なんかよくある話   作:天和

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たまには喧嘩っぽい話

 

大騒ぎから暫くして。

 

剣呑な雰囲気で男女が向かい合っていた。

 

 

「どうしたよルナぁ…なんでそれを後ろに隠す…?」

「それを聞きたいなら、先ずはその金棒から手を離しなさい」

 

ブルとルサルナである。

 

何やら殺る気満々で金棒を握り締めるブルと、後ろ手に何かを隠しているルサルナ。

 

ブルの背中にはウルとクレアが張り付き、それぞれが肩から腫れた目元を覗かせている。

 

ルサルナ側にはアメリア。

流石に怖いのか、ルサルナの後ろから顔を出すようにしてブルを見ている。

 

 

固唾を呑んで成り行きを見守る人々の中。

一触即発の空気が漂うその場所は、町の入口から少し進んだただの道である。

 

迷惑行為もいいところだった。

 

 

 

「ははっ、離す必要なんざねぇな。今から害虫駆除すんだよ」

「へぇ…なら足元の駆除からしたらどうかしら?」

 

ばちばちに火花が散っている両者。

誰も彼もはらはらが止まらない。

 

ルサルナに隠れつつも、真正面からブルの圧を受けるアメリアの腰は引きに引けている。

ルサルナ側に付いたことを、正直ちょっと後悔しているアメリアである。

 

「分かんねぇかなぁ…ウルを泣かせた害虫をまず駆除しなきゃならんだろうが」

「ウルだけ?私は?」

「…んふっ」

 

あまりの怒気に、体の至る所に青筋が浮き出ているように見えるブル。

その矛先はルサルナの持つそれだが、余波はその周辺全てに撒き散らされている。

 

ルサルナは流石の貫禄にてブルの怒気にも抵抗出来ている。

しかしその貫禄は自分のみを守る盾である。

 

盾を持たないアメリアの引けた腰は遂に砕け、ルサルナの腰にしがみついてなんとか立っている有様。

 

ブルの背中に張り付くウルとクレアは大丈夫である。

他には聞こえないような声量で話す程度の余裕はある。

 

ルサルナの圧もないことはないのだが、ブルという何でも貫く矛は、その攻撃力をもって盾の役割をも果たしていた。

 

やられる前にやれば良かろうなのだ。

 

 

「ふっ…害虫、ね。あなたはウルに甘すぎるのよ。それじゃあウルの成長を邪魔するだけよ」

「なんだと…!?」

「私の成長は…?」

「くふっ…んふふ…」

 

まぁそんな矛と盾の話というよりは、単にクレアが怒られ慣れているということもある。

何故かウルに向かって呟かれる言葉は、沈んでいたウルの気持ちを瞬く間に引き上げている。

 

「確かに俺はウルに甘い。だが…ウルは立派に成長してる」

「それはウルの自主性に頼り過ぎじゃなくて?あなたも保護者の立場なら、もっと広く物事を見たらどうかしら?」

「甘くない…私には…」

「そ、んふっ…そんなこと、あるかも…くふふ…」

 

勢いのままに押し切ろうとしたブルに陰りが見える。

矛と盾の話で言うならば、矛は攻撃するためのものであり、守るものではない。

上手いこと攻撃を逸らされ反撃されれば弱いのだ。

 

「ウルに頼りすぎている…?俺が、邪魔しているのか…?」

「その通りよ。そして…この子に関することもその一つ」

 

ルサルナが見えるように両手を掲げる。

その手には、脚を畳み毛玉のように丸くなったクモ。

 

本能的な防御姿勢、死んだふりである。

 

みしり、と聞こえるように、ブルの体に力が入る。

何もかもを滅ぼさんとする破壊衝動を、ウルを想う気持ちで抑え込んでいるのだ。

 

「…っ、ふぅぅー……教えて、もらおうか…俺の理性がある間に…!」

「くぅねぇ、りせいってなに?」

「お兄さんにはあまりないものだよ」

 

ちょっと手がクレアに向きかけたが、それすらも抑え込んだブル。

今クレアにお仕置きすれば、歯止めが効かなくなるという判断だった。

 

その表情は地獄から這い出た悪鬼のようで、その全身は今にも弾けそうなほどに力が籠もっている。

 

一応、未だかつてない理性的な姿である。

 

「まず、確かに見た目は好みが分かれるわ。脚の数、目の数、それ以前に虫が苦手なのも多いわね。でも、あなたがさっき言った害虫なんかじゃない。この子は益虫よ」

「益虫…だと…?」

「えきちゅう?」

「良い虫だよ、信じらんないよね、虫ごときが」

 

若干早口になりつつあるルサルナ。

ブルは押し込まれつつある。

 

「そう、この子は他の虫やねずみ程度なら狩りの対象なの。この子がいるかいないかで、他の虫に悩まされることが減るくらいに大食らいでもある。この町で過ごすには必要不可欠、相棒と言っても過言ではないわ。この子自身に毒はないし、自分より大きなものには滅多に噛みつかない。それは見た目以外でウルに危害を加えることはないということ。そして何より相手を識別して懐くのよ。これがどういうことが分かる?つまりは懐かせれば今後私達が虫に悩まされることが減るの勿論この町にいる間もよ?ただの見た目で駆除しようなんてとんでもない!それは大きな損失なの勿体ないでしょ?別に飼おうだなんて言ってないのただこの子がいれば虫も減るしなんかちょっと可愛いしいてもいいんじゃないかなってそう思うわよね?」

 

恐ろしい早口で展開される、ルサルナによる説得。

徐々に息継ぎすらなくなる圧倒的速度。

最後の方は欲が覗くどころか挨拶しているまである。

 

口を挟む余地がない勢いで垂れ流される言葉に、ブルの怒気も流されてしまった。

 

「なるほど、分かった」

「くぅねぇ、わかった?」

「分かった!」

 

分かってない。

言葉の濁流に呑まれて分かった気になっているだけである。

 

なんとか納得したような面をするブル。

何も考えていなさそうな面でウルに答えるクレア。

訝しげにクレアを見るウル。

 

「あの!私もこの子がいて良いと思うんです!この子がいればクレアの泣きが…違う甘えて…でもない…色々役に立つと思うんです!」

 

ブルの怒気が薄れ、ここぞとばかりに主張するアメリア。

少しずつ刺激されてきた母性が臨界点を越えようとしている。

 

追加される言葉に、未だルサルナからの情報に溺れるブルは判断をクレアにぶん投げた。

 

「…らしいぞクレア」

「バラしてクモの餌にすればいいんじゃないかな」

「なんでそんなこと言うの…?」

 

今度こそ余すとこなく分かったクレアである。

先程の何も考えていなさそうな表情から一転し、汚物でも見るような表情。

たった一撃でアメリアは戦意喪失、地に膝をついた。

 

「それで、いいかしら?クモ達は駆除しないことで」

「あ、あぁ…そうだな」

「…よし!」

 

そして混乱している間に付け込み、ルサルナがブルから言質を取っていた。

稀に見るはしゃぎようで喜びを露わにしている。

 

そんなルサルナの様子をじっと見ていたウルがおもむろにブルから飛び降りる。

ウルの突然の行動に注目が集まる。

 

飛び降りたウルはかさかさと逃げる虫にびくつきながら、しっかりとした足取りで歩みを進めた。

その先には少し困惑するルサルナ。

 

ルサルナの目の前で止まったウルの視線は、毛玉のように丸くなったクモ。

 

意図を察したルサルナがゆっくりとクモをウルに差し出す。

 

 

まさかの挑戦に緊張が走る。

 

 

恐る恐る、伸ばしては引っ込めを繰り返しつつ、しかし確実に伸びていくウルの手。

 

誰かがごくりと唾を飲み込む音が聞こえる。

 

 

そして遂に、意を決したウルが控えめにつんと突く。

 

 

それに反応したのか、のそぉっと脚を広げるクモに手を引っ込めたウルだが、またつんつんと突き始める。

 

クモもウルの指先にじゃれつくように動き、ウルの強張った顔が解け始める。

その光景にブルの目に光るものが湧き出てくる。

 

「あぁ…これが……こんなにも素晴らしいものが…」

 

やがて花が開くような笑顔になったウルを見て、ブルは涙を流した。

 

 

 

 

クレアも負けじとクモに構いに行き、ぴょんと跳ねてきたクモに絶叫していたが、心配するものはアメリアくらいであった。

 

 

 

 

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