なんかよくある話   作:天和

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捕食者と被食者の話

 

 

控えめなふわふわ(アメリア)を堪能したウルは、ふわふわ(アメリア)ごと運び込まれた馬車内にて立ち上がった。

そろそろ一番の居場所が恋しくなったのだ。

 

そんな一番の居場所であるブルは、手を伸ばしても絶妙に届かない位置に膝を抱えて蹲っている。

隣にはそっくりな姿勢でクレアも蹲っている。

 

両者ともに、呼吸による僅かな動きがなければ、まるで植物のような雰囲気を醸し出している。

 

膝に顔を埋めて丸まる、その飛びつき難い姿勢にどう対応するか。

ウルの素晴らしい頭脳は、瞬時に二通りの対応を思いついた。

 

 

すなわち、乗るか潜るか。

 

「むぅ…もぐっていっぱいぎゅってしてもらう…みりょくがすごい…」

 

その片方、自らの頭脳が叩き出したあまりにも魅力的に過ぎる考えに、ふらりと足が前に出る。

それはまるで明かりに誘われる羽虫のよう。

 

 

ルサルナは動きのないブルとクレア、それに誘われるように近づくウルを見て、ふと頭に過ぎるものがあった。

 

それは焚き火などに誘われ、自ら飛び込み燃え尽きていく虫であったり、擬態し隠れている捕食者にのこのこ近づく被食者であった。

 

 

捕食者というのは、なにも真正面から襲いかかるだけではない。

 

巧妙に隠れ潜み、隙を晒した獲物に襲い掛かりもすれば、様々な手法にて誘引し、罠に陥れたりもする。

 

そういったものは獲物を食らうために、ただひたすらに機を待ち望むものである。

 

 

 

哀れな獲物が如何ともし難い魅力に誘われ、手を伸ばしていく。がばり。

 

「わぁ!……え?」

 

その伸ばした手がブルに触れるか否かというところで、大口を開くかのようにブルが体を伸ばす。

急な素早い動作に驚いたウルは、気づけば体の向きを正反対に変えられて座らされ、後ろからぎゅっと抱きしめられていた。

しれっとウルのお腹にクレアも飛びついている。

行動力に溢れる捕食にも程がある。

 

「……あれ?」

 

あまりの早業に脳の処理が追いつかず、ブルとクレアを交互に見ているウル。

その間にもブルとクレアはウル吸いに勤しんでいる。

 

「すぅー…ふぅー…」

「すんすんすん…」

 

なんかものすごく吸われているが、混乱の最中にいるウルは気づいていない。

 

目の前の光景に今すぐに衛兵を呼びたくなったルサルナだが、それはそれでエライ事になりそうな予感がするため、目を背けている。

 

「私…私も…」

「収拾がつかないし、絵面も酷いから止めて」

「あ、あぁぁ…!」

 

亡者の如く呻くアメリアを取り押さえながら。

 

やがて思考が現状に追いついてきたウルは、やたらと匂いを嗅がれていることに気づき、それがこしょばくて仕方がない。

 

「うぬっ!に゛っ!」

「すぅぅーー…ふぅー…」

「すん、すん…すやぁ…」

 

しかし動こうにもブルにもクレアにもがっちりと掴まれ、ほとんど動けない。

暫くもぞもぞと抵抗したウルだが、拘束から抜け出せず、挙げ句抱きついたまま寝始めたクレアを見て完全に抵抗を諦めた。

 

当初考えていた感じとは違ったが、とりあえず同じ様な結果には収まったので、満足だと思い込むようにしたウル。

 

結局、暫くして我慢できなくなり、ひんやりばちばちし始めるのだった。

 

 

 

 

 

馬車内にて正座しているブルとクレア。

その正面にはルサルナと、ルサルナの膝の上に乗るふくれっ面のウル。

ついでに澄まし顔のアメリア。

 

「さっきのアレ、アレは流石に駄目よ?ウルも嫌がってたし、傍から見てると…正直気持ち悪いもの」

「うす…」

「はぃ…」

 

ウルを撫でながら二人に説教するルサルナ。

ウルはそんなルサルナをじとりとした目で見ていた。

そう思うなら止めてほしかったと思っている。

 

ブルとクレアはどこまでも正論であるために、反論など出来ずに素直な態度。

 

しれっと私関係ありませんというような面をしているアメリア。

時折ルサルナから向けられるなんとも言えない視線を鮮やかに受け流している。

その毅然とした態度の理由は、未遂であるから。

 

「…まぁ、ウルがいいって言うなら、私もしてみたいけど…ちょっとだけ」

「えっ」

 

ルサルナから溢れた本音に、信じられないと言うような顔を向けるウル。

ルサルナの顔は明後日の方向へ。

 

「ですよね」

「だよな」

「うんうん」

「えっ」

 

次々に寄せられる賛同に驚愕し、そおっとルサルナの膝から離れる。

ウルはそのままそれぞれを見渡し、ゆっくりと距離を取っていく。

 

なんだかじりじりと距離を詰められているような…

 

「よ、よくないよ?こしょばいし、その…ね?」

 

ゆっくりと後ずさるウルだが、ここは馬車の中。

すぐに壁際に辿り着いた。

 

気がつけばウル以外の全員がウルと向かい合っている。

 

あからさまににじり寄っているのはアメリア。

滲み出る欲望を隠しきれない。

 

「ぅ…うぅ…わぁー!ばさしー!」

 

伸びる手を隠そうともしないアメリアと、見間違いかと思うほど静かににじり寄るそれぞれに、ウルは堪らず馬車を飛び出した。

 

 

 

飛び出したウルはすぐさまバサシの背中に飛び乗っていた。

 

「ねぇばさし、みんなひどいとおもうよね?ねぇちゃんときいてる?」

 

バサシの背中に張り付き、ぺちぺちと首筋を叩きながら恨み言を垂れ流しているウル。

あまり一人で離れたくないという賢くも可愛らしい考えと、バサシには流石に吸われないだろうとの判断である。

 

バサシは捕食者にいつ首を取られるのか戦々恐々としている。

戦々恐々とするのはそれだけではなく、後ろから纏わりつくようなねちっこい視線にもよる。

 

バサシの後ろ、やたら薄暗く感じる馬車内からは怪しく光る四対の瞳。

よく分からないが、良くない欲望が出ているのは確か。

 

良くない視線と、捕食者に張り付かれている恐怖に晒され、食べないでと言う気持ちが小さな嘶きとなって漏れ出る。

 

「うんうん…そうだよね、ひどいよね…ばさしはいいこ…」

 

都合よく、バサシによる助命の嘶きを肯定の嘶きに捉えているウル。

バサシの嘆願は結果的には成功しているらしい。

 

ただバサシの耳には、意味は分からずとも負の念を孕んだでいることは分かる言葉が聞こえてきている。

 

馬肉になんちゃらだとか、バラしてなんちゃらだとか、と。

 

 

まだいつ食われてしまうのか分からない。

そんな不安の中、バサシは今日も生きている。

 

 

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