「あはっあはは!たまんなぁい!見てこれアメリア!」
「なんでクレアもぱーになっちゃうのよ!血に当てられちゃったの!?」
「普段通りだ、よっと!」
執拗な投げナイフにより、針鼠のようになった魔獣を嘲笑うクレア。
アメリアは魔獣を切り捨てながら、残虐な行為に物申している。
残念なことに通常運転なクレアは、メイスで頭を粉砕する音を添えて返事した。
「ねーこれも見て!新兵器!」
続いて見せびらかすように構えるのは、腕に装着した小型の機械弓。
アメリアの反応を待たずして、ぱすぱすと狙いやすそうな魔獣に打ち込み始める。
「うーん…精度は良いけど連射性と威力はイマイチ…」
「そんなことしてる場合!?」
「カッコいいんだけどなぁー」
首を傾げながらも、向かってくる魔獣を丁寧に処理しているクレア。
明確な格上でもない相手に対して緊張感が全く見られない。
元からの気質もあるだろうが、恐らくはおかしなものを間近で見続けていることが原因か。
油断なく魔獣を相手取るアメリアが思わず苦言を呈する。
殺伐とした殺し合いの中、二人を中心に少しズレている光景が出来上がっていた。
一方、怪獣大戦争側。
「あー…まさかとは思うが、死にかけてんのか?まだ膝より下が無事だろうが」
こちらはこちらで目を疑う光景が広がっていた。
虫の息で仰向けになっている巨獣を前に佇むブル。
巨獣は四肢全てがおかしな方向に曲がっていた。
特に両腕など丁寧に叩いたのか、骨など存在しないかのように曲がりくねっている。
「こんなんじゃ万死には届かねぇぞ。千死にすら届いてねぇ」
振り上げた金棒を、まだ骨は無事であろう下腿部に振り下ろすブル。
軽い見た目以上に力が込められたそれは、容易く巨獣の骨をへし折っている。
もはや絶叫を上げるほどの力もない巨獣が、か細い悲鳴を垂れ流している。
「情けねぇゴミが…ウルが味わった痛みはこんなもんじゃねぇぞ」
そう言いながら再度金棒を振り下ろすブル。
耳を疑うような過言である。
これだけ聞けば、ウルが死んでしまったかのようにも聞こえてしまうが、実際はちょっと涙目になる程度。
しかもその涙も不意打ちによるもの。
恐らくウルの味わった痛みを万回分足して味わえば、巨獣が受けた数発程度の痛みにはなるだろう。
ブルの中では、ウルの涙目と巨獣の瀕死に比べようもない壁があった。
「はぁー、やっぱおっかねぇ…なぁヒース?」
「あれ本当に同じ人類ですか?人型の何かじゃないです?」
巨獣から避難し、良い感じにサボっているカニスとヒース。
時折矢を射かけるヒースは付き合いの長いアメリアと同じ疑問を抱いていた。
何をどうしたらこの短時間で瀕死になるまで追い込めるのか。
というか何故そこまで執拗に痛めつけられるのか。
考えるほどに理解が遠ざかっていた。
「わぁお…もう終わったみたい」
「やはりあれは一つの極みであるな」
シャルとジェロも、淡々と目の前の魔獣を処理しつつ、ため息を漏らしている。
巨体から繰り出される圧倒的な力を、さらに強大な力で捻じ伏せる様にいっそ感動すら覚えていた。
以前に見た、血塗れで理性の理の字もない姿とはまた違う。
ある種の極致とは、見るものに対して感動も、畏怖も、恐怖も与えるものである。
弱き者は心折れ、畏怖や恐怖に溺れ、強き者は折れず感動、発奮し、そこに道を見る。
戦っている傭兵達の心には様々な気持ちが浮かび上がっていた。
壁を破壊した、見上げるほどの巨体への恐れ。
果敢に突撃し、一時的にでも足止めした者達への称賛。
楽しそうに笑いながら、日常会話のような掛け合いをしながら魔獣を屠る少女達への、なんとも言えない気持ち。
前線で傭兵達を鼓舞する、大盾使いや細剣使いに対する負けん気。
突如として現れた、巨獣を容易く嬲る破壊者への畏怖や感動。
そこらかしこから熱が噴き上がっている。
俺だって、私だってやれる。
巨獣やあの男に比べてしまえば、眼前の魔獣のなんて可愛いこと。
こんな程度軽くぶっ潰してやる、と。
にわかに勢いづいた傭兵達が魔獣を次々に狩り取っていく。
魔獣も押し込まれてはいるが、巨獣の空けた穴からは追加が入ってきている。
「あはっ!おかわりだぁ…!」
「もー!真面目にしなさい!」
「はいはーい、アメリアお母さーん」
「こんな子供やだよぉ!」
心底楽しそうに笑う少女と、気の抜けるような言葉と裏腹にしっかりと武器を構える少女。
「お、そろそろ休憩は終わりだな」
「カニスさん…さっきから僕しか働いてないんですけど」
「馬鹿お前、投げナイフじゃこの距離届かねぇだろ」
「……降りては?」
「俺はお前のお守りだからな!」
「いやこの距離…やっぱいいです」
屋根の上でしれっと腰を下ろしたままの男と、その隣でため息を吐きながら矢をつがえる少年。
「我々も負けていられないね!ジェロ、守りは任せたから」
「おうとも!吾輩の守りを突破出来るものはおらんぞ!」
「それブルに言ってみてよ」
「吾輩の守りはあんまり突破出来んぞ!」
ものすごく不安なことを言う大盾の男と、不敵に笑い魔獣を見据える女。
戦意は未だ衰えず、お祭り騒ぎはまだ終わりそうにない。
∇
「るぅねぇ…おもったよりとおいね」
「……そうね」
ぱかぱか、がらがらと、軽く走る程度の速度で馬車が進んでいる。
騒ぎの音は近づいているが、まだあと少し。
ウルは痛みも治まり、少しだけ暇そうにルサルナの膝の上で足をぷらぷらと遊ばせている。
気を遣われているルサルナの顔は赤い。
威勢のいい啖呵を切った割に非常にのんびりであるが、これには訳があった。
普通に人がいるのだ。
外壁が崩れたことで避難するだろうと考えていたが、不安そうにする人もいるが避難まではしていない。
それどころか普通に商売をしているまである。
「お?“申し子”とその御母堂じゃねぇか!ほら!これ食いねぇ!出来立てだ!」
「できたて…!」
「感謝するわ」
ちょくちょく投げ渡される焼き菓子等にも原因があった。
賢いバサシは投げ渡される度に少しずつ速度を落としているのだ。
より多く、より投げ渡しやすくするために。
ルサルナは勿論気づいているが、速度を出しても危ないし、ウルも嬉しそうだしなんとも言えない。
理由は様々になるが、媚を売るのは人も獣も共通であるらしい。
売った媚に気づいてもらえるかは別にして。
はふはふと熱々の焼き菓子を食べるウルはご機嫌である。
ルサルナはポロポロ落ちる食べかすを払ってあげたり、口元を拭ったりと、お世話することで羞恥心を誤魔化している。
ウルとルサルナが到着するまで、まだまだである。