夢破れても、人生は続く
「これで最後、か」
ポツリとつぶやく。
レース場に人はまばらで、OPとランク付けされるレースを走り競っていたウマ娘たちも私を含めて12名。勝利し涙を流すウマ娘、敗北し泣き出すウマ娘、私と同様に最後のレースだったのだろう。呆然と空を見上げ動かないウマ娘。
かくいう私もゴール板を駆け抜けた後、何とも言えない無力感と、寂しさと、悔しさと、とにかくいろんな感情がごっちゃになって呆然と立っていた。
『次レースが開始となるので、退出をお願いします。1着の○○さんは―——』
そこで初めて涙が流れた。ただ、ここでとどまっていては次に迷惑がかかってしまう。最後なんだ、前を向いていきたい。
涙をぬぐい、泣いたり呆然としているウマ娘に明るく声をかけ、ゆっくりとコースからでるように誘導する。最後に、コースから出る際に深くお辞儀をして。まばらではあるが、温かい拍手を背にその場を後にする。
…
「お疲れ様」
控室に戻ると、トレーナーとチームのウマ娘たちが待っていてくれたようだ。
トレーナーが最初に声をかけてくれてからチームのみんなが泣き顔で抱き着いてくる。なだめなだめしつつ、本日レース予定のある子は準備で出て行ったりその子の応援に行ったりで控室から出ていった。
「トレーナー」
「おう」
「約4年間。根気強く指導いただけて、本当にありがとうございました」
「それが俺の仕事だ。気にするな」
トレーナーとは、私が中等部の時に選抜レースで出会った。その後3年たち私も高等部へと進んだ。チームに入った際にいた先輩も、進学したり就職したりして皆チームから、トレセン学園から卒業していった。そして次は私の番だ。
「またそんな風に言って、元部長に聞かれたらはたかれますよ?」
「うるせぇ、あいつを知ってるのももうお前だけだ。お前が言わなきゃばれねぇ」
「え、みんなLANEでつながっているので筒抜けですよ?」
「あぁ?!最近なんか冷たいなと思うことがあったがそういうことか!」
トレーナーの反応がなんだか面白くて、ふふと笑う。ばつが悪そうなトレーナーだが、急に真面目な顔をしてこちらを見てくる。
「なぁ」
「不倫はしないよ」
「だぁ!真面目な話だ」
「あはは、ごめんね」
「はぁ。…これからどうするかは決めているのか」
「このレースで引退は前にも伝えた通り確定事項。トレセン自体は辞めないけれど完全にレース関係からは外れるつもり」
「そうか、さみしくなるな」
「何言ってんの、結婚して子供できて今もラブラブのくせに」
「それとこれとは別だっての。じゃあ、俺は次レース走るやつの応援に行くわ。この控室は一日チームで借りてるから汗流して着替えてライブの準備な。今日は最後にみんなで飯食って帰るぞ」
「うん」
そういってトレーナーは部屋から出ていった。相変わらず不器用だけど優しい人だ。静かになった控室でひとり立っているのもあれなので、置いてあったパイプ椅子にドカッと座る。
「結局重賞での勝利はできなかった。まぁ、未勝利で終わらなかっただけまし、か」
あぁ、さっきぬぐった涙がまた出てきた。体が震えているのがわかる。私はついぞ、重賞をとることなくターフを去る。その事実が、現実が、私はその程度だったということを突き付けてくる。
「くそ…くそぉ…」
そして私の涙は誰と知られることなく、汗と泥にまみれた体操着を濡らしたのだった。
☆部長とは、主人公がチームへ入った際に最上級生であったウマ娘でありチームトレーナーの最初の担当。
卒業直前に妊娠が発覚したため、責任を取る形で結婚。現在は2児の母。(なお、部長が煮え切らないトレーナーを押し倒してうまd…したのが主原因のため、両親どうしは仲がいいらしい)まぁ奥さんからしたら若い新芽がいっぱいのところに夫がいるのは気が気でない…いや、学生を襲うのは犯罪では?から、防犯と友人を増やす目的でチームのウマ娘とはLANEで連絡先を交換している。