月に恋したブロントサウルス   作:茶蕎麦

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第七話 生痕化石

 さて、改めて語るまでもなく大げさな生き物である恐竜が踏みつけた大地すら今に残る痕になることだって、あった。

 生痕化石とも呼ばれるそれらは、太古の生き物の様子を伺い知れる貴重な資料だという。

 なるほど、たしかに今から過去の生き物の骨を見て、そいつの歩幅などを測るのは無理ではなくとも難だ。

 たとえばそのまま足跡が南極の岩肌にでも残っていたりするならば、彼らがどのように駆け、また重心を取っていたのかも判別できるようになるだろう。

 

 つまるところ、活きた情報。それらは古きを身近にさせ、むしろ今を克明にさせることだってあるに違いなかった。

 何せ、始祖の鳥は恐竜だ。鳥の飛行に合理を知るならば、何時かは前のあたしのような首長の生き物から学ぶことだって出来るようになるかもしれない。

 あたしはそう信じているし、むしろ太古を過去に持つあたしだからこそ今に何かを伝えられるのではないかと、時に悩んだりもする。

 

「むぅ。何を書けば良いのだろうか……」

 

 そうして、あたしもこの世に生痕を付けようとして、まずネットワークに情報を乗せることに惑っていた。

 ブログをはしごすることを楽しんでいるあたしであるからには、親しんでいるブログという形態で何かを書いてみるのは然り。

 とはいえ、色々なサイトを覗いて、それでもよく分からずそこそこする本を買ってようやく登録してお金払って得た自分のスペースに、何を置けばいいか、いざとなって悩んでしまう。

 日記とするには、根気というか現状ですら書くことに悩む有様であれば不可能であると理解できる。

 ならば専門な、それこそ大地がやっているような絵や小物などの写真や動画などを貼りつければ良いかもしれないと思うが、それも正直無能なあたしにはとても難度の高いものだ。

 

「……人気ブログを作るなんてのは夢のまた夢のようだな」

 

 一文字も記せていない今。これでは頑張ったところで、雑多に文や適当な事柄を纏めて認めるばかりのスペースになりそうだと、思う。

 そして、それは正解に違いない。あたしはきっと、諦めることさえしないが、ほどほどしか燃えること叶わず、下らない文章を投稿するばかりになるのだ。

 そうに決まっていて、だからこそ人気でなくても書いて残してを続けて楽しんでいる人たちへの尊敬は益々募るのである。

 彼らはどうして何を思って、アレらを載せたのか。それを考えながら読んでみれば、これからのブログ旅もより興味深く感じられるだろう。

 

「だから、こうしてあたしが自分のを書かずにブックマークを辿るのも、遊びではなく研究のためで……っと」

 

 あたしは、何に言い訳しているのかもよく分からない白々しい言の葉をこぼしながら、マウスカーソルをひょいひょい動かし、ブックマークを呼び出す。

 フォルダに押し込められたそれらは、上から下までぎっしりを越えてはみ出しながらも綺麗に並んでいる。

 美しすらすらあるその不自然に、書き込まれたサイト名は共通点がしかし薄い。それは、あたしの趣味のなさを表しているのか、それとも探っているのが事柄でなく人である証明か。

 

「ふむ。なるほどな。今日はおじさん、腹を壊したのか……そして、こっちはネイル自慢か」

 

 色々と飛び移りながら、あたしはその人達を深く思ってはいない。だが、どれもこれも頑張りが素晴らしいと気持ちはよくなるが。

 まあ、どちらにせよバス釣りおじさんから女性向けエロ小説家のブログまでリンクを移動しながら辿り着いたことのある旧きあたしには、繋がりそのものが眩しくすらある。

 輝かしい、今日このごろの引き続き。人類は考古出来る連綿だからこそ素晴らしい。そこは、恐竜よりも明らかに優れているところだ。

 

「んー……こっちは、なに? 調べてみるか……ふむ。吝嗇、なんて文言も世の中にはあるのだな……」

 

 知ることは、楽しい。皆々の生痕。活きている、彼らこそ永遠であれ。

 そうあたしが考えるのは、どんな手酷さだって黒いばかりで小さいからか。本当はもっと高い視点を持っていたあたしから見れば、大体がスケールダウンしてしまう。

 一つ一つは心に残らない。けれどもそれらの点描は果たしてキラキラしていてとても愉快なモザイクでありはしないか。

 

「この中にもっと、シラフで潜れればもっと楽しいのだろうな……」

 

 何様のつもりかと思う心もありながら、しかし真面目にあたしはそう呟く。

 恐竜は、本来何より悍ましきドラゴン。人間の中の邪悪が恐竜に似通うのも自然なのだ。

 あたしたちは図体ばかりデカくして、霊長を踏み潰しながら生を謳歌していたのだから、それはむべなるかな。

 

 だから、それと意識を交じらして生きているあたしはどこまで狂っていて、間違っているのだろう。

 人語を無視して無法を行う娘は、当然見限られたけれども、それから人のフリして生きているばかりで何一つ変化していないあたしはどうして、許されている。

 

「ん? これは……旧いな。十年以上前に停まっている……」

 

 ああ、あたしは、あたしはこれまで間違ってていても続けていて、それは。

 

「このバナーのイラスト……まさか」

 

 ここにたどり着くために必要な徒労だったのだろう。

 

「ひなた……」

 

 胸中に恐竜の、泣き声が轟く。様々手を尽くして彼女の痕跡を探した手段を最早趣味としてしまった後にどこかのリンクに引きつられ招かれたのは、『うさぎさんの秘密のお部屋』というブログ。

 その名を知らずとも、あたしはこの真ん中に置かれた下手な絵を描いた彼女を知っている。

 

「ああ……」

 

 あたしは、今は亡き彼女の生痕が風化する前に、やっと見つけることが出来た。

 

 息を飲み込む音が強く聞こえ、そして。

 

「よし」

 

 クリックの音は何より頼りなさそうに辺りに響いたのだった。

 

 

 




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