なんかよくある話   作:天和

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争いの話

 

争いというものは、立場や力関係の近しいものでしか起きない。

あまりにその差が大きいと、弱いものだけが一方的に叩かれるものだ。

 

ただ、立場や力関係とは腕っぷしだけで決まるものではない。

つまりどれだけ強かろうと、それは特定の状況下では糞の役にも立たないということである。

 

 

 

 

 

「あぐあぐあぐ」

「はむっ…んーおいし!」

 

風船のように頬を膨らましているウル。

両手それぞれにお菓子を持って詰め込むように食べ進めている。

 

椅子代わりに座っているものは、土下座しているブル。

 

若干勘違いしそうではあるが、特殊な性癖という訳ではない。

 

目が覚め、同じく起きたウルに誠心誠意を謝罪し土下座を披露したところ、自然と椅子にされたのだ。

許しを得ていない以上、動くに動けずそのままの姿勢で許しを請い続けていた。

 

ウルは無言で椅子代わりをげしげしと蹴りつけている。

 

クレアはよくある日常のように、ウルの隣で同じように焼菓子を食べている。

流石に普通の椅子に座っているが、躾の影響から抜け出したのか、既に通常営業だった。

 

アメリアははらはらしている。

ブルが逆上するのではないか、ということではない。

ウルが喉に詰まらせやしないかという心配からである。

 

ルサルナは未だ悪夢の中。

 

 

「ウルちゃんもこーんなにほっぺた膨らましちゃって、可愛いねー、って危な!」

「ぐるる…」

 

今のウルは何にでも噛みつく怒りん坊である。

生意気にも噛みつきを躱した、つんつんしてきた不埒者に威嚇している。

 

ウルの鼻先に焼菓子を差し出すクレア。

 

 

「ほっ、そう言えば、危なっ…ヒース?だったっけ?ほとんどこっちに、いるけど!迎えに行かなくていいの?ふふん、甘い甘い!」

「がるるる!」

 

指ごと持っていかれそうになるのを躱しながら、器用に焼菓子だけウルの口に差し込むクレアが聞く。

 

聞かれたアメリアは少し暗い顔。

 

「旅に出ます、探さないでって書き置きが…」

「あはっ、おもしろ!今どきそんな面倒くさいことする奴いるんだ!」

「面倒な身内でごめんなさい…」

 

 

無言で椅子になり続けているブルが少し震える。

許してもらえないときは少しの間一人旅でもをしようかと、ほんの少し考えていた。

ちゃんと椅子になりなさいとでも言うように、ウルがぺしぺし叩いている。

 

アメリアは落ち込みながらもウルへのお世話が止まらない。

意識すらせずにウルの口元を綺麗に拭いている。

 

「あとさー、しれっといるけど怖くないの?この二人にバチバチにヤラれたのに」

「それは……笑いながら去っていく背中があまりにも憐れで…」

「あの状況で盗み見るなんて大概図太いね」

 

実は歩き去っていくルサルナをこっそり見ていたアメリア。

涙が勝手に溢れるような、そんな背中を見て憐れんでいた。

 

「それにこの人…人?……この人が怖かったのは最後だけだし」

「あー…うん、まぁそうかー。それに一応、多分?…恐らく人で間違いないと思うよ。知らないけど」

 

幼子に土下座して謝り、許して貰えずに椅子にされているブルを見るアメリア。

愛の深さは感じていたが、その深さ故に何かを失った姿を憐れみを持って見ている。。

 

クレアも大分怪しいながら人であるとは思っている。

理由は生き物と同じように食べて寝て、尚且つ人語を話すから。

 

「爺ちゃん婆ちゃんに教わったの。寂しい人、悲しい人を助けてあげなさいって…」

「ふぅん…爺ちゃんらはしっかりした人なんだね。アメリアの頭ん中は愉快だけど」

「そうなの!爺ちゃん婆ちゃん達はほんとにスゴくて!」

「あれ?褒め言葉しか聞こえないのかな?」

「もうかなりの年齢なのに強いし優しいし良い人達なの!」

「あーこれは駄目だぁ…」

 

いい感じに熱が入ったアメリアを流しつつ、新しい菓子を漁るクレア。

隣の幼い狩り人に狙われていることは完全に忘れていた。

 

クレアが手に持った焼き菓子に大口を開けるウル。

 

「あぐっ」

「あいったぁ!!」

「それで、この剣と盾の使い方だって教えてもらったし魔法も全部教えてもらって」

 

ここぞとばかりに指ごと齧りつくウル。

不意打ちに悲鳴を上げるクレア。

聞く耳を持たないアメリア。

 

三人寄ればなんちゃらとも言うが、恐らくこの三人では姦しいにしかならないだろう。

 

椅子と魘される者は放っといて、三人娘は今日も騒いでいる。

 

 

 

 

 

「まぁ、報告はこんなもんか…」

「ご苦労さん、後はこちらから伝えておくよ」

 

傭兵都市ゼルドナーの、とある酒場。

酒の勢いで時たま殴り合いが始まる中、場に溶け込むように酒を飲む二人。

 

人間と獣人の男二人である。

 

 

「つーか、お前よく生きてたなぁ。というか厄介事ばっか引き込んでないか?」

「俺じゃない…俺の周りなんだ…」

「じゃあ引きずり込まれてんだな。楽しそうで何よりだわ」

「そう思うなら俺と交代しろ…!」

「くぅー!不幸をつまみ代わりに飲む酒は旨いなぁ!」

「こいつ…!」

 

旨そうに酒を飲む男を睨みつける男、カニス。

厄介事につま先から頭まで愛されている悪運の強い男である。

 

 

「商隊に紛れて接触しようとしてよく分からん魔獣に襲われ、離れられたと思えばまたヤバい奴らに捕まって…最高に面白いわ」

「クソが!やってらんねぇお代わりだ!」

 

並々に注がれた酒を自棄気味に呷るカニス。

いい娯楽を見つけたとでも言わんばかりの男。

 

「せめて報酬は色を着けるように言っといてやるよ」

「色より自由が欲しい…」

「諦めろ。先生達は楽しみにしてるぞ?じゃあ、また今度な」

「クソッタレめ…」

 

男は金を置いて立ち去っていく。

 

残られた酒を呑み干し突っ伏すカニス。

突っ伏した途端、殴られた傭兵がカニス諸共巻き込み倒れ込む。

 

「うるぁ!!良い度胸じゃねぇか!!どいつもこいつもぶん殴ってやる!!」

 

勇ましく吠え近場の者からぶん殴るカニス。

ちょっとした小競り合いが大乱闘になった瞬間である。

 

なお、暫く経ってから残った者全員が迎えに来たシャルとジェロにしばき倒されることになった。

 

一番遠慮なくしばかれたのは勿論カニスである。

お一人様になることのない、厄介事に愛される男である。

 

 

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