オーバーロード 未来IF   作:fato

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 ナザリックの日常系下ネタギャグです。非常に多くの下ネタ、パロディーネタ、キャラ崩壊があるため苦手な方は御注意ください。


狂乱

 

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「アインズ様に犯されたいっ!!」

 

 BARナザリックに悲痛な女の叫びが木霊する。内容はともかくその気持ちだけは伝わってくる気迫の籠った声色。その声の主はナザリックの守護者統括アルベド。片手に度数の強い酒を持ち愚痴を叫びながらカウンターへ突っ伏している。

 アルベドの右隣には二人の人物が同じくカウンターに座っていた。アルベド同様にナザリックにてアインズの寵愛を狙う二人、シャルティアとアウラである。

 

「「然り」」

 

 二人はアルベドと同様に酒を嗜みつつ神妙な顔で同意を示した。

 

「………」

 

 バーのマスターであるクラヴゥはカウンターの内側にて無言でグラスを磨いていた。話の内容は聞こえていたがあくまで黒子に徹するのがプロである。

 しかしその内心までは止めることができない。

 

「(…やべぇ奴らだ)」

 

 目の前にいる三匹の性獣に対し心の中でだけ言葉を添えていた。

 

※Tipsアルベド:ナザリック地下大墳墓の守護者統括。常日頃主であるアインズの体を狙っている性の謀反者。アインズが人間の姿を取るようになってからは度々性欲が暴走し、シャルティア、アウラと共に御方強姦未遂を起こして謹慎をくらっている。変態。

 

 カウンターに伏せたアルベドは酔っているのか、頬を紅潮させ潤んだ瞳でグラスの氷を何とはなしに見ている。その姿だけは男が見れば欲情を掻き立てられるような色香を確かに纏っている。だが目的の人物に通じていないのであれば意味を成さない。

 

「わらわ達がこれほどモーションをかけているのに、どうして手を付けて下さらないのでありんしょうか…」

 

 隣のシャルティアも喉を通り抜けた酒の香りを鼻孔で楽しみつつ嘆息する。

 片手で頬杖を付き、憂いを帯びた横顔は隣のサキュバスに負けず劣らずの艶やかさを孕んでいる。

 

「どんな卑猥で奇抜なプレイでもお答えする準備はありんすのに」

 

 セリフは下劣であったためすべて台無しであった。

 シャルティアの隣に座るアウラも軽食に置いてあった棒菓子をサクサクと咀嚼してから言葉を発した。

 

「ついこの前も夜這いに行って謹慎くらっちゃったしねぇ」

 

 少し前、寵愛を賜るべくアインズの寝込みを三人で襲ったことがあった。だがいつもの如くナザリックの良識であるマーレやコキュートスを呼ばれ邪魔をされてしまったのだ。結果として三人の襲撃者は謹慎となり一か月程アインズとの接触を断たれ辛い日々を送ることになった。

 ちなみにアインズを襲撃する回数は長い時の中ですでに三桁に届きそうな数字になっている。護衛の八肢刀の暗殺蟲も慣れたもので他の守護者へ速やかに連絡する情報網を構築していた。

 

※Tipsシャルティア:ナザリックの第一~第三階層守護者。アインズの正妃の座をアルベドと常に争っている。創造主の影響で異常性癖のバーゲンセール状態。いつかはアインズとも口にすることさえ憚られるプレイをしたいと画策中。変態。

 

※Tipsアウラ:ナザリックの第六階層守護者。時が経ち身長と胸がすくすく性長、シャルティアにバストマウントを取り眠れぬ夜を過ごさせている。他二人に比べ遅れ咲きながら溢れんばかりの性欲でアインズとの子作りを狙っている。変態。

 

「…まさか、考えたくはないけどアインズ様…女より男のほうが御好き?」

 

 アルベドが唇を震わせ恐恐とした様子で呟いた。

 空気がしんと張り詰める。誰も言葉を発さない中でグラスの氷が溶けた拍子にカランと音を立てた。

 

「そ、そんなはずはないでありんす!私達だけじゃなくセバスやデミウルゴスのモーションにも塩対応をしていらっしゃるじゃありんせんか!!」

 

 一瞬まさかという考えが過る。だが実際に男衆がアインズへ妖しい動きを見せる時も、アインズは女性陣への対応と同様に躱していた。それを見るには特段男が好きというのはおかしいとシャルティアは反論する。

 しかしそこへアウラが沈痛な面持ちで更に反論した。

 

「でもちょっと待って…マーレへの対応を思い出して」

 

 アルベドとシャルティアは突如出された名前を思い返しはっとする。

 基本男のモーションにも素っ気ないアインズだが、ことマーレに対してだけは違う。女性陣も含めた他のシモベに比べ明らかにスキンシップが一歩先を行っているのだ。肩に触れる、頭を撫でるなど、他のシモベへは躊躇しそうなことも平然と行っている。

 そしてアインズは気付いていなかったが、それを受けるマーレも頬を赤らめ雌の顔をしていた。

 

「…あの野郎」

 

 三人分の呪詛の言葉が重々しく響く。女の情念はかくも恐ろしいと分からされる言葉、だがマーレにはとんだとばっちりだ。

 

「まあマーレへは後で折檻…お仕置きするとして」

 

 アウラが物騒な事を呟きつつも話を続ける。

 

「アインズ様が男の方が御好きってのいうのは他の男への反応を見てもないと思う」

 

 確たる証拠はないがそうであってほしいという願望も込めての言葉。どちらにせよ今ここで結論は出ない、そう考え一旦この話は保留として他の二人も話を進めることとした。

 

「はあ…どうにかアインズ様との距離を一歩でも縮めたいところでありんす」

 

 本心からの想いと嘆きを乗せた言葉は皆が思っている願望。されど今迄何度もアプローチを仕掛けたうえでの現状なのだ。そう簡単に叶うことは無い。

 三人共それを理解しているからこそ会話が止まる。少しだけ重い空気が漂ってしまう。

 そんな中沈黙を破りカウンターに突っ伏していたアルベドががばりと起き上がる。

 

「そうだわ!」

 

 驚いた顔を浮かべ視線を向けるシャルティアとアウラへばっと振り向き、目を爛爛と輝かせて話を続ける。

 

「いいことを思いついたの!上手くいけばアインズ様とクソエロいことができるかもしれないわ!!」

 

 言葉遣いに思うところはあったがその内容へ自然と期待が膨らむ。だがこの守護者統括は常であれば尋常ならざる頭脳を持っているが、こういった企ての際は穴だらけの作戦を立案することも多々あった。確認するまでは信用できない。

 

「…何を考えてるのアルベド?」

「フフフ…ちょっと近くへ来なさい」

 

 そう言って内緒話をするように二人を近寄らせこそこそと話し始める。

 客は三人しかおらずマスターは聞かない振りをしてくれると信頼はあったが雰囲気が大事なのだ。

 

「———というわけよ」

 

 話終えたアルベドが酒をくっと流し込み熱い吐息を吐く。その顔には抑えられないにやつきが浮かんでいる。他の二人も同様の顔つきで心を冷ますためと冷たい酒を流し込んだ。

 

「なるほど…確かにそれなら上手くいけばクソエロいことができる可能性もありんすね」

「この前の王様ゲームでも結構いいとこまでいってたし…クソエロい事の確率は十分ある!」

 

 三人はすでに作戦が性功したときのことを考えているのか締まりのない顔をしていた。

 

「(バーでクソクソと…)」

 

 カウンターで黙々とグラスを磨くマスターは心に青筋を立てていた。

 

「それじゃあ準備が終わって詳細が決まったらまた伝えるわ」

 

 アルベドが話を締めて終わりの雰囲気が漂い始める。

 マスターも「これでやっとこいつら帰りやがる」と、とても客に向けるものではない悪態を心の中だけでつきほっとしていた。

 しかし———

 

「面白い話をしていますねマドモアゼル」

 

 突然掛けられたその言葉と共に三人の前にグラスに入った酒がカウンターを滑り流れてくる。丁寧に三つ同時にきっちりそれぞれの前で止まった。

 

「何者っ!」

 

 誰何の言葉と共にグラスが流れてきた方へ顔を向ける三人。その世紀末にナレーションをしていそうな声には聞き覚えがあったが。

 そして見る、その声の正体。三人から数席ほど離れた椅子に腰かけ優雅に足を組んでいる。カウンターに肘を付き両手を胸の前で組んで半身をこちらへ向けた男。ナザリック地下大墳墓の家令、セバス・チャンその人であった。

 そして全裸だった。

 

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「初手全裸っ⁉」

 

 三人娘の驚愕が重なる。バーである、ということすら無関係な異常な出で立ちだ。全裸を出で立ちと呼んでいいかは疑問が残るところではあるが。

 

「いや失礼、我がAIBOと酒を嗜んでいたところ皆様方のお話が聞こえてしまい…つい割り込んでしまいました。そちらのグラスはその詫びです」

 

 全裸へのつっこみもなんのその、セバスは話を続ける。

 よく見ればセバスの一つ奥の席にはエクレアが座っていた。後ろにはいつもの男性使用人も一緒だ。エクレアは氷女の妹がいそうな声で会話に参加する。

 

「我がAIBOとはよく酒を酌み交わす仲なのですよ。そうしたら皆さんの話が聞こえてしまいましてね。まったくバーは静かに酒を楽しむ場、もう少し慎みを持った方がいいのでは?」

「(露出狂とフリッパー野郎がほざきやがる)」

 

 さらなる変態と迷惑客の登場にマスターの心はどんどんと荒れていく。

 ところがセバスとエクレアの言葉に反応がない、不思議に思いそちらへ視線を向ける。しかしそこはすでに蛻の殻、三人の女性は何時の間にか店を出ていた。退出を知らせるドアベルだけが涼しげな音を響かせている。悲しいことに三人の前に置かれたグラスの中身はそのままだった(残った酒は後で露出狂が飲み干しました)。

 

 そんな様子にもセバスは目を閉じニヒルに笑う。

 

「おやおや、恥ずかしがり屋な子猫ちゃん達ですね」

「まったく、私達も魅力的すぎるというのは罪深いものですな」

 

 エクレアも同意し片手で髪をかき上げた。マスターは磨き終えたグラスをことりと置くと一息つき言葉を発する。

 

「いいから服を着ろ」

 

※Tipsセバス:変態。

 

 

 

 アインズの執務室前、そこに六人の女性が集まっていた。先日バーで悪巧みをしていたアルベド、シャルティア、アウラの三人に加え、プレイアデスのユリ・アルファ、ルプスレギナ・ベータ、ナーベラル・ガンマも一緒だ。

 

※Tipsユリ:プレイアデスの副リーダー。戦闘メイド達のお姉さん。清楚に似合わぬスイカップ。主へ向ける視線に主従を超えた何かが混じり始めている。彼女のビッグボインはアインズへの強力な武器となるだろう。

 

※Tipsルプスレギナ:プレイアデスの次女。サディスティックな人狼。近頃ハムスケに対し嫉妬の混じった羨望の眼差しを向けることもしばしば。その真意は不明。

 

※Tipsナーベラル:プレイアデスの三女。冷徹な二重の影。普段は生真面目だが、姉妹達からは一番のむっつりと揶揄される。その原因は…

 

 執務室のドアの前、廊下で六人が円を組むように話し合っている。その異様な光景に通り過ぎるメイド達は不思議そうに首を傾げていた。

 

「皆よく集まってくれたわ!」

 

 発起人であるアルベドが堂々と胸を張り集まったことへの礼を述べる。事前にある程度聞いていたシャルティアとアウラは笑みを浮かべつつ余裕の表情だが、ほとんど事情を聞かされずに集められた他のメンバーは困惑の表情を浮かべている。そんななかユリがプレイアデスのリーダーとして恐る恐るアルベドへ質問をする。

 

「あの…アルベド様、私達は一体何故集められたのでしょうか?」

「よくぞ聞いてくれたわっ!」

 

 ユリの質問も予想していたようにすぐ返答する。笑顔で機嫌がいいアルベドの様子に何故か不安が渦巻いてしまうが、上司でもある相手を無下にはできない。そのまま説明を聞く姿勢を取る三人のメイド達。

 

「今から私達でアインズ様と一緒にゲームをさせて頂くわ!」

「ゲーム…で御座いますか?」

 

 思っていなかった単語にクエスチョンマークを頭に浮かべたナーベラルが聞き返す。

 

「そう、ゲーム!その名も…“ドキドキ!アインズ様大興奮♡勢いまかせの既成事実でめでたく着床婚~避妊具は添えるだけ~”よ!!」

「………」

 

 頭が理解に追い付かずぽかんと口を開けて固まる三人。しかしシャルティアとアウラは拍手を鳴らし指笛を吹き盛り上がっていた。

 考えた人物の正気と知性を疑ってしまうような名だと思うと同時、名付けたのはおそらく目の前のナザリック最高峰の知性だと愕然としてしまう。

 

「え~と…ゲーム名は分かったっすけど具体的に何をするんすか?」

 

 まだまだ名前に突っ込みたい気持ちはあったが、話が進まなくなるのでそれを堪えルプスレギナが質問をする。

 

「何って…その名のとおりよ。私達の身体を駆使してアインズ様にドキドキして頂く。そしてあわよくば性的ゴールインを目指すのよ」

 

 教師が物分かりの悪い生徒へ向けるように、ふ~やれやれと言わんばかりに呆れた様子を見せるアルベド。若干イラっとした三人ではあったがゲームの内容が気になったため聞く姿勢を保つ。

 

「もう少し詳しく説明するわね。私達六人それぞれ一人一回ずつアインズ様へドキドキして頂けるような行為を実行する、順番はくじ引きで決めるわ」

「ドキドキして頂く行為…ですか?」

「そう!アインズ様の御イチモツが思わず御起立してしまうようなね!」

 

 げ…下品な女だ……、三人の気持ちが一つになった。

 

「アインズ様の御許可は頂いているのですか?」

 

 ユリは細かなルールの前に一番気になっていることを確認した。いくら上司であるアルベドの提案でもアインズが望んでいないのであれば止める必要がある。

 

「勿論よ、具体的に私達がそれぞれ何をするかは伝えていないけどゲームのルールはお伝えして御許可も頂いている。すでに執務室の中で御待ち頂いているわ」

 

 そのあたり抜かりはないようで再び豊満な胸を張り答える。しかしナーベラルはそこから新たな疑問を覚え確認する。

 

「しかし…アルベド様の提案なんかをアインズ様が御認めになりますか?」

 

 上司に対しかなり失礼な発言であったがそれを咎める者は存在しない。アルベド及びシャルティアとアウラの性犯罪者三人衆によるこれまでの悪行を思えば、被害者であるアインズがそれを認めるとはとても思えないのは当然のことだ。

 

「勿論私やシャルティアあたりの案であれば御許可を頂くことはできないでしょう」

「(自覚あるんだ…)」

「だけど今回私達が行う行為は一般メイドから募集したものを実施する。そのことを条件にアインズ様の御許可を頂くことができたのよ!」

 

 実施する行為がアルベドの案であったならアインズも許可は出さなかったであろう。だが普段の素行が良い(と思われている)一般メイド達の案を採用するという条件を受け、基本シモベに激甘なアインズは認める運びとなったのだ。

 どうであれアインズが納得しているのであれば三人に反対の意思は無い。続きのルールを聞くこととする。

 

「私達が行うのは一般メイド41人から募った案、その中からランダムに引いた一案になるわ」

 

 突如集められた三人も徐々に内容の全貌を理解し始める。要は六人がくじを引き順番を決める。そして一般メイドの考えたアインズがドキドキするようなことを一つ実施するということだ。

 

「勝敗は最後にアインズ様が誰の案で一番ドキドキなされたかで決めて頂くわ…あっ怒気怒気して頂かないように注意してね♡」

「……」

 

 クソ下らない発言はともかくルールの内容は把握できた。だが次は一体アインズにどんな行為をするのかが気になってしまう。

 三人それぞれ色々な妄想を始めつつも、ユリがやや頬を赤く染めながら確認する。

 

「いっ…一体どのようなことをするのでしょうか?」

「公平性も考慮してメイドの子らから集めた案は私も確認していないわ。でも案の内容は性的な事も過剰でなければ許可すると伝えてある…分かるわね?」

 

 口は三日月に形を変え、細めた目で共犯者を見つめるようにねっとりとアルベドは微笑みかけた。思わず喉を鳴らしてしまうユリだが他の姉妹も似たようなもの。

ナーベラルが顔を真っ赤にしながらも言い訳のように言葉を発した。

 

「しかし…ア、アインズ様に対しあまりはしたないことは…」

 

 言葉に詰まりながらも躊躇するようなことを口にはするが、この場に本心を見抜けない者はいない。案の定あっさりとシャルティアに捕まる。

 

「ん~、つまりナーベラルは参加したくないってことでありんすか?」

「そっそうは言っていません!ただ行き過ぎた行為は控えた方がいいと…」

「参加したくないわけありんせんよねぇ?アインズ様を御カズに毎晩励んでいるナーベラルゥ」

「どっ!なっ⁉何を⁉」

「もう少し声を小さくしないと、部屋の外へ丸聞こえでありんすよ」

 

※Tips御カズ:アインズのシモベが自慰行為をする際のズリネタ、アインズのこと。不敬と思いつつも止められない、麻薬のような中毒性。なお自慰行為自体は御ナニーと称される。

 

 いけないことと思いつつも、アインズへの想いが止められず自慰行為に耽っていたことを唐突に突き付けられナーベラルは顔を青くしたり赤くしたりとパニックになる。姉二人は以前の経験から自分達に飛び火してこないよう目を逸らすのみ。

 するとアルベドが何かを思い出したかのようにはっとし、未だ混乱しているナーベラルへ話しかける。

 

「そういえばナーベラル、貴方のセルフ喘ぎ声の内容を聞いて思ったのだけど」

「セルフ喘ぎ声っ⁉というか内容まで聞かないでくださいっ!!」

 

 哀れな女の絶叫はスルーされた。

 

「確か貴方は“アインズ様に抱かれ隊”に所属していたわよね?でも聞こえてきた妄想内容はまるで私達“アインズ様に犯され隊”の望むような行為だったわ」

 

※Tipsアインズ様に抱かれ隊:アインズに普通に寵愛を賜りたい一団。一名を除いたプレイアデスがリーダー格を務めており、ナザリックに属するほぼすべての女性が入隊している。私達はアインズ様に抱かれ隊!

 

※Tipsアインズ様に犯され隊:アインズに乱暴に犯されたい一団。アルベドとシャルティアを二大巨頭とし、プレイアデスの一名を含めナザリックの少数の女性が属している。アウラも属しているが時折抱かれ隊にも顔を出している。抱かれ隊との仲は良くも悪くもなくあまり干渉しあわない。私達はアインズ様に犯され隊!

 

 アルベドの発言に必死に自身がどんな内容を口走ってしまったか思い出そうとするが、如何せん回数が多すぎて覚えていない。ありとあらゆる妄想で致してはいたと思うが、まさかその内容まで聞かれているとは考えていなかったナーベラルはもはや涙目になって膝から崩れ落ちてしまった。

 そんなナーベラルへアルベドは優しく微笑みながら肩に手を掛けた。

 

「恥じることはないわ、私達“犯され隊”はいつでもその門戸を開いているわよ」

「も…もういいですから、参加させて…頂きますから、どうか説明を続けて下さい」

「ところで今日もここに集まる前あなたの部屋の前を通った時にアンアンとお盛んだったわね」

「ああ、それでナーベラルだけ少し遅れて来て汗ばんでいたでありんすか」

「ひぃっ、もういいですから早く話をっ!!」

 

 半ば自棄になりながらも早く次の話へ行ってくれという懇願。妹の惨状にさすがにいたたまれなくなったユリはアルベドへ気付いた質問をぶつける。

 

「そ、そういえばアルベド様。何故私達三人を誘って下さったのですか?」

 

 場の繋ぎと話題転換に出した質問ではあるがユリにとっては本心から気になることでもあった。今回のことも主の寵愛を狙うアルベド、シャルティア、アウラの三人だけで実施した方が本人達の望みにもそぐうだろうと考えるのは自然なことだ。

 

「簡単なことよ、前科のある私達だけでは御許可を頂けるわけがないでしょう?」

「いや…そんな自信満々に…」

「そこでアインズ様にまだ真面目だと思われている貴方達、隠れどスケベ三人に来てもらったの。おかげで御許可が頂けたわ」

「どスケっ…⁉ナーベラルやルプーはまだしも私までそのような認識なのですかっ!!」

「ちょおおいユリ姉さんっ⁉」

「何気に私も含まれてるっす…」

 

 プレイアデス達の喧騒もどこ吹く風で説明は続けられる。

 

「それにね…今回ゴールまでイケなくてもアインズ様に女への欲を僅かでも御持ち頂ければ次に繋がるでしょう。そこでプレイアデスの中でもどエロい身体をしている貴方達三人に来てもらったの」

「あんまり人数が多くなっても大変だからソリュシャンは除いて年功序列で上三人に来てもらったってわけ」

 

 取りあえず、一部気になる点もあったが自分達が呼ばれた理由には納得がいった。ゲームのルールも把握し、すでにアインズの許可もあり執務室で待っているのであれば参加しないわけにはいかない。そもそも強制でなくても参加したであろうが。

 とにかく説明も一段落着いた。皆の期待も徐々に高まりゲーム開始の雰囲気となる。

 

「さあ、アインズ様をあまり御待たせするわけにはいかないし、早速順番を決めて———」

「待てぇぇ~~~いっ!!」

 

 いざゲームの開始を宣言しようとするアルベドであったが、どこからともなく間延びした三重の声が響く。

 はっとしてそちらへ顔を向けると、廊下の先で三人の男達が奇怪なポーズをして立っていた。光源は何処なのか、深く影を落とすその姿には見覚えがある。

 

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「あっ貴方達は!?」

「いけませんねぇ、私達を出し抜いてアインズ様にハレンチ三昧とは」

 

 誰何に答えたのは男の一人、第七階層守護者のデミウルゴス。眼鏡の奥でダイヤの瞳が油断なく女衆を見ている。

 

※Tipsデミウルゴス:ナザリック地下大墳墓第七階層守護者。アインズを見る目が日に日に妖しくなっていく最上位悪魔。最近ではアルベド達女衆に対抗するため犬猿の仲のセバスと手を組むことも。変態。

 

「まったく…我が父上に一体ナニを為さるおつもりだったのか」

 

 デミウルゴスの後ろ、宝物殿の領域守護者であるパンドラズ・アクターが帽子のツバを摘まみながら嘆息する。

 

※Tipsパンドラズ・アクター:ナザリック地下大墳墓宝物殿領域守護者。アインズを父と慕うドッペルゲンガー。性別の壁、そして親子の壁すら超えた愛があると信じている。変態。

 

「アインズ様のお相手は貴方達のようなか弱いレディでは荷が勝ちすぎます。我らのような筋肉モリモリマッチョマンでなくてわ」

「二手目全裸っ!?」

 

 最後の三人目、ナザリックの家令セバス・チャンが己の体を見せつけるようにポージングしつつ語りかける。そして全裸だった。

 

※Tipsセバス:変態。

 

 アルベドはもっとも警戒していた輩の登場に顔を険しくする。以前バーでセバスに話を聞かれていたことを考えればこうなるのは当然であろう。

 しかしすぐに余裕の表情を作り直し突然の闖入者へ相対する。

 

「あらあら、誰かと思えば“アインズ様に掘られ隊”の三人が、一体何の用かしら?」

 

※Tipsアインズ様に掘られ隊:アインズに掘られることを至上の目的とする集団。デミウルゴス、パンドラズ・アクター、セバス・チャンを三大巨頭としナザリックの男のシモベの多数が属している。“アインズ様に犯され隊”とは仲が悪いためよく火花を散らしている。我々はアインズ様に掘られ隊!

 

「ふっ…決まっているでしょう?アインズ様に群がる性獣を止めに来たのですよ」

「ちょっと目を離すとすぐ父上に不埒三昧とくらぁ。いい加減にしてほしいものです」

 

 デミウルゴスとパンドラズ・アクターは不敵に笑いながらも油断なく女衆へ視線を向ける。全裸は大胸筋を見せつけるようにポージングを変えていた。

 

「とにかく、ナニを計画していたかは知りませんが私達が来たからにはもう終わりです、観念なさい!」

 

 そういって一歩を詰める悪魔。場の緊張感がピリピリと増していく。

 アインズから禁止されているため守護者同士で本気の争いにはならないだろう。だがここで騒ぎが起きればアルベドの立てた企画自体が流れてしまう可能性は十分にある。

 このままではアインズといいことができなくなるかもしれない、絶体絶命の女衆であったがサキュバスの顔には笑みが形作られていた。

 

「私達が貴方達のことを考えていなかったと思う?すでに手は打ってあるのよ」

「何…?っ⁉」

 

 アルベドの自信に溢れた様子に疑問を発したデミウルゴスであったが突如右手で蟀谷のあたりを押さえた。皆はすぐに伝言がきたのだと理解する。

 

「はっ!これはアインズ様。…はい、なるほど…………いえっ問題は御座いません。すぐに取り掛かります」

 

 伝言を終えたデミウルゴスはふうと息をつくとアルベドへ強い視線を向けた。

 デミウルゴスの言葉から相手はアインズであったことが窺えるが内容は分からない。アルベド以外の者は不思議そうに両者を見比べる。

 

「やってくれましたね…貴方の謀ですか顔芸サキュバス」

「言わなくても分かるでしょうエロ眼鏡。アインズ様からの御命令よ、さっさと行きなさい」

 

 低レベルな悪口で火花を散らす二人。

 アルベドのしたことは実に単純。ナザリック外でデミウルゴス級の知能を必要とする仕事を見つける。そしてそのことがアインズの耳に入る時間を計算しタイミングを調整したのだ。可能性としてアルベドやパンドラズ・アクターへ仕事が振られるリスクもあったが、アルベドの催しを知っているアインズならアルベドは除外すると見込んでの作戦。結果としてデミウルゴスかパンドラズ・アクターのどちらか、今回はエロ眼鏡の排除に成功した。

 

「くっ…アインズ様より御任せ頂いた仕事は何よりも優先されること、私はすぐに向かいます。ですがまだ我ら“掘られ隊”の精鋭二人がいることをお忘れなく…頼みましたよ!」

「任されよう」

「お任せあれ。さあデミウルゴス殿は早くアインズ様からのお仕事へ!」

「オッケェイ!…きぃいいいい悔ぴぃっ!!」

 

 普段はいがみ合うこともある友二人へ後を託し、無念の言葉と共に悪魔は全力疾走で現場へと向かっていった。

 あっという間に厄介な眼鏡を退けたが、まだ変態は二人も残っている。場の緊張感は落ち着く様子を見せない。

だがアルベド達は当然そちらへの対応も怠ってはいなかった。

 

「アウラ、どうだった」

「オッケー、すぐに来るって」

 

 アルベドは唐突に後ろにいたアウラへ話しかける。アウラは先のデミウルゴス同様蟀谷に当てていた指を離し、そのまま指先で丸を作り返答した。

 パンドラズ・アクターは訝し気にその行動の意味を推し量る。全裸は再びポーズを変える。

 

「おやおや、援軍でも呼ばれましたかな?」

「この肉体美に敵う者などそうそう居ないとは思いマッスル」

 

 アウラの行動と二人の会話からどこかへ伝言を用い誰かを呼んだことは窺える。しかし目の前の変態三人娘に嬉々として協力する者などいるとも思えない。

 パンドラズ・アクターは真意が読めない僅かな動揺を無表情の下に隠し思案を続けた。

 

「我が友よ、そんなに心配することはありませんぞ。いかな屈強な猛者が来ようと私目の広背筋と脊柱起立筋の前には———」

「何をなさっているのですかセバス様?」

 

 セバスは友を安心させるように逞しい背中を表現するポーズを取ろうとした。しかしそこへ冷や水を浴びせるような、冷気を纏った女の声が割り込んだのだ。

皆が一斉に声の主へ顔を向ける。しかしセバスだけは顔面を蒼白にし脂汗を流して皆とは逆に背を向けていた。まるで恐怖から目を背ける幼子のように。

 

「もう一度聞きます、何をなさっているのですか?」

「ツ…ツーツツツっ…ツアレ…」

 

 しかし声の主、ツアレはそんなセバスの様子に構うことなくすぐ後ろまで近づき再度質問を投げかける。表情はいつもの微笑、怒気を感じさせぬふんわりとした佇まいだが物言わぬ迫力が確かにあった。その背ではニニャがツアレにしがみつき、周囲の様子も気にせず欠伸のような唸り声をあげていた。

 セバスもさすがに振り向きツアレに相対するが体を縮こまらせて震えている様子は哀れを誘う。心なしか彼の腕橈骨筋も萎んでいるように見える。

 

「こっこれは違うのですよツアレっ、決して私はやましいことは」

「いと尊き御方、アインズ様の執務室の前で裸になることがですか?」

「それはっ違…」

「何が違うのですか?言ってみて下さい」

「(まずい…)」

「何がまずいのですか?言ってみて下さい」

「ひィ」

 

 最早何を言っても説得は不可能と悟る。ならば次に打てる手は一つだけ、そう考えてこっそりと下腿三頭筋へ力を籠め始める。

 

「デュワっ!!」

 

 謎の掛け声と共に両腕を真っ直ぐ上にあげ体をピンと伸ばした状態で跳躍、脱出を図る。だが———

 

「おげぇえええええええええっ⁉」

 

 すぐにツアレに足首を掴まれ逃走は失敗、勢いのままびたんとカエルのように地に叩きつけられた。周囲の者はそんな男の哀れな姿を同情と軽蔑がブレンドされた視線で眺めるのみ。

 ツアレは下手人を逃がさぬよう片手で足首を握ったまま、もう片方の手を頬に添え嘆息する。

 

「まったく…常日頃アインズ様の前ではしたない行動をしないよう注意してきたのですが、まだ足りなかったようですね」

「ガタガタブルブル」

「今夜も少しきつめのお仕置きが必要ですね」

「うげぇっ⁉」

「では皆さま、セバス様が大変失礼しました。しっかり教育致しますのでお許しください」

 

 そう言うとツアレは震えるセバスを引きずり歩き始める。床に爪を立てなんとか連れていかれまいとするセバスだが、悲しいかな意味をなしていない。

 

「シャルティア様から良い玩具を頂きましたので。セバス様も以前泣くほどお悦び頂いたお仕置きができますよ♡」

「あっアナルだけは、アナルだけはあああああああっ⁉」

 

 悲痛な叫び声を残花と咲かせ、鋼の執事は廊下の向こうへと引きずられていった。

 

「…」

 

 哀れな叫びの残響も消え失せ、何とも言えない光景を目にして静まり返る場。ただ一人パンドラズ・アクターだけは連れていかれた友の方角へ敬礼をしてその魂の安寧を願う。

 

「アディオス、アミーゴ…」

 

 ぽつりと呟いた一言が寂し気に空気を震わせる。

 

「…なんといいますか、あのヒゲもすっかり尻に敷かれてしまっていますね」

「ユリ姉さんからエロヒゲへのリスペクトが消え失せている…」

「いや…ナーちゃんからクソヒゲへのリスペクトもないっすよ」

 

 三人のメイドから元上司への尊敬は消滅していたが本人達は気付いていなかった。

 すると突然手を叩く音が聞こえ、皆がそちらへ顔を向ける。パンドラズ・アクターが余裕の表情(?)を浮かべアルベドへ称賛の拍手を送っていた。

 

「ブラボーブラボー、セニョリータ。我が友、露出のセバスをいとも容易く退けるとは…その手腕、実に見事っ!」

「二つ名っ」

 

 三人いた“掘られ隊”の内、すでに二人が敗れ去ったというのにその能面顔には焦りが見られない。帽子を押さえマントを靡かせポーズをとる。

 

「しかし私へは先の二人への方法は使えませんよ。さあどうなさいますっ!」

 

 パンドラズ・アクターからの挑発とも取れる発言へもアルベドは笑みを崩さない。シャルティアやアウラも同様だ。そして片手で額を押さえ溜息と共に笑みを冷たいものへと変質させた。

 

「私達が何も考えていなかったと思う?私は…詰んでいたのよ、始めから」

 

 アルベドの発言へ警戒を強めるパンドラズ・アクター、思わず身構え目の前の三人へ対する。

 

「一体何を言ってっぇおげぇえええええええええええええええええええっ⁉」

 

 ガンと大きな音と共にパンドラズ・アクターは前のめりに倒れ伏した。

 

「ええええーっ⁉」

 

 いきなりの事態に三人のメイドは驚愕の声を上げる。

 パンドラズ・アクターがいた場所の後ろ、そこには皆が知る人物が立っていた。その手には巨大なハンマーが握られている。

 

「あっ…貴方は…コキュートス様っ⁉」

 

 ナーベラルが信じられないという驚愕と共にその名を呼ぶ。そう、そこにいたのは凍河の支配者コキュートスであった。

 

※Tipsコキュートス:ナザリック地下大墳墓第五階層守護者。ナザリックの(比較的)良心、常日頃アルベド達レイパーからアインズを守っている。いつかアインズの御子に爺と呼ばれることを夢見ている。Please Call me G.

 

 メイド達の驚きにはそこに現れた者の意外性、だけではなく彼がアルベド達へ協力することへの驚きも含まれている。

 アルベド、シャルティア、アウラによるアインズ凌辱未遂の際はマーレと共にアインズを守るため尽力していたというのに。何故今回はという疑問が自然と言葉として出ていた。

 

「コキュートス様…何故顔芸サキュバスに協力を?」

 

 ユリが代表し質問する。驚きのあまり彼女からアルベドへのリスペクトも消えていた。

 コキュートスはハンマーをしまうと、その疑問を予想していたようにすぐに答えを返す。

 

「オ前達ハ勘違イヲシテイル。ソモソモ私ハアルベド達ガアインズ様ト結バレ子ヲ生スコトヲ歓迎シテイル。今回ハアインズ様ヨリ御許可ヲ頂イテイルコトモ確認シテイルシナ。日頃ノヨウナ無理矢理デナイノナラムシロ協力モスル」

「でもさすがにやりすぎじゃあ…」

 

 説明には納得がいったが、頭部打撲というその行き過ぎた行動にはどうかと思うところもありルプスレギナは思わず突っ込んでしまった。

 

「問題ナイ、コノハンマーニハダメージハ一切無ク気絶トイウ状態異常ノミヲ与エル」

 

 その言葉に倒れ伏すパンドラズ・アクターを見ると頭にでかいこぶはあるが、ぴくぴくと痙攣する様子から生きてはいるようだ。常識で考えればそれでもやり過ぎではあるが皆はこいつだしそれならいいかとすぐに納得した。

 

「ご苦労様コキュートス、お礼はいずれ時が来たら」

「ウム」

 

 アルベドからの労いの言葉。冷気の煙を吹き出し役目を終えたコキュートスはパンドラズ・アクターを担ぎその場を去ろうとする。

 

「あの…アーちゃん、お礼とは?」

「ん~?ああ、私達の誰かに子供ができたら抱き上げさせてあげるって約束で協力してもらったの」

「…ぁあ」

 

 アウラからの返答に思わず納得と共に脱力してしまうユリ。

 すぐにその場を去ると思われたコキュートスだが、少し離れたところでぴたりと立ち止まり肩越しに振り向いた。

 これにはアルベドも不思議そうに首を傾げる。

 

「コキュートス?」

「トコロデ私ハ此度“アインズ様ノ御子ヲ抱キ上ゲ爺ト呼バレ隊”ヲ結成シタノダガ…オ前達モ入ラヌカ?」

「はよ行け」

「ムウゥ…スデニ数名ノメンバーガイル、イツデモ待ッテイルゾ」

 

 残念そうに息を吹き出し今度こそコキュートスは去っていった。コキュートス以外のメンバーが誰なのか若干気にはなったが、あまりにも時間を消費してしまっている。

 

「さあ!これで邪魔者は居なくなったわ、早速始めましょう」

 

 一体何の時間だったんだ、と始まってもいないのにすでに疲労を感じるメイド三人であったがゲームへの期待から何とか気持ちを持ち直す。

 

「まずは順番を決めましょうか、皆くじを引いてちょうだい」

 

 アルベドの手には上部に丸い穴が開いた箱があり、中には番号の書かれた紙が入れてある。六人が紙を引きすんなりと順番が決まった。

 一番ナーベラル、二番アウラ、三番ユリ、四番ルプスレギナ、五番シャルティア、六番アルベドの順だ。

 

「私が最初ですか…」

「二番かあ、もうちょい後が良かったな」

「ナーベラルとアーちゃんを先に見学させて頂きますね」

「真ん中あたりだといいっすよね!」

「フっ、トリはやはり正妻である私のようね」

「あっ?調子乗んなよゴリラ」

 

 順番に対し各々思うところもあるようで姦しい雰囲気になる。

 

「さあ、まずはナーベラルからよ。この箱に案が書かれた紙が41人分入っているから一枚引いて」

「は、はい」

 

 先の順番決めの箱とは別の箱がナーベラルへ差し出される。

緊張の為か強張らせた手で紙を一枚引き確認する。ルール上確認するのは本人のみで、他の者は固唾を呑んでナーベラルが内容を確認する様子を見守った。

 するとナーベラルの顔はみるみる赤くなり唇を戦慄かせ始める。

 

「こ…これはっ⁉」

「なんすか⁉何が書いてあるっすかナーちゃん!!」

「実施するまでは内容を聞くのはご法度よルプスレギナ。一応簡単な準備でできるものでと案を募ったけど…できそうかしら、ナーベラル?」

 

 アルベドからの問いに何度か深呼吸を繰り返したナーベラルは真っ赤に上気させた顔はそのままにどうにか頷いて見せた。

 

「はい…大丈夫です。むしろ今日でちょうど良かったです…では、行ってまいります」

 

 そう言い残し執務室の扉をノックしようとした姿勢のままに固まる。握った拳にはじんわりと汗が滲み、心臓の音がどくどくとダイレクトに聞こえていた。その姿だけでどれほどの緊張感があるのか、引いた内容の困難さを読み取ることができた。

 

「アインズ様が御待ちよ、早くしなさい」

 

 しかしアルベドからの鶴の一声にはっとすると、その勢いのまま扉を叩く。四度のノックの後、室内から本日のアインズ様当番のメイドであるフィースが扉を開けナーベラルへ入室の許可を伝えた。

 

「では…行ってまいります!」

 

 後に残る皆に言葉を残し決意を秘めた顔で執務室へと入っていった。

 外で待つ五人は僅かに開いた扉の隙間から中の様子を窺う。はたしてメイド達がどのような内容を書いたのかまったく想像がつかない。ナーベラルの実施することから内容を推し量ろうと注視する。

 

「武運を祈るわよ」

「無事に帰ってくるっす」

 

 姉二人も固唾を呑んで見守っていた。

 中へと入ったナーベラルはそのままアインズの待つテーブルの前まで足を進めた。緊張が表れたきびきびした動作で臣下の礼を取り拝謁への感謝を述べる。

 アインズは執務室のいつもの椅子に座り腕を組んで待っていた。斜め後ろにはフィースが控え、天井には護衛の八肢刀の暗殺蟲が待機している。

 オーバーロードの姿ではなく人の姿でいたため表情も僅か窺うことができる。身を固くしたナーベラルへ苦笑する様子を見せると不思議そうに言葉を発した。

 

「扉の外が騒がしかったが、何か問題でもあったか?」

「いえっ何も問題は御座いません!変態三人と揉めていたただけです」

「いやそれ問題じゃないか…?」

 

 若干内容が気になったアインズであったが、それよりも顔を真っ赤にして俯き震えているナーベラルが心配になり努めて明るい声で話しかける。

 

「今日はお前達とのゲームで何か催しを見せてくれると聞いている。メイド達から集めた案という事だったが、もしかしたらフィースの案も見られるかもしれないな。楽しみにしているぞ」

 

 突如話を振られたフィースはアインズからの言葉へ嬉しそうに「恐縮です」と返答する。

 アインズ自身アルベドから今回の話を持ってこられた時は大いに警戒した。しかし内容はメイド達が考えるということ、また真面目なユリやナーベラルが参加するということを聞き許可を出すに至った。実際皆がどのようなことをしてくれるのかと警戒心よりも期待が上回り始めてきている。

 アインズの穏やかな様子に緊張から少しだけだが回復したナーベラルは、すくりと立ち上がった。

 

「過分な恩情、大変有難く思います。それでは僭越ながらこの不肖ナーベラル、一番手を務めさせて頂きます」

「うむ」

 

 アインズは椅子に深く腰掛けゆったりと寛ぐ姿勢を取る。フィースも不躾にならない程度に視線を向ける。八肢刀の暗殺蟲は部屋の外にいる変態達への警戒を怠らない。部屋の外の変態+α達も刮目している。

 

「…そっ、それでは」

 

 そう言うとナーベラルはスカートの裾を手繰り寄せ両手で握りしめた。僅かに上がったスカートの奥に白い肌の艶めかしい下肢が姿を覗かせる。一体何をするつもりだ、と皆が思うがその姿勢のまま動かない。顔を茹蛸のようにし唇を引き結んで小刻みに震えている。

 

「ナーベラル?あまり辛いようなら無理をすることは…」

 

 なるべく足が覗いた下の方へ視線を向けないようにしつつ、気を遣う言葉を掛けるアインズ。

 だがその言葉に覚悟を決めたのか、ナーベラルは目をカッと見開き己が主を真っ直ぐに見つめる。

 

「御目汚し、失礼致します!!」

「っ⁉」

 

【挿絵表示】

 

 声が裏返るほどの絶叫のような宣言と共に、なんとナーベラルは握ったスカートの裾を両手で上へがばっと捲り上げた。

 そうすればどうなるか、スカートという防御を失い下腿、大腿、そしてその上の部分までもが晒される、自身の敬愛する御方の前にも。

 

「なっ何をしているナーベラル⁉」

 

 あまりのことに一瞬呆けるが、ナーベラルの突然の行動に声を荒らげるアインズ。しかしスカートを持ち上げた手は下ろされることはなく、震えながらもその姿勢を貫いている。両手でおもいっきりスカートを上げるその姿は普段の凛とした振る舞いが嘘のような滑稽さであり、しかし同時に羞恥に染まった表情は緊張感の生み出す色香も孕んでいた。

 アインズの後ろで見ていたフィースは頬を染め両手を口元に当てて驚愕に言葉もない様子。八肢刀の暗殺蟲は「こいつもやべぇ変態だ」と統括達同様ブラックリスト入りを決定する。様子を外から覗いていたアルベド達は後ろからナーベラルの臀部を確認しつつ驚愕に目を見張る。

 

「早く手を下ろせ!」

「はっ、しかと見て頂けましたか!!」

 

 主からの命令にすぐに手を下ろすと思ったが、そのままの姿勢で問いかけてくる痴女。とにかくこの状況を終わらせるには見たという事実が必要と判断するアインズ。できるだけナーベラルの顔に向けていた視線を一瞬下に落としすぐに逸らす。

 

「わっ分かった、きちんと見た!だからもう十分だ!」

「はいっ、有難う御座いますっ!!」

 

 そう言うとナーベラルはようやく手を離す。重力に沿ってスカートはふわりと元の位置へと戻っていった。

 

「私からは以上になりまひゅっ!」

「そ…そうか」

 

 アインズはいまだ混乱に揺れる頭でどうにか返答する。アルベドから今回は人の姿で居てほしいと頼まれていたため鈴木悟の姿を取っていたが、そのせいで感情抑制が全く働かない。こんなことなら無理にでもオーバーロードの姿でいるべきであったと後悔するが後の祭りだ。

 

「一応聞くが、今回の案はメイド達が考えたんだよな?」

「はい、アルベド様からはそう聞いております」

 

 先のとんでもない行動が本当にメイド達の考えたものなのか、疑問に思ったアインズは確認を取るが答えは変わらない。一応後ろに控えていたフィースへ目線を向けるが自信に溢れた顔がアインズへ向けられていた。

 眩暈を覚えそうなアインズだが、とにかく現実を受け入れ支配者としての行動を起こす。

 

「分かった…ご苦労だったナーベラル。あ~、なんというか…風邪をひかないようにな」

「?…はい、それでは失礼致します」

 

 アインズの言葉に若干違和感を覚えたが、無事自身のミッションをこなしたことへの安堵でそれもすぐに思考から消えた。常軌を逸した羞恥であったが自身の行動でどこか慌てた様子を見せるアインズ、もしかしたらきちんと女として見られているかもしれないと心が弾む。

 

 

 

 ナーベラルは礼を述べ執務室を後にした。部屋を出るとすぐに待機していた者達が微妙な目でこちらを見ていることに気付く。それに対しやり遂げたという真っ赤などや顔を晒す。

 

「見ていてくださいましたか、無事やり遂げました!アインズ様にもドキドキなさって頂いたのではっ!」

「え、ええ…そうね」

「こんなこともあろうかと、常にアインズ様に見て頂いてもいいよう勝負下着を着けていたのです!」

「いや、それはどうかと思う」

「間違いなく驚かれていたとは思うわ…」

 

 自慢げに己の成果を告げるが皆やはりどこか歯切れが悪い。そんな様子を不思議に思うナーベラルへユリが引き攣った表情で話しかけた。

 

「ナーベラル、あなたの引いた内容を見せてもらってもいいかしら?」

「はい…?えっと…」

 

 姉の要望にナーベラルは一応アルベドへ視線を向け確認を取る。彼女の上司は頷きを返答として返した。すでに終了した案であれば他の者も内容を確認してもよいという事だ。

 了解も取れたため皆でナーベラルが先程引いた紙を確認する。そこにはメイドが書いたと思われる達筆な文字で内容が記されていた。

 

“アインズ様にパンツを見て頂けたら、それはとっても嬉しいなって”

 

「文章っ⁉」

 

 狂った内容表記に思わず突っ込むが要約すれば主にアンダーウェアを見せるという事だ。初手から想像以上にハードな内容、一体メイドの誰が書いたのか気にはなるが今は話を進める。

 

「まあこれを書いた子もあんなダイナミックに見せるとは思ってなかったでしょうけど…」

 

 内容もさることながらナーベラルの実行の仕方もいかれていたためどっちもどっちであろう。

 書かれていた内容を理解しナーベラルの行動にも納得はいったが、それでも皆には気になることがあった。ユリが姉として本人へ確認する。

 

「あなたはこの内容で下着を見せた…つもりなのね」

「?つもりではなく実際に見て頂きましたよ」

 

 自分のしたことを思い出して再び真っ赤になりながらも、姉のおかしな物言いが気になる。そこへアルベドが神妙な顔で話に入ってきた。

 

「ナーベラル…あなたは今日ここに集合する前にナニをしていたかしら?」

「っ!も…もうその話はやめて下さいっ!!」

 

 先程の話を蒸し返されたと思い慌てながらも抗議をする。しかしアルベドの顔には茶化すような雰囲気はなく静かに問いを投げていた。その様子にさすがにきちんと返答しなくてはと顔を朱に染めたまま内容はぼかしつつも問いに返す。

 

「えっと…その、アインズ様のことを考えていたら…少しその、持て余したといいますか…不純な気持ちで会うわけにはいきませんので、己で処理をしっ…していました」

 

 視線を合わせる余裕はなく俯きながら、言い訳のように釈明を述べる。

 しかしアルベドは責めることは無く淡々と事実を確認していく。

 

「集合時間に間に合ってはいたけど、真面目なあなたにしては慌てながらぎりぎりに来たものね…急ぎ下着も替えようとして身綺麗にしてから来たのでしょう」

「…アルベド様?」

 

 言葉尻には得心がいったという納得があったが、その顔は悲し気に伏せられた。そしてとうとう致命となる一言をナーベラルへ放つ。

 

「ナーベラル、あなたちゃんと下着は穿き直してきたかしら?」

「えっ」

 

 一瞬何を言われているか分からずに頭が真っ白になる。

徐々に言葉の意味を理解し自身の行動を思い返す。アインズへの想いから集合前だというのに御ナニーに耽ってしまったこと。夢中になったあまり気付いた時には集合時間のすぐ前になっており、慌てて汚れた下着を脱ぎ衣類の皺を伸ばして髪を整え———そこまで思い返したが、その時自身が下着をきちんと穿きなおしたかが曖昧だ。心臓の鼓動が徐々にその速さと大きさを増す。じわりじわりと冷たい汗が背中を伝う。今も言われるまで気付かなかった、いつもより涼しいと感じる下半身。アルベド同様、皆が顔を伏せ何とも言えない表情をしているという事実。

 皆に背を向けたナーベラルは確認のため恐る恐るといった様子で自身のスカートを捲った。手は先程以上に震えている。

そして…ノーパンという残酷な現実を直視する。

 力の抜けた手からスカートがはらりと落ちた。その姿勢のまま固まって動かないナーベラルへユリが後ろから肩に手をかけ声をかける。

 

「ナ…ナーベラル?」

 

 姉の呼びかけにも何の反応もない。ユリは再度声を掛けようとするがその前にナーベラルは糸の切れた人形のようにふっと地に倒れ伏した。

 

「ナーベラルっ⁉」

 

 すぐさま後ろにいたユリが抱え上げる。妹は白目をむいて意識を失っていた。

 

「アルベド様っ、ナーベラルが!!」

「ナーベラル…いいやつだったわ」

「どうか安らかに、でありんす」

「いや、死んではいないっすよ…」

 

 アルベドはユリに抱えられたまま意識を失っているナーベラルに近づくとそっとその瞼を閉じてやった。そして胸に手を当て祈るように黙祷を捧げると皆に振り返る。

 

「さあ、ナーベラルの犠牲を無駄にしないためにも続けましょう!」

 

 アルベドの言葉に皆は気持ちを切り替える。ユリは最愛の妹を慈しむように床に寝かせてやった。

 そしてアルベドは次の順番の者へ目を向ける。その視線に答えるようにアウラが髪をかき上げつつアルベドの前まで歩を進める。

 

「次は私の番ね」

「覚悟はいいかしら?」

「当然」

「いや…これってそんなシリアスな感じのゲームだったすか?」

 

 アウラはアルベドが差し出した案の入った箱から一枚の紙を取り出す。その動作には迷いがない。

 周りに見られぬよう内容に目を通す。他の者はその様子を固唾を呑んで見守っている。するとアウラは口の端を持ち上げニヤリと笑った。

 

「OK、それじゃあ行ってくるね!」

 

 内容を確認するとすぐさまノックをして執務室の中へと消えていった。先程の惨劇(自業自得)を見た後でありながら堂々としたその姿にユリが思わずといった様子で呟く。

 

「さ、さすがはアーちゃん…」

「あの余裕の表情…一体どんな内容だったのかしら?」

「ふん、ちび助にアインズ様をドキドキさせられるとは思わないでありんすが」

「ちび助って…もうシャルティア様よりも全然おっき…あっいや何でもないっす」

 

 そして再び皆で扉の隙間から中の様子を窺い始めた。

 アウラはアインズの前までくると跪き礼を述べる。アインズはその様子を見つつ先の衝撃的な光景に動揺していた心をどうにか落ち着け話しかける。

 

「次はアウラの番か」

「はいアインズ様、どうぞよろしくお願いします」

「…うむ、一応聞くが先程のナーベラルのようなことではないだろうな?」

「勿論です、ナーベラルについては事故のようなものですから」

「大事故だったな…」

「それでは二番手は私が務めさせていただきます」

 

 アウラは立ち上がると微笑みながらアインズの座る椅子の横まで移動してきた。そちらへ僅か体を向け不思議そうにするアインズ。

 

「アインズ様、一つ御許可を頂きたく。御身の体に触れることを御許し下さい」

 

 アインズの思考が動くより早く、廊下のほうからギリィという歯軋りのような音が聞こえた。その怨嗟の音色を無視して返答する。

 

「お前が行おうとしていることに必要なのだな?うむ、許可しよう」

 

 変態極みのアルベドやシャルティアへは絶対に許可できないが、アウラならそこまで心配ないだろうと考える。これまでアルベドとシャルティアに加えアウラにも散々襲われてきたというのに、純真だった幼い頃の面影が脳裏に焼き付いており甘い対応をしてしまっている。しかしその自覚のないアインズは簡単に油断し隙を晒す。

 

「有難うございます、それでは失礼します」

「アウラ?」

 

 疑問の声を上げる絶対的支配者に応えるように、アウラが突如アインズへしな垂れかかってきた。

 

「はっ?」

 

 思わず間の抜けた声を出す絶対的支配者であったが、その間もアウラの動きは止まらない。幼いころ何度もやったように太腿の上へ腰かけるように動く。小さな頃であれば可愛い甘えん坊の子供であるが、今の成熟した大人の姿ではいかがわしい雰囲気を醸し出す。

 

「アウラっ、貴方何を⁉」

「おいちょっとそこ替われ!!」

 

 廊下の方から恋する二人の乙女(?)の抗議の声が聞こえるが、アインズにはそちらに意識を向ける余裕がない。表には出さないように注意しているが内心は混乱の極みである。

 その間にもアウラは猫のように器用に体勢を整える。向かい合いアインズの腰を膝で挟み込むように座り、両手をローブの隙間から差し入れ頭をやさしく抱き込む。自然と息がかかるほどの近距離で見つめ合うことになる。

 太腿からはアウラの臀部の柔らかい感触が伝わってくる。密着しているため、恥じらいなく押し付けられたたわわに育った胸の柔らかさを鼓動と共に感じる。頬を擽る吐息には興奮の熱と甘い香りが乗っていた。

 人の体になったことで性欲を取り戻したが、こういったときは弊害になるなと唇を噛み締め威厳を保とうと努力する。

 

「アっ、アウラ…これは一体…」

 

 少しどもったが、声が上擦らなかったのは奇跡だなとアインズは自身の支配者ロールを捨てたものじゃないと評価する。

 最早唇が触れそうな距離にあるアウラの顔、頬を染め幸せそうにアインズを見つめている。

 

「アインズ様と抱き合うことが私の指示の内容ですから、しばらくこのままで」

「(うぇえええええええっ⁉)」

 

 心の中では誰にも聞かれないのをいいことに、情けない絶叫を上げる。

 気合で形作った無表情の下、凪いだ水面の下で水流が荒れ狂うが如く心は千々に乱れていた。

 

「くぅううっ!やはり私の一番の障壁は貴方だったようね!!」

「ちょっ、おま、羨ま…う、う…WRYYYYYYYYYY!!」

「アーちゃん…いつの間にそんなにはしたなく」

「うわー、エロエロっすね」

 

 アルベドの怨嗟の呟きやシャルティアの奇声、メイド達のツッコミにも反応する余裕がない。傍に控えるフィースも顔を赤く染め見ていいものかというようにちらちらと時折視線を向けてきては顔を伏せている。八肢刀の暗殺蟲はすでにブラックリスト入りしていた痴女の脅威度を引き上げる。

 

「ところでアインズ様」

 

 すぐ近くの為こしょこしょと話しかけてくるアウラの吐息がこそばゆい。いつもは勝気に吊り上がった眦はトロリと垂れている。褐色の肌は赤く染まり、滲んできた汗が艶めかしく首筋を流れていった。

 何かが決壊してしまいそうな危うい心持で、アインズは支配者を演じ続ける。

 

「…なんだ?」

「こうして御膝に座らせて頂くのは随分と久しぶりですが…いかがでしょう私の体、昔仰っていたようにしっかり食べて大きくなりましたよ?」

 

 確かめてもらう様にアウラはアインズへ体を擦り付けるようにもぞもぞと動く。否応なくその主張の激しい胸部が柔らかく形を変える。胸だけではない、どうにか動きを止めようと思い腰へ手を回すが折れてしまいそうな程に細い。くびれに沿って腸骨から臀部へと流れるラインはもはや少女を残していない、成熟した女であった。興奮を表すかのように徐々に息が荒くなっており、密着した体は熱を増している。

 

「う、うむ!背丈もアルベドに近づくほどだしな、本当によく大きくなった」

「ありがとうございます。他のところはどうですか、女らしくなりましたか?」

 

 あえて背丈と言って話を健全な方へ持っていこうとするが危うい方向へ舵を切られる。

 

「ああ勿論っ、女らしく魅力的になったと思うぞ」

 

 ある程度認めて話を早く終わらせなければ、とにかくまずい。アインズ自身何がまずいかは分からないが取り返しがつかなくなるという予感がある。現状の沸騰した頭では命令してどかすという簡単な解決方法すら思いつかない。

 獲物の隙を逃さないハンターのように、アウラは追随の手を緩める気はない。アインズの耳元へ顔を寄せるとそのまま耳朶を咥えた。

 

「なっ何をしているアウラ⁉」

「…んぅ♡」

 

 アインズもさすがに抗議の声を上げるがアウラは艶めかしい声を上げるだけで止まらない。咥えるというよりは唇で挟むだけの優しい愛撫、さらには耳の窪みに沿って舌を這わせ耳孔を目指してくる。

娘のように見ていた存在からのその行為に背徳感の混じったぞくぞくしたものが込み上げる。引きはがそうと体に触れるとまるで性感帯かのように嬌声をくぐもらすのでどうしようもない。

男としての反応をしないよう全力を注いでいるが、まるでそこを狙うように下腹同士をすり合わせてくる。

 

「アインズ様…私、もう赤ちゃんを産める体になりましたよ」

 

 脳へ直接吹き込まれるような、官能的で蠱惑的な囁き。

それがとどめとなったのかアウラを引きはがそうと四苦八苦していた両腕はそっとその背を包んだ。すでに限界だった精神も陥落の時が近い。

 

「(あ~…)」

 

【挿絵表示】

 

 アインズの脳内にアウラとの時間が走馬灯のように流れる。小さい頃は太陽のような笑顔の似合う少女だったが、いつの間にこれほどの性長を遂げていたのか。どこで育て方を間違えた?と思わなくもないが今のアウラも長い時を共にした大切な存在。

 

「(もうゴールしていいよね…?)」

 

 アインズの思考もおかしな方向へ向かい始める。いつのまにかアウラの顔が真正面にあり見つめ合う形になっている。

 そのまま二人の顔がゆっくりと近づき———

 

「ストーーーーーーーップ!!!」

「っ⁉」

 

 突如乱入してきた侵入者にアウラはアインズから引きずり離された。

 

「きゃっ」

 

 尻もちをつき短い悲鳴を上げる、普段なら容易に受け身を取るだろうがそれだけ行為に熱中していたという事だろう。

 アインズも急速に現実に回帰し正気を取りもどす。

 

「アウラ、アウトーでありんす!!ファッキューエロフ!!」

「あなたの内容は抱き合う事でしょ?それ以上をしようとしていたように見えたけど」

 

 下手人を引き剥がした二人は座るアウラを見下ろすように睥睨する。アルベドは腕を組み冷たい微笑を浮かべ、シャルティアは腰に手を当てて柳眉を逆立てている。

 二人からのプレッシャーも意に介さず、アウラは体の反動ですくっと立ち上がると地に着いた尻をぱんぱんと叩き汚れを落とす。

 

「も~、あともうちょっとだったのに。邪魔するなんて酷くない?」

 

 頬をぷくっと膨らませ抗議の声を上げる姿には先程までの淫靡な雰囲気は見られない。はたして何がもうちょっとだったのか、アインズは恐ろしくて聞く気も起きなかった。

 

「ですがアーちゃん、さすがにやりすぎですよ」

「そっすよ、さすがにこの内容でさっきのは…」

 

 アルベド達同様近づいてきていたメイド達からも窘める言葉が飛ぶ。ルプスレギナはアウラが引いた紙を皆に見えるように掲げた。

 

“対面座位の真髄を見せると言っている”

 

「いや文章っ⁉」

 

 達筆な文字で書かれたいかれた内容にアインズが思わずつっこむ。おかしな真似はしないだろうと思っていたメイド達が書いた内容に眩暈がする。

 ユリ達からの指摘にもアウラは片目を閉じてぺろりと舌を出し反省する様子は見られない。アインズも一応釘は刺しておこうと一声かける。

 

「んんっ…あ~アウラ、あまり公序良俗を乱すような行為は控えなくてはいけないぞ」

「はぁい♡」

 

 アインズからの注意には素直に頭を下げるが、目の奥に灯る妖しい光は消えていない。これ以上つついても藪蛇にしかならない気がしたためそれ以上の追及は控える。

 

「しかしさすがはアインズ様、このビッチ二号にも動じず泰然とした御姿。まさに絶対的支配者に相応しくありんす!」

「おい、一号は誰のことかしら?」

 

 お前は節穴EYEかと叫びたくなるアインズであったが支配者ムーブに切り替え話に乗っかることにする。

 

「あ…あたりまえだろう、私はナザリック地下大墳墓の主人アインズ・ウール・ゴウンだぞ」

 

 内心では、先の光景から顧みてこれ程空虚に響く言葉があっただろうかと恥ずかしくなるアインズであるが、ナザリッククオリティーのシモベ達は「おお~」と感心して目を輝かせている。どんどんいたたまれなくなっていくアインズはさっさと話を切り上げる。

 

「とにかく、アウラはこれで終わりだな?」

「はい、次の者の準備ができ次第入室させて頂きます」

 

 アウラにまだ言いたいことがある様子のアルベドであったがしぶしぶといった様子で皆を連れ退出していった。

 騒がしかった室内に落ち着きが戻ると、アインズはフィースへじとっとした目を向けた。41分の1であるが先の内容は彼女が書いた可能性もあるためだ。

 

「アインズ様?」

 

 視線を向けられたフィースは頬を染めもじもじとし始めた。そして何かを期待するトロリとした目を向けてくる。なんとなく逆に居心地の悪くなったアインズは視線を逸らしなんでもないと返す。ふうと一息つき上を見上げれば八肢刀の暗殺蟲と目が合った。切なげな表情でお労しやアインズ様と目を潤ませている。そんな彼らにアインズは透明な微笑みで疲れたようにふっと笑ってやった。

 

「(全部で六人…まだ三分の一じゃねぇか)」

 

 やさぐれた思考で先の長さを痛感する絶対的支配者であった。

 

 

 

「さあ、次はユリの番だけど…アウラみたいにやりすぎないようになさい」

 

 アルベドから再び釘を刺されるが、当の本人は明後日の方向へ目を向けわざとらしい口笛を吹いていた。

 そんな様子に苦笑しつつもユリはアルベドから差し出された箱へ手を入れ一枚の紙を取り出す。そして内容を確認する。内容を理解するとともに生真面目に形作られていた彼女の顔がみるみる赤く染まっていった。

 

「なっ…これは」

「おやおや~、ユリの引いた内容も随分過激な事のようでありんすねぇ?」

 

 その様子を見ていたシャルティアがにまにまといやらしい笑みを浮かべ揶揄う。両刀使いでありアインズだけでなくユリにも性的な目を向ける彼女は、羞恥に染まるユリにご満悦の様子だ。

 ユリはその視線から逃れるように体を背け大きく一息を吐くと気合を入れるように己の頬を張った。再び振り返った表情は赤いままであったが瞳は強い意志を感じさせる。体育会系の彼女らしく羞恥を気持ちで乗り切った。

 

「アルベド様、私の内容は少々準備が必要です。お時間を頂いてもよろしいですか?」

「ええ勿論、すぐ近くの一室を借りてメイドの子らに必要と思われる小道具も準備してもらっているから」

「有難うございます、では」

 

 固い言葉を残しユリは準備に向かった。後に残った面々はユリの実施する内容について話し合う。

 

「どんな内容を引いたんだろうね?まあ真っ赤になってたし恥ずかしいことだとは思うけど」

「でもナーベラルやアウラ以上に過激な内容なら、もう少し慌てふためいてもいいはずだけど」

「何はともあれユリの恥ずかしがる色っぽい顔…役得でありんす」

「シャルティア様…歪みねっすね」

 

 じゅるりと涎を垂らすシャルティアにドン引きするルプスレギナ。皆でユリの内容をあれこれ話しているところへ声が掛かる。

 

「…次はユリ姉さんの番ですか?」

「ナーちゃんっ⁉」

 

 今迄気絶して寝かされていたナーベラルが復活してきたのだ。精神的ダメージが大きいようでその顔は青白く壁に手をついて何とか立ち上がっている。アルベドが近づき上司としてそっと手を貸し支えてやる。

 

「良かった…目が覚めたのねマンモロポニー」

「えっ、それ私のことですか」

 

 容赦のない呼び方に思わず素になる。しかしそんなことには構わず他の者達も帰還者を暖かく迎え入れてくれる。

 

「まったく、しっかりするでありんすマンモロポニー」

「でも無事起きて良かったよ、マンモロポニー」

「謀反起こしますよ?」

「もー、マンモロをあんまりいじめないであげてほしいっす」

「せめてポニーを残せや」

 

 悪意のない追撃にダメージが加算されていくマンモロ。

 そこへタイミングが良かったのか準備を終えたユリが帰ってきた。

 

「ナーベラル…良かった、目が覚めたのね」

「ああ、ユリ姉さんありが———」

 

 振り向いて姉の姿を目に入れた瞬間、絶句し言葉が途切れる。先にその姿を見ていた他の者も同様に驚愕していた。

 

「ユ…ユリ、その恰好は?」

 

 代表してアルベドがおずおずと質問をする。ユリは覚悟を決めた赤面顔でぐっと拳を握り微笑んだ。羞恥によって上気した頬を汗が伝い、身体もよく見ればぷるぷると震えていたが。

 

「これが私の内容に必要な衣装です…では行ってまいります!」

 

 そう言うと先のアウラ同様、ノックと共に執務室へ消えていった。

 後に残された皆が言葉発せぬ中、最初から視姦を続けていたシャルティアが一言を呟く。

 

「めちゃシコ」

 

 ユリを部屋へ迎え入れたアインズも同様に驚愕し固まっていた。ユリはカツカツとアインズの前まで歩いてくる。いつものようにキビキビとした、というよりは緊張の為固くなった歩き方であった。両手にはトレーを持っており紅茶の入ったカップが置かれている。完璧なメイドである彼女にしては珍しくカップのかちゃりという音が僅かに聞こえ、その心情を表しているかのようだった。だが問題はそんなところではない。

 

「ユ…ユリ…その恰好は?」

 

 アインズもおずおずといった様子で腫物に触るかのように確認する。偶然にも先のアルベドと一言一句たがわずに。

 そう、ユリの恰好はこの場にそぐわない異常な服装であった。メイド服ではあるのだろう、所々についたフリルやリボンからも辛うじて彼女が普段着こなすメイド服の名残がうかがえる。しかしそんなことがどうでもよくなる程の一番の問題、それは異常な肌の露出の多さである。常の清楚な様相など不要と言わんばかりに布面積を大幅に削減した魔改造。局所さえ隠せていればそれは衣服だと言わんばかりのメイド服への冒涜。有体に言えば痴女か娼婦かといった服装であり、最もそういったことをしなさそうな恰好をユリがしていた。

 

「はっ、アインズ様にこのいひょっ…衣装でお飲み物をお渡しすることが私の指示ですっ!」

 

 目元を痙攣させ口の端を引き攣らせながらも無理矢理微笑を保ち返答する。一口で言い切ろうとして途中で噛んでしまっており、普段の彼女からは想像もつかない姿は哀れを誘う。飲み物を持ってくることとそのいかれた衣装の繋がりがさっぱり分からないが今は考えても栓無きこと。

 

「なんというか…そう…過激な格好だな」

「は、はひっ…ありがとうございます」

 

 取りあえず当たり障りのない感想を述べるアインズに、何に対するものか分からない感謝を述べる正気じゃないユリ。

 それ以上なんと言葉を続けていいか分からず衣装を目に入れないようユリの顔へ視線を向ける。羞恥が限界を超えているのか顔はこれ以上ないほど赤くなり、徐々に息も荒くなってその息遣いはアインズの耳にも届くほどだ。これ以上この状態で停滞していてもユリが悶死してしまうと判断したアインズは話を先に進めるべく助け舟をだす。

 

「ユリの内容はその紅茶を私に持ってきてくれることなのだろう?ちょうど喉が渇いていたところだ、頂こう」

「はいっ」

 

 ユリもアインズの言葉へびくりと反応したのちすぐに行動を起こす。がちがちの体ではあるが丁寧さを忘れぬ動きでアインズの前へ紅茶を配膳する。まだ暖かくほのかに湯気が立っており、優しいハーブの香りが鼻孔を擽る。紅茶に造詣がないアインズではあるが心が僅かに安らぐのを感じる。

 

「では———」

「あっアインズ様、御待ちを!」

 

 早速頂こうと手を伸ばすとユリが慌てて待ったをかけた。主の行動を遮ることへ謝罪を述べたのち理由を説明する。

 

「申し訳御座いません、そちらの紅茶はまだ完成しておりません」

「完成…紅茶がか?」

 

 言っている意味が分からず頭にクエスチョンマークを浮かべる。砂糖やミルクでも入れるのだろうかと予測するが、それでも完成とは大仰だ。

 

「はい…私が今から…今、から…」

 

 不自然なところで説明を止めるユリを不思議そうに見つめるアインズ。言いにくいことなのか言葉にしようと口元を動かすが声が出てこない様子。先のナーベラルに通ずる態度にアインズも心配する気持ちが湧き始める。

 

「ユリ…無理をすることは無いぞ?」

「い、いえ、大丈夫です」

 

 未だ羞恥に落ち着かない様子だが、一息大きく深呼吸すると説明を続ける。

 

「私が今からその紅茶へ、おっおいしくなる魔法を掛けさせて頂きたく存じます!」

「はっ?」

 

 魔法?と混乱するアインズ。魔法には詳しいと思っていたが紅茶の味を良くする魔法など聞いたことがない。もしくは自分が知らないだけで魔法開発の分野でそういった魔法もできていたのかと思考がぐるぐる回る。

 アインズが思考の海に溺れているなかだがユリは行動を続ける。

 

「メっメイドに伝わる御主人様のお飲物を美味しくする魔法が御座いますっ!かつてメイドの子がペロロンチーノ様とホワイトブリム様が御話為されているところを聞いて知ったそうです」

「ぇえ…」

 

 何となく不安を掻き立てる名前が出てきたことで話の方向性に感づき始めるアインズ。説明を終えたユリは目を閉じ大きく息を吸い込み覚悟を完了する。

 

「それでは失礼いたします!!」

 

 目を開きアインズへ真っ直ぐに視線を向け、強張った表情だが表情筋を駆使し満面の笑みを形作る。下ろした状態の両腕を左右から持ち上げ、頭の上で両手を合わせ胸の前へ下ろし指でハートを形作る。同時に左足を持ち上げ腰を捻り、左膝を自身の右側へ突き出すように片足立ちになる。奇怪で滑稽なポーズを取ったのち片目を力強く、あたかも星が飛ぶようにパチンと閉じる。常より高くした猫なで声で呆然とする御主人様へ、愛を乗せて決め台詞をぶちかます。

 

「おいしくな~れっ!萌え萌えキュン♡」

 

【挿絵表示】

 

 場が凍り付いた。

 目の前で見ていた絶対的支配者はあまりの衝撃に口を半開きにして固まっている。フィースは憧れの存在の雄姿に憧憬の眼差しを向ける。八肢刀の暗殺蟲達はドン引き。外で見ていた変態’sも言葉もない様子。

 少しの間しんと無音の状況が続くが、ポーズを決めたままプルプルと震えだし目の端に涙まで蓄え始めたユリに何か言わなくてはとアインズははっとする。

 

「(正解が分からねえ…!!)」

 

 どう言えば最もダメージを少なくしてあげることができるのか、凡庸な頭では思いつかない。それでもこのまま無言でいることが悪手であることだけは分かる。こんな時いい上司ならとシミュレーションするが、いい上司にこんなことする部下いるか?と瓦解する。とにかく何か行動を起こしてあげなくては、目の前の痴女、もといユリが自決しかねない。

 

「……」

 

 アインズはテーブルに置かれた紅茶を手に取るとぐいっと一息で飲み干した。正直味もへったくれも分からなかったが今は関係ない。空のカップを戻すと口元に柔らかい笑みを作りユリを見つめる。

 

「えもいえぬ美味…ユリの魔法により極上の一品と断ずるに迷いの余地は皆無…」

 

 きりりと決め顔で堂々と答える。先のユリの行動はおかしくありませんよというユリと周りに対してのアピール。長年の支配者ロールで培った理想の上司ムーブの集大成。

 

「その衣装も刺激的でありながらユリによく似合っており目の保養になる…実に見事であった」

「何と……!!勿体無い御言葉…!!」

 

 アルベドやシャルティアあたりには間違っても言えない歯の浮くようなセリフも普段が真面目なユリ相手ならばすらすら出てくる。

 効果はあったようでユリは感動したように溜めていた涙を流し両手を組んで心からの笑顔になった。合わせた両腕の間から豊満な胸が形を変えて溢れ出しており目の毒である。普段の彼女が取らないような行動のオンパレードに驚愕し続けてしまう。

 

「(…俺は一体何をやっているんだ)」

 

 大切なシモベが笑顔になってくれたのは喜ばしいが、先程からの自身の行動を顧みて自棄になってしまう。

 

「それではアインズ様、これにて失礼———あ」

 

 役目を終え戻ろうと声を掛けるユリであったが何かを思い出したように言葉が止まる。

そして不思議そうにするアインズへ向け、豊満な胸を強調するような媚びに媚びたポーズを取り一言。

 

「これにて失礼いたしま~す♡またいつでも呼んで下さいね、私のあっ愛する御主人様ぁ♡」

「ぶふっ」

 

 いきなりぶち込まれた発言に思わず咽込むアインズだが幸い誰も気付いていない。折角少し余裕を取り戻したユリであったが、自分のした発言に一気に羞恥が加速。慌てふためいたまま失礼しますと一声残し逃げるように退室していった。

 嵐が去った室内、アインズはどんどん溜まる疲労を溜息と共に吐き出しつつ椅子に深く腰掛ける。椅子を僅か回転させ後ろのフィースへ目を向けるときらきらした眼差しでユリが去った扉を見ていた。

 

「あ、あ~…中々に刺激的な見世物であったが…フィースはどう思った?」

 

 状況にそぐわない表情を疑問に思ったアインズは地雷かもしれないと覚悟しつつフィースへと話を振った。アインズに話しかけられたフィースは嬉しそうに前のめりに返答する。

 

「実に素晴らしかったかと!御主人様への想いが籠ったあの魔法はメイドである私も是非に習得したく存じます。またあの衣装もユリさんの美しさを存分に際立て、今迄とは違った魅力を引き出しておりました!いかがでしょうアインズ様、私達メイドも定期的にあのような衣装を纏い御身にお仕えするというのは?」

「…検討しておこう」

 

 狂ってやがる、と率直な意見は表には出さずに飲み込む。

 そんなアインズの耳に微かな音が届く。定期的に流れるどこか心地いい音の連続。

 

「(これは…モールス信号?意味は…“アインズ様、ファイト”…?)」

 

 はっとして上を見る、そこには八肢刀の暗殺蟲達がどこから手に入れたのか電鍵を打つ姿があった。目が合うとぐっと腕に力を入れる真似をして返してくれる。人(?)の優しさがじんわりと暖かく目を潤ませる絶対的支配者であった。

 

 

 

「ユリ…!」

 

 役目を終えたユリは呼び止めるアルベド達の前を聞こえていないかのように走り去り、先程着替えた部屋へ向かっていった。

 ひらひらとユリが引いた紙が落ちてきたため皆で内容を確認する。

 

“エロメイド衣装で紅茶サーブ~魔法の言葉を添えて(台詞は別紙参照)~”

 

「あ~…ユリにとっては中々ハードなの引いたねえ」

 

 アウラが苦笑交じりに「私やアルベドなら余裕だったけど」と付け足しつつ同情する。

 

「でもさすがユリ姉さん、最後までやり切るとは…」

「根が真面目っすからねぇ…」

 

 姉のとんでもない痴態を見てしまいくすぐったくなるような何とも言えない気持ちが芽生え、目線を逸らしつつ妹達がぎこちなく話す。

 

「ふへへ…いいもん見たでありんす」

 

 シャルティアは妙に艶々した顔で満足げにはぁはぁ息を吐いており、周りの者は若干引いて彼女を見ている。

 各々感想を述べる中アルベドがパンパンと手を叩き皆の意識を集めた。

 

「はいはい、アインズ様も御待ちだし次に行くわよ。確か次は…」

「あっ、私っす」

 

 ルプスレギナが手を挙げて答えた。普段飄々とした彼女にしては珍しく硬くなった表情から緊張が窺える。

 皆と同様アルベドに差し出された箱から一枚紙を引いて中身を確認する。

 

「っ⁉」

 

 内容を理解すると先のユリ同様頬を赤くし目を見開いて息を呑んだ。その様子から彼女の引いた内容も難易度の高いものであったことが分かる。

 

「どうルプスレギナ、すぐに行けそう?」

 

 アルベドの確認に対しルプスレギナはどこか言いにくそうにしたのち明後日の方向へ視線を向けたままぼそぼそと話し始める。

 

「いえ…ちょっとだけ必要なものがあるっす…」

「そう、それならユリの向かった部屋に小道具も用意してあるから持ってきなさい」

「あっ、いえ…自前の物があるので持ってくるっす」

 

 自前という言葉に不思議そうにする皆であったが、本人はすぐに戻ると言い残し自室へと駆けていく。

 ちょうど同じタイミングでユリがいつものメイド服へ着替えて戻ってきた。

 

「ルプーが走っていきましたが…何かあったのですか?」

 

 妹の走っていった方を見つめつつ不思議そうに問いかける。

常の凛とした振る舞いではあったが未だ頬は赤らんでおり羞恥を必死に隠していることが分かる。

 

「次のルプスレギナの番に必要なものを取りに行ったの。それよりユリにしては随分頑張ったねぇ。あのいやらし~い姿ならアインズ様もドキドキなさって下さったんじゃない?」

「ア、アーちゃん⁉」

 

 アウラがニヤニヤと揶揄う様に話しかけると慌てながらも抗議の声を上げる。そんなユリへ何時の間にか後ろから近づいていたシャルティアが肩にぽんと手をかけた。

 

「Good job」

 

 無駄に流暢な発音にイラっとしたが相手は上司なのでぐっと堪える。

 

「少し行き過ぎた感じはしたけれど…似合っていましたよユリ姉さん」

「マン…ナーベラル、ありがとう」

「おい、今何を言いかけた?」

 

 最早周囲が敵だらけの状況で、最愛の妹からのフォローのようなものに嬉しくなる。そこへアルベドもユリを労う様に声を掛けてきた。

 

「そうね、あの大胆な衣装…普段の生き恥メガネとのギャップも相まって…」

「今私を何と呼びました?」

 

 上司からの賛辞の途中であったが気になるワードに思わず素になってしまう。

 

「そうだね、いつもはきりっとしている生き恥メガネがすることでよりエロく見えたもん」

「わらわも吸血鬼でありながら生き恥メガネの恰好にはドキドキさせられたでありんすぇ」

「謀反起こしますよ?」

「まあとにかく、生き恥姉さんもお疲れ様でした」

「ナーベラル、後で鉄拳制裁ね」

 

 そんなやり取りをしているとルプスレギナが僅かに息を上げ戻ってきた。彼女に必要な準備が済んだのであろう。だがその恰好はいつものメイド服であり手にも荷物は持っていない。

 

「おかえりルプスレギナ、準備はでき…それは、どうしたの?」

 

 声を掛けたアルベドだがあるところに目が行き不思議そうに問いかける。他の皆もそれに気付き怪訝な表情を作った。

 

「私の必要な準備っす。それじゃあ行ってくるっすよ!」

 

 言葉を残し執務室へ消えていく。一体あれを使って何をするつもりなのかと皆が扉の隙間から様子を窺う。

 

「次はルプスレギナか…ん?」

 

 アインズは己の前まで来て跪いたルプスレギナへ顔を上げる許可を出す。そこで先の皆と同様、顔を上げた際ルプスレギナのいつもと違う点に気付いた。

 

「あ~、ルプスレギナよ」

「はい、アインズ様」

 

 ユリがしていた格好に比べればそこまで異常な事ではないが、アインズはそれについて聞くことへ僅か躊躇する。いつもの飄々とした彼女らしくなく緊張し口を引き結んでいる様子のためだ。だがそれでは話が進まないと意を決して指摘をする。

 

「その首につけている…首輪?はなんだ」

 

 そう、彼女の首にはいつも巻いている黒いチョーカーではなくまるで犬が付けるような首輪がされていた。どんどんと嫌な予感が膨らんでいくアインズ。

 

「はっ、只今より私をアインズ様のペットとして飼って頂きたく存じます!」

「はい?」

 

 いかれたセリフに思わず素になって問い返してしまう。しかし当の本人に冗談の様子は一切なく真っ赤な鬼気迫る表情でアインズの傍まで寄ってくる。瞳孔が開き息もはかはかとあらぶっており、うっすらと浮いている汗によって艶が出ている肌は艶めかしい。

 

「御手を煩わせてしまい申し訳ありません。私の内容は御身にペットとして飼育して頂くことですので是非犬と御思い下さい…では失礼致します」

「ルプスレギナ?」

 

 何をするのかと訝しむ主の前でおもむろに両手と両膝を地に突いてはいはいのような姿勢をとった。驚愕するアインズにも気付いていない様子。俯き、凄まじい羞恥を含んだ葛藤を飲み込んで勢いよく顔を上げる。すっと一息吸い込んだ後上擦った一言を放つ。

 

「ワンっ!」

 

 再び口を開けたまま固まるアインズ。あまりの事態に何と声を掛けていいか分からず呆然としてしまう。

 衝撃の一言を発したルプスレギナは座り込む犬のようなポーズを取り、潤んだ瞳でアインズを見つめ反応を待っている。その様は先程のユリが反応を待っている時に似ており、血は繋がっていなくても姉妹だなとどうでもいい方向へ思考が流れていく。

 現実逃避も少しの間、可愛いシモベの目の端に羞恥と緊張による涙が溜まり体も震え始めたため急ぎ何かリアクションをしなくてはと頭を働かせる。まさか馬鹿正直に「正気?」などと言おうものなら自害しかねない。否、僅かでも否定的なニュアンスの含まれる返答であってもどれほど傷つけてしまうか。そう考えれば取れるべき選択肢は限られてくる。ユリへ返したように現状にそぐう反応が求められるのだ。これも愛するシモベ達の為と絶対的支配者のスイッチを入れる。

 アインズは近くに座るルプスレギナの頭に右手を置きわしゃわしゃと豪快さも混ぜて撫でた。そして甘やかすような優しい声色で言葉を落とす。

 

「よ…よーしよし、いい子だ」

 

 犬を飼ったことのないアインズにはこれが正しい対応かは分からない。だがかつて餡ころもっちもちより得た情報をフル稼働し、実際に犬を相手にした心持で対応する。自身に込み上げる羞恥心は支配者メンタルで覆い隠す。

 一方のルプスレギナは夢見心地であった。敬愛する主の御手が帽子越しとはいえ頭を触っている。それだけで先程までの拒絶されてしまうかもしれないという不安は消し飛び、狂おしいほどの多幸感が全身に満ちている。自然と目がトロンと垂れしなしなと体の力が抜けた。

 

「…クゥ~ン♡」

 

 アインズが連れてきたハムスケはペットの座を射止めたが、ルプスレギナを含めたナザリックの者は嫉妬を含んだ羨望の眼差しを彼女へ向けていた。そしてその想いは間違いでなかったことを確信する。この御方に飼育されるという事、それはこの地上に具現するあらゆる奇跡の中でも至上の至福と快感を与えて下さる。ペットという称号はこの身をその手中に掌握して下さる魔法の言葉。単純な肉体としてではない、存在そのものの献上に他ならない。

 などと溶けた頭脳で思考しているルプスレギナであったが、それを行っているアインズはいっぱいいっぱいであった。集中するあまり再び扉の外から溢れてくる怨嗟の情念にも気付かない。

 

「(え~と、あと犬にすることっていったら…)」

 

 聞きかじった情報をもとに想像も大いに混じえて考えながら行動しているためか、常よりブレーキが緩くなっている事も見落としている。

 存分に頭を撫でたのちその両脇へ手を差し入れる。驚きと擽ったさに「ふぇ?」と声を上げてしまうルプスレギナであったが、それに構わずアインズは両腕で彼女を持ち上げるとくるりと仰向けにして自身の膝の上へ乗せた。座った体勢でお姫様抱っこをしているような状態だ。

 

「(確かこうやって遊ぶと喜ぶって言ってたよな…?)」

 

 為すがままに主の膝の上に寝転がらされたルプスレギナ。先程までより更に顔を紅潮させ混乱に言葉もなく口をぱくぱくと開閉するのみ。

アインズはそのまま片手でルプスレギナの後頭部を支えてやり、空いたもう片方の手で彼女の腹のあたりをわしわしと擽り始めた。

 

「~~~~~~っ!!!???」

 

 咄嗟に両手で口元を押さえるルプスレギナ。そうでなければはしたない嬌声を上げていたことは間違いない。そんなことも関係なくアインズは行動を続ける。

 与えられる感覚は擽ったさなどではなく極上の快楽。服越しとはいえ主の御手が自身の腹部を弄っている。

 

「っんぐ…んん……ふっうう」

 

 唇を噛み、口元を両の手で押さえていようと声が漏れてしまう。両脚はピンと真っ直ぐに伸び捲れたスカートから火照った太腿がのぞいている。

 一言やめて下さいと言えば済む話ではある。だがこれほどの我慢を強いられているルプスレギナにその考えは浮かばない。悶絶する天国を享受するのみ。

 

「(気持ち良さそうだしこれで合ってるのか?あとは…)」

 

 異常なルプスレギナの様子も行動に集中するアインズにはスルーされる。

 更なる追撃として後頭部を支えていた左手の位置を少しずらし、うなじ側から首元を指の腹で擽り始めた。とんでもない行動だが当の本人は「(あれ、これは猫にやることだっけ?)」と頓珍漢な思考をしている。

 

「———————————————————っ!!!!!」

 

 主の指が喉という急所に触れた瞬間びくんと体が大きくのけ反る。数舜の痙攣の後、とすんと主の大腿の上へ堕ちる。

 ルプスレギナの両手が何かを諦めるように口元を離れた。両腕をたたみ手のひらが前を向くようにして猫のような柔らかい拳を作る。両脚も折り曲げ本当に寝転がって甘える犬のようだ。

 

「…ワフッ…ンフゥ♡」

 

 蕩けきって上気した表情、潤み媚に媚びた瞳、口元には全く締まりがなく白く尖った八重歯と赤い舌がチロチロと覗く。常の掴みどころのない顔も、アインズの前で見せる真面目な顔もそこにはない。

 恥も外聞も頭から消え去り彼女は本当の意味で犬になる決心を付けたのだ。

 目を細め下顎を上げ、撫でられる首元をおねだりするように晒す。剥き出しの喉をアインズの指が滑り極上の摩擦を生み出す。甘えるように両の手でアインズの服を引っ張った。

 

「クフッン♡…アッ、ワン♡」

 

 最早犬の鳴きまねなのか嬌声なのかすら分からない。抑えの利かなくなった彼女は本能のままに鳴き声を漏らす。

 ことここに至ってアインズも現状がかなり不味いのではと感じ始める。明らかに常軌を逸した様子のルプスレギナ。ハッハッと荒い息を吐き何かを耐えるような淫靡な笑みで見詰めてくる。その瞳には言葉に言い表せない情念が宿り強い訴えと欲求を感じさせる。だがアインズ自身異常な事態への動揺を持ちつつも、背徳的なぞくぞくとした蠢動を心の奥底に芽生えさせていた。廊下側から聞こえる怨嗟の歯軋りや呪詛のオーラが無ければ色々と危なかったかもしれない。

 焦燥と少しの高揚を感じつつもアインズは犬と戯れるが如くという指針を貫いている。腹部を触っていた手が時折臍を捉えたり豊満な胸部の輪郭をなぞると一際高い喘ぎを生んだ。喉元を擽っていた手は口元へ移動し、その指にルプスレギナが舌を絡めじゃれついている。

 

「ンチュッチュル♡ワッ…ワン♡ッン~ンフッ…アヒンジュしゃまのあじイ…♡」

 

 至福の極みと言わんばかりのトロトロとした表情。主の人差し指へ舌を絡めた後ちゅうちゅうと吸付く。何時の間にか両の足は何かを待つように左右へ広げられ下着が覗いている。膝の上に乗せた身体は服越しでさえ熱く興奮を伝えてきた。

 

「(あれ?…なんか、やば)」

 

 赤子のように身も心もゆだねて甘えてくるシモベへアインズの気持ちにも変化が表れる。要望へ応えるように口の中を弄り、腹を擽る手の勢いを増す。より高く大きくなる嬌声に確かな達成感と充実感を得る。このままでは戻れなくなる領域へ入るかもしれない、そう理解していても体は行動を止めてくれない。

 

「ッンン♡~~~くひっ…アッ♡…あぁアッン、ィッ♡」

 

【挿絵表示】

 

 一方のルプスレギナにも限界が近づいていた。もはや犬の真似も忘れ主から下賜される快楽に流されるまま。下腹にじゅくじゅくと熱く滾る熱が宿り始める。

 周りの者たちもこのままゴールインしてしまうのかと焦燥を強めた。八肢刀の暗殺蟲達はアインズの望みであるならばとメイドへベッドメイクの依頼、マーレやコキュートスへアルベド達の排除依頼を検討し始める。フィースは目の前で行われる敬愛する主と尊敬するアイドル的存在の痴態に我慢できずもじもじと内股をすり合わせる。扉の外、アルベド達は最後の一線だけは阻止すべくいつでも止められるよう足に力を入れる。

 一触即発な周囲の様子など知る由もないルプスレギナはいよいよ臨界点に到達しようとしていた。先程から体はいうことをきかずびくびくと痙攣する玩具のよう。目の前ではばちばちと火花が散っては快感が全身を包む。明滅する視界の向こうに愛しき主の尊顔が見えた。

 あと数瞬でその時が来る、未知に対する若干の恐怖など溢れる期待と迸る肉欲で流された。その時が来たらこの身をこの御方に献上し身も心も完全に飼育し調教して頂き、と思考がどんどんピンク色に加速する。

 

「———————ァ♡………あ?」

 

 しかしその刹那、ルプスレギナの思考は急速に現実へと引き戻された。

 あまりの快楽と狂喜に悦び、緩み弛緩した肉体。下腹にある不随意筋は弛緩と収縮を終えていた。常であれば最後の砦となる意志の元に支配される随意筋は、色ボケした脳によって疎かにされている。結果何が起こるか。

 

「————っ!⁉」

「ルプスレギナ⁉」

 

 すごい勢いでばっと起き上がりアインズの膝から飛び降りるルプスレギナ。唐突な行動にアインズも正気を取り戻し驚きの声を上げる。

 アインズの横に立ったルプスレギナに先程までの雰囲気はなく、顔を蒼白にして内股になり股のあたりを両手でぎゅうと押さえ震えている。

 

「アインズ様っ私は以上になります!では失礼します!!」

 

 思いっきり引き攣った顔で走り去っていくシモベに唖然とするしかない。

 徐々に冷静になると先程までの自分の行動を思い返し、心の中で安堵のため息をつく。シモベに対し不埒な真似はしないと決めていたはずだがあのまま続けていたらどうなっていたか。

 ふと視線を感じ後ろをちらりと見ると、フィースが頬を紅潮させとろとろとした眼差しを向けてきていた。何かを押さえつけるように両手で己の体を抱きしめ息を荒くしている。今声を掛けると間違いなく藪蛇になると無理矢理視線を切るアインズ。

 天井からも見られている感覚があったためそちらへ目を向ける。不思議な事に八肢刀の暗殺蟲達が手を忙しなく動かしていた。

 

「(あれは…手話?)」

 

 鋭い腕ながら五匹がかりで器用に言葉を送っていた。感心しつつもその様子を見つめ意味を解釈する。

 

“致す際には場のセッティングは我々に御任せください”

 

 女衆へ警戒の目を向けている八肢刀の暗殺蟲からも、先の様子はそういう状況と思われていたようだ。自身がいかに窮地だったかを再認識し再び溜息を零す。そして同じく手話にて返事を送り返した。

 

“気遣い感謝する、だが不要だ”

 

 主からの感謝に嬉しそうにしつつも敬礼を返し持ち場へと戻り警護を続ける。よくできたシモベに色んな意味で心が安らぐアインズであった。

 

 

 

「ルプスレギナ⁉」

 

 先程のユリと同様に呼び止めにも答えず皆の前を疾駆していき、小物が用意された部屋すら通り過ぎ廊下の向こうへと消えて行ってしまった。その先には確かトイレがあったはず。

 残されたアルベド達は何とも言えない顔でルプスレギナが消えた先を見つめていた。

 

「まあ…あの子も犬みたいなものだしね」

「本能だからしょうがないでありんす」

「でもいい思いできたんだし本望でしょ」

「あの…どういうことですか?」

 

 概事情を察しているアルベド達の会話に一人何が起こっているのか理解できないナーベラルが疑問を述べた。そんな妹にユリが気まずそうに説明をする。

 

「え~と…犬っていうのは感情が昂ると何ていうのかしら、言葉をぼかしていうと我慢ができなくなる生き物なのよ。おそらくルプーにもそれが来て慌ててトイレへ行ったんじゃないかしら」

 

 本題をぼかした抽象的な説明であったが「我慢」「トイレ」というワードからナーベラルもさすがに察することができた。

 

「…ああ」

 

 理解すると共に姉と同様に気まずそうに顔を伏せる。そう考えればアインズの上でしてしまわなかったのはファインプレイであっただろう。

 慌てて走っていったため落としたのだろう、ルプスレギナが引いたくじが落ちていたため内容を確認する。

 

“犬になったら好きな御方に拾われた”

 

「う~ん…あんなことになっちゃったけど、これって結構当たりなんじゃない?」

 

 アウラの呟きに皆が同意を示す。ルプスレギナは最後の最後でとんでもない惨劇が巻き起こったが、それまでは至福の時間であっただろう。

 

「さて、ルプスレギナが帰ってくるまで時間がかかるだろうし次のくじを引いてちょうだい」

 

 果たして何に時間がかかるのか、想像はついたが誰もつっこむことはなかった。

 次の順番であるシャルティアが優雅な動作で進み出てくじに手を伸ばす。

 

「さあ次はいよいよ真打登場、わらわの番でありんす」

「誰が真打よ、ド貧乳」

「あ?」

 

 お約束のように険悪な空気を作る二人を無視しアウラが忠告するようにシャルティアへ話しかける。

 

「でもルプスレギナのはさすがにやり過ぎだった気もするし。あんまり行き過ぎた行為は控えるようにしなさいよ」

 

 行き過ぎという意味では全員どうかしてはいたが、ルプスレギナは境界線の先へ片足がはみでている位のことはしていた。あまり問題ある行動を続ければ今後こういった催し自体許可が貰えなくなり、アインズの警戒心も強めてしまうだろうという意味を込めての注意である。

 

「分かっているでありんすちび助、わらわがそんなことをすると思いんすか?」

 

 全員が無言のジト目で肯定の視線を突き刺すが本人はどこ吹く風。箱からくじを一枚引き内容に目を通す。口の端を持ち上げ腰に手を当てつつ高らかに言葉を発する。

 

「これはわらわに相応しい内容ね、腕が鳴るでありんす」

 

 一体どんな内容なのかその表情には自信が溢れていた。確かに今迄の内容程度なら変態であるシャルティア、アルベドあたりなら余裕でこなすだろう。だがそれだけではなく自身に相応しいとまで言う内容とはいったい何なのか、皆が怖いもの見たさもありつつ気になり始める。

 

「それでシャルティア、何か必要なものはあるかしら?それともすぐ行ける?」

 

 内容は気になるがそれを聞くのはご法度。訝しむ思いを表情に乗せつつもアルベドが確認を取る。

 

「そうね…」

 

 余裕を表すようにゆったりした動作で口元へ手を持っていく。そしてその口から蠱惑的な言葉が漏れる。

 

「小道具の中におまるはあるかしら?」

「ちょっと待て」

 

 思わず全員からストップがかかる。それにきょとんとし不思議そうにするシャルティア。

 

「その案は没ね、引き直しなさい」

「なっ⁉なんででありんすか、何も問題はないでしょう!」

「問題しかないでしょこのお馬鹿」

 

 アルベドからくじを没収され抗議の声を上げるが全く相手にされない。詳細な内容は不明だが、皆にはそれを実施すれば間違いなくアインズから今後こういった催しの許可はされないと確信がある。

 自分以外全員からのストップにしぶしぶとくじを引きなおす。

 

「まったく…これだからスカトロ弱者は困るでありんす」

 

 グチグチ文句を言うが聞く耳を持つものはいない。

そうしてもう一枚くじを引き内容を確認すると再びにやりと笑う。

 

「…どうシャルティア、いけそう?」

 

 嫌な予感を持ちつつもアルベドが確認するとシャルティアは愉悦に浸った笑みを浮かべて返事を返す。

 

「小道具の中に浣腸液はあるかしら?」

「引き直せ」

 

 二回目の引き直しを実施しくじの内容を確認する。内容に目を通しているシャルティアの口角が下がりへの字に形を変えた。

 

「ん~…」

 

 先程までとは違い微妙な表情で唸りをあげる。嫌ではないが物足りない、そんな表情だ。

 

「今度は大丈夫そうね」

「前二つに比べて少し刺激が足りない感じもするけど…まあ、わらわなら余裕でありんす!」

 

 アルベドはシャルティアの様子から先までのいかれた内容ではないと判断する。

 当の本人も僅かな不満を飲み込んで、前向きに受け止めることにしたようだ。

 

「そう、それで準備は必要なの?」

「小物は必要ないでありんす、着替えは必要だけど」

 

 シャルティアの様子から大丈夫そうではあるが一応準備物を確認する。着替えだけであればそこまでひどい内容ではないだろうと他の者も安心した。

 

「時間も使っているし、早く着替えてきなさい」

「分かっているでありんすぇ。それじゃあ早速着替えて———」

 

 不自然なタイミングで言葉を止めると同時、着替えるため部屋へ向かおうとしていた動きもぴたりと静止する。不審がる皆の前、そのまま表情は変えず顔色のみを悪化させ脂汗を流し始めた。

 シャルティアの異常な様子に普段はいがみ合うだけのアルベドもさすがに慌てて声を掛ける。

 

「どうしたのシャルティア!?」

「なっなんでもない、でありんす…」

 

 返答はあるが変わらぬ引き攣った表情と震えた声で何もないとは無理がある。

 何事かと混乱する周りに意識を向ける余裕も無い様子。がちがちとロボットのような動きで腕を組むと視線は合わせないよう中空を見つつ無理矢理形作った微笑で話し始めた。

 

「こ…この内容はアインズ様にお見せするのは失礼だと思いんす…だからもう一度引き直しをしたいのだけど」

 

 予想外の言葉にぽかんとする周囲。いち早く立ち直ったアルベドが怪訝さを隠さずに溜息と共に説明する。

 

「さっきの案は内容がひどいと思われたから没にしたけど、基本的に個人の理由でくじの引き直しはしていないわよ。それにあなたの内容は着替えて何かをするのでしょう?ユリとそう変わらないと思うけど」

「うぐっ」

 

 アルベドからの正論に何も言えず口を紡ぐしかない。

 徐々に皆も理解する。シャルティアが引いたくじの内容を躊躇っているのだと。

 だが逆に疑問も生まれる、先程の酷過ぎる(と思われる)内容すら嬉々として実施しようとしていた彼女が忌避する内容とはいったい何なのか。

 

「しょうがないわね…じゃあユリにだけ内容を確認してもらえる?実施に問題があるかどうか、あなたなら公正にジャッジできるでしょう」

「はい、かしこまりました」

 

 固まってしまったシャルティアへ妥協案として述べる。

 ユリが近づくとシャルティアはしぶしぶといった様子でくじを渡す。そして目線で絶対に不採用にしろと訴えているがユリは気付いた様子もなくくじに目を通す。

 内容を理解したユリは若干頬を赤くしたがそれだけできょとんとした顔を見せた。

 

「どうユリ、そんな大したことないの?」

 

 ユリの様子から不思議そうにアウラが確認を取る。よほどはしたない内容であれば生真面目な彼女ならもっと慌てふためくはず。それが思ったよりも落ち着いているため自然と口調も軽くなる。

 

「いえ…恥ずかしい内容なのですが、なんというかシャルティア様なら余裕でこなせるのではと思います。今迄のものと比べても実施に問題ないと判断致します」

 

 淡々と感想を述べたユリはシャルティアの様子を疑問に思いつつもくじを彼女へ返す。くじを震える手で受け取ったシャルティアは逼迫した表情を隠すように俯いていた。

 

「ご苦労だったわねユリ。そういうわけだから引き直しは無し、早く行きなさい」

「アインズ様を御待たせしないようにね」

「うぐぐ…わっ分かったでありんす!」

 

 現状彼女に反論する余地も頭脳もない。やむを得ず小道具の置かれた部屋へ向かっていった。皆は目を合わせて肩をすくめながらその背を見送る。

 部屋に入ったシャルティアは扉を強く閉め一人になるとすぐに頭を抱え蹲ってしまった。普段の余裕を持った妖艶な佇まいなど微塵もなく眉間にしわを寄せて歯を食いしばり焦りを募らせる。両手で頭をかきむしると整った髪型が崩れ前髪が一筋彼女の視界を横切った。

 

「ううう…一体どうすれば」

 

 廓言葉を使う余裕も無い、与えられた試練をどう乗り切るかを必死に考える。忌々しそうに握り込んでくしゃくしゃになったくじを見つめ呪詛の言葉を吐く。

 

「なんで…なんでよりによってピンポイントで私にいぃ…」

 

 握った紙に書かれた内容、そこにはこう記されていた。

 

“エロ水着着用♡胸を強調した悩殺セクシーポーズを献上!粉砕!玉砕!大喝采!”

 

 前半のエロ水着着用、それは問題ない。盛っていない胸を見られるのは恥だが今迄裸体やそれに近しい格好は幾度と見られている。問題はその次の文章、胸を強調の部分である。

 

「悪意はないんだろうけど…全員が持つ者と思うなよお、私は持たざる者なんだ…」

 

 己の胸へ両手を当てる、体躯に似合わぬ豊満なバスト。だがそれは所詮偽りの紛い物、衣服を脱げば夢と消える幻。

 セクシーポーズだけであればぎりぎりではあるが受け入れられたであろう。だが記載者はご丁寧に胸を強調と指定してきている。特に他意はないだろうが最後の玉砕という文字も己の未来の暗喩に思えてくる。

 もしこの幼児体系ツルペタ乳房で胸をアピールしてしたとしてそれはどれほど無様で滑稽だろう、そう考えると足が竦み背筋が凍る。

 

「うぅ~…ペロロンチーノ様、私に御知恵を~…」

 

 無論そうあれと作られたこの肉体、創造主へ不平不満を持つことは無い。だがどうかその知恵だけでも貸してほしいと両手を組んで天を仰ぐ。

 目を閉じると変態バードマンが後光を背負って現れる。彼女の願望が生み出したビジョン、何かアドバイスをと必死に希う。

 心の創造主はサムズアップと共に悟りを開いた微笑を浮かべ一言。

 

「モモンガさんはなんでもイケる」

 

 その至言と共に霧散していった。

 ゆっくり目を開いたシャルティアは心の中で創造主へ深い感謝を述べ覚悟を決めた。

 

「そうでありんすねペロロンチーノ様…I can do it!」

 

 謎の横文字と共に着替えを始めるシャルティアであった。

一方その頃、シャルティアが小部屋へと消えていった執務室前廊下。彼女の引いた案を気にしつつ待ち時間で雑談をするアルベド達。

 

「シャルティアったら…一体どんな内容を引いたのかしら?」

「ユリの反応はそんなにハードそうでもないんだけどねぇ」

 

 内容は言えないため微妙な表情で苦笑するしかないユリ。

 すると色々と済ませたであろうルプスレギナが小走りに戻ってきた。

 

「おっお待たせしましたっす…」

 

 息を整えつつもどこかすっきりした様子のルプスレギナ。皆は何とも言えない生暖かい視線を彼女へ送る。

 

「遅かったわね、うれしょんレッド」

「うれっ…⁉」

 

 アルベドからいきなり核心を突く不可避の速攻。向けられた当人はびくりと体を震わせ瞬時に顔を上気させる。

 

「それにしてもさっきのは少しイキ過ぎだよ、うれしょんレッド」

「そうね、イキ過ぎはよくないわようれしょんレッド」

「謀反起こすっすよ?」

「アルベド様もアーちゃんも、うれしょんには私が後で言っておきますので」

「うれしょんも反省しているでしょうし」

「後で姉妹喧嘩な?」

「マンモロみたいに履き忘れてないでしょうね?」

「飛び火してきた⁉」

 

 自然と姦しくなる女同士の会話。少しの間他愛もない話に花を咲かせシャルティアの到着を待つ。

 すると廊下の向こうから足音と共に人影が現れる。その主は当然着替えに行ったシャルティア、衣服はいつものボールガウンではなくいわゆるマイクロビキニと呼ばれる布面積の非常に小さい水着。

 

「お待たせしたでありんす」

 

 唖然とする皆の前、堂々と腰に手を当てて胸を張るシャルティア。毅然とした様に見えるがだらだら冷や汗をかき無理矢理釣り上げた口の端は引き攣っていた。中身には問題大有りな彼女だがその外見は文句のつけようもないほど美しい。幼い見た目ながら局所のみを隠し純白の肌を晒す衣装は背徳的なエロスを漂わせている。身体の起伏は(設定)年齢相応に緩やかなラインを描いており、普段の彼女が盛りに盛っていることも相まって慎ましいおっぱいは逆によく目立った。

 

「またすごい格好で来たねぇ」

 

 アウラがうひゃーと驚きの声を上げつつまじまじとその恰好を観察する。きちんと処理はしているのか元々ないのか色々とはみ出ているものはなさそうだ。

 

「…その程度の恰好であんなに躊躇っていたの?」

 

 アルベドの純粋な疑問にふっと鼻で笑う真似をすると震えた声で返答する。

 

「さっきは少し取り乱し過ぎたでありんす。私は今ある戦力で全力を尽くすのみ…それじゃあ行ってくるわ」

 

 余裕を取り繕う態度と裏腹に悲壮感と覚悟を以て入室していった。

 一体何がシャルティアをそこまで躊躇させていたのか、皆は扉の隙間から再び様子を窺い始める。

 

「次はシャルティアか…お前も随分すごい格好をしているな」

 

 自身の前に現れた痴女の如きシャルティアを見つつもアインズは先までと比べ比較的余裕を持って対応していた。

 その理由はもともとアルベドとシャルティアに対する警戒が強かったこともある。ランダムに引かれたくじの内容を実施するとはいえ、彼女達ならばいくらでも拡大解釈で変態行為をしてくる恐れはあった。過去何度も自身が被害者となったレイプ未遂からもそれは容易に想像がつく。その警戒故いきなり飛び掛かられてもすぐに行動できるよう気持ちを作っていたのだ。様々想定していたことからすれば現状のシャルティアの衣装位ならばむしろ若干拍子抜けしてしまうくらいだろう。

 だがシャルティアの様子を見るアインズには別の疑問が生まれてきていた。普段の彼女ならこの程度の露出の衣装、難なく着こなしアインズを誘惑するモーションの一つとる余裕があってもおかしくない。それなのに、今の彼女はアインズにどうにか目線は合わせつつも口回りの筋肉を無理矢理動かして作った笑みは歪んでいる。両手を合わせもじもじと動かす様子からは自信を感じない。アンデッドながら体調でも悪いかのように冷や汗を流し緊張に体を震わせている。その異様な状態に徐々に心配の割合が膨らんでいく。同時に普段の彼女とのギャップ、頬を染めて恥じらいを持っている様子に少しだけ高揚を得てしまった後ろめたさも感じていた。

 

「コホン…それで、シャルティアは何をしてくれるのかな?」

 

 芽生えた気持ちを誤魔化すように咳払いをしつつ問いを投げる。

 がちがちに緊張しているシャルティアは「はっはひっ」と返事にならない返事を返す。しかしそのまま説明を続けようとするが言葉にできずにもごもごと口を動かすのみ。

 これにはアインズだけでなくブラックリスト入りしている変態を警戒する八肢刀の暗殺蟲も怪訝な表情を浮かべた。

 

「…シャルティア?」

「あっ…⁉なっなんでもありましぇん!!」

 

 シャルティアの様子に思わず心配そうな声を出してしまうアインズ。びくっと全身で過剰に反応する様はとても大丈夫そうには見えないが。

 止めた方がいいのだろうか考え始めるアインズだが、これまでの参加者も最後までやり切っていたのだからここで止めるのはと迷いが生じる。

 

「っ⁉」

 

 主の考え込む様子を見てシャルティアに焦燥が押し寄せた。覚悟の決まらない己の情けなさで心配させ時間を使わせてしまっている。それだけは許されないと己の恥を飲み込む。心の創造主から頂戴した言葉を信じて行動あるのみと気持ちを奮い立たせた。

 あとはそう、行動に移すのみ。

 

「アッアインズ様!!」

 

 突然の大声に目をぱちくりとさせこちらを見つめる愛しい主。その主へ最大限の気持ちを込めて体を動かす。

 足は膝を合わせ内股に、尻を後ろに突き出すと同時上半身を前傾にする。そしてここからが重要、右前腕を乳房下部に合わせ力を込めて可能な限り下乳を上に持ち上げる。左腕は折り畳み人差し指を唇に当てて妖艶さを強調。しかし重要なのはその上腕、両の二の腕で自身の胸を左右からサンドイッチ、僅かな脂肪をかき集めるのだ。足りない戦力を一か所に集め武器となす。そのかいあってか左右の乳房の間には努力の末に僅かな陰影が付き、胸の谷間と呼んでいいかもしれない程度の希望が生まれた。

 そして科を作りよりポーズを際立たせ相手を欲情させるための一言を放つ。

 

「うっ…うっふ~ん♡」

 

【挿絵表示】

 

 キンッ———と時が止まった。

 目を見張り、口を間抜けに開けて固まるアインズ。目元を引き攣らせのけ反る八肢刀の暗殺蟲。口元を手で覆い悲しみに眉根を寄せ憐みの視線を向けるフィース。扉の外ではアルベド達が「うわちゃ~」ととんでもない醜態から目を逸らしている。

 

「………」

「………っ」

 

 皆が言葉を出せず少しの間静まり返る時間が執務室に訪れる。シャルティアは奇しくも先のユリと同様にポーズを取ったまま固まり、目に涙を浮かべプルプルと震えだしてしまった。健気にも無理矢理作った笑み、目元と口元が痙攣する様は哀れを誘う。両手で頑張って集めている胸の脂肪、その盛り上がりは少女の域を出ない。

 あまりの惨状に言葉を失っていたアインズもシャルティアの様子にはっとしてフォローの言葉を考える。

 

「(…どうするっ⁉いや、ユリの時と同様にすればいいんだけど…)」

 

 シャルティアの行動からもどういったくじの内容だったかは想像がつく。そして彼女らしからぬ羞恥の理由、胸囲の格差からくるものだろうと確信を得た。内容の本題はアインズに色香を振りまくようなもののはず。ならばそこに焦点を置き褒めればユリの時のように解決するだろう。

 

「(でもなあ…相手がシャルティアっていうのが)」

 

 それでもアインズが躊躇する理由、それは褒める対象がシャルティアである点。無論シャルティアに対し隔意を持っているという意味ではない。褒めた時の反応が問題なのだ。

 ユリは素直に誉め言葉を受け取り喜んでくれていた。それは彼女の実直な性格に起因する。だがシャルティア(アルベドも含まれる)は褒め方を間違えれば意味を曲解しこの場で性的に襲ってくることもありえる。それはこれまでの歴史が繰り返し証明している。無論この場で襲われようとすぐに周囲の者が駆け付け逆レイプは未遂に終わるだろう。だが襲われると分かっていてあえて実行するという事はできない。もしもの時は再び謹慎を言い渡さなくてはいけなくなる。前回襲撃され謹慎を言い渡した時も、被害者であるアインズが可哀想と感じるほど落ち込んでいたのだ。

 つまり現状要求されるのはシャルティアを興奮させすぎないような言葉選び、かつ気持ちを持ち上げることができる程度の労りを持った言葉。

 

「(無理ゲーだろ!!)」

 

 そんな取り留めもないことを考えている間にも時間は進む。

 シャルティアはもはや見るも無残に冷や汗をだらだら流し目を回している。

 

「あ~…」

 

 場を繋ぎ考えるための時間稼ぎの感嘆詞にも大仰にびくりと体を震わせるシャルティア。これは言葉を間違えれば本当に悲惨なことになると気を引き締める。

 要はヘイト管理だ。そんな数値は聞いたこともないが、あるのならばシャルティアの欲情値という数値をある一定ラインより超えないよう管理しつつ適度に褒める。自分のロールではなかったが全く経験がないわけではない。

 為せば成ると気合を入れるが、気持ちだけで凡庸な頭脳は正解を導いてはくれない。だが黙っていることは間違いなく悪手。緊張と羞恥でシャルティアの精神が持たないだろう。脳が熱暴走するほどフル回転させていると、彼女の創造主である変態バードマンが過った。ペロロンチーノさん俺に力を、とかつての友に力を借りてどうにか言葉を絞り出す。

 

「小さき胸も…一部には需要があると思うぞ」

 

 発言してから中々ひどい言葉じゃないかと、心の中で頭を抱えるアインズ。そもそも変態に力を借りようとしたことが間違いであった。

 自身の評価を交えずあくまで客観的な評価を与える逃げの一手。だが言葉の意味をよく考えれば多くの需要はないと言っているに等しい。

 そんな斜め上の主からの言葉、シャルティアは意味を理解するのに数舜を要する。少しの間ぽかんとした後、緊迫のせいもあり挑む勢いでアインズに一歩詰め寄り言葉を返す。

 

「アインズ様は小さいほうが御好きですか⁉」

「…っ」

 

 予想外の質問に内心慌てるアインズ。勿論表には出さず両手を組み余裕の表情は最低限保っている。

 正直に言ってしまえばアインズも、世の大多数の男性同様大きいほうが好みである。強いこだわりはないがどちらかと言えばそのほうが女性らしい魅力を感じるためだ。だが目の前の大切なシモベのため小さいほうが好きと嘘をつくことに躊躇いはない。ただしそんなことを言おうものなら飛び掛かられる恐れがあるが。さらには扉の外の大きい方達からも強い視線を感じる。さらにさらには後ろからそこそこ大きいものを持つフィースの視線も突き刺さっている。

 

「私は…大きくとも小さくとも気にしないさ。胸など関係なくお前達だから大切なのだ」

 

 アインズは自分を情けなく思いながらも質問への明確な返答は避け、あやふやにする方向へ舵を切った。視線も合わせられず遠くの方へ向けてしまう。発言自体に虚偽はないが、彼女達を大切だということを言い訳のように使うことに後ろめたさを感じる。

 しかしアインズの気持ちとは裏腹に効果はあったようで、シャルティアは両手を組み潤んだ瞳で見つめてくる。

 

「アっ、アインズ様…私をそのように想って下さって…」

 

 感激に声を震わせる様にもずきずきと良心が痛むが、とにかくこの場は丸く収めることができそうだと安堵した。きちんと答えを返していないことにも気付いていない様子。

 誤魔化しのためとはいえ恥ずかしい本心を語ったことに加え、普段と違い純真に自身を見つめてくるシャルティアに居心地の悪さを覚えてしまう。

 

「う、うむ。ところでフィースはどう思った?」

 

 気恥ずかしい気持ちを誤魔化すように咳払いを一つして、話題転換と後ろで見守るメイドへ振り返った。

 唐突に話を振られたフィースは慌てるような素振りは見せず、常の微笑みを湛えたまま頭を下げる。

 

「私如きの意見など御耳汚しになるかと」

「よい、軽い雑談のようなものだ。肩肘張らず忌憚ない意見を聞かせてくれ」

「そうでありんす、さあ遠慮なく!」

 

 アインズの言葉に廓言葉を使える程度には余裕を取り戻したシャルティアも、どんな意見でも構わないと無い胸を張る。

 

「…では失礼して」

 

 主と当事者本人からそう言われてはこれ以上の固辞は失礼になる。フィースはそれでも僅か躊躇う素振りを見せた後、急に真顔になり話し始めた。

 

「全然だめですね」

「え」

「え」

 

 突然の衝撃発言にアインズとシャルティアは揃って間の抜けた声を出した。

 二人の驚愕など意に介さずフィースは淡々と言葉を続ける。

 

「勘違いなさらぬよう先に申し上げますが、その恰好に問題は御座いません。シャルティア様の魅力をさらに引き出しておりよくお似合いです。ただ先程のシャルティア様の行為から察するに胸を強調したポーズを取ることが目的であったと推察されます」

 

 未だショックの中にあるシャルティアは呆然としこくこくと頷く機械と化している。それはアインズも似たようなものであった。

 

「であれば先のポーズは至高の御方であらせられるアインズ様に拝見して頂くには圧倒的に胸が足りていません」

「ぐはっ」

 

 鋭い言葉の刃に思わずといった様子で呻くシャルティア。アインズは唐突なメイドの豹変に「えぇ…」と引き気味である。

 フィースの言葉には責めたり非難したりする色は見られず、あくまでメイドとして主の為に事実をそのまま伝える誠実さがあった。言われている側のダメージは計り知れないが。

 

「無論シャルティア様の体形は至高の御方に創造して頂いた究極の美。しかし向いていることと向いていないことは存在します。一所懸命に脂肪を集め形にしようとしたことは素晴らしいですが、所詮木っ端をいくら集めたところでたかが知れています。そのような無様をアインズ様に晒すというのは如何なものかと存じます」

「フィ…フィースさん?」

 

 中々の言葉にアインズも思わず敬称で呼んでしまう。

 シャルティアは木っ端、無様ときついことを言われるたび「うぐおおおああああ⁉」「WRYYYYY!!」と断末魔を上げる。まるで見えない槍に刺されるが如く体を捩っていた。

 そのままばたりと倒れ伏しぴくぴくと痙攣する。少しの後よたよたと力なく立ち上がった。

 

「しっ…失礼いたしました…」

 

 そして消沈したまま口から魂のようなものを吐き出しつつ、何とか一言だけ発し退出していった。ふらふらと去るその後ろ姿は幽鬼のようで、まさにアンデッドだなとどうでもいいことを考えてしまう。結局アインズはその背に言葉をかけることはできなかった。

 ちらりと恐る恐るフィースの方へ視線を向けるといつもの微笑に戻っており、「何か御用ですか?」と確認してくる。ほっとしつつ何でもないとだけ返し、次いで天を仰ぐ。天井の八肢刀の暗殺蟲も表情は読みづらいが「え~…」というあからさまに引いた視線をフィースへ向けていた。自分の感性が間違っていなかったことに安堵しつつ、シャルティアへ心の中で合掌を送り後で何かフォローしようと嘆息するアインズであった。

 

 

 

「………」

「………」

 

 執務室から出てきて俯いたまま無言で廊下の向こうへ去っていくシャルティアへ皆何も言えなかった。持つ者が持たざる者へ何を言うというのか。

 結局シャルティアがいつものボールガウンに着替え戻ってくるまで、残った者達は視線も合わせず一言も発さなかった。

戻ってきたシャルティアは変わらずふらふらと力なく歩いており、皆のところへ来ると廊下の端で壁向きに体育座りをしてしまった。その際目に入った盛りに盛った偽物が揺れる様は見ていて悲しみを呼ぶ。

 このままでは埒が明かないので仕方なくアルベドが代表して話しかけた。

 

「…まったく、落ち込んでいてもしょうがないわよ」

 

 普段はいがみ合う仲だがさすがの惨状に励ますように声を掛ける。

 シャルティアはそんなアルベドへちらりと視線をよこすと溜息を一つ、ぶつぶつと話し始めた。

 

「分かっていたのよ…所詮私のは紛い物の贋作。服を脱いでしまえば何も残らない…」

 

 これは重症だなと頭を抱えるアルベド。仕方がないが元気になるまで放置するしかないかと思考を切り替え皆に振り替える。

 

「アインズ様を御待たせするわけにもいかないし…取りあえずカッツェ平野のことは放っておきましょう」

「おい、それは私のどこをモチーフにした呼び名だ」

 

 シャルティアはある意味元気になった。

 

「そうだね、カッツェ平野もそのうち元気になるでしょ」

「アウラてめぇ」

「しかしカッツェ平野様をこのままにするのは…」

「しょうがないわナーベラル、カッツェ平野以外ここにいるのはアゼルリシア山脈だもの。どんな言葉を言っても響かないわ」

「山脈だと山脈で大変なんですけどね」

「もぐぞこら」

「まあ、そうっすね…カッツェもそのうち元気になって下さいますよ」

「もはや誰だよ」

 

 少しの間俯き唸っていたシャルティアだが、突如がばっと起き上がり「うがーっ!!」と大声を出す。

 

「大概にしろよてめぇらっ!!偽物が本物に敵わない道理はないって見せたらぁ!!」

「あ、復活した」

 

 そうして元気になったが荒れ狂うシャルティアをどうにか宥め、ようやく場が落ち着く。

 

「最後はアルベド様ですね」

 

 ナーベラルがとうとう最後になった一人へ視線を向けると、アルベドは余裕の表情で笑みを浮かべていた。そうしてくじの入った箱へ手を入れる。

 

「くふふ、どんな内容だろうと私なら余裕ね」

 

 皆に僅かに緊張が走る。アルベドならば露出系だろうと羞恥系の内容だろうと余裕綽々でこなすだろう。だが内容如何によってはアインズに襲い掛かる可能性がシャルティア並みに高い。いざという時はコキュートスとマーレを呼んでと緊急時への対処を想定する。

 そんなことを考えている間にもアルベドはくじを引き内容に目を通し始める。すると最初は薄く微笑んでいた表情が徐々に眉根を寄せ苦々しいものへと変わった。彼女の発言通りどのような内容でも問題なくこなすだろうと思っていた皆は困惑する。

 

「アルベド様…?」

 

 ユリが話しかけることで、固まってくじを凝視していたアルベドもはっとして意識を戻す。

 

「…ああ、ごめんなさいね。なんでもないわ」

 

 そう言うと視線を執務室の扉へ向け息を吸ってふうと皆の耳に届くほど大きく吐いた。信じられないがあのアルベドが緊張しているらしいと全員が驚愕する。

 どんな内容だったのか大いに気になるが聞くことはできないためぐっと堪える。

 

「準備はよろしいのですか?」

「大丈夫、特に必要なものもないわ」

 

 問うたナーベラルへ視線を向けることなくノックと共に執務室へと消えていく。

 果たして彼女の内容は、と皆が扉の隙間から噛り付くように様子を見始める。

 

「最後はアルベドだな」

 

 アインズは部屋に入ってきたアルベドへそう僅かに固くした声を掛ける。

 無論消去法で最後が彼女とは分かっていた。アインズが変態万博シャルティア以上に警戒していた相手、過去最多レイプ未遂犯アルベドの入場である。八肢刀の暗殺蟲も警戒レベルを最大級へ上げ始めた。

 ぱっと見で服装は常のもの、ならば気を付けるのは行動だろうと当たりを付けているアインズだが、アルベドの様子に怪訝な顔を浮かべ始める。

 あのアルベドが微笑みを消し、緊迫した顔を晒している。身体も緊張に硬くしており、頬を汗が一筋流れていった。扉の外の女性陣同様、どんな内容だろうと難なく実施すると考えていたアルベドの異常な姿にアインズにも予定とは違う焦りと困惑が生まれ始める。

 

「あ~…お前にしては随分緊張しているな」

 

 あえて軽い調子を乗せて、疑念をそのまま言葉にする。

 

「いえ…決してそのようなことは」

 

 返答は一拍遅れ、声色は微かに震えていた。

 

「…他の者へも言ったが、無理をすることはないぞ?」

「ありがとうございます。ですが問題ありません…アインズ様、御傍へ寄ってもよろしいでしょうか?」

 

 アインズ以上に八肢刀の暗殺蟲のほうがざわりと警戒から大きく反応する。

 今のアルベドの状態に心配が勝り若干警戒を緩めたアインズは、アルベドの内容に必要なのだろうと許可を出す。それに対しアルベドは礼を述べると静かにアインズの真横、距離は一歩程度離れた位置まで移動する。そのままゆっくりと片膝を下ろすと臣下の姿勢を取り、じっと真剣な眼差しをアインズへ送った。

 どうすればいいか分からないアインズは自身の横へ来たアルベドへ半身を向け、行動を観察する。

緊張に瞼が揺れている。極度の緊迫感を纏いながらも金色の両目は美しく輝きアインズを貫く。くすぐったさのような居心地の悪さを感じたアインズだが、なぜか目を逸らすことは憚られた。

 

「アインズ様」

 

 熱い息を吐くと同時に主の名を呼ぶ。アルベドの両手が動きそっとアインズの右手を柔らかく包んだ。決して力強くはない、されど猛る気持ちが伝わるほどの熱さを手から感じる。

 いつもとは違う、色香を抑え彼女の見た目通りの粛々とした行動にどぎまぎするアインズ。

 

「…アルベド?」

 

 果たして何をするのか未だ想像もつかない。

 そこまで大それたことではないかもしれないと一瞬弛緩するアインズの心。その隙を逃さぬようにアルベドは肺で熱された空気で声帯を震わせ、主へあらん限りの気持ちを届ける。

 

「愛しております、アインズ様」

「はぇ?」

 

 虚をついた一言に間抜けな声を出してしまう。

 気持ちを届けたアルベドは口をきゅっと閉じて、潤んだ眼差しを愛しき主へ向ける。

 

「あ…なっ」

 

 唐突な告白に言葉が出ない。

 これまでもアルベドから気持ちを伝えられたことは多々あった。しかしそれは襲われつつであったり、卑猥な言動がセットになっていたりとどこか冗談めいており、アインズもそれを理由に躱すことが多かった。

 今回のようにただ真剣に思いを告げられたのは初めてではないだろうか。まともに動かない脳でそんなとりとめのない事を考える。

 

「アルベド…突然何を言う」

 

 時間稼ぎのような誤魔化しの言葉を口にしてしまう。

 

「言葉の通りに御座います。私はアインズ様を愛しております」

 

 再びはっきりと告げられる。やはりその目は真剣にアインズへじっと向けられていた。

 あくまで気持ちを伝えられただけ。だが彼女の目は、場の雰囲気は明確にアインズの返答を求めている。

おそらくはアルベドの引いた内容、それがアインズへの愛の告白なのだろう。それがアインズの返答までを含めた内容かは不明だが。

 

「それは…こういったゲームで言う事ではなくない…か?」

 

 どうにか言い訳を探しそれを口にする自身を情けなく感じる。だが実際アインズにはこういったゲームで告白まがいというのは、と思うところがあるのも事実。

 

「確かに私の引いた内容からの行動です。ですが我が創造主に誓って気持ちに偽りはありません」

 

 アルベドの返答には迷いや淀みがない。それゆえに本心であると訴えかけているようだ。

 ここまで言われてはゲームを理由に否定することはできない。

 

「アインズ様は私をどう御思いですか?」

「むぅう…」

 

 はっきりと聞かれてしまい唸ることしかできない絶対的支配者。

 目線を離し少しでも落ち着きたいが、彼女の瞳には引力でもあるかのように視線を吸い寄せられ離せずにいる。

 固唾を呑んで見守る周囲の者の様子すら今のアインズには目に入らない。

 ただ己に愛を告げた大切なシモベ、その存在だけが視界にある。

 

「(実際…俺はどう思っているんだろう)」

 

 目の前でこちらを見つめるアルベド、その存在について無意識に考え始める。

 

「(大切な存在であることは間違いない…)」

 

 それは絶対だと確信する。他のナザリックの者もそうだが、これまで長い時を一緒に過ごしてきたのだ。もはやただのNPCなどでは決してない、唯一無二の存在。

 では女性として愛情を持っているのかと自問する。おそらくその気持もあるのだろうなとアインズは心の中で認めた。

 これまでも隣に在って不甲斐ない己を支えてきてくれた。時には情けない姿を見せたり逆に見たりもした。すでに隣にいないことが違和感となるほどの存在。未だ変わらぬ愛を捧げてくれている。

 人の姿を取るようになってからは、心の奥に隠していた彼女への気持ちが形になりやすくなってしまった。

 

「(だけど…それでも)」

 

 ならば気持ちに答えればいいというのは理解している。

 だがアインズはそれでも躊躇ってしまう。

 

「アルベド…お前の気持ちは私が書き換えた…」

「いいえ、関係御座いません」

 

 苦し紛れに絞り出した言い訳をばっさり切って捨てられる。これには緊迫した空気で見ていた周りの者も驚愕に目を見開く。あのアルベドが主の言葉を遮りはっきりと否定したのだ。時と場合によっては不敬と取られてもおかしくないが、主本人がそれに対し何も言っていない。

 

「私が御身を愛しているのはナザリックに最後まで残ってくださったその慈悲深さ。そしてこれまでの時を共にして頂いた御身の優しさ故に御座います。設定はきっかけに過ぎません」

「…ああ」

 

 情けない言い訳はアルベドからの真摯な思いにあっさり瓦解する。さらにはアインズ自身がそれを心の中で認めてしまっている。そもそも設定云々と言うならシャルティアやアウラが己に向ける気持ちは何だというのか。時が培った本物の想いに他ならないだろう。

 では何故彼女のことを憎からず思っていながらも、その気持に答えないというある種の非道をおこなっているのか。

 

「(タブラさんへの…みんなへの想い…それもある)」

 

 創造主であるタブラ・スマラグディナへの申し訳なさ。彼らの子でもある存在を己の欲で穢してしまう事への罪悪感。さらには万が一でも彼らがこの世界に来た時の為、あの頃のナザリックをそのままに残しておきたいという我儘。確かにこの世界に来たばかりの頃はその理由が強かったように感じる。

 

「(だけど今はそれ以上に…俺が恐れている)」

 

 人の身になり強い感情を手に入れたためか、アインズは自身の気持ちを明確に掴み始めている。

 

「(変わってしまう事が…怖いんだ)」

 

 かつてナザリックの皆が揃っていた黄金時代。いつかは終わりが来るという当たり前のことも考えないようにしていた。いい大人がこの仲間とずっと共にいれると根拠もなく信じていたのだ。だが時間と共に一人、また一人とユグドラシルを去っていく。あの時の大切なものがボロボロと崩れていくような恐怖、焦燥、悲痛が忘れられない。

 そして今あの時と同じように、もしかしたらあの時以上に大切な存在達ができた。もう決して手放したくはない。

 故にアインズは恐れている。自身とアルベドの関係が進展した時、何かが大きく変わってしまうのではないかと。頭の冷静な部分は、そんな大それたことじゃないだろうと客観的に受け止めている。しかしそれでもかつての喪失がちらつく。

 

「アルベド…私は…」

 

 思考の海を漂っていた意識を現実へ戻す。改めて自身の目の前にいるアルベドを認識するが言葉が続かない。かつての体験が気持ちを吐き出すことを押しとどめる。

 

「(けど…)

 

 いつまでも待たせ続けるわけにはいかない。己の為にも、そして彼女達の為にも変わっていかなくてはいけない。

 

「俺…は…」

 

 迷いに揺れるアインズの瞳の奥、その奥底まで見据えるかのような金色の瞳が僅かに震えた。

 今迄じっと動かずアインズへ視線を向けていたアルベドは力強く、されど強引さは感じさせずに握っていたアインズの手を己の方へ引いた。ごく自然な誘導にアインズはアルベドの方へ体を屈ませる。同時にアルベドも足を動かしアインズの方へ体を上げた。

 

「…ぁ」

 

 両者の顔が徐々に近づく。髪の毛がふわりと絡み額が合わさる。鼻先が掠り、睫毛が交差する刺激が優しい感触を伝える。文字通り眼前にあるアルベドの顔、身体からは力が抜け抵抗するということは思い浮かばずに、ただ彼女を美しいと感じていた。そのまま両の頬へ手を添えられ唇を彼女のそれへと誘導される。すでに僅かな距離だったのだ。ゆっくりと両者の唇が近づいていき触れるのはすぐ———

 

「だぁらっしゃああああああああっ!!!」

「へぶっ⁉」

「っ⁉」

 

 突然の絶叫と共にアルベドの姿が吹き飛び、あまりの勢いにバウンドせずそのまま壁に激突した。

 アインズは驚愕に口をあんぐりと開け固まっている。

 

「ハァ…ハァ…アルベドっやり過ぎ!アウトでありんす!!」

 

 アルベドのいた位置にすたっと着地したのは外で待機していたはずのシャルティア。肩で息をしつつ眉を逆立てアルベドを糾弾する。

 アルベドが吹き飛んだのは、シャルティアの猛烈ダッシュからのドロップキックを頬に受けたためであった。

 

「痛ったた」

 

 凄まじい轟音と共に頭を壁に強打したはずだが、大したリアクションもなくアルベドが起き上がる。

 さすがはタンク職とどうでもいい思考をするアインズ。八肢刀の暗殺蟲は「これがゴリラの力か」と慄いている。

 

「ちょっとシャルティア、何するのよ⁉もうちょっとでアインズ様との性交が成功するところだったのに!!」

 

 いやそこまでではなかったと心の中でつっこむアインズ。

 アルベドも通常営業に戻っており先程までの空気は霧散していた。

 

「いやいや、アルベドの内容は告白でしょ?キスはルール違反だって」

 

 シャルティアに続き入室してきたアウラがそう指摘すると、アルベドはバツが悪そうにそっぽを向いた。

 

「アーちゃんも止められていましたし仕方がないかと…」

「ルールは守って行う約束でしたから」

 

 同じくアルベドの近くまで来た真面目なメイド二人も同意を示す。

 

「まったくっ!全身ゴリラはいつも隙あらばアインズ様の御体を狙って困りものでありんす!」

「はぁ?カッツェ平野に言われたくないわね」

「誰の胸が平野じゃああああああ!!」

 

 お約束のやり取りを始める二人をアウラは揶揄いつつ眺め、メイド三人は宥める。そんないつものナザリックの光景にほっとしてしまう。

 アインズはその間に熱を持って火照った体を冷まし、どくどくと煩かった心臓の鼓動を落ち着けていた。天を仰ぎ肺に溜まった空気をふうと大きく吐き出す。

 シャルティアの乱入で有耶無耶になったが、もしそれがなかったらどうなっていただろうか。助かったという気持ちと同時に、起こらなかった結果を気にしてしまうもやもやとした気持ちもある。だがそれは考えても栓無いこと。

 次があったのなら、もう誤魔化すことはできない。アインズはそう考え今の気持ちに一応のけりを付けた。

 

「それではアインズ様、私共は一旦退出致します」

 

 アインズがつらつら考えている間、いつの間にかアルベドとシャルティアの争いは落ち着いていたようだ。皆で礼をしてから部屋から出ていく。

 最後尾を行くアルベドの背を見つつ、アインズはあることに気付く。

 先のシャルティアの乱入、アルベドは狙って行ったのではないだろうかと。明確な根拠があるわけではない。ただ自身が迷っていた時の彼女の瞳。突然のキスへの誘導。そこからアインズが何となくそうだったのかなと感じただけ。そして、もしそうだとしたらその理由は予想がつく。あの状況でも迷っていた情けなく不甲斐ない己への助け舟だ。彼女自身の気持ちを押し殺してでもこの身を優先した献身。実際のところ彼女の真意は不明、あくまでアインズの想像に過ぎない。それでも———

 

「アルベド」

 

 彼女にだけ聞こえるように囁くように呼び止める。

 ゆっくり振り向いた彼女はいつもの微笑を顔に乗せている。

 

「はい、アインズ様」

「もう少しだけ…待っていてくれ。必ず応える」

 

 要領の得ないその言葉をどう捉えたのか、アルベドは目を細め穏やかに頷いた。

 

「その時を心待ちにしております」

 

【挿絵表示】

 

 深く一礼をして皆に続き部屋を出ていく。

 アインズは息を吐くと八肢刀の暗殺蟲やフィースへ聞こえないよう、小さな独り言を漏らした。

 

「本当に、俺には勿体ない子達ですよ」

 

 その囁きは誰への物だったのか、霧散し消えていく。

 ナザリックの絶対的支配者は、さて優勝者を決めなくてはと気持ちを切り替えて居住まいを正した。

 

 

 

「じと~」

「なっ…なによ?」

 

 執務室から廊下に出てきた一同であったが、シャルティアとアウラがわざわざ言葉にしつつアルベドへじとっとした視線を向けていた。

 

「べっつに~」

「何でもないでありんす~」

 

 思わず出たアルベドからの質問へもぷいっと顔を逸らしてしまう。ふとメイド三人を見ると二人と同様、どこか責めるような視線を向けてきている。

 

「あなた達まで…一体何なのよ」

「いえ…なんといいますか」

「一人だけというか…ちゃっかりというか」

「簡単に言うとずるいっす」

 

 今一要領を得ない言い回しではあるがなじられていることは分かる。

 アルベドは腕を組み、頬を膨らませ反論する。

 

「文句があるのは私の方よ。あともうちょっとでアインズ様と…」

 

 その時を思い出しているのか、言葉の途中で顔のしまりがなくなりにやつき始める。

 

「クフフ…あんな至近距離でアインズ様の御尊顔を…もうあんなの半分以上セックスだわ!!」

「いかれた思考だ」

 

 平常運転で狂うアルベドの姿にアウラは苦笑しつつ何かを納得するように溜息を一つ吐いた。そして視線を横にいたシャルティアへ向ける。その意味を理解しているシャルティアは難しい顔をして小さく唸っていたが、不満を飲み込むように頷くとアウラへふんっと言ってそっぽを向く。そうしてアルベドへいつものように突っかかっていき言い合いが始まった。

 その様子を一歩下がった位置で見ていたナーベラルは、一連のやり取りが全く分かっていないようにぽかんとしている。

 

「アウラ様とシャルティア様は一体…?」

「まあ…女同士の戦いも色々あるということよ」

 

 すぐ近くにいた長女が、そういったことに疎い妹へ軽く説明をする。すると後ろから次女が二人の間に入り、がばっと肩に手をかけ抱き寄せた。その顔はにやにやとしたいやらしい笑みを浮かべている。

 

「な~に他人事みたいに言ってるっすかユリ姉。私達も当事者なんだから頑張っていかないと」

「なっ⁉ルプーっ!!」

 

 すぐに真っ赤になった真面目な長女は叱責を飛ばすが妹はどこ吹く風。ナーベラルは二人の会話に変わらずはてなマークを浮かべていた。

 

「…ナーちゃんは御ナニーばっかじゃなくてそういった勉強も必要っすね」

「なっ誰が御ナニー狂いの色情狂よっ⁉」

「そこまで言ってないわよ」

 

 姦しく言い合う姉妹達であったが、アルベドとシャルティアが喧騒を一段落終え落ち着くと同時に収まっていく。

 

「さて、これで全員終わったわけだけど。あとはアインズ様からの結果待ちね」

 

 アルベドの言葉により皆が、ゲーム終了と共に弛緩していた気持ちを僅かに緊張させる。特に優勝者に賞品などがあるわけではないが、アインズをドキドキさせたという称号は欲しくなってしまう。

 各々がもしや自分ではと夢想し、そわそわと落ち着かなくなる。

 

「あら?あれは…」

 

するとそこへ近づいてくる人物がいた。

 

「シズ?」

「…ん」

 

 皆の前に現れたのはプレイアデスの妹的存在、シズ・デルタであった。

 突如現れた妹にユリが代表して声を掛ける。

 

「あなたがここまでくるなんて珍しいわね。アインズ様に用事?」

 

 シズの、というよりはアインズ付きのメイドなどの当番でない者が執務室の近くに来ることはそこまで多くない。それこそアインズに用事があった際や、アインズを襲おうとした際など限られてくる。

 だからこそユリはシズが何かしらアインズに用事がある、もしくは呼ばれていたためにこの場に姿を見せたと考えたのだ。他の者も同様の予想でシズの返答を持つ。

 

「…食堂でご飯を食べてたら、メイドの子達の話を聞いた。ユリ姉達がここで何かしているって」

 

 シズの説明を聞きなるほどと納得する。

 今回のゲームを開始してそこそこの時間が経つが、その間廊下を通るメイド達には不思議そうに何度か見られていた。そのメイド達が食事をとっている際の談笑の中で話題に出したのだろう。それを偶然聞いたシズが興味を持って立ち寄ったというわけだ。

 

「…皆で何してたの?」

 

 首をこてんと倒し不思議そうに聞いてくる。妹らしさという点では一番の存在の愛らしい仕草にほんわかとしつつ、ユリが行っていたゲームと一連の流れを説明する。

 終始無表情で説明を聞き終えたシズであったが、少しの間中空へ視線を向け再びユリへ合わせるといつもの淡々とした様子で言葉を発した。

 

「…私もやりたい、です」

 

 通常通りの抑揚のない口調からの懇願であったが、感情の読み取りづらい彼女にしては珍しく気持ちの籠った言葉に聞こえた。

 ユリも姉としてできれば了承してあげたかったが、すぐには返事をせずアルベドへ振り返る。視線を受けたアルベドは予想していたかのように「アインズ様に確認してくるわ」と一言残し執務室へ消えていった。

 ここにいるメンバーが良くとも、一番はアインズの許可が必要だ。無いと思われるがアインズが認めなければ参加させるわけにはいかない。

 するとすぐに執務室からアルベドが出てきてシズへ微笑みかける。

 

「アインズ様の御許可を頂いたわ」

「…ありがとう、ございます」

 

 アルベドの言葉にもシズは無表情を変えなかったが、皆にはその背に大輪の花を幻視するほど嬉しそうと感じた。姉である三人もその様子に朗らかな顔を浮かべている。

 

「じゃあ早速この箱から一枚引いてくれるかしら」

「他の者には見えないようにしんす」

 

 アルベドから差し出された箱に手を入れ一枚の紙を取るシズ。内容に目を通し始めても表情に変化はない。

 

「何か準備が必要ならあっちの部屋に小道具とかもあるよ」

「…大丈夫、です」

 

 アウラの言葉にも問題ないと返す。衣装や小道具を必要としないような内容なのだろうかと皆が予想する。

 それでもやはり心配があるのか、ルプスレギナが戦いの場へ向かう妹へ声を掛けた。

 

「気を付けるっすよ。マンモロっていう悲惨な事になった奴もいたっすから」

「…マンモロ?……ナーベラル?」

「なんで私だとっ⁉」

 

 妹の推測の良さに絶叫するマンモロ。

 

「生き恥みたいになる可能性だってあるわよ」

「…生き恥?…ユリ姉?」

「ヒントはどこにっ⁉」

 

 妹の推測の良さに戦慄する生き恥。

 

「…それじゃあ行ってくるね、うれしょん」

「エスパーっ⁉」

 

 妹の推測の良さに恐怖するうれしょん。

 何はともあれシズは躊躇うことなく執務室へと消えていった。皆もシズならばそれほど変態…大変なことにならないだろうと先より幾分か穏やかに様子を窺う。

 

「…アインズ様、参加を認めて下さりありがとうござい、ます」

 

 アインズの前まで来たシズは臣下の姿勢で飛び入り参加の許可について礼を述べる。アインズも微笑を浮かべ問題ないというように両手を広げ歓迎した。

 

「なに、遠慮などすることはない。シズが本当の大トリになったが期待しているぞ」

 

 アウラのように急性長するわけでもなく、子供の容姿を残しているシズにはアインズも随分甘くなる。その様は愛娘の可愛いワガママに答える父親のようであった。

 

「…アインズ様、御膝の上に座らせて頂いてもいいですか」

「膝?もちろんいいぞ」

 

 他の者が言えば即警戒の内容もシズならばとあっさり許可を出す。先のアウラと似た内容だが、一度引いたくじは箱に戻されないので違う者の案であろう。

 アインズの許可を得たシズはとことことアインズの横まで来ると「ん」と両手を上げた。どうしてほしいかは明白だ。アインズは彼女の両脇へ手を差し込むと持ち上げて自分の膝に座らせてあげた。てっきり己に背中を向けて座るのかと思っていたが、膝に乗せる際シズがアインズ側を向こうとしていたため正面向きで腰を下ろさせてやった。先のアウラと同じ体勢だがアインズにはまだ余裕がある。背中に手を回し頭を撫でてやると擽ったそうに目を細めた。猫のようだなと微笑むアインズだが頭の中にすっととある埴輪ネコが出てきたため、頭を振って追い出す。「Mein Gott」と聞こえた気がしたがきっと気のせいだ。

 女衆への警戒が強い八肢刀の暗殺蟲も「ふっ、しょうがないな」「今回だけだゾ☆」「大きくなってもあのエロフみてぇになんなよ」と見て見ぬふりをしてくれる。後ろに控えたフィースもどういう感情なのかうっとりと二人の様子を見ていた。

外で見ている者達も控えめな嫉妬のみで、微笑ましいもの見るように穏やかに談笑していた。

 

「シズったら、嬉しそうにして」

「そうなんでありんすか?そんなに表情が変わらないから分からないんすぇ」

「いやいや、姉からしたらあんなにきらきらした顔初めて見るっすよ」

「確かに…普段あんなに甘えられることもないからね」

「アルベド、真剣な顔してどうしたの?」

「いえ…不敬ながら今のアインズ様にバブみを感じてしまって。プレイの参考にしたいわ」

「台無しだよ」

 

 このまま膝の上に座らせることが内容なのかとアインズが疑問を浮かべていると、シズがすっと膝立ちになりアインズの両肩に手を置いて目線を合わせた。シズの瞳には不思議そうにするアインズが映っている。少しの間お互いをじっと見つめる時間が続く。

 

「シズ…?」

「…アインズ様、あ~ん」

 

 そう言って口を開けてみせるシズ。アインズも分からないなりに指示のもと口を大きく開けてみる。

 その時、シズのエメラルドの右目がきらりと光った。

 

「っんむぐ⁉」

 

 唐突に、シズがアインズの開いた口目掛け己の唇を重ね合わせた。俗にいうキス、接吻、口づけ、ズキュウウウン。しかしそれでは終わらず更にアインズの首の後ろへ両手を回しがっちりとホールドする。

 

「やっやったッ!!」

「さすがシズちゃん!私達にできない事を平然とやってのけるッそこシビれる!あこがれるゥ!」

 

 八肢刀の暗殺蟲の出し抜かれた絶叫も、フィースのいかれた歓声も、いきなりの行為に目を回すアインズには聞こえない。扉の外からも人とは思えぬ断末魔が轟いているが意識の外。視界いっぱいには無表情のシズが映る。

 自動人形ながら唇は柔らかく温かい。

 どうにか引き剥がそうとするが、レベル差もあるため無理に力を入れると傷つける恐れがある。そのため彼女の肩に手を置き優しく引き離そうとするが意味を成していない。

 その間にもシズの猛攻は続く。

 

「…ん、ちゅる」

「んんっ⁉」

 

【挿絵表示】

 

 容赦なくアインズの口腔内へシズの小さな舌が侵入を開始した。口を開けさせていたのはこのためかと今更ながらにどうでもいい回答を得る。

シズの舌は最初に歯列をなぞり、次いで歯茎の感触を確かめるようにつつき始める。押し出そうとアインズも舌を使うが暖簾に腕押し。柔らかい舌を口腔内から追い出すことはできず、却って舌同士が絡み合い「…ん」「…ふぅ」と艶のある声を上げさせてしまう。表情は変わらなかったが。

 

「…んン、ちゅ、じゅる」

 

 無表情ながら行為への熱中は増していき舌の動きが激しくなる。上顎をざらざらと刺激されくすぐったい快感を与えてきた。舌下腺を強制的に刺激され溢れた唾液を味わいつくす。シズが飲みきれなかった分がたらりと両者の口の端からこぼれて流れる。

見た目小さい子との濃厚なキス。背徳的行為に罪悪感と共にぞくぞくとしてしまう。

 

「…ん…っ」

 

 引き剥がそうとする腕から力が抜けていき、もはやされるがままのアインズ。シズの息遣いも荒くなり口腔の隅々まで凌辱され尽くす。

 

「…ぷはっ」

 

 永遠に続くと思われた接吻も唐突にシズが離れたことで終わりを向かえる。実際の時間は数分程度だろう。離れたことで、口と口の間を唾液の線が名残惜しそうに伸びて消えていった。

 呆然とするアインズと周囲をよそに、シズはべたべたになった口回りをさっと拭くとすたっとアインズの膝から降りる。

 

「…御馳走様でした」

 

 そのお礼はどうなんだと、突っ込む余裕も無いアインズへ一礼し部屋を出ていく。

 

 

 

「………」

 

 扉を開け出てきたシズへアルベド達は一言も発することができなかった。皆があまりの事態に目を見開き口を間抜けに開けて小さな実行犯に慄くのみ。

 そんな周囲へシズは表情を変えず、サムズアップと共に一言。

 

「…アインズ様の初めての相手はあなたたちではない、このシズだ」

 

 その言葉だけを残しクールに去っていくシズであった。

 嵐の去った後の静けさ、とでも言えばいいのか誰も言葉を発さない。こういった時は役職が上のアルベドが気を利かせて話し始めるものだが今はその余裕も無さそうだ。

 姉達は妹の情事を直視してしまった何とも言えない気持ちにむずむずする。しかもその相手は自分たちの想い人だ。

 

「…とんでもない、ダークホースでしたね」

 

 皆の中で早めに立ち直ったユリがどうにか当たり障りのない発言で口火を切る。

姉妹達もそれに乗っかり会話をつなげる。

 

「そうっす、ね。まさかあそこまでするとは…」

「ええ…あっ、シズの引いた紙が」

 

 するとナーベラルが一枚の紙が落ちていることに気付く。シズが去っていく際に、引いたくじを落としたのだろう。

 すでに終了した内容のためナーベラルが皆に見えるように掲げる。

 

“ベロチュウ元気でチュウ”

 

「……」

「……」

「……」

 

 そのまんますぎるお題に沈黙が支配する。

 

「…これを書いた子は後で説教ね」

 

 ユリが口元を引き攣らせつつ、そういえば匿名だから無理かと思い直す。

 

「…アルベド様?」

 

 ナーベラルがいまだに一言も発さないアルベド、シャルティア、アウラを不思議に思いつつ声を掛ける。三人はシズが去った後も姿勢を変えずに固まっていた。

 すると何の拍子だったのかアルベドとシャルティアが後ろ向きにばたんと倒れたのだ。

 

「ええっ⁉」

 

 三人分の絶叫が木霊する。すぐさま駆け寄り抱えるように抱き起す。

 二人の様子を見ナーベラルは口元を戦慄かせて悲痛な声を上げる。

 

「そっ…そんな…死んでる!!」

「いや、死んではいないっすよ」

 

 二人共先のあまりのショッキングな光景にショック死してしまったようだ。白目をむき泡を吹いている様子は哀れを誘う。そもそも片方はある意味最初から死んでいるが。

 

「…アーちゃん?」

 

 倒れた二人と違い立ったまま背を向けるアウラの様子に、ただならぬものを感じユリが恐る恐る声を掛ける。呼びかけに反応しなかったが聞こえてはいたようで息を一つ吐くとゆっくりと振り向いた。

 その顔を見た瞬間ユリは思わず息を呑んでしまった。貼り付けた表情はいつもの微笑。だがただ張り付けてあるだけでその下には激情が隠されているのは明白。

 もしその感情の赴く先がシズであるならばなにかしらのフォローが必要だとユリは焦る。

 そんなユリの気持ちを表情から呼んだのだろう、アウラは少しだけ表情を崩し苦笑した。

 

「大丈夫だよユリ、シズに対して怒ったりしてないから」

 

 淡々と語られる言葉には真実味があった。そして言葉通りならばシズではない何かに怒りを向けているらしいことも判明する。では彼女は何に対し怒りを向けているのか。

 

「許せないのは私自身。シズと同じで唇を奪うチャンスはあったのに実行できなかった甘さ…」

 

 握り込んだ拳がグローブにぎちぎちと悲鳴を上げさせる。正面に見据えた瞳には愚かな己自身が映っているのだろう。

 鬼気迫る様子に声を掛けることはできない。

 

「これを雪ぐ機会があれば、次は必ず…」

 

 青と緑に冷たく光る瞳に慄きつつ、アインズの貞操を脅かすとんでもない化け物が誕生してしまったのではと恐怖に身を竦ませるユリ。

 と、そこで先程死んだ顔芸と平野が目を覚ました。

 

「はっ、ここはどこ⁉私はアインズ様の妻!!」

「っ寝惚けんなよツノゴリラ!!」

 

 起きて早々変わらず喧嘩を始める二人に、少しは立ち直ったのかとほっとするメイド三人。しかし起きて呆けるのも数秒、すぐに先の光景を思い出したのか絶望の顔を浮かべ絶叫する。

 

「アっ…アインズ様のいと尊き御口唇が奪われたああああ!!」

「くぅう…初めてはわたしが頂こうと思っていたのに…」

「豊胸して出直しなさいカッツェ」

「何か言ったか剛毛ゴリラ」

「お二人共、お待ちをっ」

 

 再び言い合いを始めそうになる二人であったが、ユリの発した一言に争いを止める。

 ユリは驚愕の視線を執務室の中へ向けており、自然と皆がその先を追う。

 

「なっ⁉」

「アインズ様⁉」

 

 そしてユリ同様に目を見開く。

 執務室の中ではアインズが椅子に深く座り腕を組んでニヒルに笑っていたのだ。先の光景などなかったような余裕の態度に皆が憧憬の視線を向ける。

 

「さっさすがはアインズ様でありんす!!小娘のキスなどでは動じぬ泰然とした御姿!!」

「…きっと今迄幾度も御経験され百戦錬磨の実力…それはそれで複雑ではあるけど…」

 

 アインズの初めてを奪われたわけではなかったとほっとする一同。しかし過去に経験があるという事に対しては何とも言えない気持ちを抱いてしまう複雑な乙女心。結局はこれからが一番大事だと、どうにか折り合いをつけ無理矢理納得するのであった。

 一方のアインズ、なんでもないですよという表情だけを取り繕ったが、内心は当然に大しけだ。

 

「(キスされたキスされたキスされたキスされたキスされたキスされたキスされたキスされたっ!!!)」

 

 頭の中は先程までのアップになったシズの顔、これまでの思い出、創造主であるガーネットのことが頭をぐるぐると回っている。

 

「(初めてしてしまったっ!!)」

 

 そしてアルベド達の予想とは違いファーストキスであった。

 

「(…そ、そうだっ!!子供とのキスなんだからそんなに気にすることはない…意識している方が問題だっ!!)」

 

 キス、と呼べるほど生易しいものではなかったがそのことは頭から追い出し無理矢理納得する。考えていると舌に残った柔らかさと温もりを思い出してしまう。

 誤魔化すために被った表情を崩さずにゆっくり深呼吸することでようやく僅か落ち着く。

 

「(…それにしても)」

 

 人間だった頃、そしてこちらに来て人間になれるようになってからも含め初めてのキス。

 

「(初めての味はストロベリー味…)」

 

 そんな感想を抱き自分の口元をそっとなぞるアインズは十分に意識していた。

 

 

 

「それではアインズ様。御身にもっともドキドキして頂いたのは誰であったか、結果発表をお願い致します」

 

 最後に予想外の乱入もあったが無事にゲームは終了した。アインズに多大な心労を残して。

 締めとしてアインズより優勝者の発表がある。執務机に座るアインズの前には参加者の六名がずらりと並んでいる。シズは行為の後立ち去ってしまったためここにはいない。呼び戻そうと提案するアルベドへアインズが構わないと言ったため六人での発表となる。

 

「うむ…それでは発表しよう」

 

 居並ぶ女性陣は緊張に身を硬くする者、余裕の表情を浮かべる者、考えの読めない微笑を湛える者とそれぞれだ。

 さて、とアインズは考える。順当に行けばドキドキ、というよりはショックの度合いで言えば断トツにシズであったがここにはいない者を挙げるのも気が引ける。次いでアルベド、ルプスレギナあたりが続くかと考えるが、それぞれ違う意味で優勝者にするのは躊躇ってしまう。

 

「此度の優勝者は…」

 

 六対のじっと見詰めてくる視線、八肢刀の暗殺蟲の最後まで御守りするという気迫、フィースの結果がどうなるのかという緊張を受けて絶対的支配者は結論を出す。威厳ある振る舞いで、ローブを翻しながら右手を上げた支配者ムーブを添えて、高らかに宣言する。

 

「それは…お前達全員だ!」

 

 置きにいった。実に純日本人らしい締め方。できるだけ全方位へ角を立たせないようとする日和見主義の権化。

 だがその行為を責めるのは酷だろう。アインズの発言一つ間違えば大惨事になることは明白なのだから。

 

「………」

「………」

 

 静まり返る執務室。吐いた唾は飲み込めないとポーズを維持するアインズだが、内心は冷や汗に塗れている。

 通常の大会などならこんな中途半端な結果、暴動が起きるレベルかもしれない。果たして皆の反応はと心で固唾を飲む。

 

「…っありがとうございます、アインズ様!!」

 

 六人分の感謝が重なる。皆はきらきらとした瞳でアインズを見ており、中には涙を滲ませる者もいた。

 

「私達にあえて順位を付けず皆の努力を御認め下さる…まさに…まさに慈愛の御方!」

「その御優しさに包まれ私達は…私は幸せ者でありんすぅ!!」

「優勝できなかったのは残念ですが、その御気持ちだけで身に余る光栄です!!」

 

 いつもの如くアインズの行動を上方曲解するナザリッククオリティー。だが今だけはそれを利用し上手く事を収めようとしている。良心がずきずきと痛むがしょうがないことと自分を納得させる。

 

「う…うむ、皆実に私を楽しませてくれた。礼を述べよう」

「御礼など…勿体無い!!」

 

 何を言っても過剰に返ってくるため言葉選びも慎重にならざるを得ない。

 天井には八肢刀の暗殺蟲が集まり反省会を開いていた。シズに不覚を取ったことがよほどショックだったのか、「また一から鍛えなおしだな」や「俺たちの戦いはこれからだ」といった会話が聞こえてくる。彼らは非常に頑張ってくれたので後で必ず労おうと心に誓う。

 後ろではフィースが涙をはらはらと流しながら大きな拍手をしていた。「どんな感情⁉」と思うアインズだが言葉にすることはぐっと堪えた。

 するとフィースの拍手につられたのか皆が拍手喝采を始める。

 

「さすがは…さすがはアインズ様ですっ!さすアイ!!」

「御身の愛に満ちた御言葉…もはやそれこそ音の御カズ!!」

「いつかきっと御身の御子を宿して見せます!!」

「普段は穿いてるんです!!本当なんです!!」

「いつ夜伽を命じられてもいいよう準備は怠りません!!」

「永遠に我らの上に君臨し調教してください!!」

 

 六人中六人が狂ったことを口走った気がするがきっと気のせいだ。興奮のあまり言葉の選択を間違えたのだろう。

 皆の称賛を浴びつつ、主人の振る舞いとして鷹揚に頷く。

 なんだかんだと凄まじい心労を伴ういかれたゲームであったが、皆の喜ぶ顔が見られたのなら悪くなかったのだろう。というよりそう思わなくてはやっていられない絶対的支配者。

支配者の偶像を装い弱音を隠す。本音を零すのは心の内だけに。

 

「(皆さんから預かった子供達…性の反抗期です…)」

 

 愛するナザリックとシモベ達だが、最近の変化には恐怖しか抱かないアインズであった。

 

「ちなみに第二回もすでに予定しております!まだ引かれていない案もありますしね♡」

「えっ」

 

 

 

 ナザリック第九階層。そこの廊下を執務室へ向かい一人のメイドが歩いている。急ぎつつ、されど不作法にならない程度の早歩き。

 

「(名誉あるアインズ様当番で遅刻なんてできないからね)」

 

 心の中でそう呟くのはメイドの一人であるシクスス。現在アインズに付いているフィースとそろそろ交代の時間になる。時間に余裕はあるが万が一にも偉大なる主を待たせてはいけないと心が急く。そしてなによりアインズ様当番という仕事が彼女の心を弾ませその足取りを自然と速めていたのだ。

 現在アインズはアルベド達と何やらゲームのようなものを行っているというのは耳にしている。そんな大きなイベントの時にアインズ様当番に就けるフィースが心底羨ましい。

はっとして僅か頭に浮かんだ邪念を、頭を振って追い払う。どんな時であろうと誠心誠意職務を全うするのが自分達メイドの仕事だ。

 

「ん…?」

 

 シクススは廊下の向こう、執務室側から向かってくる人影に気付いた。すぐに小柄なその人物の正体に気付く。

 

「シズちゃん!」

 

 あまりここで会う事のない、アイドル的存在であるシズに会えたことに彼女は笑みを深めた。呼びかけが聞こえなかったのか俯いたまま反応のないシズへ再度声を掛けようとする。だがそれは言葉となる前に止まった。いつもとは違う彼女の様子に。

 

「シズちゃん…?」

 

 思わず立ち止まってしまったシクススへ、シズがとことこと歩いてくる。ゆっくりと両者の距離が近づきおおよそ数歩の距離になった際に再度呼びかける。その言葉には反応があり、俯いたままであったがシズは歩みを止めた。

 

「あの…シズちゃん、大丈夫ですか?」

「………何が?」

「いえ、その…何というか…」

「………問題、ない」

 

 そう言うと、これ以上の問答は不要とばかりにすたすたと先程よりも早く歩き去り、すぐに廊下の向こうへと姿が見えなくなった。

 いつもと様子の違うシズへ心配そうな視線を送り、シクススが困惑したように呟く。

 

「シズちゃん、大丈夫かなぁ?お顔が真っ赤だったけど…」

 

 少しの間シズの消えた廊下の先を見ていたが、あまりもたもたしていてはアインズ様当番に遅れてしまう。本人が大丈夫と言っており、また本当に具合が悪ければ自身でアインズやペストーニャへ言うだろうと納得することとする。

 シクススは偉大なる主が待つ方へ歩みを再開した。

 

 

 

 先日変態三人娘に全裸が乱入する形で大騒ぎになったBARナザリック。そこにマスターを除き二人の人物がいた。

 

「———ということがあってなぁ」

 

 一人はナザリック地下大墳墓の絶対的主人、アインズ・ウール・ゴウン。酒を嗜むため人の姿を取っており、衣服はいつもの豪奢な魔導服ではなく動きやすいローブを着用している。前の世界ではそこまで好んでアルコールの摂取をしてこなかったが、こちらで人になれるようになってからはシモベとのコミュニケーションの際などバーを利用する機会が増えていた。なによりナザリックの飲食は非常においしい。

 

「それは、なんというか…姉が本当にすいません…」

 

 もう一人は第六階層守護者の片割れ、マーレ・ベロ・フィオーレ。アインズのすぐ横の椅子に腰かけ申し訳なさそうに身を小さくしている。話の内容は先日のアインズとアルベド達のゲームの内容。アインズは一部ぼかしつつではあるがその時の一連の流れを、愚痴を交えつつマーレへ零していた。

 

※Tipsマーレ:ナザリック地下大墳墓第六階層守護者。年齢を重ね成長しスカートではなくズボンを穿くようになった。ナザリックの(比較的)良心②。レイパーと化した姉や同僚たちの行動に心労が絶えない。

 

「ああいや…マーレを責めているのではないから謝るな」

「いえ、姉の不始末は弟である私の責でもあります」

 

 相も変わらず真面目なマーレに苦笑しつつ、もっと砕けてもいいのになあと心中で呟く。

 比較的昔の性格を残しているアウラと違い、マーレは随分と大人びた印象がある。何時の頃からかスカートや一人称の僕もやめている。

 

「もしまた姉やアルベドさん達に襲われたらいつでも御呼び下さい」

「ああ…その時はお願いしようかな」

 

 お互いに酒はそこまで得意ではなく、舐めるようにちびちびと味わう。グラスの音が時折響くだけの静かな時間。しかしそこには気まずさはなく穏やかな雰囲気が漂っていた。

 マスターであるクラヴゥはグラスを磨きつつ、これがバーの正しい姿だと心の中で歓喜していた。先日の変態や全裸の客は忘れてしまおうと記憶から消去する。

 少しの間続いた静かな時間。マーレも耐性を切っているためアルコールに頬を赤らめ徐々に緊張がほぐれる。自然と隣に座るアインズへ肩が触れそうな程近寄っていたがアインズも本人も気付いていない。知らない者が見たら寄り添う恋人のように思うだろう。

 

【挿絵表示】

 

「…アインズ様」

「ん?」

 

 状況も手伝ったのだろう、マーレは普段であれば聞かないであろう質問を口に出す。

 

「アインズ様は姉さんや、アルベドさん達のことを…どう思っていらっしゃるのですか?」

 

 言葉を終えた瞬間にはっとする。シモベとして明らかに度を越した質問であると考えたためだ。

 しかしそれはマーレがここ最近確かに考え始めていたこと。姉達は行き過ぎた変態行為もあるが、アインズへ向ける恋慕は本物。対してアインズは基本的に躱す対応を取っている。

 絶対的支配者であるアインズがどのような対応を取ろうと問題はない。ナザリックにおいてはアインズの行動すべてが正しいのだ。だがもしアインズが本当に女性陣の行為に迷惑しているのなら、止めるよう命令すれば済むはずだ。単純にはっきり拒絶することで傷つけないようにする優しさの可能性もあるが。もしくは、アインズの気持ちにまったく脈がないという事はないのではないか、とも考えてしまう。無論一番に優先されるのはアインズだが、チャンスがあるのならば大切な姉や仲間たちの想いも叶ってほしい。マーレの善性からもたらされる感情であった。その気持の本質は他者への為の物だけではなかったが今は関係のない話。

 マーレが慌てて言葉を撤回し謝罪しようとするより先にアインズが言葉を発する。

 

「うむ…皆大切な存在、というのは聞きたい内容ではないのであろうな」

 

 顎に手を当てて少しだけ考え込む仕草を見せる。今更の撤回は逆に失礼だろうとマーレは聞く姿勢で待つ。

 

「…アルベド達が向けてくれている好意は、素直に嬉しく思う。度が過ぎていることもあるがな」

 

 考えながら発せられる言葉はゆっくりとしたものであった。アインズは先日のアルベドとのやり取りを思い出しつつ思考を動かす。

 

「そして私自身、彼女達を…異性としても愛しているのだろう」

 

 はっきりと言葉にされマーレはどきりとした。アインズの頬は軽く赤らんでいたが、真面目な顔を崩すことなく手に持ったグラスへ視線を注いでいる。その様子から僅かながら主もアルコールが回っていることが窺える。

 

「だが…情けないことに私は皆を受け入れるだけの気持ちができていない…これ程待たせてしまっているのにな」

「アインズ様に情けないことなど…」

 

 自嘲気味に呟く主へ思わずマーレは言葉を発してしまう。主が自分達ナザリックのシモベをどれほど大切に想ってくれているかは、永い時の中で十分に伝わっていた。アルベド達の気持ちに答えないこともきっと理由があるのだろうと容易に推察できる。

 

「ありがとうマーレ。だが私は変わってしまう事を恐れ続けていた本当に情けない男なのだ…あの世界にいた頃から全く成長していない…」

 

 そんなことはないと叫びたくなるマーレ。だがアインズはマーレに話しかけているというよりは己自身に言い聞かせているように見えたため、話を止めることを躊躇してしまう。

 するとアインズはグラスへ向けていた視線をマーレへ向けた。少しだけ苦みを持った微笑を浮かべている。漆黒の瞳は微かに揺れていた。

 

「だがな…このままではいけないんだ…私も変わっていかなくてはいけない」

 

 ふいにアインズの手がマーレの頭に乗せられた。「…大きくなった」と一言呟き子供の頃にしていたようにゆっくりと優しく撫で始める。その温もりを、目を細めてうっとりと享受するマーレ。

 

「もう少しだけ今のナザリックでいさせてくれ…そうしたら私も必ず…」

「…アインズ様?」

 

 消え入りそうなアインズの声に思わず声を掛けてしまう。

 少しの間瞠目したアインズだがゆっくりと目を開ける。そして次の言葉を発しようと口を動かしかけた時———

 

「ここにアインズ様がいらっしゃるのね!」

 

 BARの外、扉の向こうから聞き間違えるはずのないアルベドの声が聞こえた。

 驚きと共に目を合わせて扉の方へ視線を向ける二人。マスターは心で「うわっ」とげんなりしている。

 

「それは確かな情報なんでありんしょうねぇ、アルベド?」

「ええ、アインズ様とマーレがここでお酒を飲んでいるっていうタレコミがあったわ!!酔った勢いで既成事実を作るにはうってつけね!!」

「それにしてもマーレったら、アインズ様を酔わせてナニをするつもりなんだか。後で説教ね」

 

 中に聞こえているとは思っていないのだろう。色々と遠慮の無い会話が筒抜けだ。

 口を開け呆けた顔をするアインズ。眉間にしわを寄せて頭を抱えるマーレ。今度からあいつら出禁にできねえかなと悩むマスター。

 扉の外の喧騒は続く。

 

「待てぇ~い!!」

「あっあなた達は掘られ隊の三馬鹿トリオ!!」

「変態三人娘に言われたくないですね!!」

「まさかそっちも…」

「無論、父上がこちらにいると聞いたものでねお嬢さん方」

「それで、何しに来たでありんすか!」

「セッバッバッバ!我ら掘られ隊の望みは一つで御座います」

「いや笑い方きしょ。あと服着ろ」

「アルコールに酔ったアインズ様を介抱…そしてなし崩し的にアルコホールエイナルコンバインで融合に持ち込むのです!!」

「何てっ⁉」

「それを聞いちゃあ黙っていられないわね…アインズ様と泥酔愛液キャッチボールをシュートするのは私達よ!!」

「何てっ⁉」

「どうやら退く気はないようですねぇ…」

「こっちのセリフでありんす!」

「よろしい、ならば戦争だ」

「戦闘は禁止されているわ…どう決着をつける気?」

「ふっ…ここは正々堂々じゃんけんといきましょう」

「しょぼいっ!!」

「私のチョキが火を噴くわよ」

「手を教えるな馬鹿っ!!」

「ならば私のパーがお相手しましょう」

「負けじゃねぇか馬鹿っ!!」

 

 外から聞こえてくるあんまりな会話。マーレは深い深いため息をつき、姉や同僚の行いを謝罪しようとアインズへ目を向けた。先程まで呆然としていた主だが、今は俯き手の甲で目元を覆い、口元を引き結んで体を僅かに震えさせている。

 もしや外の連中のせいで不敬をかい御怒りになっている、と顔をさっと青くするマーレ。

 しかしその心配も一瞬。

 がばっと起き上がったアインズは天を仰いで笑い始めた。

 

「ふっ、ふふ…あははははっ」

 

 その笑いの意味はマーレには分からない。だがその表情はどこまでも澄んでおり、不敬ながら無邪気な少年のようだと思った。

 

「…ふふっ…ふう」

 

 笑いが収まったアインズは呼吸を整えるように息を吐く。

 そしてマーレへ改めて向き直り苦笑と共に言葉を告げる。

 

「すまんなマーレ、外の騒ぎを止めてきてくれるか」

「はっ、畏まりました!」

 

 主からの命にすぐさま行動を開始しようとするが、アインズから少し待てとストップがかかった。椅子から立ち上がった姿勢で不思議そうにアインズを見ると、目を細め優しそうに微笑んでいる。

 

「騒ぎが収まったら連れて来てくれ。それとコキュートスにも連絡を。 たまには皆で飲むのもいいだろう」

 

 アインズの言葉に一瞬きょとんとするマーレだったが、すぐに同じように微笑んで返事を返す。

 

「はい、アインズ様!」

 

 そうして、マーレは未だ騒ぎがやまない外への扉を力強く開くのだった。

 

 

 

———蛇足

 

「ふぃ~…」

 

 スパリゾートナザリック、その中の風呂の一つに人影があった。頭にタオルを乗せ湯船に背を預けてゆったりと寛いでいる。健康的な小麦色の肌は湯に濡れ逞しい筋肉を強調している。風呂場でも何故かつけている眼鏡は曇っており視界を曖昧にさせるが、それすら醍醐味だとそのままにしていた。

 

「風呂はいいですね、御方の生み出された文化の極みです」

 

 人影の正体はナザリック地下大墳墓第七階層守護者のデミウルゴス。瞠目し熱を吐き出すように息を吐く。普段の彼から比べれば大分リラックスした姿を晒していた。

 

「しかしあのビッチ共」

 

 ところが突如眉間にしわを寄せたかと思うと拳を握り込み怒りに震わせる。思い起こすのは先日アルベド達がアインズに仕掛けた催しのこと。奴らの策略にまんまと引っ掛かり止めることができなかった。掘られ隊の他二人もあえなく撃退されてしまったと聞いている。最終的にはシズの独り勝ちでアインズの貞操は守られたとのことだが、一歩間違えれば過ちが起こってもおかしくはなかった。

 今後はより一層警戒を強めなければと気合を入れる。

 

「おや、デミウルゴス殿も来ていたのですか」

 

 すると扉が開く音と共に声を掛けてくる者がいた。

 

「パンドラズ・アクター、あなたも来たのですか」

 

 現れたるは宝物殿守護者のパンドラズ・アクター。肩にタオルをかけ堂々とイチモツを晒す漢スタイル。

 自身と同じスタイルに僅か親近感を覚えると同時、ドッペルゲンガーながらナニはしっかりあるのだなと妙な関心を覚える。

 パンドラズ・アクターはきちんと身を清めるとデミウルゴスの隣へゆっくり腰を下ろして体を温め始めた。

 

「ふぅ…疲労が溶けていくようです」

 

 頭にタオルを乗せ寛いだ声をだしているが表情は無表情な埴輪顔であるためセリフがどこかわざとらしく聞こえてしまう。

 

「頭にでかいこぶがありますが、何かあったのですか?」

 

 パンドラズ・アクターの後頭部には大きな膨らみがあり絆創膏がばってんに張られている。髪の毛もない頭では大いに目立つためデミウルゴスも当然疑問を覚えた。

 

「ああ…これは少々不覚を取りましてね。何も聞かないで頂けますか」

 

 視線を明後日の方向へ向けてふうと溜息を吐く。表情がないため非常に分かりづらいが落ち込んでいるらしい。掘られ仲間の珍しい姿にそれ以上は何も言えなくなってしまう。

 自然と会話が止まるが気まずさはない、湯につかった心地よさでぼんやりとした思考。適度な距離感でこの極楽を味わう者は同士なのだ。

 お互いにのんびり湯につかる時間が少し流れた頃、再び脱衣所からの扉が開いた。

 

「呼ばれず飛び出てセバババーン♪おや、お二人共奇遇ですな」

 

 なんの偶然か、現れたのは掘られ隊を代表する三人目、セバス・チャンその人であった。

 はち切れんばかりの筋肉を惜しげもなく晒し堂々としてはいる。だがなんとタオルを腰に巻いているのだ。

 

「いやお前は隠すなやっ!」

「普段より着てるじゃないですかっ!」

 

 思わず男二人、浴槽から立ち上がりツッコミを入れてしまう。普段は全裸で奇行を繰り返す露出狂が腰にタオルを巻いているという事が信じられないようだ。

 

「ほう、私のビッグマラーが見たいのですか?」

 

 とんでもない勘違いにイラッとする二人。

 

「アインズ様以外の男根など無価値!」

「それにそんな大したものじゃないでしょう、早く脱いだらどうです」

 

 実際、ナザリックに属する者は野郎の逸物などある御方一人のものを除き見たくはない。だがでかいなどと自称し隠されているのは気持ちが悪かったため脱タオルを促す。

 

「この年でストリップか、血沸く血沸く♪」

「はよ脱げ」

 

 実際にタオルを取ったセバスの逸物は大きかった。

 パンドラズ・アクター同様に体を洗ったセバスは、デミウルゴスを挟みパンドラズ・アクターと逆サイドに腰を下ろした。その時の振動が波紋として二人の肌を淡く打つ。

 普段はいがみ合うこともある面子だが風呂では皆がリラックスした穏やかな雰囲気が流れている。

 しばしゆっくりとした時間が流れた後、最後に入浴したセバスが飛沫を上げないようゆっくりと立ち上がった。もうのぼせたのかと視線を向けてくる二人へ漢らしい笑みを浮かべる。

 

「ここいらで私目のセバスイムをお見せしましょう」

「やめろ」

 

 唐突に意味不明な事を言い放つ変態を真顔で切って捨てる。

 

「何が悲しくてあなたの泳ぎなんて見なくてはいけないのですか。冗談は髭と奇行だけにして下さいよ」

「第一そんなことをしたらマナー違反と取られるかもしれませんよ」

 

 そう言ってちらりとライオン型ゴーレムへ視線を向けるパンドラズ・アクター。その視線を追ってふむと納得と共に溜息を吐く。

 

「むう…残念無念。では湯で温まった身体をセバストレッチでほぐすので見ていて下さい」

「なぜ見せたがる」

「無論私とてアインズ様に御覧になって頂きたい。ですがその前の予行演習も必要でしょう」

「汚物を見せられる私達の気持ちは?というかアインズ様にそんなものを見せるな」

 

 そんなやり取りをしている間にもセバスは湯船から出てすぐに石畳の上で己の体をほぐし始めた。勿論タオルは巻かず頭の上に置いてあるので逸物はフルティンコだ。

 

「いかがです?この逞しさだけではない柔軟性、アインズ様も掘りたくなること間違いなし」

 

 発言に思うところのある二人だが、確かにその体は極限まで鍛えられているというのにしなやかさも兼ね備えた恐るべきどスケベボディー。溢れる胸毛と流れるように茂るギャランドゥのコントラスト、湯上りに上気し汗と共にフェロモンをまき散らす危険なフレグランス。ある種の美が顕現していた。

 だがすでに想い人のある二人には何の意味もなさない。

 

「はんっ、とんだセバスケベですね」

「こんな奴はセバスルーです、ぷいっ」

「セバすげぇショック」

 

 時間の無駄としか思えない会話が一旦落ち着いてきたタイミングで、デミウルゴスは浴室からの扉を気にしつつ真面目な顔を作り他の二人へ話しかける。

 

「ところでこの時間に三人が集ったのは偶然ではないですよね?」

 

 眼鏡を光らせながらのその静かな問いに他の二人もぴたりと動きを止めた。

 

「おやおや、なんのことか分から———」

「誤魔化しはこの場に不要、違いますか?」

 

僅かな間の後パンドラズ・アクターは首を振りながら返答しようとするが、デミウルゴスに言葉の途中で遮られる。その様子にパンドラズ・アクターだけでなくセバスもこれ以上の隠し立ては無駄と悟り深く頷く。

 その様子を満足そうに眺めつつデミウルゴスは本題へ切り込む。

 

「本日この時間、アインズ様が御入浴為されると情報があった。あなたたちもどこからか入手したようですね」

 

 そう、普段から時折入浴目的でスパリゾートナザリックを使うこともあったデミウルゴスであったがこの日は明確な目的があった。

それはデミウルゴスがナザリック内に張り巡らせた情報網(使用目的は主にレイパーからアインズを守護するため)から入手した。アインズの独り言をアインズ様当番のメイドが聞いたことから伝わってきた吉報。先の発言の通りこの時間アインズがスパリゾートナザリックへ入浴に来るというのだ。しかも偉大なる主は人の体を手に入れてからというもの入浴は人間の状態で行っている。つまりこの場では主は身に纏った衣を脱ぎ捨ててその玉体を御晒しになるということ。

 温泉で偶然会うのならそこにはやましい思惑などない。そう、偶然拝謁させて頂くというだけ。

 つまるところデミウルゴスの、彼らの狙いは———

 

「あなたたちも為しに来たのでしょう…Looking御ティンポを!」

 

 ニヤリと笑う二人に最早確認は不要。三人は共通の目的を持つ同士。

 偶然を装い風呂場に現れるアインズの逸物に拝謁させて頂く。それこそがLooking御ティンポなのだ。あわよくば掘られたい放題ハッテンパラダイスも視野に入れている。

 ならばこの場でこれ以上の言葉は不要、温泉に仲良くつかりその時を待つ。

 するとカラカラと脱衣所からの扉が控えめ音と共に開く。三人同時にくわっと目を見開きそちらへ顔を向ける。

 

「えっ、何ですか急に?」

 

 浴室に現れたのは皆の期待とは違いアインズではなかった。突然向けられた刺すような視線に困惑の声を上げている。

引き締まっていながらその体はすらりと細くどこか中性的。褐色の肌は男性とは思えないほどきめ細かく美しい。タオルを片手で胸元から垂らし局所を隠すさまは危険な色香を孕んでいる。ナザリック第六階層守護者マーレ・ベロ・フィオーレが居心地悪そうに立っていた。

 

「はぁ…マーレですか」

「Shit!!」

「セバすげぇがっかり」

「パターン増やせや」

 

 なんだこいつら、と悪態をつきたくなったマーレを誰が責められるだろうか。温泉に入りに来ていきなり視線を向けられたかと思ったら溜息と共に落胆されたのだから。

 

「まあ、あなたもゆっくりしていったらどうです?そこに突っ立っていると風邪をひきますよ」

 

 投げやりに放られた言葉にさらにイラっとしたマーレだが深呼吸を一つ、どうにか落ち着きを取り戻す。

 変態三人衆のことは気にしないようにして、体を洗い湯船へ向かうマーレ。本人にその気はないだろうが、一連の動作中も男性すら魅了してしまいそうな妖艶さを纏っている。だがこの場にいる他の三人はガチだったので特に反応を示すことはない。

ところがもはや興味を失っているかと思われたセバスがマーレへじっと視線を向けている。

 

「マーレ、タオルでマラ隠しとは男らしくありませんぞ」

「…温泉にはつけないから大丈夫ですよ」

 

 セバスの問いへすげなく答え三人のいる湯船とは少し離れた温泉にゆっくり浸かり始める。当然マナーとして体を隠していたタオルは外しており、その際も体の前面は三人へ向けないようわざとらしくない範囲で隠していた。

 

「ふむ、どうやらマーレはそこまで大きくないようですね」

 

 デミウルゴスが顎に手を当てマーレの行動の真意を推し量る。そこには揶揄いの響きはなく、将来恋のライバルになりえるかもしれない男の戦力を冷静に分析する強かさが含まれていた。

 下世話な話もマーレの聴覚にはしっかりと届いていたが目を閉じ口元まで湯につかり聞いていない振りをする。

 

「いや…ちょっと待ってくださいお二人共」

 

 パンドラズ・アクターが何かに気付いたように二人へ振り返った。その拍子に上がった水飛沫は彼の気持ちを代弁しているかのよう。

 

「マーレ殿も狙っているのではないですか…Looking御ティンポを!!」

「なっ⁉」

 

 衝撃に固まってしまう。

 一見無害そうに見えるマーレだがもし彼もアインズを狙っているのだとしたらかなりの脅威となるだろう。今後の掘られ隊の活動方針も考え直さなくてはいけなくなるかもしれない。

 三対分の驚愕の視線を向けられる当の本人は僅か顔を赤くしつつも聞いていない振りを続ける。というのもマーレがこの時間に入浴したのも三人と同じアインズが来るかもしれないという情報を得たからだった。しかし三人のようにLooking御ティンポという狂気の沙汰のような目的の為ではない。偶然アインズと一緒になればその背中を流させて頂けるかもしれないというちょっとした下心の為。

 湯に浸かりながらもアインズの御背中に触れられるかもしれないという妄想にのぼせ、三人同様主の来訪を待ち始めるマーレであった。

 

 

 

 同時刻、場所は変わりスパリゾートナザリックの女湯、そこには三人分の人影があった。

 

「そろそろ予定の時間よ、気を引き締めなさい」

 

 ナザリック地下大墳墓守護者統括であるアルベドが気合を込めつつも静かに呟くように話しかける。

 

「分かっているでありんす!あんまり動くとバランスを崩すからちゃんと支えてくんなまし」

 

 返答するシャルティアの声がアルベドの上から掛けられる。

 さらにはアルベドの下からも不満そうな声が上がった。

 

「重い~…アルベド太った?」

「なっ⁉失礼な!それはマッソォよマッソォ!」

 

 アウラからの指摘に心外だと言わんばかりに言葉を返す。

 そう、その場にはナザリックの誇る変態三羽烏、アルベド、シャルティア、アウラがいた。それ自体は何もおかしなことは無い。場所は女湯であり定期的にここを利用している三人が同時にいることもあるだろう。問題は彼女達の行動、素直に入浴し温泉を満喫しているのならば問題はなかったのだが。

 三人は入浴もせず男湯と女湯を隔てる壁の近くにいた。そしてただ立っているだけではない、三人がかりで壁に向かって肩車を行っていたのだ。下からアウラ、アルベド、そして一番上にシャルティアの順。その様相は不審者どころではない、三人ともタオルを巻いて局部を隠しただけの扇情的な姿だが行動がすべてを台無しにしていた。

 

「くうぅ、この壁の向こうにアインズ様がぁあ!!」

「情報だともう御入浴されているはず、踏ん張りなさいシャルティア!」

「あんまり遅いと私達の時間が無くなるんだから、早くしてよ」

 

 三人の奇行の目的は明白、男湯の覗きである。デミウルゴス達同様、アインズ入浴の情報を得たためその玉体を拝見させて頂こうと集まったのだ。

 入念に探したが残念ながら覗き穴の類は見つからなかったため、こうして直接的な方法で覗きを敢行するに至った。

 仕組み上、一人ずつしか覗けないためじゃんけんで順番を決め見事勝利したシャルティアが一番手を得たのだ。

 

「も、もう少しなのにぃ…手が届かないでありんすぅ!!」

 

 だが三人の身長を足してもその壁は大きく立ちはだかった。もはや肩車を超え足を肩に置いたスタイルへ変更、更にシャルティアが手を伸ばしてもあと僅か届かない。アルベドの肩に爪先立ちになりながらも懸命に手を伸ばす。

それはこの先の楽園の為。

 愛しく偉大なる主の一糸纏わぬ玉体、それを網膜に焼き付けて行う今夜の御ナニーは果たしてどれほどの悦楽となるのか。まだ見ぬ極上の御カズを妄想しこんな時だというのにうっとりトリップするシャルティア。だらしなく涎を垂らし両手が意思とは関係なく下腹へ伸び始める。

 

「シコるな!!シコれば手が塞がる!!」

「っ⁉」

 

 そんなシャルティアの痴態をアルベドが下から一喝する。

 はっとして我を取り戻すシャルティア。こんな時だというのに自分は一体ナニをしようとしていたのか。

 アルベドとしても時間のないこの状況、さらには真下に己がいる中発情され潮の一つでも吹かれたらたまったものじゃない。

 

「それは今夜に取っておきなさい!!為すのでしょうシャルティア、Looking御ティンポを!!」

 

 そう、彼女達の目的も男衆同様アインズの逸物への拝謁。そも偉大なる主が入浴するというのにLooking御ティンポを目的としない者がいるのだろうか。

 

「そうだったわねアルベド…ごめんなさい目的を見失っていたわ」

「ふっ、こういう時はありがとうって言うものよ」

「どうでもいいから早くしてね~」

 

 普段はいがみ合おうとも今は目的を共にする仲間。友からの激励に我を取り戻したシャルティアは先程よりも勢いをつけ手を伸ばす。

それでもまだ足りない。主への道のりは困難で険しい。こんな時ばかりは己の矮躯が恨めしい。

 

「くっ…」

 

 あと少しだというのに、だが諦めるという言葉は彼女になかった。己の為、友の為、今夜の御カズの為、持てる力をすべて使う。

 するとなんということか、シャルティアの体が先程よりも上に上がった。シャルティアは驚愕と共に下を見る。なんとアルベドがシャルティアの足を、アウラがアルベドの足を掴み持ち上げたのだ。一気に上昇し壁の上部へ手が掛かる。

 

「ア…アルベド、アウラ…」

「行きなさいシャルティア!誰かの為じゃない、あなた自身の欲の為に!!」

「シャルティア良い旅を」

 

 アルベド、アウラからの想いを受け取りシャルティアは滲んだ涙を切って上を向く。そして壁に掛けた手に力を入れ全身を持ち上げた。

 スパを知ってからずっと、彼女の前にはうっとうしい壁があった。

 

「これが」

 

 それを見たものはこの世で一番の御カズを手に入れた者。

 

「御カズだ!!」

 

 そしてとうとう視界に入れる男湯の全貌。彼女の瞳も興奮に深紅に染まる。

 

「———⁉」

 

 何かむさい声が聞こえた気がしたが、そんなものは無視し愛しき主を求める。

 辿り着いた彼女の網膜に飛び込んできたのは———

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 互いの視線が絡み合う。そこには彼女の楽園は無かった。

 覗くシャルティアに気付いたのだろう、三人の男が警戒のため立ち上がり身構え身体を向けている。そして勿論温泉なので全裸。

 そこにいたのはデミウルゴス、全裸、すごく大きいです。パンドラズ・アクター、全裸、Grober penis。セバス、常時全裸、セバすげぇ巨根。

 三人分の三本マラがばっちりと目を犯す。

 固まったまま動かない両者。永劫にも思われた静寂は実際には数秒だろう。そして時は動き出す。

 

「っきゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!!?」

「うぐわああああああああああああああああああああああああああああああ!!⁉」

 

 黄色い悲鳴を上げる男衆、淑女らしからぬ悲鳴を上げるシャルティア。

 男三人は恥ずかしそうにタオルと腕で局部と何故かバストトップも隠しつつ、身体を視線から逃すように温泉へ浸かった。デミウルゴス達から離れた位置ではマーレが我関せずと目と耳を閉じている。

 絶叫したシャルティアは悲鳴と共に精神的に潰された両目を押さえ大きく身悶える。

 

「ちょっとシャルティア!そんなに動いたらっ⁉」

「崩れるって!!」

 

 てっぺんにいるシャルティアが大きく動いたことで、もともと不安定だった女三人がかりの肩車は容易にバランスを崩す。危険と察知したアルベドとアウラはさすがの身体能力ですぐに横へ避けた。だが目をやられているシャルティアは重力に任せ自由落下をして背中から地面に叩きつけられる。

 どごんと凄まじい音を立て後頭部も石畳へ強打したはずだが、そんなものは全く気にならないようで両手で目を押さえている。

 

「目がぁぁ~!目がぁぁぁぁあっ!!」

 

 どれほど悍ましいものを見ればこれほど苦しむというのか。

 落ちた衝撃で巻いていたタオルははだけ二つの平野、胸部のカッツェ平野と秘所の無毛地帯をおっぴろげに晒しているというのに、目を押さえ続けもがき苦しむ。

 

「シャルティアっ!!一体ナニを見たっていうの⁉」

「壁の向こうに御カズはあったの⁉シャルティアっ!!」

 

 地に倒れた仲間を心配しアルベドとアウラが左右から抱える。

 シャルティアは呼吸を荒くして何か譫言を呟いていた。最後の遺言かもしれないと顔を近づけ音を拾おうとする。

 

「…ル…」

「何⁉聞こえないわ」

 

 微かな言葉が耳に届く。一言一句を聞き逃すまいと全神経を集中する。徐々に呼吸を弱くしたシャルティアは最後の一息を友への言葉として使った。

 

「…Looking…汚ティン…ポ…」

 

 力を振り絞ったであろうメッセージは確かに二人の鼓膜を揺らした。同時にシャルティアの体からがくりと力が抜ける。

 

「…シャルティア?…そんな…シャルティアァァアア!!」

「…うう…シャルティアァ…ある意味最初から死んでるようなものだけどぉ!」

 

 女二人、普段はいがみ合うこともある友に対し涙を流す。

 すると壁の向こう、男湯の方から言葉が届く。

 

「んも~、覗きなんて失礼しちゃうわ!!」

「とんだ破廉恥野郎ね、Fuck!!」

「セバすげぇお冠!!」

「ボキャ貧」

 

 それはシャルティアへのチン魂歌。

 おおよその事態を把握したアルベドとアウラは友へ合掌を送った。

 

 

 

 スパリゾートナザリックへ続く扉の前、第九階層の廊下でインクリメントは主であるアインズを待っていた。

 するとがらりと扉が開き偉大なる主が出てくる。

 その様子を内心で不思議に思うインクリメント。主がスパリゾートナザリックへ入ってまだそれほど時間が経っていない。今の時間だけでは着替えだけで終わってしまうのではないだろうかと。髪なども濡れている様子がない。

 しかし主に仕えるメイドとして疑念を挟むことなどできない。ただ付き従うのみだ。

 

「ああ…湯には入っていなくてな。それで早くなった」

 

 インクリメントの表情から疑問を読んだのだろう。アインズが先回りで質問に答える。

 己の気持ちを顔に出してしまっていたかとメイドとして恥ずかしくなるが、その羞恥も顔には出さないよう注意して頭を下げる。

 

「左様で御座いましたか」

「先客がいてな、私は時間を置いて入るとしよう」

 

 偉大なる主が遠慮などする必要がないと考えるインクリメントだが、その主がそうするというならば意見することはできない。湯上りのアインズの姿を是非御カズにさせて頂こう、あわよくば脱いだ衣服を…などと考えていたことはおくびにも出さない完璧なメイド。

 

「御着替えの準備はまた後程、別に致します」

「…うむ」

 

 インクリメントの言葉にどこか疲れたように返答する。

 アインズは温泉に疲れを癒しに来たのだが、いざ脱衣所に入ったタイミングで浴室から聞こえてくる狂った会話を耳にしてしまった。そのため何も聞かなかったことにしてそっと退いて来たのだ。

 第九階層の廊下をナザリックの絶対的主人が歩き、その後ろをお付きのメイドがついていく。

 すると突如アインズが立ち止まり遠くへ視線を向けた。後ろにいたインクリメントはどこか哀愁漂う主の背中に何も言えない。

 遠い目をして透明な笑みを浮かべたアインズは、メイドに聞かれぬよう口の中だけで言葉を転がす。

 

「ナザリックは今日もやべぇ」

 




 本当は1~2万文字くらいのショートギャグにしたかったのですが少し長めになってしまいました。御読みいただいた皆様に少しでもくすりとして頂けたら無上の喜びに御座います。
※いつも誤字報告本当にありがとうございます。「固唾を飲んで」は気付かない内に何度も使っていてお恥ずかしい限りです。
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