オーバーロード 未来IF   作:fato

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ツアレさんの話。独自設定が多くあるので苦手な方は御注意ください。


変貌

 

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 世界の在り方が変わった、そう思わされる程の衝撃をツアレは感じていた。

 知覚できる情報はその量を何倍にも跳ね上げた。俯いて見ていた床に敷かれたカーペット、今までならそれ以上の意識を向けることもなかっただろう。繊維の幾重にも規則正しく織り込まれた緻密さすら理解できる。緊張のために激しく高鳴っていたと思っていた心臓の鼓動も、鋭敏になった聴覚では少し意識を向けてやるだけで五月蝿いほどに自身の鼓膜を揺らす。

 だが何よりもそれ以上に存在感を示す、今まで感じることのなかった力。実体を持たないが自身の周りを確かに包んでいる空気とは違う何か。ツアレは直感的にそれが魔力であると理解した。

 その奔流への好奇心故、地にへたりこんだ情けない姿勢のままに両の手を持ち上げ触れようとするが、水のように手の中をすり抜けてしまう。それを残念に思うも、世界の初めて見る在り様に若干の興奮を覚えていた。

 

「…ツアレ」

 

 右手側から声が掛かる。聞き間違えるはずがない、愛する男の声。その声色にはツアレの身を心配する労りと共に微かだが叱責するような棘が含まれていた。

 はっとして正面へ顔を上げる。そしてその凄まじい迸りを知覚しひゅっと息を飲むも慌ててすぐに臣下の姿勢を取る。

 

「もっ申し訳ありませんアインズ様!これほどの褒美を頂いたにも関わらず御身の前でとんだ失礼な態度をっ‼」

 

 ツアレの正面、壮麗な玉座にはこのナザリック地下大墳墓の絶対的支配者が君臨していた。表情の分からない髑髏の顔、その眼窩に揺らめく赤い灯が静かにツアレを見ている。

 今迄もその圧倒的な存在感に押しつぶされそうな印象を受けたことはあった。だがそんなものはこの御方のほんの一部に過ぎなかったのだと理解させられる。アインズから吹き上がる禍々しい魔力の奔流、理解できるようになった今だからこそその異常性を感じてしまう。息は浅く早くなり、大粒の汗が顎先から地に落ちて弾けた。

 

「よい、身体が変わったことで戸惑っているのだろう。セバスも、私は気にしていない」

「寛大な御慈悲に感謝致します」

 

 セバスはアインズへ深く頭を下げる。ツアレもつられるように下げていた頭をより低くし、セバスに追従し感謝を述べる。

 

「さてコキュートスよ。どうだ?」

 

 ツアレの左手側、事の成り行きを見ていた蟲王へ声が掛かる。コキュートスは僅かに考え込む様子を見せた後、冷気の吐息を吐きつつ所見を述べる。

 

「身体的ナ基礎能力ガ大キク向上シテオリマス、魔力ハ程ホドトイッタ所デショウカ…ソレ以外ニ大キナ変化ハ無イカト」

「ふむ、やはりセバスと同じ種族だからな…物理的な強さが大きいか。ペストーニャはどうだ?」

 

 コキュートスの隣に立っていたもう一人、ペストーニャも同様にツアレの体を真剣に見つめた後アインズへ返答する。

 

「…目立った問題はないかと、惚けていたのも身体の変化に戸惑っていただけかと思います…わん」

 

 事務的に事実を述べるコキュートスとは異なり、ペストーニャの言葉にはツアレを心配する温かさが含まれていた。教育係として接してきただけあってセバス同様に気にかけていたらしい。

 

「ふむ、ならば成功とみていいか」

 

 絶対的支配者はそう言うと再びツアレへ視線を向ける。

 害意の含まれないその視線でもツアレは身を竦ませてしまう。せめて失礼がないようにと顔を俯けて体の震えを押さえることに全神経を注ぐ。

 

「面を上げよ」

 

 アインズからの言葉にどうにか顔を起こすがその頬を冷たい汗がゆっくりとつたう。それに気づいているのかいないのかは不明だが王は言葉を続ける。

 

「おめでとうツアレニーニャ、これでお前は時間の頸木から解き放たれた…我らと同じ不老の存在となったのだ」

「…あっ、ありがとうございます!」

 

 眼前への恐怖で忘れていた、愛しい男と同じ存在になり無限の時を共にできる喜びを思い出し歓喜が心を満たしていく。

 そう、ツアレは人間をやめ異形種へとなった。本人たっての希望もありセバスと同種の存在となり不老となったのだ。アインズがナザリックで再び功を為したセバスへ褒美を聞いた際に嘆願された内容が今回のことである。ツアレ本人もセバスと同じ時を生きたいと希望していたこともあった。

 ツアレを変えるため、アインズはそこそこ貴重なアイテムを消費していた。だが自身の子とも呼べるセバスの伴侶となる存在だ。セバスへの褒美という事を抜きにしても惜しむ気持ちはない。

 

「…さてツアレよ」

 

 アインズから声が掛かりそちらへ顔を向ける。ツアレは御方の声色が若干先程までよりも固くなっているように感じた。理由は分からない、だが自然と己が身も緊張に固くなる。

 

「お前はこれから永劫を我らと共に歩むことになる…人の生き方はもう望めまい」

 

 そこで一回言葉を区切り刹那逡巡する様子を見せた後、再度言葉を紡ぐ。

 

「人の世界に未練はないか?」

 

 それはかつて想い人から投げかけられた質問と同じものであった。あの時と気持ちは変わらない。妹に会いたいという気持ちはあるが、それを塗り潰す地獄の日々、もう思い出したくはない。

 でも、とツアレは考える。地獄が幕開ける前、その前には確かに幸せな記憶があったはずだ。両親を失い貧しいながらも愛する妹がいた、暖かい日々が――

 

「…っ⁉」

 

 記憶の底を浚おうとすると、その上に汚泥のように堆積する記憶も同時に搔き乱され地獄の日々がフラッシュバックする。

 貴族に攫われ妾として道具のように扱われた恥辱。飽きたというひどく身勝手な理由で娼館へ入れられそこから始まった絶望の日々。羞恥など最初のほんの一瞬、行きつく先はただ只管に苦痛が早く終わらないかと祈るだけ。一日が終わってもすぐ次の地獄がやってくる。

 未だに忘れることができない、見せ付けられた人の悍ましさ。こちらがどれほど痛いと喚こうと、助けてと懇願しようと、それすら欲望の糧として消費され続けた。こちらを見る、下卑た欲を形作る垂れ下がった眦、色欲を灯した瞳孔、その理性なき獣が如き衝動を体現するためにこちらへ伸ばされる無数の魔手――

 

「…っはぁ」

「ツアレ?」

 

 浅く早く息を吐きだし、臣下の姿勢を取ったまま身動ぎする様子をみてアインズは困惑したように声を掛ける。

 セバスも駆け寄りたい気持ちはあるが御方の前でそんな不作法はできないと己を律し不動を維持する。

 

「申し訳ありませんアインズ様…なんでもありません」

 

 どうにか掠れた声でそれだけ伝える。

 そして先の記憶を思い出さないように、過去のことはすべてまとめて押し込め蓋をする。

 これ以上思い出してはいけない、己はこれから愛する男と生き救ってもらった恩を返していかなければならない。そのためにも昔のことは不要であり、今のように記憶に翻弄され無様を晒すようでは迷惑になってしまう。

 

「人の世に未練などありません。どうか御身の配下として、セバス様と共に歩ませて下さい」

 

 自身の口からはっきりと伝えることで過去との決別を果たす。先程と異なり姿勢を正し明瞭に己の気持ちを述べる様子にセバスもほっと心を落ち着ける。

 

「そうか…ではこれからもメイドとして我がナザリックへ貢献してくれ」

 

 アインズもそれ以上の問いかけをすることなく話を締めくくる。

 

「では歓迎しようツアレニーニャ…我らと共に永劫を歩むものよ」

 

 その声色はどこか重々しく諦観を含んでいるようだった。

 

 

 

 深い森の中を疾走している。

 激しく繰り返される呼息と吸息、吸った息は摩擦で気道を擦り胸の痛みを与える。激しく拍動する心臓は、そのリズムの度にがんがんと頭痛を起こした。滴る汗は頬を這う様に流れ不快感をもたらすだけ。

 生い茂る樹木は天を覆い僅かな月明りの通過しか許さない。その僅かな月光を頼りに道なき道を走る。本来人が通るための道ではない獣道、周囲の草木はその枝で容赦なく肌を引っ掻いた。しかしその痛みを無視して走り続ける。それを気に掛ける余裕も無いほどの焦燥を以て。

 そうして暫く走ったのち、地を這う根に気付かず足を引っかけ大きく転倒してしまう。このような暗い森を走っていたのだ、それはある意味必然であったろう。

 咄嗟に両の手で受け身を取ったが、前のめりに地に転ぶ。

 伏した体勢のまま暫し呆然としてしまう。ここぞとばかりに酷使された肺は自身の意思と関係なく大きく速く呼吸をして酸素を取り込もうとしている。下肢は痙攣し引き攣る痛覚を主張した。両の掌には地に擦りつけた熱と痛みが現れ始めた。膝も擦りむいたようでジクジクと痛みを訴えている。

 暗く深い森の中、周囲から聞こえるのは微かな虫の鳴き声と木々が揺れる騒めきのみ。接した地の冷たさが孤独を鮮明に突き付けてくる。

 このままここで、何もかも忘れ伏したままでいればいいのでは、そんな諦観が心を掴もうとする。

 しかしそれも一瞬、すぐに両の手で地を押し足に大きく力を籠める。そして迷いを吐き出すように大きく息を吐くと再び疾走を開始した。

 止まることはない、胸を焦がす焦燥と喪失の恐怖は彼女を動かし続ける。

 

 

 

 目が覚める。

 思考がうまく働かず見慣れた天井をぼんやりと見つめ続ける。夢見の悪さのせいか体がひどく気怠い。寝巻はうっすらと汗を吸って肌にまとわりつき不快感を覚える。

 またかとツアレは嘆息する。

 それはたまに見ることのある悪夢、唯々自身が暗い森の中を走っている夢。

 不快な夢には違いない、だがどこか郷愁を感じさせる。朧気な記憶に微かに残っている、昔人であった頃自身が体験したことだ。

 しかし何故森を走っているのか、どこを目指していたのかは今一思い出せない。もっと深く記憶の底へ沈めばあるいは届くかもしれないが、やはり同時に辛い記憶が吹き上がる。

 大方、貴族か奴隷商から逃げている記憶だろうと当たりをつけそれ以上は考えないようにした。

 

「はあ…」

 

 一つ溜息をつき仕事への準備を開始する。

 洗面台で歯を磨いて顔を洗う、それだけでだいぶ意識が覚醒し陰鬱とした気持ちも落ち着く。派手にならない程度の化粧を施し、仕事着であるメイド服へ着替える。時間に余裕はあるが、あまりゆっくりしすぎてはいられない。アインズの計らいによりツアレは通常のメイドと違い十分すぎる休みを貰っていた。その上で遅刻などしたらナザリックのメイドとして許されないだけでなく、ツアレ本人も己を許せなくなる。

 朝食を取るために食堂へと向かう。毎日のように歩く廊下一つとっても煌びやかな装飾に飾られ一つの芸術作品のようだと感嘆する。

 廊下を歩いている途中でこちらへ歩いてくる三人のメイドが目に入った。

シクスス、フォアイル、リュミエールの三人だ。メイドの中でも特に仲のいい三人組でよく一緒にいるところを見かける。

 朝食を取り終えたのだろう。食堂側からツアレのほうへと談笑をしながら歩いてくる。

 ツアレ同様、三人もツアレの存在に気付いた様子で話を止める。

 

「おはようツアレ。今から食事?なら急がないと間に合わないわよ」

 

 三人の真ん中を歩くシクススが首を傾げて問いかける。

 

「おはようございます。私はそれほど時間がかかりませんから」

 

 挨拶を返しつつ、苦笑しながら答える。

 彼女達ナザリックに仕えるメイド、ホムンクルスは種族ペナルティによって食事の量がかなり多い。それこそツアレの三、四倍はゆうに超える。そのため食事の時間も当然長くなるのだ。

 メイド達もツアレが自分達ほど食べないことを知ってはいたが、基本食堂で食事をするメイドは皆大食漢故その感覚で話すことが多い。

 

「そっか、ツアレは小食だもんね!」

 

 フォアイルが納得したように明るく答える。ツアレは自身をそこまで小食とも思わないがあえて否定することもないと頷いた。

 すると今度はリュミエールがツアレへ話しかける。

 

「朝食の後は…今日も外の仕事へ行くの?」

「はい、その予定です」

 

 同僚の問いに肯定で返す。

 ツアレはナザリックで学んだメイドとしての経験を、外部の人間達に教える仕事を主としている。初めは護衛が居るとはいえ他人と関わる仕事に恐怖を覚えることもあったが、長年の経験で徐々にではあるが慣れてきていた。上司であるセバスやユリからもメイドとしてかなりの域に達していると太鼓判を押されてはいる。しかし目の前にいる三人を含め至高の御方々に創造されたとされるメイド達にはまだまだ及んでいない自覚があった。そのような自分が他者にメイドを教示するというのは烏滸がましい気もしたが、絶対なる主人から与えられた仕事である以上否はない。ツアレ自身もこの仕事にやりがいを感じ始めていた。

 

「そう、気を付けていってらっしゃいね」

 

 しかし創造されたメイド達からしたら外部へ行くというのは野蛮な人間のいる領域への訪問であり、同情を誘うものであったが故にリュミエールも心配を交えて声を掛けたのだ。

 

「はい、ありがとうございます」

 

 挨拶を交わし三人と分かれ食堂への歩みを再開する。

 しばし無言で廊下を進む。

 

「………」

 

 何気ない談笑、おかしなところも険悪な様子も一切ない。

 しかしツアレは三人、否ナザリックのメイド達から自分に向けられる壁を感じていた。

 敵意を向けられているわけではない、虐めのような真似事もない。すれ違えば先のように挨拶も交わす、冗談を言い笑い合うこともある。

 だが言葉では言い表すことのできない彼我を断絶する壁。ツアレは昔、それは自身が人であるからだと考えていた。だがアインズにセバスへの褒賞として人外へと変えてもらいかなりの時が経つ。それこそ人の生涯が何度も巡るほどの時間だ。人をやめメイドとしての技量が増し、少しずつ打ち解けて会話ができるようになってもその壁は消えずに残っている。

 気にしなければ大きく問題ともならない、仕事も順調に行えている。それでもそれはツアレにとってはしこりのような違和感を忘れさせずにいた。

 

 

 

 迫る拳を紙一重で躱す。耳のすぐ横を通り過ぎた脅威はその凄まじい轟音で鼓膜を激しく揺さぶる。しかしそれで終わりではない、すぐに目の前に迫った前蹴りによる追撃に対し手を交差して防ぐ。大砲でも放たれたかのような轟音とともに与えられる人智を超えた衝撃を軽く後ろへ飛ぶことで緩和させる。だというのにあまりの一撃に腕は一瞬その感覚を失い視界が真っ白に炸裂する。

 気を失うわけにはいかない、それは敗北と同義だ。

 一矢報いるため相手の行動を予測し咄嗟に先の相手同様、不安定な体勢ながら前方へ蹴りを放つ。しかしその悪足掻きは予想されており片手で軽くいなされてしまう。そして襟首を持たれ勢いのままに地に叩き伏せられた。

 

「勝負ありです…わん」

 

 傍で見守っていたペストーニャから声が掛かる。その言葉にツアレを組み伏しその喉元に手刀を添えていたユリはそっと上から退いた。そして大丈夫ですかと心配の言葉を掛けつつ手を取ってツアレを立たせてやる。汗をかく様子もなく、先までの闘争で見せていた荒々しい闘気は鳴りを潜め普段の凛とした佇まいに戻っている。

 

「…っはぁはぁ…はいっ大丈夫…です」

 

 一方のツアレは息も絶え絶えだ。その様子からはかなりの時間を費やしていたことが窺える、何度も地に伏したであろうメイド服は土に汚れ激しい動きと発汗により髪も乱れに乱れていた。両膝に手を付き大きく深く呼吸を繰り返し辛うじて立っているだけの状態。ツアレとしては、メイド服は着替えた方がいいのではとも思ったがナザリックのメイドたるものメイド服での戦闘にも対応できなくてはならないとの教えであった。

 場所はナザリック第六階層円形闘技場、よくナザリックの者が自己研鑽に励む場である。今もアウラにいつでも使用してよいと許可を取っているユリとツアレが模擬戦を行っているところであった。ユリも後遺症の残るような大きな怪我はさせないように注意はするが、万が一に備えペストーニャにも待機してもらっての鍛錬である。

 基本メイドとしての業務を主とするツアレだが、本人の希望で通常の仕事外の時間を鍛錬として使っていた。最初にそのことをセバスに頼んだ際はメイド業だけで十分ではないか、無理に力をつける必要はないのではないかと渋い顔をされてしまった。しかしツアレの今以上にナザリックの役に立ちたいという心意気、メイドとしての仕事の時間外に実施するという条件、そしてその目に宿る熱意を以て説得したところ最終的には納得を得られた。

 だがそれほど熱心に頼んだのにも関わらず、ツアレ自身何故それほど自分が力を求めているかを完全には把握できていなかった。確かに力を身につけたいという確固たる気持ちはある。セバスに説明した通りナザリックの、ひいてはセバスの役に立ちたいという言葉に偽りは一切ない。あえて理由を上げるならかつて攫われた際、少しでも力があれば何かが変わっていたのかもしれない。あの時のような後悔をもうしたくはない、そんな気持ちが焦燥となって自身を突き動かしているとツアレは当たりを付けていた。

 当然だが彼女が今よりよほどの力をつけてもナザリック内ではそれほど大きな価値はないだろう。しかしその心意気は無駄ではない、セバスもそう感じたから承認したのだ。

 ツアレの鍛錬にはもっぱらセバスがつく、だが今回のようにセバスが仕事で不在の際はユリが相手をすることが多い。

 メイドの仕事の指導中も普段の優しさを残しつつも妥協無く厳しい指導をするユリではあったが、こと戦闘の指導はその厳しさを増していた。創造主の性格をしっかりと受け継ぎ他の姉妹から脳筋と揶揄われることもある彼女だ。根性論丸出しの訓練でありとにかく倒れるまで模擬戦を繰り返す。無論ユリもそれだけでは終わらせず一回の模擬戦ごとに肉弾戦の熟練者として丁寧に指導もする。指導内容も時折気合や根性といった精神論が含まれるが概ね分かりやすく為になるものだ。

 何度地に伏してボロボロになっても立ち上がり続けるツアレにユリは感心していた。異形種となり体の構造が人間より強靭になっても痛みや苦しさ、辛さは変わらない。本来であれば、(実年齢は違うが)ツアレ位の年頃の少女なら泣き出し音を上げるところだ。だがツアレは泣き言一つ言わない。身体の限界を意志の力で無理矢理超えるその姿勢はユリの琴線に大いに触れた。そのため自然とユリの訓練も熱を持ち苛烈さを増したが、ツアレはそれにも食いついてきている。

 最近では外のモンスターとの実地訓練も積んでおり、ナザリック外の現地の者になら強者として振舞える程度には力をつけてきている。

 自衛のためという理由ならばすでに必要な力は十分にあるだろうが、ツアレは鍛錬をやめるつもりはなかった。目的は変わらない。セバスの、そしてナザリックの役に立つのに強くなりすぎるということはないのだ。だが今はそれだけが理由ではなくなっていた。

 定期的にみる悪夢、その影響は日々彼女の心にジワリとした焦燥を生み続けている。しかし己が力を増すことで僅かにだがその陰りを和らげることができていた。根本的解決にはならないかもしれない、だが彼女は拳を振るい続けることをやめはしない。

 

「大分動きが良くなってきています、日々の努力の賜物ですね」

 

 いつものように戦闘の総評を話し終えた後、ユリが柔らかな微笑みを湛え世辞を抜きに本心からツアレを褒める。ツアレとしてはいつもと同様に手も足も出ず地を転がされたという気持ちしかない。しかし鍛錬を始めた当初は反撃に転じるなど到底できなかったことを考えれば大きな進歩であろう。そう思い荒い呼吸の狭間にどうにか謝意を述べる。

 

「あっ…ありがとう…ございっますっ」

「ふふ、今日はこのくらいにしましょうか」

 

 ツアレの様子にユリが本日の鍛錬の終了を告げる。

 そして三人は観客席の方へ移動する。並んで座ったところでペストーニャが持ってきていたスポーツドリンクをコップに注ぎ二人に渡してやると礼を言ってそれぞれ受け取った。

 ただ飲み物を飲む姿ですら気品があり優雅に飲むユリとは対照的に、ツアレは体が水分を欲するままに下品にならない程度に急いで喉へ流し込んだ。勢いのあまり少し咽込んでしまいユリに背中をさすられる。

 

「まだたくさんあるからゆっくりお飲みなさい…わん」

 

 ペストーニャが微笑みながら注意する。

自分の行動を恥ずかしく思いツアレは赤面しつつも礼を言いおかわりを貰う。

 ユリとペストーニャはセバスと共にツアレの教育係として長年接してきたため、ツアレは二人を姉のように慕っていた。また自身の恥ずかしい所も多々見られてきたこともあり、二人の前では取り繕ったりせず甘えてしまっているという自覚もある。

 

「…あの、少し話を聞いていただけますか」

 

 そういった関係性もあったためだろう、ツアレは以前よりあった一般メイドとの壁、そのことを先の廊下での会話から感じたことも含め相談することとした。

 ツアレの雰囲気からユリとペストーニャも居住まいを正して話を聞く姿勢を取る。

 そうしてツアレは今迄抱えていた悩み、決して無視できない心の蟠りを話し始める。ぽつぽつと考えをまとめつつ言語化し話しているため、非常にゆっくりではあったがその真剣さは伝わっておりユリもペストーニャも急かすような真似はせず耳を傾け続けた。

 話を聞き終わった二人は正面を見て考え込んだように黙っている。話し終えたツアレは信頼する二人へ相談できたことだけでも胸のつかえが僅かに取れた気分であった。しかし二人の様子に機嫌を損ねてしまったのかと不安になる。

 実際、二人は相談に対する答えを模索していたわけではない。ツアレの抱える問題の原因を理解しており、それをどう伝えるかを思案していたのだ。

 先に考えがまとまったユリが一瞬ペストーニャに目配せをすると、彼女は頷きユリへ回答を任せた。

 

「ツアレ…」

 

 ユリが話し始めたことでツアレは緊張に身を固くした。唇をきゅっと結び、握り込んだ拳を膝の上で揃える。視線は真っ直ぐにユリへ向け一言一句聞き逃さないよう集中する。

 

「あなたの悩みの原因は私もペストーニャも感覚的に把握しています。メイドの子達も同様のものを感じているからこそ…それが原因となってあなたには壁と感じるのでしょう」

 

 ユリの言葉にツアレは衝撃を受ける。自身に対し壁を感じるメイド達、そしてその壁を感覚的にとはいえ分かっているユリとペストーニャ。では二人は自身に対し隔意はないのかと心に不安が渦巻く。

 ツアレの様子を見てその気持を察したペストーニャがすかさずフォローを入れる。

 

「ツアレ、それはあの子達にとっては確かにあなたに距離を置いてしまうようなこと。ですが私とユリはあなたのその部分を好ましいと思っています。ですから私達があなたに対し不満を持っているということではありませんよ…わん」

「あ…ありがとうございます」

 

 優しく語り掛けるペストーニャにツアレもほっとして頷き礼を述べる。そして同時に壁を生み出している自身の抱えるものが何であるのか、それが余計に気になってしまった。

 ユリはさらに少し悩んだ後、あまり抽象的な言葉を使いすぎては正しく考えが伝わらずかえって誤解を招くと結論付けた。そこで、分かっていることをはっきり伝えようとツアレに視線を合わせ話始める。

 

「ツアレ、あなたが感じる壁の原因…それはおそらくあなたが未だ人のままであるからです」

 

 考えを述べたユリに対しツアレはぽかんと少し間の抜けた顔を晒してしまう。言葉の意味が理解できなかったためである。すでに人の身をやめてかなりの時が過ぎている。それなのに人のままとはいったいどういう意味なのだろうと。

 ツアレが把握できていないことも理解しつつ、ユリはさらに説明を続ける。

 

「勿論すでにあなたは人ではありません。ですがそういった種族的な問題ではなくあなたは人のままなのです。人の世界に未だ囚われている、と言ってもいいかもしれません」

 

 単純な種族としての違いを考察していたツアレは余計に混乱する。

 

「もっと具体的に言うなら…そうですね少し意味合いが変わってしまうかもしれませんが、あなたがナザリックの者になりきれていないということでしょうか」

 

 再度強い衝撃を受ける。自分の立場がここでは末席に劣ると理解していた。しかし周りの者、そして自身でさえその立場であることすら認めていなかったのかと。

 呆然とするツアレの頬にユリがそっと手を添え優しく言葉を続ける。

 

「誤解なきように言っておきますが私達があなたを認めていないという意味ではありませんよ? 他のメイドの子達もあなたの努力も働きもきちんと理解しています」

 

 ユリの言葉にほっとするとともに、では先の言葉はどういう意味かと再度考える。

 

「私達ナザリックの者は至高なる御方々に創造して頂きました。そしてその方々へ絶対なる忠誠を尽くすことが義務であり望みです」

 

 一部違う思考を持つものも居るが今は話がややこしくなるので省く。それにそういった者たちもその在り様は創造主にそうあれと望まれたものだ。

 

「私達の在り方は人間とは根本から異なります。そのことを私達は誇りに思っていますがあなた達から見ればさぞ異質に映ることでしょう」

 

 ツアレがゆっくりと理解する様子を見つつ説明を続ける。

 

「私達のすべてはナザリック、そしてアインズ様のために在るのです。あのいと尊き慈愛に満ちた御方のために在らねばなりません」

 

 ユリの言葉はごく自然に、当然のことのように語られた。ペストーニャも静かに頷いている。

 ここでツアレは再び疑問を覚える。無論アインズへ忠誠を尽くすことに対してではない。ツアレ自身アインズにも恩義を感じており直接ではないにしろメイドとして尽くすことに異はない。実際これまで長い間、受けた命令に対し手を抜くことなく働いてきたとも思う。ではなぜユリは先の発言をしたのだろうと。

 

「あなたが今考えている疑問は理解できますが、そもそもその考えに至る根本が違うのです。例えばそうですね…少し意地悪な質問をしましょう」

 

 ユリは心の中で若干の葛藤をするが、いずれは考えなくてはいけない問題だと結論付けた。

 きょとんとするツアレだが次いで発されるユリの言葉に頭をガンと殴られたような衝撃を受ける。

 

「ツアレ…あなたはアインズ様のためにセバス様を殺せますか?」

 

 一瞬思考が空白になる、言葉の意味が脳へ染み込むと共に心臓が早鐘のように打ち始めた。

 

「…そっそれは…そんなっ…」

 

 思わず視線をユリから足元へ移しふらふらと彷徨わせる。声は裏返り息の吸い方を忘れてしまったように呼吸が乱れて口が回らない。

 加熱した脳で思考する、アインズ様がそのような命令を出すわけがないと。だが頭の冷静な部分はかつてセバスが自身を殺そうとしたことを思い出す。それはありえない可能性ではない。

 返答できず体を震わせ始めたツアレ、しかしその様子は質問への何よりの答えだ。

 

「…ごめんなさい、辛い気持ちにさせましたね」

 

 ユリはそう言ってツアレを抱きしめた。その温かさに僅かに落ち着きを取り戻し、腕の中で荒れた心を落ち受けようと深呼吸をする。

 

「あなたのその在り方はナザリックで生きていくには難しいかもしれません。ですがペストーニャも言ったように私達は好ましくも思っています。…おそらくセバス様もそんなあなたの人としての部分も愛しているのでしょう」

 

 言われていることをはっきりと理解できているわけではない。しかし自身の在り様がひどく中途半端なものであることは分かるツアレはそれでいいのだろうかと疑問に思う。

 

「あなたは今のあなたのままでもいいのですよ。忠誠を忘れず必要な選択だけ間違えなければナザリックでやっていくこともできるでしょう。セバス様やペストーニャ、そして私もフォローします」

 

 ペストーニャも勿論ですと言いながらツアレの頭を撫でてくれる。その温かさをただただありがたく感じる。

 

「ただ…メイドの子達とは現状の距離感で上手く付き合っていくしかないでしょう。あの子達もあなたの働きは認めていますから、あなたを追い出すような真似はしません」

「…はい」

 

 本来の相談内容である問題は解決とはいかない。しかしそれがツアレ自身の問題であり改善が難しいことであるなら、ある程度の割り切りは必要なのだろうか。信頼できる二人に囲まれツアレはそう感じ始めていた。

 

「…」

「ツアレ…?」

 

 そこでツアレの中には先のユリの質問から一つ疑問が生まれた。

 

「あの…アインズ様の御命令ならユリ様は…」

 

 ツアレが言いにくそうに発した問いの途中、ユリは先回りし回答する。

 

「殺します。あなたでもセバス様でもペストーニャであっても、そして自身でも」

 

 温度のない声色、だが冷たい印象を与えるものでもない。ただただ当たり前の事実を述べるだけの淡々とした言葉であった。

 命令次第で殺す、友人からそう言われたペストーニャは身動ぎ一つせず、それが当然であるかのように受け止めている。

 普段の厳しくも優しい姉のような雰囲気は鳴りを潜め、瞳の奥にはぞっとするような狂信の光が灯っていた。

 

「私はナザリックの…アインズ様に絶対の忠誠を誓うメイドの一人、ユリ・アルファですから」

 

 よく知った人物のまったく知らない姿にツアレは息を呑むことしかできなかった。

 

 

 

 性交による心地よい疲労、火照った身体は虚脱し動く気力は湧かない。愛する男の胸板に顔をうずめゆっくりと呼吸を繰り返す。その愛する男、セバスもツアレの頭を優しく撫でながら息を整えている。

 かつては汚らわしさしか感じなかったはずの行為も、相手が変わればこんなにも気持ちよく心温まる行為に変わるのかとぼんやりとした頭で考える。

 その日の仕事が終わった夜、セバスの自室にて久々に体を重ねた。最近はお互いに仕事が忙しく時間をとることができていなかったのだ。

 これまでセバスとは何度も行為をしてきたが二人の間に子はいない。セバスからアインズが結婚し御子を授かるまでは自分達も控えようと提案されているためだ。ゆえに行為の際は必ず避妊をするようにしていた。ツアレとしては子供が欲しいという気持ちはあったがセバスの提案に納得もしているので現状の距離を保っている。実際には、アインズからは自分に気にせず結婚なり子供を作るなりすればいいとの言葉を貰っていたが、セバスが遠慮している状態だ。

 

「…セバス様」

「なんですかツアレ?」

 

 お互いに相手の熱を感じているゆっくりとした時間、ツアレは先のユリやペストーニャとの会話をセバスにも聞いてみることにした。

 静かに内心を吐露するツアレに、セバスは口を挟まず静かに話を聞き続けた。

 

「…なるほど、ツアレがそのように悩んでいたというのに気付かなかったとは情けない話です」

「セ、セバス様のせいではありませんっ」

「いえ、愛する女性が辛い時には寄り添い力にならなければなりません。それができなければ男として失格です」

 

 顔に悔恨を滲ませた男にツアレは慌てて訂正を入れる。今迄セバスには散々助けられてきたというのに、そのような後悔をしてほしくなかった。しかし柔和ながらしっかりとした芯があるセバスには、これ以上言葉で言っても逆効果にしかならないと感じ話題を変えることとした。

 これだけは間違いがない、言っておかなくてはならないということを。

 

「私はセバス様に会えて本当に幸せです、私の幸せはあなたと一緒のところにあります。人間をやめたことだってまったく後悔なんてありません。セバス様と同じになれてすごく嬉しいんです」

 

 ツアレは本心から述べている。セバスもそれを感じており微笑んで頷いていた。

 

「だから分からないんです…ユリ様から仰って頂いた、ナザリックの者になりきれていない…人の世界に囚われているとはどういう意味だったのでしょうか」

 

 ユリとペストーニャと話し、今のままでもうまく付き合っていくことはできるのではないかというやや消極的な現状維持、それでも良いかと考えた。だがセバスにも、己を愛していると言ってくれるこの男にも話を聞いてみたいと思ったのだ。

 セバスは顎髭に手を添え暫し思案するように黙りこむ。ツアレも思考の邪魔をしないよう静かに、しかし緊張に身を固くし答えを待つ。

 

「…私が昔、人の世界に未練がないか聞いたことは覚えていますか?」

「…?はい覚えています」

 

 唐突な質問に僅かに戸惑うが記憶を辿るまでもなく思い出す。その後にした初めての口付けは忘れることができない。

 

「その時あなたは仰いましたね、妹に会いたいと」

「それは…」

 

 確かにセバスの問いにそう答えたはず。だが同時に昔をこれ以上思い出したくないという気持が強く忘れようと思った。

 

「確かに言いました…だけどもう過去のことです。もう思い出したくない過去の…」

「ですがあの時、あなたから確かに出た言葉です」

 

 ツアレの言葉を途中で切りセバスはそう断言する。

 

「私はあの時のあなたの言葉、そこに今抱えている悩みの種があるのではないか…そう思います」

「…それは」

 

 セバスの言葉をゆっくりと咀嚼し飲み込んでいく。

つまるところ自分にとって妹の存在が未練として今尚残っている。そしてそれが原因で自分はひどく中途半端な存在となっているという事なのだろうか。

 しかしツアレは心の中で首を傾げる。今迄忘れようとし実際に今の話をするまで思い出してもいなかった存在。確かに昔は大切な妹だったと思う。だが時間の経過はどう足掻いても過去を摩耗させる。それはツアレが特別薄情というわけではないだろう。それまでのすべてを飲み込んでしまうような悲惨な体験をして、さらに著しい時間も経過した。その中でただ一人を想い続けるのは困難だ。

 黙り込んで考え込むツアレの様子にセバスはフォローを入れる。

 

「あくまで私の考えです。時間はあるのですからあなたもゆっくりと考えていけばいいのですよ」

「…はい」

 

 今無理矢理考えても答えは出ない、そう思い思考を一時止める。

 

「それにユリが言ったように私はその悩みを抱えていっても良いと思います。それもまた人間の持つ強さであると思いますからね。何かあれば私も力になりますよ」

「ありがとうございます、セバス様」

 

 愛する男の言葉に安堵を得る。悩みのことを一旦脇に置くと、思考を使いすぎたためか急に睡魔がやってきた。

 

「疲れたでしょう、今はお眠りなさい」

 

 優しい声に鼓膜を震わせツアレはゆっくりと眠りの世界へ落ちていった。

 

 

 

 孤独な疾駆はいつまでも続く。闇深い森をひた走っている少女。

 どれほど走り続けているのか息も絶え絶え、大粒の汗を己の軌跡に落としながらも手を振り足を――前に出す。

 

 ――――――――――!!

 

 何かを叫んでいる。

 この森の奥には凶暴な魔物が住んでいることを少女は知っていたが、それでも叫ぶことをやめない。ただただ必死に周囲に大声を張り上げる。ここまで走り続けてのその声は、普段の少女の声とは違い掠れてしまい哀れを催すものであった。

 

……………………………

 

 そこではたと気付く、いつもと何かが違う。走る自分から徐々に意識が乖離していく。否、乖離する自分と同時に走り続ける自分も居る。

 少女自身として、主観として見て感じている光景、そして第三者として俯瞰から見ているような光景。その二つが混じり合い自身と他者を同時に経験しているような不思議な夢。そう、ツアレは疾走の臨場を味わいつつもそれを頭の違うところで自身の見ている夢であると意識していた。

 常ならば恐怖や焦燥に身を侵されここまで考える余裕はない。しかしその日の夢では俯瞰で見ているツアレには僅かな余裕があった。

 変わらず森を駆ける己を認識しつつもツアレは考える。自身はこの時何をしていたのだったかと。

 今迄この夢を見た際は貴族や奴隷商からの逃亡であったと思っていた。だが先の見えない森の闇へ叫ぶ自身の行動はそれにはそぐわず、疑念を持ち始める。

 

 ――――――――――!!

 

 己の口から発する言葉が何故か聞き取れない。それが答えを握っていると直感めいた予感があるというのに、口からでた振動をその耳で拾えない。

 今迄感じていた焦燥とはまた違う焦燥が芽生え始める。逃亡の、何かに追われる恐怖感ではない。大切な事を思い出せない、喉の奥まで出かかっているもどかしさ。

 冷静に、引いた視線で己を見ればその姿は随分と若い頃のものだ。おそらくは拐かされるよりも前、まだ世界の醜さを知らなった少女の頃の容姿。

 その頃にこのような体験をしたかと記憶を辿ろうとする。しかしやはり同時に思い出される、悍ましい人間の醜悪さ。常ならばその恐怖にここでやめてしまうところを更に深く潜ろうとする。走っている自分が感じているものとは違う、さらに酷い頭痛に襲われるがそれを無視して奥へ奥へ。暴虐と凌辱の記憶に吐き気を催す、疾駆による憔悴も合わさり体が壊れてしまいそうだ。だが必死に耐え突き進む。

 より深く記憶の底へ潜る、窒息による急迫に心が乱れる、だがそれでも我武者羅に掻き分け手を前に伸ばす。

 

 ………っ!

 

 限界が差し迫ったその刹那、少女は目指す先に暖かな光を垣間見た。

 

 

 

 ナザリックの執務室、ツアレはセバスと共にアインズから呼ばれそこにいた。

ナザリック地下大墳墓、栄えあるそこの絶対的主人。アインズを前にすると未だに恐怖で身が竦んでしまう。今回呼ばれた理由もまだ聞いてはいない。何かしら自身がミスをしたのだとしたらその責はセバスにまで及んでしまう。アインズの顔は髑髏の為その表情は読み取れない。御方の斜め後ろに控えるアルベドからは特段怒りの表情は窺えないが。

 臣下の姿勢を取りつつ身を震わせる。頭の中では必死に今迄の行動に問題がなかったか洗い出していった。セバスはツアレの横、同じように臣下の姿勢を取ってはいるが取り乱す様子はない。

 

「そう緊張するな、何か咎があって呼び出したのではない。むしろ逆だ」

 

 アインズはツアレがひどく緊張している様子に気付いており、それを少しでも和らげようと努めて明るい声を出した。その効果があったのか、ツアレはよく見なければ分からない程度ふっと体から力を抜いた。メイドとしてはあるまじき行動だがこの場合は仕方ないとアインズも理解しており、後ろで視線を強めたアルベドを目配せで宥める。

 

「まあまずは面を上げよ」

 

 主からの許可にセバスと共にツアレはゆっくりと正面を見据える。何度拝謁しても慣れることのない圧倒的な存在感。この世の闇を凝縮したような禍々しい魔力の濁流。僅か落ち着いた心身が再び乱れ始めごくりと生唾を飲む。

 アインズはその様子も見慣れているため心中で溜息を一つつきつつ言葉を続ける。

 

「今回はお前に褒美を取らせようと思って呼んだのだ」

「褒美…で御座いますか?」

 

 想像していなかった単語に思わずきょとんとしてしまうツアレ。

 

「うむ、お前に任せていた外部へメイドを教える講師の仕事、非常に評判がよくてな。違う場所からも是非頼みたいという声が多く上がっている」

 

 ツアレは再びきょとんとしてしまうが、言葉の理解と共にじわじわと嬉しさが込み上げてくる。外部へ教示しに行った際は必死に自分の仕事をこなしていたこともあり、相手がどれほどの満足感を得ているかは分からなかった。無論仕事の帰り際には依頼主から感謝と称賛は貰っていたが過分に世辞が含まれている言葉と受け取っていた。またナザリックの他のメイドと比べメイドとしてまだまだであると感じていたことも理由である。それがこのナザリックのトップである御方からもはっきりと言葉にして認められたことに大きな喜びを感じた。

 アインズは機嫌が良いようで珍しく言葉には弾みがある。隣のセバスも表情には出さないが内心で誇らしさを得ていた。

 

「お前の働きはナザリックの名を高めた、ならばその功績には相応しい褒美を与えねばならん。さあツアレよ、何か望みの物を言うがいい」

 

 アインズはそう言って肘を突き両手を組む。ツアレの返答を待つ姿勢だ。

 

「いえ、私は…」

 

 すでにナザリックでセバスと共に働かせてもらっているだけで充分満たされている。そう思い断ろうと声を上げるが途中で止まる。隣のセバスが不動のままじっとツアレを見ていた。そこでかつてセバスから聞いたことをはたと思い出す。

 慈愛に満ちたこの御方は部下の無欲を嫌う。何か褒美を頂戴する際は有難く受け取ることが正しい臣下の在り方なのだと。

実際のところそれでもなお些細な褒美しかねだらないシモベ達にアインズが頭を抱えているのは、今は関係のない話。

 セバスの話を思い出し断るのは却って無礼にあたると考え直し、褒美の内容を模索し始める。あまり時間をかけては失礼になるため早く決めたいところだが中々思いつかない。そもそも現状が限りなく満たされているのにそうそう望みは出てこない。

 

「今の私は機嫌がいい、ゆっくりと考えよ」

 

 アインズがそう言っても限度はあるだろう。ツアレは視点を変え考えてみることとした。

 ではその満たされた生活の中で何か欲しいものはあるかと自問自答をしてみる。そこでふとユリとペストーニャにした相談を思い出すが、悩みの原因を直接解決できるようなものはないだろう、自分自身の問題だ。

二人との会話を思い出したため連鎖的にセバスと交わした言葉も思い出す。

 あの時交わした言葉、自身の望むもの―――

 

 ―――私の望み…

 

「…妹に…会いたい」

 

 意識下にない発語、ツアレ自身もそれが自身の発した言葉であると数舜遅れて気付いたくらいだ。

 

「ツアレっ」

 

 だが内容云々ではなくそれは御方に向ける言葉遣いではない。セバスも思わずといった様子で叱責を込めて名を呼ぶ。アルベドも今度は明確に怒気を纏い言葉を口にしようとするが、アインズが片手を挙げ二人を止めた。

 アインズは静かにツアレを見ていた。読み取れないその表情、ただ眼窩の赤だけが揺らめいている。

 

「ツアレ、それがお前の望みか?」

 

 先の機嫌の良さはない、だが怒りの雰囲気もない。ただ静謐な問いであった。

 

「あっ…いえ、私は…っ申し訳ありません! 失礼な言葉を―――」

「妹に会うこと、それがお前の望みか?」

「―――っ」

 

 ツアレの言葉を遮っての再度の言葉。あまりの失態を演じパニックになり掛けていた己へ、浴びせかけられる冷や水のような静かな質問。それはツアレの心を一瞬空白にした。真っ白の何も考えられない脳が思うままに答える。

 

「はい…妹に会いたいです」

 

 皆が動きを止める。ツアレは自身から自然と出た言葉に呆然とし、セバスはその様子にどう言葉をかけていいものかと思案している。アルベドはツアレの態度に思うところはあるがアインズから止められている手前、じっと事の成り行きを見守っていた。

 そしてアインズは何かを考え込むように少し黙った後、ツアレへ声を掛ける。

 

「よかろう…お前の望みを叶えよう」

 

 重々しくそう述べた絶対的支配者。ツアレは未だ惚けながらもその心には徐々に期待が膨らみ始めていた。会えるかもしれない、そう思うと途端に会いたくなってしまう現金な己を蔑むがそれでもだ。

 

「だがその前に一つ話しておくことがある」

 

 何かしら会うための条件などがあるのだろうか、と疑問に感じるツアレにアインズは言葉を続ける。

 

「ある一人の…姉を貴族に攫われ憤怒に燃えた一人の少女の話だ」

 

そういってアインズは、僅か言葉に悔恨を滲ませつつゆっくりと話を始めた。

 

 自室にて、ツアレは椅子に座りぼんやりと中空を見ていた。じっとしている態度とは裏腹に心には様々な感情が吹き荒び落ち着かない。驚愕、悲嘆、後悔、そして希望と不安。定まらない心で取り留めもない思考を繰り返す。

原因は当然アインズから聞いた話だ。それはある少女の話、姉を失ったのち妹が辿った軌跡と末路。

 無論ツアレも分かっていた。すでに人の一生など十二分に過ぎる時間が経過しているのだ。妹が寿命や病などですでに亡き者になっているのは当然である。だが想像とは全く違い、その最後が苦痛に塗れた惨殺であったと知ってしまった。自分は妹のことを忘れて生きてきたというのに、その妹は姉を想い冒険者に身をやつしてまで追い求めていた。

 後悔はある、悲しみも。だが不思議と涙は出なかった。どこか現実感が持てずふわふわと曖昧な受容。自分は人の心も失ってしまったのかと疑問が浮かぶ。

 アインズからは用意があるため明日玉座の間で蘇生を行うと説明された。感謝の意を述べ執務室を後にした後も足取りはふらふらと定まらなかった。セバスが部屋まで付き添って支えてくれていなかったら倒れてしまっていただろう。

 明日、妹に再び会える。今迄忘れていたことが嘘のようにそれを渇望している。だが再会した時自分は何と声を掛けるべきなのだろうか、その答えは出せていなかった。

 

 

 

 玉座の間、玉座に座すはナザリックの絶対的支配者であるアインズ・ウール・ゴウン。その後ろには前日のように守護者統括アルベドが控えている。玉座よりアインズが見下ろす先にはツアレが緊張感を漂わせながらも臣下の姿勢を取っている。玉座の間の端では有事の際に備えてペストーニャと、アインズの許可を得てセバスとユリも見守っていた。

 

「さてツアレよ、心の準備はいいか?」

 

 アインズの言葉にツアレは身をより固くする。正直に言ってしまえば未だ心の整理はついていなかった。だが主から一日時間を貰ってもまとまることはなかったのだ、これ以上時間をかけるのは失礼だろう。覚悟を決める時である。

 

「はい、どうぞよろしくお願いします」

 

 アインズへ視線を真っ直ぐに、声色は固いがはっきりとした口調で述べる。

 その様子を見た主は「うむ」と一言呟くと懐から一本の杖を取り出した。否、それは杖と呼ぶにはあまりにも仰々しく華美である。触媒としての用途というよりは祭事で使用されるような装飾がなされていた。ツアレもそれが何でどれほどの価値があるかなどは分からないが、内包される魔力の量は溢れる迸りによって可視化されていたので高価なものであるということだけは理解できた。

 

「まずは説明が必要だろう。これは私が持っている中ではかなり高位の蘇生アイテムだ」

「そのような高価なものを…」

「よい、お前の働きはこの杖の価値に匹敵したと受け取っておけ」

 

 やはり高価なものであり褒美には過分と考え思わず遠慮の言葉を発しようとするが、主からそう言われてしまってはそれ以上言えない。

 

「説明を続けるぞ、この杖ならばお前の妹を蘇生させるのに何ら問題はない。だが今回は一つ懸念すべきことがある。それは時間経過だ」

 

 その懸念事項はツアレも薄々感じていたことであった。妹が死んでからかなりの時間が過ぎ去っている。その状況でも復活は可能なのだろうかと。

 

「はっきり言ってしまえば、死亡してからこれほど長期の期間が空いた者の蘇生を試みるのは初めてだ。どのような結果になるかは想像がつかない」

 

 絶対的支配者である主にしては珍しく少し自信を欠いた発言であった。しかしすぐに言葉を続ける。

 

「だがこれはお前のナザリック地下大墳墓への貢献に対する褒美。ならばアインズ・ウール・ゴウンとしてお前と妹の再会を約束しよう。このアイテムが駄目ならより可能性のあるアイテムを模索していく、だから安心するといい」

「…っあ、ありがとうございます」

 

 過剰すぎる恩情に口を開きかけるが先のやり取りがあったため飲み込み礼を述べる。

アルベドやセバスもさすがに褒美としても行き過ぎているのではと感じていたが、アインズがギルドの名を口にした時は固い決意を持っている時であると知っていたため諫言は控えた。

 

「…では始めるぞ」

 

 そういって主は立ち上がり杖を掲げアイテムを起動させる。

すると杖は眩いばかりの煌めきを纏い、純白の発光を始める。杖を中心とし玉座を駆ける魔力により形作られた聖なる光の奔流。あまりの美しい光景にツアレは一瞬現状を忘れ魅入ってしまった。

 光はその光量を増していきやがて杖に収束する。杖の先にはきらきらと光る魔力の塊が形成された。光の強さは玉座の間を相対的に暗く見せ、夜空に一際大きく瞬く星のようである。

 アインズが杖を軽く振るとその光はゆっくりと杖の先から解き放たれ、蒲公英の胞子のようにふわふわと中を舞った。やがてゆっくりとツアレの前方に落ちてくる。

 じっと見ていたツアレであったが、その光が突如閃光を発し思わず目を閉じる。手で軽く覆った視線の先、光を中心に魔力が渦巻き何かを形作り始めた。さらには熱気によるためか周囲に煙が充満し始める。

 魔力が形成しているもの、きっとそれは自分の――そう思い目を離さないよう強い光を手で避けつつ注視していたが、充満する蒸気で視界を遮られてしまった。

 やがて魔力は先の発光より強い光を一瞬だけ発する。するとその役目を完了し物質へと転換された。

 どちゃりと、何かが僅かな高さから落ちる音がした。未だ視界は悪くその正体は判然としないがツアレは期待を持ってそれが露わになる時を心待ちにする。

 

「―――っ⁉」

 

 だが、情報は視覚より先に嗅覚へ到達した。鼻をつんざくような臭気として。

 思わず手で口元を押さえる。脳が情報を理解した途端、胃がひっくり返るような嘔気に見舞われた。それはかつて王都の路地裏でも嗅いだことがある。真夏に暫く放置された、力尽きた浮浪者から発していた匂い。胃の内容物を戻してしまうことは避けられたが、喉の奥は胃液の酸味に侵されていた。

 そして視覚情報もすぐに戻ってきた。立ち込めていた煙は不自然にすっと消え視界を露にする。

 それはそこにあった。

 最初は赤黒い塊にしか見えなかった。よく目を凝らし見てみる、その赤は血の赤、黒は腐敗し変色した肉であった。さらに細かく見ると僅かに残った臓物の桃色、骨のような白色、何かの繊維のような薄黄色、様々な色が散りばめられている。

 人間をミンチにし腐らせたら、目の前に現れたものが出来上がるのかもしれない。本来そこに居るはずだったものを考える、材料はそれを見ている女の妹―――

 

「―――」

 

 ツアレは言葉もなくそれを見続けていた。そして―――

 

 アインズは僅かな焦燥を感じつつも目の前の状況を冷静に分析していた。蘇生のアイテムが齎した結果、目の前の腐敗した肉塊。

 

「(これ程高位のアイテムでも駄目なのか! 原因はやはり時間経過か…それとも死体を用意できなかったから…?)」

 

 顎に手を添え考え込むアインズの後ろ、アルベドと今日の御付きのメイドが顔を顰めていることに気付く。二人は玉座の間に広がる臭気に嫌悪を催したのではない。玉座の間に、そしてアインズの前にその状況があることを許せなかったのだ。だがアインズは二人に対し手を上げ気にしないよう伝える。顔に現れていた不快感を即座に消し頷いてみせたアルベドと異なり、メイドは頷きはしたもののその顔にはまだ微かに不満の色が残っている。アインズもその表情は自分への忠誠ゆえだと理解していたため気にはしなかった。

 そして再び目の前のことに意識を向ける。よくよく見るとそれは僅かに動いているようであった。心臓の位置も分からないが一定のリズムで所々から血液が噴出している。うぞうぞと肉の部分も僅かな収縮と弛緩を繰り返す。

 生きてはいるが、それを生物と呼ぶことは冒涜に値しそうな程の見た目であった。

 次はより高位のアイテムかあるいは流れ星の指輪の使用も、と思案していたアインズであったがその思考を一旦止めた。両手で口元を覆い泣き崩れているツアレを見たからだ。

 当然だとアインズは納得する。目の前のそれはもしかしたら妹かもしれないのだ。その姉に見せるにはあまりにも酷だろう。

 

「(アインズ・ウール・ゴウンとして約束したというのにとんだ失態だ)」

 

 蘇生の方法をどうするかは後で考えることとし、見ているだけでも辛いだろうと一度セバスを付き添わせツアレに退席を促そうとした。

だがアインズはそれをやめた。ツアレの表情、そして発された言葉の為に。

 

「…あっ…ああっ…」

 

 濡れた嗚咽をもらす。

 しかしツアレの涙は悲しみの為ではなかった。涙でくしゃくしゃになってしまっている顔、だがその口角は僅かに上がっている。

 

「…やっと…見つけたっ」

 

 足に力が入らずへたり込んだ姿勢のまま這う様に前へ、それへ進み始める。

アインズも、そしてセバスも他の者も邪魔をしないよう言葉は発さず成り行きを見守る。浮かべる表情も行動も尋常には見えなかった。だが彼女はそれに何か違う光景を見ている。

 

「ほうら、私はこっちよ…」

 

 涙がとめどなく溢れ視界をぼやけさせる。手で強引に拭うが治まることはない。

 近づきながら手を前に伸ばす。感情が暴走した不器用な微笑み。だがそこには母が子へ向けるような慈しみが滲んでいた。

 すると偶然なのか、蠢く肉塊はツアレに向かい動き始めた。否、とても動いたなどと言えるものではない。粘度の高い流体が緩やかな坂道を流れるような緩慢さ。どろどろと腐敗臭を撒き散らすそれは生命を感じさせない。だが確かにツアレの言葉に導かれるかのように近づいている。

 

「…もう少しよ、お姉ちゃんはこっち」

 

 優しい呼びかけ、彼女の心は忘れていた遥か昔を通して今を見ている。

 二人の距離が徐々に狭まる。這って進むツアレと緩慢なそれは僅かな距離をゆっくりと縮める。

 

「ほらもう少し…あとちょっと」

 

 そうして、長い長い間離れていた姉妹は再会を果たす。

 姉は、原形を留めることすら難しい妹を優しく赤子に対するように抱え込む。衣服が血と腐汁に汚れることも、立ち込める臭気も気にならない。腕の中に感じる僅かな微動が堪らなく愛おしい。

 

「…独りにしてごめんね、もう絶対に離れない」

 

 優しく淡い抱擁、だが決して手放さないという強い意志を持って。愛する妹へ言葉を落とす。

 

「お帰りなさい…私のセリー」

 

 こうして、かつて姉を失った妹は長い時を経てその胸の中へ帰ることができたのであった。

 

 愛する妹を抱きしめその奇跡を噛み締める。本来ならばあり得ないこと。

 ではその奇跡を与えてくれたのは―――

 ゆっくりと顔を上げ玉座を見上げる。そこに神はいた。

 アインズは忙しなく手を振り周囲に指示を飛ばしていた。アインズの指示であろう、ペストーニャがツアレのすぐ傍まで来て妹に回復魔法をかけている。セバスも寄り添いツアレを心配そうに見ていた。

 だがツアレにはもはや周囲の音は聞こえていなかった。

 妹を抱きかかえ、涙を流し陶酔したように主を見上げる。

 

 ―――ああ、ようやく分かった。

 そこに君臨するこの御方こそ、この偉大なる死の支配者こそが至高にして絶対なる神。

 汚濁に塗れた世界を放置する名ばかりの偽物共などではない。実際にそこに存在し御業を為す、顕現なされた本物。この世界はこの御方によって統治されることこそ唯一の救いであり幸せなのだ。

 この御方に仕えることができるということがどれほどの名誉で幸せであることか。

 この御方に尽くそう―――己のすべてを以て。

 

 

 

 何のことは無い。忘れようと、忘れなくてはと息巻いていたが心の奥底では求め欲していただけのこと。それこそ夢に見るほどに。

 深い記憶へと届く。

 夢で見た森の中を走る少女、それは過去の記憶。

 両親を失い妹と二人で暮らしていた頃のこと。姉は妹の分もと一生懸命に働いていた。幸いにも事情を知る農家の夫婦に雇ってもらうことができたのだ。慣れない農作業でも妹を思えば弱音を吐いてはいられない。

 妹はまだ幼く仕事をすることはできなかったが、家内でできる内職を必死に手伝った。だが毎日疲れて帰ってくる姉の負担になっているとは幼いながらに感じていた。

 ある日、妹はより姉の助けになりたいと考え一人で入ってはいけないと言われていた森の中へ入ってしまった。両親が居た頃森の浅い所へ遊びに行き木の実や魚を取ったことを覚えていたのだ。普段の質素な食事に僅かでも食材が増えれば姉も喜んでくれると考えたために。だが幼い身一人で上手くいくはずもなく、探すことに夢中になりより森の深くまで入り込み迷ってしまう。

 姉が仕事から帰ると妹がいないことにはすぐ気付いた。すでに日が沈みかけている時刻、姉は村中を駆けまわり妹を探しその所在を村人たちに聞いた。しかし中々見つからず心がどんどん焦れ始めた頃、老いた一人の村人が声を掛けてきた。妹が森の中へ入っていくのを見たという。あまり深くまで行かないように声を掛け、元気に返事も貰ったためそのまま行かせてしまった。そう言い顔を青くして謝罪する老人に気を遣う余裕はない。話を聞いた姉はすぐに森へ駆け出した。後ろから掛けられる制止の声すら耳には届かない。この辺りは定期的に冒険者がモンスターの駆除を行っている。そのため森の浅い所ならば遭遇する確率は低いが、深くに行けば襲われる危険も十分にある。

 少女はただただ妹の無事を願い疾走を開始した。

 

 森の中を走り続けどれほどの時間が経ったかは分からない。今自分がどれほど森の奥深くにいるのかも。方角も明確ではなかった。ただ人が辛うじて通れそうな所を選択しただけだ。

 だが、それでも彼女は辿り着いた。

 

「セリーっ!!」

 

 大きな木の洞に妹はいた。両膝を抱えて蹲っている。服の所々は擦り切れ、こけたのだろう泥に汚れていた。

 

「お姉ちゃんっ!!」

 

 姉の呼びかけに気付いた妹はすぐに立ち上がり姉へ駆け寄る。つんのめりそうになった妹をツアレは駆け寄り抱きとめた。二人揃ってそのままへたり込む。

 

「良かった…無事でよかった」

 

 息は切れ切れながらも妹の無事に涙を流す。妹の体は冷え切っており、走り続け熱くなった自身の体にはより顕著にそれを感じた。少しでも暖めるように背に手を回ししっかりと自分の体に押し当てる。

 

「…ごめん…なさいっ…ごめんなさい、お姉ちゃん」

 

 姉の温もりに包まれつつどれほど心配をかけていたかを知り、妹はしゃくりあげながら泣き始めた。

 

「いいの、もういいの。さあ、ここは危ないから早くお家に帰りましょう」

「うんっ…あ、あれ!」

 

 妹は姉の背後、空の方を指差して声を上げた。姉もそちらの方向を見て気付く。

 宵闇の空の中、木々の隙間から微かに見える遠くの空が赤く照らされていた。自然の明るさではない。おそらくは二人のため村人が火を起こしてくれているのだろう。方角も分からないこの森の中ではなによりの導だ。

 

「お姉ちゃん! あっちだよ」

 

 妹の声は弾んでいた。姉がいる安堵、そして村の方角に見える明るさは村人の優しさのようでとても安心できたため。

 

「……」

 

 そう、ここで姉は妹の手を引き空に見える明るさを頼りに村に帰ることができた。村人からは二人揃ってこっぴどく叱られたが、それも両親を失った自分達には暖かい愛情に感じて嬉しかった。

そうだ、本来の過去はそうであったのだ。だが―――

 

「お姉ちゃん…?」

 

 動かない姉を不審に思い見上げる。姉は村の方角に見える明るさには背を向け暗い森の奥深くをじっと見ている。その表情はどこまでも無機質で妹も初めて見る顔であった。

 

「…お姉ちゃんっ! 早く帰ろうよ。ほら、あっちだよっ」

 

 姉がまるで別人のように感じられ急に心細くなってしまう。服の裾を引いて帰ろうと懇願する。常ならばそんな妹に優しく答えてくれるはずの姉は黙ったままだ。

 

「お姉ちゃんっ…お姉ちゃんっ!」

 

 落ち着いていた瞳に再び涙が溢れ出す。いつもの姉に戻って欲しいと声を上げる。大好きな姉がこのまま居なくなってしまうのではという恐怖が湧きだす。

 すると、妹の声が届いたのか姉が言葉を返す。

 

「…ごめんね、お姉ちゃんはもうそっちには行かないの」

 

 言葉は返すが依然体は深い森の奥へ向いている。妹はその言葉の内容をゆっくりと理解する。

 そっち、きっと村のことだろう。ならどちらに向かうというのか?

 姉の見ている方向に目を向ける。高い木々に覆われた深い深い闇がぽっかりと口を開けていた。ずっと見ていると吸い込まれてしまいそうな恐ろしさが背中を走る。

 大好きな姉があの奥へ向かい消えてしまう。更なる恐怖は妹を深い絶望へ落とした。

 

 ―――姉さんを、もう失いたくない。

 

 この手を放してしまえば姉は居なくなり自分は一人になってしまう。どう言葉をかけていいか分からず姉の服の裾を握り泣き続ける。

 

「…ねえ、セリー」

 

 少しの時間が経った後、再び声を掛けてきた。泣きながら息を引き攣らせ姉を見上げる。姉は妹を見て優しく微笑んでいた。今迄見たことのある顔とは違う微笑み、どこまでも透き通った透明な表情。

 

「お姉ちゃんと一緒に来てくれる?」

 

 姉はそっと妹へ手を伸ばす。どこへ行くかなど分からない、何をしに行くかも。だが妹は、迷うことなくその手を握った。

 

「ずっと、一緒っ」

 

 離すものかと繋がれる小さな手。姉もその温もりを失わないよう握り返す。

 

「じゃあ、行こうか」

 

 そうして並んで歩き出す。姉は妹の歩幅に合わせてゆっくりと。二人揃って深い森の奥へと歩を進める。

 繋いだ手は二度と離されることはない。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 豪奢な装飾が施された玉座の間。シモベ達が集ってのその日の定例会が一段落したタイミングでアインズが声を上げた。

 

「ああそうだ、いい機会だから皆にも紹介しておこう。ツアレ、前へ」

「はっ」

 

 名を呼ばれたツアレは居並ぶ配下達の列の後ろの方から玉座の前まで歩み出た。そして御方に敬意を示すため臣下の姿勢を取る。

 

「ツアレニーニャ・ベイロン、御身の前に」

「うむ、面を上げよ」

 

 ツアレは見上げる、このナザリック地下大墳墓に君臨する絶対的支配者を。

 

「その後の調子はどうだ?」

「はい、アインズ様の恩情によりペストーニャ様の御力添えを頂き大分安定しております」

 

 主語を省いた言葉であったが両者とも何の話をしているかは分かっている。

 いつものメイド服に身を包むツアレ、その背に何か大きなものを背負っている。それは人の形をしていた。魔法詠唱者の着るようなローブを頭からすっぽりと被った人型の何か。両手でツアレに負ぶさるように背側からしがみついている。だがローブの膨らみは体の途中の辺りで歪に途切れていた。まるで下半身にあたる部分がないかのように。目深に被ったフードの為表情は窺い知れない、ただ時折意味をなさない唸り声をあげている。

 

「まだ言葉などは難しいか?」

「はい、ですが私や何度か会った者を覚えているかのような所作を見せることはあります」

「ふふ、やはり姉であるお前のことはどこかで覚えているのだな」

「恐れ入ります」

 

 そう、ツアレが背負っているのは蘇生されたニニャであった。

 ニニャの復活の際とても生物と思えない肉塊が現れた。そのままではすぐに息絶えてしまうことが明白であったためアインズの命によりペストーニャが回復魔法をかけ続けたのだ。すぐに命を失うといった状態からは脱したが、元の人間の姿になることは無かった。だが他の回復魔法持ちのシモベにも指示を出し継続的に回復魔法を使用したところ、時間を掛けて僅かずつだが人の形をとることができていた。その後も定期的にペストーニャがフォローをしており、その成果としての現状である。

 アインズとしてはその名にかけての約束であったため更なるアイテムの使用を考えていた。だがツアレから辞退された。すでに褒美としては十分であるとの言葉を添えて。僅かな時間で何があったのか、強い意志を持って喋るツアレの様子にアインズもそれ以上は諦めた。だが代わりの譲歩としてペストーニャのフォローを継続して受けることを納得させたのだ。

 アインズは話を戻すため一つ咳払いをするとシモベ達に話を始める。

 

「さてナザリックに新しく加わった者を紹介しよう。ツアレは今までも働いていたから皆知っていると思うが、今回加わるのはその妹、ツアレの背にいる者だ」

 

 アインズの言葉にシモベ達の視線が一斉にツアレへ向かう。ツアレは動じた様子もなく不動を保つ。その背の妹は自身の話をされているなど理解しておらず姉にしがみつき唸り声をあげるばかり。

 

「そこにいるのがツアレの妹の……」

「…アインズ様?」

 

 アインズが不自然な所で言葉を止める。ツアレもさすがに不思議に思い疑問を投げかけた。

 アインズは僅か考える素振りを見せた後、再度声を掛ける。

 

「ツアレ、私はその子を何と呼べばいいのかな?」

 

 その言葉にはどこかツアレを気遣うような優しさが乗っていた。主の心遣いを有難く頂戴し、ツアレは柔らかく微笑みながら返答する。

 

「ニニャと、そう御呼び下されば幸いに存じます」

 

 強い意志を持ちはっきりと述べる。

 過去に残した未練はもうない。彼女はもう迷うことは無い。すべての救いを与えてくれた偉大なる主に誠心誠意尽くしていくだけだ。

 死の支配者が見下ろす先に控えるのはナザリック地下大墳墓に属するメイド、ツアレニーニャ・ベイロンであるのだから。

 

 定例会が終了し玉座の間を後にするシモベ達。ツアレはその中にユリの姿を見つけ近づいて行った。

 

「失礼しますユリ様」

「ツアレ…」

 

 ユリも近づく前からツアレには気付いており、一緒にいた姉妹達に先に行っていてと声を掛けていた。

 

「ユリ様、以前返せなかった返答を今させて頂いてもよろしいでしょうか?」

「返答? …ああ、勿論です」

 

 一瞬なんのことか分からなかったユリであったがすぐに答えに辿り着く。以前ペストーニャと共にユリが相談を受けた際投げかけた質問。戸惑い返せなかったあの時の答え。

 ツアレは一つ頷くと口を開いた。

 

「アインズ様の御望みであるならば殺します」

 

 薄い微笑みを湛えたまま物騒な事を口走る。しかしユリも動じずに受け止める。

 

「セバス様でもユリ様でもペストーニャ様でも自分自身でも」

 

 ただ当たり前のことを告げるように愛する男も大恩ある女も殺すと言ってのける。

 

「そしてこの子でも」

 

 そう言って自身の背に負う大切な存在の首に優しく手を添える。ニニャは姉の手に対し擽ったそうに身をよじっている。今のツアレならほんの少し力を加えれば容易くその首を手折るとも分からずに。

 夢にまで渇望した存在すら主の為ならば躊躇いなく殺す。

 それほどまでに変わってしまった、人間だった優しい少女を見てユリはほんの少し眉根を寄せた。僅かに滲んだ善性からの悔恨、だがすぐにふっと一息を吐き出し微笑んだ。

 

「あなたの答え、しかと聞きました。これからもよろしくお願いしますね、ツアレ」

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 

「ツアレ」

 

 ユリと別れたツアレに今度はセバスが話しかけてきた。ツアレもユリと話している際セバスが近くにおり自分達の会話を待ってくれていることは分かっていた。気を使い会話が届かないよう離れようとするセバスに目線で残るように伝えて。

 

「セバス様」

 

 ツアレの表情は変わらない、優しく微笑んだまま。先の会話をセバスが聞いていたというのに動揺している様子はない。そしてそれはセバスもであった。

 

「私は今もセバス様を愛しています」

 

 突然の愛の言葉、セバスは黙って話を聞いている。

 

「ですがアインズ様の御命令ならば私はあなたを殺します」

 

 それは宣誓のようなものだったのだろう。かつてした相談、あの時の迷っていた自分はもういなくなったと。

 常識では、愛する女からの言葉ではないだろう。だがセバスもツアレ同様に優しく口元を緩めた。

 

「勿論です。ツアレ、私はあなたの成長を誇らしく思いますよ」

 

 セバスも僅かばかりの寂寥感は感じた。だが彼はそれ以上にナザリックの家令であったのだ。

 ツアレはニニャの手に自分の手を重ねると、目を細めて微笑みを深めた。

 

 

 

 アインズの執務室、ツアレが外部でのメイドの仕事についてアインズへ報告を行っていた。その背にはもはや見慣れたニニャがしがみついている。

椅子に座り胸の前で手を合わせながら話を聞くアインズ。本来であれば報告は書類で提出されるのだが、ツアレの業務が更に拡大するということでアインズが直接聞くこととしたのだ。

 それにしてもとアインズはツアレを観察する。以前のような怯える様子は見られない。報告をする姿も泰然としており見事なものであった。感心すると共に眼窩の赤が揺らめいている。

 

「(ニニャが復活したことがいい方向に働いたのかな?)」

 

 そういったことに疎いアインズは本当の理由にまでは気付かなかった。

 やがて報告が終わり、ツアレが礼をして退出しようとした際アインズに呼び止められた。

 

「ツアレ…すまないが少しだけ頼みを聞いてくれるか」

「勿論で御座います。何なりと御申しつけ下さい」

「うむ、では少しだけニニャと話をさせてくれるか?」

「ニニャと、で御座いますか?」

 

 ツアレが不思議そうにするのも無理はない。徐々に人の形に近づいているとはいえいまだ喋ることも意思疎通もできないのだ。

 だが浮かんだ疑問はすぐに棄却する。主が望んでいるのならばそうするのみである。

 

「畏まりました、私が支えていましょうか?」

「いや私が支えよう」

 

 アインズは椅子から立ち上がりツアレの前まで移動し、ニニャを受け取ろうと両手を差し出した。ツアレの内心では主に妹を持たせるような真似は躊躇われたが、その主からの望みである。ニニャを背から降ろすとそっとアインズへ手渡した。アインズは両手をニニャの両脇へ差し込み自分と目線を合わせる。

 アインズの後ろに控えるアルベドやメイドが何かを言いたげに息を呑んだが言葉を堪えた。

 

「お前達、すまないが暫く目と耳を塞いでいてくれ」

 

 アインズの命により室内のツアレ、アルベドやメイド、八肢刀の暗殺蟲も両の眼と耳を塞ぐ。

 準備が整ったところでアインズはニニャへ視線を向ける。普段はローブで気付かないが未だ蘇生は半端で、皮膚も部分的にしかなく眼球も剥き出しだ。所々骨や繊維が飛び出している。

 

「…ニニャよ」

「…ウぅ…ぅー」

 

 話しかけられたニニャは言葉には反応を示さず、突然姉から離れたためその方向へ手を伸ばそうと藻掻く。アインズのローブをぎこちない動きでかりかりと掻いている。

 

「(すまないな、少しだけ聞いてくれ)」

 

 言葉は通じていないがどうしても言っておきたかった。心の中で詫びを入れて話を続ける。

 

「私はお前に…お前達に謝罪はしない。あの時お前達を救う事には何もメリットがなかった」

 

 アインズは過去を思い出しつつ話しかける。これでは独白と変わらないのかもしれないが、それでもと。

ニニャを通して視線の先には彼女達の最期が見えていた。

 ニニャは変わらず唸り声をあげアインズの服を引っ掻く。

 

「そうだ、私はお前達を見殺しにした」

 

 自分の意思でやったことだと告げる。何も言い訳などできない、事実として。

 

「だが、私はお前の日記からこの世界の常識を得た。それは恩だ」

 

 彼女の残した日記、それにより得たものがあった。

 

「お前への恩はお前の姉に返す、これからも我がナザリックのメイドとして守ろう。私にとっては義娘のようなものだしな」

 

 アインズはニニャの後方へ僅かに視線をずらした。ツアレは両耳を手で塞ぎ目を閉じている。

 

「そしてお前もツアレと共にナザリックの一員となった。ならば私はお前たち姉妹を守っていこう。安心して暮らすといい」

 

 再度ニニャへ視線を戻す。ニニャの様子は変わらない。

 

「これは我が名、アインズ・ウール・ゴウンに誓おう」

 

 そう、どうしてもそれだけは言っておきたかった。

 少し間を置きアインズは一つ息を吐き出した。

 

「さて…」

 

 自己満足に付き合わせてしまったなと心の中で自嘲する。

 

「こらこら…今戻してやるから」

 

 ずっと姉を求めて両手を動かすニニャもさすがに可哀そうだ、そう思いツアレに声を掛けようとする。

 だがその時、ニニャが発した声にアインズは固まった。

 

「…ォオ…モン……さん」

「っ⁉」

 

 それは偶然なのだろうか。たまたま発した唸りがそのように聞こえただけの。

 

 ―――あり、えない。

 

 どれほど時間が経ったか。見た目も漆黒の騎士ではない。声だって兜の下でくぐもってちゃんと聞こえていなかったはず。何よりたった一度の冒険しか共にしていない。

 アインズはニニャの剥き出しの目をじっと見据えるが最早反応は先までと同じ。意味を為さない唸り声をあげ両手をばたばたと動かしている。

 しばしの間、そのまま動かなかったアインズだが突如ふっと笑う様に息を吐き出す。

 そして今度こそツアレに返してやろうと声を掛けようとする。

 

「ああ、そうだ」

 

だが、最後にもう一つだけ言っておかなくてはいけないことを思い出した。

 

「アゼルリシア山脈には霜の竜がいたぞ。名前は…忘れてしまった」

 

 その言葉には僅かばかり責めるような棘がありつつも、揶揄うような楽しさも含まれていた。

 




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