なんかよくある話   作:天和

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痺れる話

 

ばっちばちに放電しているウルが、まるで抱きしめてと言わんばかりに手を広げている。

じとりとした目がブルを捉えて離さない。

 

相対するブルの背中には冷や汗が流れている。

 

ウルに背を向けることなどあり得ない。

ブルの愛が、大事な大事な幼子から逃げ出すことを許さない。

 

「いけ!そこだ!抱きしめろ!」

「今抱きしめないでどうするんですか!」

 

そこそこ近い場所から、そよ風にも消されそうな声量の野次が飛んできている。

全てをブルになすりつけたクレアとアメリアが、馬車の陰から顔だけ出して煽っている。

 

 

あいつら、後で絶対締める。

 

内心そんなことを考えながら、ブルはどうにか穏便に済ませる方法を考えていた。

 

 

 

 

 

 

 

少しだけ時間は戻る。

 

じめじめと湿気ているウルは飽きもせずにバサシに語りかけていた。

暫くじっと見つめていたブル達四人だが、誰よりもウル離れ出来ないブルが限界を迎えていた。

 

ブルにとってウル吸いは確かに抗いがたい魅力があるが、それよりもバサシに立場を奪われることが許せなかったのだ。

 

今すぐにでも、馬刺しどころか挽肉にしてやりたい気持ちを抑え込み、ブルは馬車から飛び出した。

 

飛び出して何をするのか。

それは当然、土下座である。

 

飛び出した勢いそのままに空中で土下座の姿勢を作り、着弾。

僅かたりともブレることのない、美しい姿勢であった。

 

飛び込み土下座をバサシの上から見下ろすウルの目は冷めたもの。

黙したまま土下座を続けるブルに、それを見下ろすウル。

 

唐突に飛び出してきた自尊心や誇りを投げ捨てたその姿に、ざわざわとしていた喧騒が静まり返る。

 

 

「にぃは、なにかいうことないの?」

 

バサシの上から見下ろし、口を開くウル。

ぷっくり膨れた顔は可愛らしいが、今だけは魔王をも凌ぐ貫禄。

 

土下座したままのブルが返答する。

 

「絶対にまたやるが、悪かった。後出来るならもうちょっと…」

「にぃ…」

 

見惚れるほど綺麗な土下座をかましておきながら、初手から欲望が顔を出している。

しかも延長希望まで付け足し、反省の色が欠片もない。

 

これにはウルも呆れ顔。

 

 

謝罪と言うには無理のある欲望丸出しの言葉に、謝罪を向けられるウルがどのように返すのか。

ルサルナ達も周囲で見守る人々も、固唾を呑んで続きを待っている。

 

たった数秒が何倍にも感じられる緊張感の中、ウルがバサシからぴょんと飛び降りた。

 

後ろ手を組み、ゆっくりとした動作でブルを覗き込むウルに視線が集まる。

 

「ふぅん…また、やるんだ?」

 

堂々たる圧の掛け方である。出処は恐らくクレア。

 

しかし、今回に限り相手が悪かったのかもしれない。

ウルの言葉に顔を上げ、真摯な眼差しをウルに向けたブルが口を開く。

 

「俺の愛がそうさせる」

「んふっ」

 

愛を免罪符にした最低な返しである。

 

どこまでも真っ直ぐな愛が嬉しいやら、おかしな返答が面白いやら。

笑いを堪えられなかったウルが顔を背ける。

 

「こほん、そういうのいいから」

「はい…」

 

頑張って済まし顔を作り直したウルがぴしゃりと返す。

ちょっとイケるかと思ったブルだが、またしても地に額をつけることになった。

 

 

「わたし、ちゃんとわかってる」

 

 

後ろ手を組んだまま、ゆっくりとブルの周りを歩き始めるウル。

緩んだ緊張感が再び高まっていく。

 

 

「にぃがわたしのことだいすきなのはわかってる」

 

 

ゆっくりと歩いていたウルがブルの真後ろで止まる。

 

 

「わたしだってにぃのことだいすき」

 

 

そのままほんの少し、ブルから離れるように歩く。

 

 

「だからね?そんなにしたいなら…いいよ?」

「ウル…!!」

 

ウルの言葉に機敏に反応したブルが振り向き、そのまま固まる。

 

 

「……にぃはぎゅってしてくれるよね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

振り向いた先にいるウルは雷を纏っていた。

 

 

 

 

なんとか穏便に済ませようと、ばっちばちに放電するウルを宥めようと声をかける。

 

「どうどう…ウル、いいこだから…な?」

「ぎゅってしてくれないの…?」

「ぎゅってするわ、今すぐ」

 

腕を伸ばしたまま、こてんと首を傾げるウルの返答。

あざとい反応だが、ブルに対して効果は抜群である。

ブルは穏便という言葉を捨て去り、反射的に答えていた。

 

こいつマジか、とでも言うような視線がブルに集まる。

 

「抱け!抱けー!」

「愛を示してくださーい!」

 

あいつら泣きわめくまでボコボコにしてやる。

そうブルは思った。

 

考えていることと真逆の優しい笑顔で、ブルは一歩踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

倒れ込んだブルに抱きついていたウルが体を起こす。

ブルは未練などないような清々しい顔である。

 

ゆっくりと立ちあがったウルがまた腕を伸ばす。

伸ばした腕の方向にいるのは、ルサルナ。

 

「るぅねぇもしたいんだよね…?」

「う、ウル…あのね?したくないと言ったら嘘になるわ?けど…」

「じゃあぎゅってしてくれるよね…?」

「今すぐしてあげる」

 

 

 

 

 

 

 

クレアとアメリアは、この状況をどう切り抜けるか考えていた。

 

 

ルサルナとウルはしっかりと抱き合っている。

ばちばちという不穏な音とともに。

 

考える時間は残り少ない。

ブルの時よりも控えめな放電は徐々に収まってきていた。 

 

逃げることは選択肢にない。

可愛らしい妹分に背を向けて逃げるような、そんな駄目な人にはなりたくない。

かと言って何もしなければ餌食になる。

 

 

放電が収まり、ルサルナの体がゆっくりと倒れていく。

にこにこと笑みを浮かべたウルが倒れゆく姿を見送っている。

 

 

「ウル、私ウルに良いこといっぱい教えてあげたよね?」

「ウルちゃん!私いっぱいウルちゃんのお手伝いしてあげたよね?」

「くぅねぇ、りあねぇ」

 

とりあえず色々と畳み掛けて有耶無耶にしようとしたクレアとアメリアだが、今のウルには通用しない。

 

三度腕を伸ばしたウルに遮られる。

 

「いっぱいおしえてくれるくぅねぇだいすきだよ?」

「私も…大好きだよ…!」

「りあねぇはあったばかりだけど…すきだよ?」

「大好きじゃないのね…!私は大好き…!!」

「じゃあ、はい」

 

早く早くと腕を揺らすウル。

勿論ばっちばちに放電している。

 

「お前らの愛はその程度か?…残念だよ」

「ふ、ふふ…片腹…痛いわね…」

 

何食わぬ顔でウルの後ろから煽るブル。

誰よりも受け止め続けた結果か、復帰までが非常に早くなっていた。

ルサルナも満身創痍ながら根性にて煽っている。

受けた電撃こそブルより弱いが、それは比較対象がおかしいだけである。

ただの一般人であれば耐えきれない。

 

 

まだ躊躇している二人の姿に、ウルの腕が寂しげに降りていく。

 

「くぅねぇもりあねぇも…くちだけなんだね…」

「クレア逝きまーす!」

「アメリア突貫します…!」

 

中々踏み出せないクレアとアメリアに、ウルからの強烈な煽り。

 

堪らず走り出す二人。表情は決死。

 

対するウルはどこか悪い笑み。

クレアから教えられたことを、そのままクレアに叩きつける百点満点の実践である。

 

ウルの顔を見て嵌められたことを悟ったクレアだが、今更足は止められない。

騙されているなど思ってもいないアメリアは止まらない。

 

 

青空のもとに二人の悲鳴と、堪らえきれず笑い始めたウルの声が響き渡った。

 

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