なんかよくある話   作:天和

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自分本位の嘘は大体良くないという話

 

ウルは今、とても心配している。

ブルが倒れて数日経過したが、未だ回復する様子がない。

 

ウルがせっせと運ぶ食事はしっかり食べている。

というより、いつもより煩い。

一口ごとに溢れる所感が止まらない。

 

それだけ見れば元気が有り余るほどなのだが、ベッドから降りるような動きはない。

 

思った以上に重たい負傷だったのか、ボロボロの体を押してウルの声援に応えたのが駄目押しだったのか…

 

 

ウルはそろそろ、自責の念に耐えられなくなってきている。

 

 

 

 

 

∇

 

ぱたん、と軽い音を立てて扉が閉まる。

きゃいきゃい騒ぎながら甘いものでも食べようと、三人娘が出ていったところである。

 

暫く耳を澄ませているブル。

足音も声も聞こえなくなり、十分離れただろうといったところ。

 

「ふぅ…これが、俺の求めていたものか…」

「阿呆なこと言ってないで、そろそろ演技止めたら?ウルに世話された次の日には動けたでしょ?」

「そうだな」

 

軽やかな動きで立ち上がるブル。

その動きは負傷していたことを微塵も感じさせない。

 

実は、ウルが頑張ってお世話した翌日には動ける程度にはなっていた。

 

「そんなにウルに世話されるのが嬉しいの?」

「俺はこのために今まで生きてきたんだ…」

「すっごくウルが心配しているけど…泣いたらどうするの?」

「……どうしよう」

 

ウルにお世話されるのが嬉しすぎて仮病を使い倒す男、ブル。

後のことを欠片も考えていなかった。

 

「なぁルナ…俺はもしかして…とんでもないことをしてるんじゃないか?」

「仮病のこと一通り吐いて、暫く嫌われなさい」

「きらわれる…?きら、われる…」

 

ようやく事態が理解出来始めたブルをしょっぱい態度で突き放すルサルナ。

 

嫌われるという意味を理解したくないのか、ブルの思考能力が極端に落ちる。

しかし如何に思考を落としたところで、脳に染み渡るように言葉が入ってくる。

 

 

嫌われる。

 

つまりはウルに避けられる。

いつものようにブルの体をベッド代わりにすることもなく、おんぶや抱っこ、肩車もすることはない。

 

ルサルナやクレア、ぽっと出のきんきら娘にウルを奪われるのだ。

そのうち同じ水で洗濯しないでとか、別の部屋で寝てとか言われてしまうのだ。

 

 

ブルに脳内に、存在しないはずの記憶が溢れ出してくる。

 

話すこともなくなり、もはや隔離されたように過ごす日々。

自分には相談もなく、見知らぬ軽そうな男と式をあげるウル。

幸せそうに子供を抱くウルを、バレないように遠くから眺めている…

 

 

 

「うぎぎぃぃ…!!」

「ひぇ…!?顔中の穴から血が…!?…ぅ…」

 

瞬きの間にブルの脳内に展開された未来予想は、八大地獄を巡るかのような苦痛をブルに与えた。

 

食いしばった唇は裂け、頭に上った血が出口を求めて鼻から流れる。

涙が流れる瞳は、白などなかったように真っ赤に染まっていた。

 

 

この世で最も悍ましいものを見てしまったルサルナが気を失う。

優雅に飲んでいたお茶が撒き散らされ、机も勢い余って倒れる。

 

空気を求めるように足掻いていたブルもまた、倒れる。

想像を絶する苦しみのあまり、脳が耐えきれないと判断し意識を飛ばしていた。

 

 

どたんばたんがしゃんと聞こえてきた音に、宿屋の主人も利用者も戦々恐々としている。

 

なんせ音が聞こえる部屋の主は魔王御一行である。

 

果敢に立ち向かった勇敢な少年少女を、仲間のはずの少女ごと土下座させて高笑いしていた女。

その前に立ちはだかり、愛という名の悍ましい何かを力の源とする男。

 

下手に首を突っ込めば何が出てくるか分からない。

地獄への道筋をこの世に開放する訳にはいかないのだ。

 

震える手で食器を拭く店主。

既に数枚失っている。

 

震える手で食事を進める利用者達。

大半は服が平らげてしまっている。

 

ごく短い時間だけ暴れる音が聞こえ、その後にどれだけ耳を済ませても音一つしないのが不気味である。

 

 

先日の勝負の手応えが無さすぎて、死神に喧嘩を売りに行ったとか、地獄へ手下や舎弟を探しに行っただとか、ぼそぼそと語られている。

 

認識としてブル達は人類側ではないのだろう。

交わされる会話のほとんどが人類を制圧支配するためか、滅ぼすためかの二択である。さもあらん。

 

 

 

 

宿屋で起こっている惨劇を知らないウル達は、両手に一杯の甘味品を抱えて早々に戻っているところ。

 

「じゅるり…はっ、いけない。これはおみやげ…にぃとるぅねぇのやつ…」

「さっき山盛り食べたのにねー」

「はい口元」

「むぐ…おいしすぎるのがわるい…」

 

食欲が留まるところを知らない幼子、ウル。

アメリアに甲斐甲斐しくお世話されている。

 

なお、ウルのお世話をしたいという理由で、アメリアはクレアに荷物を全て押し付けている。

クレアもこの程度ならと、山積みになった甘味の箱を器用に運んでいた。

 

箱の中には様々な氷菓が入っている。

食に関することには右に出るものがいないウルが、溶けないように氷漬けにして万全を期している。

 

ここ数日で虜になっており、毎回手が止まらず頭痛に悶えていた。

 

 

ウル達が帰ってきた途端、何事もなかったように談笑する利用者達。

 

なんか震えているし、やたら食器が割れていたり服が汚れていたりするのだが、ここの人達は大体そうなのだ。

ウルはいつものことと流し、クレアとアメリアはまだ現実から目を背けていたりするので気が付かない。

 

三人娘はるんるんと部屋まで来ると、アメリアが元気よく扉を開ける。

 

「帰りまし、た…いやぁ!?」

「し、死んでる…?」

 

叫ぶアメリアに思わず箱を取り落とすクレア。

ばさっ…とウルの手から落ちる袋。

 

ベッドの側に倒れ伏す、口から鼻からと血が流れた跡のあるブル。

ついでに滂沱の如く流れていたであろう涙の跡。

 

机やら椅子やら割れたコップやらの中に倒れるルサルナ。

こちらには目に見える外傷はない。

 

「んー…見た目は壮絶だけど生きてる。二人に何があったらこんなことに…?」

「い、生きてるのね…」

 

駆け寄ったクレアが生存を確認する。

目立って争ったような形跡はないのが、余計にこの状況を不気味にしている。

 

「ウルちゃんが石像みたいに固まってる…」

「これはちょっと人生単位のトラウマだわ…」

 

一言も発さず固まるウル。

 

まだまだ短い生涯だが、恐らくは墓に入るまでずっと覚えているだろう。

 

クレアとアメリアが二人がかりで、なんとかブルとルサルナをベッドへ戻す。

血や涙の跡も拭き取り、棒のように突っ立っているウルを二人の間に安置し毛布をかける。

 

クレアがウルの目にすっと手を翳すと、そのまま目を閉じて眠り始めた。

机や椅子、割れたコップやらも全て片付け一息つく二人。

 

「疲れた…気持ちが…」

「心が疲れちゃったね…」

 

 

 

二人して壁に背を預け、互いの肩を寄り添わせる姿は仲の良さを物語るよう。

死んだ魚のような目をしていなければ。

 

微笑ましさと真逆の、戦場で最後の時を一緒に迎えるような雰囲気のクレアとアメリアは、同時に目を閉じて現実から逃避した。

 

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