐の被害を受けたのだろう。

 

クレアとアメリアは、自分達の安心が絶望へと変化し始めたことに気がついた。

なんとか元気づけようと努力している。

 

「もうぜんぶ…ほろびちゃえば…」

 

努力の甲斐はなく、ウルの優しい心が反転し、憎悪の化身と成りかけている。

酒によって失敗したブルと同じようなことを言っている。

やはり順調に背中を見て育っている。

 

徐々に冷え始める空気にクレアとアメリアにも焦りが募る。

何かないかと辺りを見回していると、かけられる声。

 

「おやおや…こんなところで奇遇だね」

「ふむ…朝一にクレア嬢を見られるとは…素晴らしい一日になりそうであるな」

「アメリア…闇落ちしたんだね…」

「ははっ、あー、どうも…」

 

シャル、ジェロ、ヒース、そしてカニス。

カニスとヒースは別にしても、会いたくはない人物である。

 

「うわっ…それどころじゃないっていうのに…」

「ヒース!生きてたのね!」

 

クレアはウルを抑えることに必死である。

始まったら止められない以上、始まる前に止めるしかないのだ。

アメリアはウルから離れずに、ヒースが生きていることを喜んでいる。

 

聞き覚えのある声に、ゆっくりと顔を向けるウル。

 

「やぁそんな顔してどうしたんだい?ブルやルサルナに虐められた?それなら僕のところへ」

「ふっとんじゃえ」

 

にこにことウルに話しかけるシャル。

 

しかし残念ながら、今のウルは爆発寸前である。

しかもブル達と離そうとするようなことは、上機嫌でも爆発する可能性がある。

 

両方に油を注がれたウルの反応は劇的であり、問答無用で魔法を解き放った。

 

ウルの気持ちを表しているのか、爆発したかのように吹き荒れる風。

ヤバそうと感じていたヒースが咄嗟に作り上げた壁にぶつかり、余波を撒き散らしている。

なお、壁は見事に砕かれている。

 

咄嗟で作ったとはいえ、攻撃力に劣る風で土の壁を破壊する威力に冷や汗を垂らすシャル一行。

 

「あーあ…私、もう知ーらない」

「あわわ…ウルちゃん抑えよ?ね?良い子だから…」

「がるる」

 

お目当てを失った絶望と、大好きな人達から引き離されようとする苛立ちに、見たこともないほどに怒るウル。

もうどうにもならないと諦めたクレアに、なんとか宥めようとするアメリア。

 

「そ、そんなに怒らなくても」

「つぶれちゃえ!」

「やべぇ離れろ!」

「ぎゃあああ!?」

 

シャルが宥めようと口を開いて直ぐ、ウルは特大の氷塊を作り上げた。

砕いた破片で狙うこともない、巨大な質量による押し潰し。

 

 

技術も何もない、ただ重く大きいだけのそれは躱す以外に方法はない。

物理と魔法の違いはあれど、キレたウルのやることはブルにそっくりである。

 

誰よりも大好きなお兄ちゃんの背を見続け、ルサルナに魔法を教わったウルは、なるほど確かに破壊や暴力の申し子と言えるだろう。

 

今はまだ幼い故に、逃げる敵を追う足はない。

成長したウルがどうなるか、誰にもまだ分からない。

 

 

 

 

「あら、おかえりなさい。甘いものでも食べに行ってたの?」

「うん!…あ」

「どうしたの?」

「う、ううん…なんでも、ない!」

「う゛っ゛」

 

動き始めたばかりなのか、冷めたご飯をもそもそ食べていたルサルナ。

何はともあれ動き出したルサルナに、にぱっと笑いかけたウルは、直ぐにしまったとでも言うような顔になる。

ルサルナの疑問を誤魔化すように、寝ているブルのお腹に飛び込んだ。

 

幸せそうな顔から一転、苦悶の表情に変わるブル。

その苦しみは幸せの必要経費。

 

「はぁー良かったね…本店が見つかって」

「なかったら一帯が凍土になってたものね…」

 

 

ウルの様子や、こそこそと話すクレアとアメリアに不穏な気配を感じるが、まぁそれはいいとすることにしたルサルナ。

再びもそもそとご飯を食べ進めている。

 

 

贈り物もお土産もなかったことにし、苦しげに唸るブルのお腹の上で小さく丸くなるウルだった。。

 

 

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