なんかよくある話   作:天和

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わちゃわちゃする話

 

「さぁリア!きりきり歩くわよ!」

「はい!ルナさん!…あ、ウルちゃんもおいでー?」

「はーい」

 

やたらと気合の入っているルサルナとアメリア。

短期間にぷにっとしてきたことに危機感を覚えている。

 

普段であれば、いざという時の体力を温存するため馬車に乗るが、いざという時は今なのだ。

 

乙女には譲れないものがある。

それが例え、にぶちんには分からないものであっても。

 

己の誇りに賭けて、譲れない。

 

 

 

やけに気合の入った二人の後ろを追従するブル達。

バサシの隣を歩くブルは、御者台に座ってのんびりとしているクレアを見る。

 

「…お前は歩かなくていいのか?」

「えぇー?だって私太ってないし、太らないもん」

 

ルサルナとアメリアに聞かれていれば恐らく有罪。

即刻処断されていてもおかしくない言葉である。

 

ブルはその言葉に深く納得した。

とある部位を見ながら。

 

「あぁ、アレってそういう…確かにお前は太らなさそうだよな…」

「ぶっ殺」

 

あからさまに胸部に向けられた視線にクレアは激高した。

 

容易く乙女の禁忌を踏み躙る男は処さねばならない。

メイスを両手で握り締め、クレアはブルに飛びかかった。

 

 

 

「急にどうしたのかしら?」

「さぁ…?なんででしょう?」

 

がいんごいんと獲物のかち合う音が響いてくる。

クレアが何やら殺意に満ち溢れているが、軽くあしらわれる様はまるでじゃれているよう。

巻き込まれそうなバサシがひんひん鳴いているが、それはよくあること。

特に気にするものではない。

 

前触れなく始まったじゃれ合いに、ルサルナとアメリアは首を傾げていた。

自分達とある意味同じ、乙女の尊厳を賭けた聖戦に臨んでいるとは思っていない。

 

ウルは気にせず、視線を避けるようにこっそり取り出した焼き菓子を食べている。

 

「うがあぁぁ!」

「やっぱおもしれぇ動きだな」

 

ブルは歩きながら、獣のような動きで暴れるクレアをいなしている。

 

足も止めないのならば気にしなくてもいいだろうとルサルナ達も足を進める。

優先されるべきはじゃれ合いの観戦ではなく、とあるものを減らすこと。

 

美味しそうに焼き菓子を頬張るウルなんて見ていない。

ウルは黙々と歩いているはず。

 

見ていないったらない。

 

 

 

 

 

「うぅ…お腹が空きました…」

「わたしも」

「ウルちゃん…手に持ってるそれは何?」

「しまった…!」

 

暫く歩き、まだお昼には少し早いかという時間帯。

アメリアのお腹がぐぅぐぅ鳴っていた。

 

ウルも同意しているが、その手には焼き菓子。

こっそり食べているつもりのウルだが、バレバレである。

口元にも焼き菓子の欠片がくっついており、証拠を隠しきれていない。

 

アメリアはちょっとぷよった体を絞ろうとしている中、隣でもしゃもしゃと食べられて余計に腹が減ってしまっていた。

 

「んまんま」

「くうぅ…」

「仕方ないわね。少し休憩しましょう」

「ルナさん…!ありがとうございます…!」

 

開き直りやたらと美味そうに食べるウルを見て、アメリアからうめき声が漏れ出る。

 

流石に可哀想に思ったルサルナは一旦休みを取ることに。

ルサルナ自身もお腹が減っているということは関係ないはず。

 

「ブルもそれでいい?」

「問題ねぇな」

 

ブルはまたバサシの隣で歩いている。

バサシも慣れたのか、その程度ならもうビクつかない。

 

クレアはバサシの背に干されるように寝かされている。

怒りのままに暴れていたクレアだが、怒りにより動きが単調になっていたため、早々に飽きたブルに沈められていた。

 

残念ながら聖戦は敗北に終わったらしい。

敗北後、暫くは嗚咽が聞こえていたが、今は泣き疲れて眠っている。

 

「ウル、あー…なんだ、今はそっとしてやってくれ」

「そっとしとくの?」

「そうだな…ああそうだ、そのままだとアレだから馬車に寝かせよう」

 

干されるクレアを棒でつんつんしようとしたウルを止める。

ブルは少し言い過ぎたかと、若干罪悪感を感じていたのだ。

 

そそくさと馬車内に運び、毛布を敷いてやり、寝かせる。

 

ウルも敷かれた毛布に転がりお昼寝の体制。

既に眠そうな顔でクレアにすり寄っている。

 

思わず笑みを零すブルは毛布を掛けて見守りの姿勢。

馬車内は穏やかな空気が流れている。

 

 

一方、ルサルナとアメリア側。

 

「うぅん…やっぱり保存食だと物足りない…」

「料理が作れれば良いんだけどね」

「…?作ればいいんじゃないですか?」

「料理なんて出来ないわ」

「えっ」

「え…?」

 

さも当然かのように言い切るルサルナ。

清々しいほどに淀みない断言。

 

アメリアは聞き間違いかと困惑している。

 

「ええっと…出来ないんじゃなくて、しないんですよね?」

「出来ないわよ?」

「えっ」

「うん?」

「ルナさんが…?」

「そうよ?」

「嘘でしょ…」

 

アメリアがわなわなと震える。

 

ブルやクレアはなんとなく分かる。

血の滴る肉を貪っていてもそこまで違和感はない。

 

しかし何でも卒なく熟しそうなルサルナが料理出来ないなんて。

 

「ウルちゃんだけじゃない…私が支えなきゃ…」

「なんて?」

「私!作ります!料理!」

「え、あ、はい…お願い…?」

「待っててください!」

 

アメリアの庇護欲は燃え上がった。

ウルという世話したくなる可愛らしい幼子に、クレアという手のかかるいたずら娘。

それに大人だが、弱った時はお世話しがいのあるブルとルサルナ。

 

村でこれでもかと言うほど甘やかされ育ったアメリアは、ここにきてお世話したり甘やかす喜びに目覚めていた。

 

村の爺婆に教えてもらった野草の知識と料理の技術。

それらを総動員するべく、困惑するルサルナを置いてアメリアは走り出した。

 

 

 

 

 

「さぁ!食らうがいいです!」

「おぉ…うめぇな」

「うめー」

「温かい…沁みるねー」

「優しい味…リア、あなたすごいわ」

「ふふん、爺ちゃん婆ちゃんの教えは素晴らしいんです。後ウルちゃん、うめーなんて言葉言っちゃ駄目」

「んまぃ」

「…まぁよし!」

 

アメリアはそこらを駆け回り、野草やきのみを収穫し、自前の道具にて料理を作り上げた。

どうだと言わんばかりの顔からは自信が溢れている。

 

簡素ながら、妙にそそられる料理を早速食するブル達は、どこか長閑な光景を思い起こす味に感じ入っている。

 

「栄養たっぷりでウルちゃんの成長にもぴったし!乙女にも優しい料理!さぁどうですか!?」

「採用。ウルのために今後ともよろしく」

「同じく。料理担当として今後もお願いするわ」

「やったー!」

 

続くアメリアの言葉に、ブルとルサルナは完全に陥落。

それぞれの急所を突く、見事な一撃である。

 

アメリアはたった一食で不動の地位を有することになった。

このまま胃袋を掴みきれば、序列一位だって夢ではない。

 

「あれ…?私の立場、もしかして危うい…?」

 

そんな光景にそこはかとない不安を覚えるクレア。

自分の料理を平らげたウルが、こっそり手を伸ばしている事に気づいていない。

 

「…ん?全部食べたっけ…?」

「んぐんぐ…んまぃ」

「…ウルー?」

「し、しらないよ?」

「ふぅん…知らないってなんのことかなー?」

「あ、あるいていったの…たべられたくないって」

「歩いた先はこのお腹かー!このこのぉ!」

「きゃー!?あはは!く、くすぐったいぃ!」

「こら!ご飯中に暴れないの!」

 

心配せずとも、クレアはしっかりと貢献している。

主にウルに悪い事やいたずらを教えるお姉ちゃんとして。

 

それが良いことかどうか分からないが、なんだかんだ笑顔に溢れる光景は微笑ましい。

 

ばたばたと暴れるウルとクレア、注意するアメリア。

それを仕方ないというように笑いながら眺めるブルとルサルナ。

 

 

立場も年齢も関係なく、ブル達は変わらず仲良く旅をしている。

 

 

 

 

 

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