なんかよくある話   作:天和

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進まない話

 

 

「あ、これ!このキノコ美味しいんだよねぇ。ねぇクレア…クレア?」

「毒キノコ……毒……閃いた!」

 

料理担当となったアメリアが道すがら食べられる野草やきのみ、キノコなどを取っていた。

きらきらした金の髪も後ろで纏め、活発な様子に磨きがかかっている。

 

逆にクレアは活発さが鳴りを潜め、毒キノコの前で後ろ暗い雰囲気で何か閃いている。

その閃きは恐らくは人でなしの閃き。

 

ウルはアメリアの目を盗み、きのみの味見の真っ最中。

とっくにバレているが、美味しいものを引き当てたのか夢中になって気づいていない。

 

 

「止めなければ…止めなければならないのに…可愛いが過ぎる…!」

「馬鹿言ってないでちゃんと注意しなさい。さっき自分で注意するって言ったでしょう?」

 

保護者側はいつも通りの平常運転である。

 

盗み食いに夢中になり、頬いっぱいに頬張るウルに骨抜きにされているブル。

出会って瞬く間に墜とされた男の貫禄である。

大体何をしてても可愛いのだ。

 

ルサルナはブルに比べれば堕ちきってはいない。

可愛いのは可愛いのが、悪いことはちゃんと叱るべきだと考えている。

ブルと違って躾の概念は持っている。

 

何だかんだ甘やかして許しているとは言ってはいけない。

身から出た錆が相応に多く、叱るに叱れない事も多いのだ。

 

「くっ、ぅぅぅ…ウル!ちょっとこっちきな!」

「…?」

 

歯を砕けんばかりに食いしばり、ブルがなんとかウルを呼ぶ。

 

ウルはてけてけと歩いてくる。

口の中がいっぱいで返事は出来ない。

 

口を手で抑え、もちゃもちゃと一生懸命に咀嚼しながら首を傾げてブルを見上げるウル。

そんなウルの姿にわなわなと震えるブル。

 

ルサルナが声をかけようとしたときにはもう遅かった。

既にブルは膝をついてウルを抱きしめ、撫で回していた。

 

「よーしよしよし!ウルはやっぱり可愛いなあ!」

「うんむむ…」

 

もごもごしつつ、ちょっと迷惑そうだが嬉しげなウル。

やっぱりこうなったとでも言うように天を仰ぐルサルナ。

骨の髄まで愛に侵されているブル。

 

ため息を吐くルサルナなどお構いなしに、ブルはウルを存分に撫で回していた。

 

 

 

 

 

 

鼻歌交じりでアメリアが機嫌良くご飯を作っている。

そんな声や音を背景に、ルサルナとブル、ウルは向かい合っていた。

 

「次からはしっかりと食べていいか聞いてから食べること。いいわね?」

「はぁい」

 

暫く経った後、ルサルナはウルに優しく注意していた。

ブルは既に説教された後である。

今は正座しながらウルを膝の上に乗せている。

 

痺れ始めた足に、痺れを切らしたブルが口を開く。

 

「そろそろ足を伸ばしてもいいか?」

「…反省は?」

「してるしてる」

「もう少しそのままでいなさい、この馬鹿」

 

表面上の反省も見られないブルは許されなかったらしい。

言われてしゅんとしているようなブルだが、ウルを撫でることは止めない。

恐らく意識を失う以外、ウルを愛でるのを止めないだろう。

 

ブルは痺れに、ウルはご飯に対しそわそわする中、アメリアの声が届く。

 

「もう少しでご飯できますよー!」

「ごはん!」

「よしきた!」

「あ、こら待ちなさい!」

 

ウルが待ってましたとばかりに飛び出し、ブルがそれに続く。

ルサルナが逃げるなと静止をかける。

 

ウルと同じく駆け出そうとしたブルはしかし、一、二歩踏み出したところで痺れた足が縺れ転倒した。

顔面から倒れ込むブルを唖然とした顔で見るルサルナ。

 

「うぉぉ…足、足が…」

「ブルって時々人類っぽいわよね…」

「俺はちゃんと人類だ…!」

 

染み染みと呟くルサルナ。

悶えながらもしっかりと返事をするブル。

その様子を目敏く見つけ、悪い顔をしているクレア。

 

「にぃー?」

「大丈夫だウル…!ちょっと痺れただけ…!」

「心配しなくても大丈夫よー」

 

少し心配しつつ、正直ご飯の出来上がりの方が気になるウル。

そんなウルに、いつの間にか近づいてきたクレアが耳打ちをする。

 

「もう少しだけ時間あるからさー…ちょっとお兄さんの足ツンツンしてみ?普段見れない反応が見れるかも?今だけだよ?」

「いまだけ…?きになる…」

「急がないと見れなくなっちゃうよー?」

「それはたいへん…!」

 

ぱたぱたとブルのもとへ戻ってくるウル。

ものすごくわくわくとした表情。

 

ウルとクレアのやり取りを見ていたブルは嫌な予感しかしない。

 

「ウル、待ってくれ…今はちょっと」

「えいえい」

「はっ!んおぉ…!」

「んふっ、んふふ…」

 

有無を言わさずつんつんし始めるウル。

思いの外反応が面白くてつんつんを止められない。

クレアは離れたところで腹を抱えて大笑いしている。

 

「てめっ、くっ…クレア覚えとけ、おぅ!」

「んへへ…しんかんかく…」

 

怒るに怒れないブルは悶えるしかない。

ウルは悶える姿を見て何か新たな扉を開きかけている。

 

 

悪いことと言うのは覚えやすいもの。

何故なら楽しかったり、自分に利があったりするものだから。

ウルも順調に悪いことを覚えている。

クレアは勿論、ブルとルサルナも相応にやらかすからだ。

 

英才教育を受けるウルの将来はどうなるか。

今のところ誰にも分からない。

 

 

 

 

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