なんかよくある話   作:天和

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食べ物の話

 

ウルがなんだか萎れている。

思う存分吸われた際に生気も一緒に吸い取られたのだろう。

他の女性陣は肌がつやつやしているように見える。

 

「なんだか肌が瑞々しくなったような気がするわ」

「今ならなんでもできる気がする!」

「心が軽くなりました!」

 

順にルサルナ、クレア、アメリアの発言。

怪しい品物を宣伝しているような、胡散臭さしかない発言だった。

 

一方、ブルは萎れていくウルを見て思いとどまっていた。

心に湧き上がる何かを感じていたのだ。

 

これでもかと言うほど吸われて解放されたウルの瞳には光がない。

光の消えた目をブルに向け、どうぞと言うように腕を伸ばした姿を見たとき、ブルは自分の心がいかに穢れているのかを自覚した。

 

「ウル…ごめん、ごめんな…こんな自分勝手なにぃで…」

「みんなのこと、だいすきだから…へいきだよ?」

「ヴル゛ぅ゛…」

 

ブルは静かに泣き崩れ、ウルはそんなブルを優しく撫でた。

 

目に光がない幼子に、泣き崩れている大の大人が縋り付く。

なんとも危ない絵面だが、それを見ていた誰もが心に感じるものがあった。

 

幾人もの人の目から涙が溢れ、一人二人と拍手した。

やがてそれらは伝播し、至るところから拍手と嗚咽が巻き起こっていた。

 

「うっ、ぐす…ごめんなさいぃ…」

「なにこれ?」

「雰囲気に酔ってるんじゃないかしら」

 

雰囲気に飲まれ、泣き出すアメリア。

雰囲気に乗り切れず困惑するルサルナとクレア。

 

大規模な戦いに勝利したことによる高揚感と、なんとなく感動的な雰囲気。

さらには大勢の人。

 

貰い泣きに貰い泣きが重なり、一人拍手すれば誰かが続く。

要は乗りに乗ったのである。

 

「ごめんなさいぃぃ!」

 

アメリアが泣きながら走っていき、ブルとウルに飛び込んでいく。

 

「一番堪能してたくせに…手のひらくるっくるじゃん」

「あの子、結構その場の乗りで生きているわね」

 

良いように言えば素直なのだ。

ブル達の周りはアメリアの大号泣がさらなる感動を呼び、やたらと盛り上がっていた。

 

視線の先では三人纏めて胴上げが始まっている。

見ているにも関わらず、場の進行が早すぎて付いていける気がしない。

 

騒ぎに便乗したのか、いそいそと屋台の準備をしている人が現れている。

ルサルナとクレアが困惑する中、大歓声とともにお祭りが始まっていた。

 

 

 

 

 

「ウル、これもどうだ?旨いぞ?」

「んぐんぐ…んまぃ」

「もう…あんまり食べすぎないようにね?」

 

幸せそうな表情で口いっぱいに頬張るウル。

吸われた生気を順調に取り戻している。

 

定期的に馬鹿みたいにウルを甘やかす守護者、ブル。

今はウル専用の乗り物と化している。

 

隣で軽く注意をしているのは最近特にやらかしの多い保護者、ルサルナ。

大体真面目な分、誰よりも弾ける女である。

 

クレアとアメリアの姿はない。

ブルと同じく、ウルを甘やかそうとしたアメリアをクレアが引きずっていった。

 

二人に好きにさせると、ウルの顔やお腹がもちぷよになってしまいそうだからである。

それは連れ去られる直前、両手に抱えきれないほどの食べ物を持っていたことから容易に推測できた。

 

ブルもブルで、次から次へとウルに貢いでいるが、そこはルサルナの腕の見せ所。

 

「ほら口元、汚れてるわよ?…これでよし」

「ありがと、るぅねぇ」

「全く甘えん坊なんだから……これも食べる?」

「たべる!」

 

ルサルナの言葉に、にぱっと笑うウル。

ルサルナは済まし顔で対応しているが、その口元はかなり怪しい。

気を抜けばすぐに口角が上がるようなでれでれ具合だった。

 

腕の見せ所のはずだったが、既に立派な甘やかし勢の一員である。

ウルが甘え上手なのか、それとも甘えん坊に育てているのか。

 

性質がどんどんブルに似てきているルサルナ。

当初、ブルに任せておけないなどと思っていたのはどこの誰なのか。

 

このことに関して、ブル達の中で一番まともなのは、案外クレアなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

そうしてどんちゃん騒ぎを楽しみ、ついでに外壁や建物の修繕や瓦礫の撤去を手伝い、時折ちょっかいを出してくるシャル達や傭兵達を可愛がって何日か経った頃。

 

 

残念なことに、ウルがなんかもちぷよになり始めていた。

知識や技術の吸収力のみならず、栄養の吸収力も随一であったらしい。

 

もちぷよの主な理由は甘やかされたことである。

 

が、それだけならばウルはとっくに団子の様に丸々している。

原因はこの都市がとあることに熱を注いでいたことだった。

 

 

この都市には、大都市から僻地まで、商人も行かない様々な場所に赴いた傭兵が多数存在する。

 

そして、そうして赴いた先には当然、独自の物があったりもする。

 

都市の住人はそれらを積極的に取り入れた。

傭兵達は様々なもの持ち帰ったが、その中で特に住人が目をつけたもの。

 

それは食べ物や飲み物であった。

大いに食べ、大いに呑んで騒ぐ傭兵にとって、食の質は士気に影響する。

 

傭兵達は命懸けで魔獣が斃し、その報酬の一部で呑んで騒ぐ。

 

 

その際に飲み食いするものが不味ければ?

 

 

当然、士気は下がる。

それは逆に、美味ければ士気が上がるということ。

 

飯は美味いほうが良いに決まっている。

飯が美味いだけで人は集まるのだから。

 

そのことを考えついた住人達は傭兵達の胃袋を掴むことに情熱を燃やした。

美味不味関係なく、どこぞの料理を真似し、改良し、自分達に合うよう発展させていった。

 

そうして現在、食べきれないほどの創作料理が都市に溢れていた。

完成度や味については置いておいて。

 

探せば探すほどに出てくる初見の料理に、ウルの目はもうきらっきら。

ブルとアメリアが甘やかし、ウルも飽きもせずにあれこれと食べ尽くした。

 

ルサルナとクレアは静止していたが、自分達も見たことのない料理は気になる。

それを美味そうに食べる姿を見れば尚更。

 

分け合って食べようなどと対策を講じても、新たな料理が次々に出てくるために、結局は満腹まで食べてしまう。

食べるのを止めればいいのだが、好奇心に負けてウルとともに食べてしまったのだ。

 

もちぷよウルの出来上がりである。

ついでにルサルナとアメリアも。

 

クレアはすらりとした体のままだった。

 

 

一行、特にルサルナとアメリアは出発を急がなければならないと決意した。

ウルは少しばかり不満そうだったが、こればかりは譲れない。

 

これ以上横に大きくなる前に、誘惑を断ち切らねばならないのだ。

 

 

一行は今度こそ、出発のための準備を始めた。

 

 


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