なんかよくある話   作:天和

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普段の行いは、という話

 

木々の切れ目から覗く、異質なほど巨大な一本の樹木。

まだそこそこの距離があるはずだが、周囲の木々より明らかに高く、太いことが分かる。

 

そんな巨木を口を開けて見る三人娘。

 

「わぁ…うわぁすごい!あんな大きな木初めて見た!」

「すっごいねー…」

「おっきい…」

 

きゃっきゃとはしゃぐ金髪娘、アメリア。

未知のものに興奮し飛び跳ねている。

動きに合わせて跳ね回る金の髪は、本人の活発さを写しているよう。

 

呆けた顔をして巨木を見る黒髪娘はクレア。

クレアの背中によじ登っている、同じく呆けた顔をした幼子はウル。

 

三人はそれぞれ、旅の醍醐味とも言える景色に見惚れていた。

 

 

「あぁ、そういや確かにでけぇ木があったな」

「うん…まぁあなたはそんな感じよね…」

 

見るだけで気持ちが引き締まるような厳かで、神秘的な巨木を見て出た感想である。

ブルにとって、巨木もそこらに生えている木とあまり変わらないらしい。

 

旅を続けるうちに少しずつ変化しているが、元々の感性がそうなのか、感動するような質ではないのかもしれない。

 

三人娘が興奮しているのか、足早に進み出す。

そんな様子を見てルサルナがくすくすと笑う。

ブルは少しそわそわしだしている。

 

「あらあら…まだ子供よね」

「置いて行かれる前に行くか」

 

優しく見守るルサルナ、そわそわしているブル。

 

「私はこの子とゆっくり行くわ。あなたは付いて行ってあげて?」

「ん、そうか…あいつらだけじゃ不安だからな。大丈夫だろうが気を付けて来いよ」

「はいはい、ありがとうね」

 

言うやいなやブルは駆け出した。

ウルへ向かって一直線である。

 

ルサルナはどこでも託せるほどの信頼があるが、クレアとアメリアはまだ実力不足。

都市や町でならいいが、野外においてはまだ足りない。

 

ルサルナの微笑む顔が困ったような顔へ変わる。

 

「子離れ出来るのかしら…」

 

 

 

恐らく出来ない。

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉー!すっごい!でかぁい!」

 

木々の切れ目から覗くだけでなく、いよいよ根本が見え始めた頃、クレアが我慢出来ず近場の高い木によじ登っていった。

 

よじ登った頂上から見ても、首が痛くなるほど見上げなければならない程高く、大きな樹木に改めて興奮をしていた。

 

ウルも真似して登ろうとしたが、掴むところがなくブルの頭程度の高さで限界になり、ぷるぷるしてしがみつくのが精一杯になっていた。

 

ブルとアメリアは、勿論その愛らしい姿を脳内に焼き付けていた。

にぃー、にぃー、と助けを求め始めたウルに正気を取り戻し、救助はしたが。

 

「あぶない…しんじゃうとこだった…にぃありがと」

「どういたしましてだ」

「私も登ろうかな…でもウルちゃんを置いていく訳には…」

 

ブルの腕の中で額を拭うウル。

別段汗をかいたという訳ではないが、様式美というもの。

アメリアはウルを置いて登るかどうか葛藤している。

 

そうして遊んでいるうちにルサルナが追いついてきた。

 

「あんなとこに登って…全くもう」

「ウルも登りたいらしくてな。ちょっと連れてくわ」

「…!のぼってくれるの?」

「勿論。これ以上ないほど丁寧に運んでやるからな」

「ふぅん…大丈夫でしょうけど気をつけてね」

「おう、かすり傷も付けるつもりはねぇ。じゃ、行ってくる」

 

ブルは背中へウルを背負い直すといそいそと紐を結び始めた。

手早く結び、綻びがないか丁寧に確認し、するすると登り始める。

 

「なっ!?抜け駆け!?待ってー!!」

 

置いていかれたアメリアも急いで登っていくも容易く置いていかれている。

 

倍では足りないかもしれない程の速度差。

しかしアメリアが遅いということはない。

むしろアメリアもやたらと速いのだが、比較対象が悪すぎた。

 

「んー…野生児が二匹…いえ、先に登ったのと合わせて三匹ね…」

 

それを見てルサルナが失礼な事を呟いている。

 

ルサルナは純粋な身体能力では劣る。

といってもこちらも比較対象が悪いだけである。

でなければ旅も戦闘もついてはいけない。

 

「おー!おっきい!いえもひともあんなにちいさい!」

「ほんと!全部ちっちゃく見えちゃう!」

「すっごいよねー!人がゴミみたいだー!」

「あははっ!ごみごみー!」

 

見上げるルサルナの耳に良くない言葉が聞こえてくる。

発信者は勿論クレア。

 

ウルが真似しているのもばっちり聞こえている。

自然と寄った眉間の皺を解すように揉むルサルナ。

 

降りてきたらどうしてやろうかしら、などと考えつつ、ルサルナは杖で素振りをし始めた。

 

 

 

 

 

 

“悪いことを言うお口はこの口です”

 

 

なんとも言い難い表情をしたクレアの首に看板のようなものを掛けられている。

満足し降りてきたクレアを待っていたのは満面の笑みを浮かべたルサルナと、その手に持たれた首に下げられるような看板であった。

 

流石に打つのは可哀想かと思ったルサルナが手早く用意したものだった。

 

「くぅねぇのおくちはわるいくち…」

「悪いことばっかり言うと罰が当たるからね!ウルちゃんも気をつけるように!」

 

神妙な顔でクレアを見上げるウル。

見上げられるクレアはなんとなく居心地が悪い。

 

悪いことはあんまり言わない教えないアメリアがウルに注意している。

 

ふと、ウルに浮かんだ一つの疑問。

 

 

「にぃのおくちはどっち?いい?わるい?」

 

 

ぴしり、と固まるアメリア。

行動を共にするようになって短いが、認識的にブルの口は悪い。

頭がイカれているからだろうか。

 

固まるアメリアを見上げ、首を傾げるウル。

その視線を受け、何とか言葉を絞り出すアメリア。

 

「それは……ちょっと検討を重ねてから判断するね…」

「かさね…?」

「そこまで酷いことは言ってねぇだろ」

「お答えを差し控えさせていただきます…」

「おい…え?言ってんのか?俺…」

 

絞り出した先延ばしの言葉。

検討を重ねたところで結論を出すとは言っていない。

意外と悪いことは言ってないブルのお口なのだが、そうは思えないアメリアである。

 

ウルが難しい言葉に首を傾げている。

 

ブルはブルで言わないように注意しているものの、アメリアの反応に無意識に言っているのか少し心配になっている。

 

クレアもルサルナも何も言わない。

言っていないような気もするが、節々に見え隠れする暴力的な気配が言っているように錯覚させる。

 

 

ブルがそれぞれの顔を見ようとする。

すっと顔を逸らすルサルナとクレア。

視線を地面に固定しているアメリア。

 

目が合い、にぱっと笑うウル。

思わず抱き上げ撫で回す。

 

 

今後今まで以上に気をつけることにしよう。

ウルを愛でながら、そう思ったブルだった。

 

 

 

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