ぱっかぱっかとバサシが歩く。
日差しが気持ち良く、優しく伝わる馬車の振動が眠気を誘う。
少し先はそこそこ騒がしいが、傭兵達が頑張っているのか、魔獣の姿は全くない。
聞こえないふりをすれば非常に良いお昼寝日和であった。
「ふあぁ…んー、はぁ…」
御者台にて、ついついあくびが出ている女はルサルナ。
最初こそ威勢よく追いかけたのはいいものの、なんだか色々あって、のんびりと進んでいる。
ルサルナの膝を枕にすやすやと寝ている幼子はウル。
いっぱい食べ、いっぱい眠る健康優良児である。
少し眩しかったのか、ルサルナのお腹に顔を埋めて熟睡中。
「なんかもう、どうでもいいわね…」
ぼやきつつ、山盛りになっている差し入れから一つつまみ出し、齧りつくルサルナ。
「あ、美味しい…」
実に平和である。
∇
「ヤバいヤバいヤバい!早く離れろ!」
「無理に決まってんだろうが!こちとら戦闘中やぞ!」
大乱闘の中の一部。
人も魔獣も揉みくちゃになる混沌とした場所だが、その中でも逃げ回る者達がいた。
逃げ回る者達の中心にいるのは、やっぱりブル。
金棒でも素手でもぶん殴り、振り回し、投げ飛ばしと、一人だけもはやなんか違うことをしている。
逃げ回っている者は二次災害を恐れてのこと。
千切れてもそれなりに重量のある肉片やら、果ては魔獣そのものが飛んでくるのだ。
飛んでくるものは身動きの出来ない程の瀕死か、もしくは死んでいるために、飛んできた魔獣に殺される者はいない。
しかし、意気軒昂に戦っている時に、隣もしくは自分がいきなり吹っ飛ばされたらどう思うか、それに戦闘中に吹っ飛ばされればどうなるか。
それが今の状況である。
「あ、これ無理いぃぃ!」
「うひっ…!?ちょっとアメリア!!」
「あんな丸ごと受けれないよ!」
ブルがかっ飛ばした魔獣を横っ飛びで避けているアメリア。
魔獣は運良くクレアの体を掠めるだけだったが、さらっと一人逃げたアメリアに文句をぶつけている。
少し離れておけばいいのに、しっかり追いかけて来た二人の少女。
被害の少なそうなブルの真後ろを、アメリアが飛来物や魔獣からの防御、クレアが迎撃と役割を分けて追っていた。
が、常に真後ろを取ることは難しいので、出来るだけ。
ついていく理由は単純なこと。
珍しすぎるブルの行動に、仕方ないとはいえ、思いっきり怖がってしまった事にちょっと申し訳無さを感じたのだ。
それに、このまま離れていたら、この先
ついて行くことはまぁまぁヤバいが、怖がられていると確信され、偶にでも優しいブルが消えてしまうことは避けなければならない。
僅かなりとも、他者を褒めたり、気遣う人間性は保ってほしいのだ。
一方で大暴れするブル。
似合わないことをしたと、恥ずかしい気持ちが湧き上がっている。
それはやたら滅多に吹き飛ばし、投げ飛ばしたりしているところに現れている。
普段もさほど変わらないように思えるが、実はある程度は気を遣うようにしていた。
最低限、敵味方の区別程度はしているブル。
少々は仕方ないとして、吹っ飛ばす方向には少し気をつけているのだ。
今回の大暴れは照れ隠し的なものもあり、非常に雑になっている。
今も投げられた魔獣に、数人ほど纏めて薙ぎ倒されていたが、手練の補助を受けて立て直している。
照れ隠しで被害を拡大させかねない、傍迷惑な存在であった。
飛びかかってくる魔獣を叩き潰し、ついでに一匹掴み取って首をへし折る。
何匹か掴み取った
「あぁ、くそっ…無駄に恥ずかしい…次だ次」
「うっ!血が、顔に…!」
「クレア大丈夫!?ってうわぁ降ってくる!?」
「わひゃ!?あ、ありがと、潰されるとこだった…」
聞こえてくる声的には危なかったらしいが、なんだかんだ言ってしぶとそうなので大丈夫だろう。
そのまま掃除を続けていくブル。
「おらぁ!消えろゴミクズが!」
「おかわりだぁぁ!?」
「クレアさっき嬉しそうにおかわりって言ってたよね!?お望みでしょ!?」
「私が言ったのは活きが良いやつだっての!」
「飛んでくるぐらい活きが良いじゃない!!」
「自発的に飛んでないじゃん!!ふっ飛ばされんのに活きは関係ないよ!!」
甲高い声できゃんきゃん吠える声は聞こえないふり。
若干、ざまぁみろとか思っていたり。
きゃんきゃん吠える余裕があるならと、より一層、掃除を進める手が荒ぶっていく。
尚も元気よく吠える声に、いよいよ遠慮は要らないかと思い始めていた。
「あ゛あ゛あ゛!!わざと!?ねぇお兄さんわざとでしょ!?」
「的あてじゃないんですよ!?止めてくだ、止め、止めてぇぇ!?」
きゃんきゃん吠える声がぴーぴー泣く声に変わっていく。
勿論、無視である。
なお、他の傭兵達のことは考えていない。
的を当てる側ではなく、当てられる側となる、体を張った的あては悲鳴に満ちた大盛況となっている。
∇
「うわぁ……」
「ぅぅ…むぅ…」
いよいよ騒動の場が近くなってきたルサルナは嫌なものを見たような顔。
その手は安らぎを求めて、ウルの頭を撫で回している。
ウルは撫で回される勢いに、起きてはいないが、ちょっとしかめっ面になっている。
ウルは置いておいて、ルサルナが見たもの、それはぽこぽこと打ち上げられる魔獣の姿である。
近くなるにつれ、聞こえてくる声が勇ましいものから困惑と悲鳴に変わっていったことから、ブルが暴れ回っているのだろうと予想はついていた。
建物が倒壊するような音や、破壊されるような音は初めの方しか聞こえなかったために、理性はぎりぎり残っているとは思っていたが。
なんというか今見ている光景は、非常に、それはもうものすごく、予想外のものであった。
甲高い少女達の叫び声が聞こえてくる。
「あぁ、なんだ。元気いっぱいね…」
最初にあった勢いは既になく、少し離れた場所で見守りの姿勢に入ったルサルナ。
打ち上がる魔獣を眺めつつ、ちょっと嫌がってルサルナの手をてしてし叩き始めたウルとの攻防に熱を入れ始めた。