裏ダンジョンに二人のプレイヤーが侵入した。
25層ボスは半年以上前に討伐されており、二人も25層迷宮区を難なく突破できるだけの
安全マージンは確保していた。
しかし、その裏ダンジョンは第50層ボスが討伐されたときに出現したものであり、
ボスの攻略難易度が第50層相当であることを、二人は知らなかった。
アインクラッド第25層裏ダンジョンボス部屋内にて、大きな声が響いた。
「シュウ、逃げろ!!!」
一人のプレイヤーが、相方に向かって叫んだ。
シュウと呼ばれた黒髪の少年は、すでに体力バーを赤く点滅させている。
「こいつ、25層の強さじゃない!早く転移結晶を!」
「わかった、シラハもアイテムの準備を-、」
言葉の途中でボスモンスターから攻撃が繰り出され、シラハと呼ばれたプレイヤーは剣で攻撃を受ける。
9割近くあった体力が一気に5割近くまで減少し、10メートルほど後方に吹き飛ばされた。
「-ッ。」
言葉にならない焦りをあらわにしながら、急いでポーチから青い結晶型アイテムを取り出し掲げる。
-しかし、何も起こらなかった。
「ダメだシラハ!結晶が使えなくなってる!」
「結晶無効化…!?こんなボス部屋でそんなの-、」
「攻撃くるよ!!」
慌てて立ち上がりなんとか回避を間に合わせた後、体勢を整えながらボス部屋の入口を確認する。
「扉まで大体50mぐらいかな…結構奥まで来ちゃってたみたいだね。」
「シュウが先行してくれ、俺の体力ならあと一発受けられるはずだ。行こう!」
シュウがわずかに早くスプリントを使用し、そのあとにシラハが続く。
一気に半分の25mほど扉に近づいたところで、スプリントが5秒間のリキャストに入る。
一足先にスプリントを終えたシュウが後方を確認すると、地面を円形のエフェクトが走っていた。
「衝撃波だ!!」
跳躍で回避できるタイプのものだと予想し、タイミングを合わせてジャンプを行う。
しかし、スプリントが完了していなかったシラハは跳躍が間に合わず、体勢を崩してしまった。
「シラハ!!!」
「大丈夫、そのまま行ってくれ!攻撃を受けた反動で俺も入口に突っ込む!」
後ろからボスが迫ってきている。先ほどシラハが吹っ飛ばされた時と同じ予備動作だ。
スプリントはあと2秒でリキャストされる。これなら間に合うと、入口に向き直った瞬間、
ふとパーティメンバーの体力バーがシュウの目に入った。
衝撃波によって、シラハの体力が残り4割を切っている。先ほどの攻撃で削られた体力とほぼ同じだ。
シラハはそのことに気づいていない。すでにボスモンスターは攻撃モーションに入っている。
今そのことを伝えたところで回避は間に合わない。
その瞬間、スプリントのリキャストが完了した効果音がシュウの耳に入った。
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一瞬、何が起きたのかわからなかった。
逃げ切ったはずの相棒が、スプリントで俺の方に突っ込んできたのだ。
シュウの肩が俺の脇腹に激突し、体力バーがわずかに減少する。
そこで自身の体力が4割を切っていることに気づいた。もしこのまま攻撃を受けていたら-、
「シュウ、ありが-」
次の瞬間、ボスモンスターの大きな鳴き声がすると同時にシュウの姿が視界から消えた。
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迷いはなかった。というよりは、何かを考えている余裕がなかった。
スプリントを使った次の瞬間には、ダンジョンの冷たい床にたたきつけられていた。
相棒がこっちに駆け寄ろうとしているのが見える。ダメだ。早く逃げないと。僕のことはいいから。
この選択に後悔はないが、思い残すことがない訳ではない。でも今は-
「逃げて、シラハ。」
もっとたくさんの景色をこれからも見たかったな。そんな思いは言葉になることはなく、
ポリゴンの光となってゆっくりと消えていった。
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ボスモンスターの鳴き声が聞こえる。おそらく次の攻撃を繰り出そうとしているのだろう。
体が動かない。自分を守って相棒が消えたんだ。逃げ切らないでどうする。シュウの分も生きないと。
アニメの主人公が悲劇を乗り越えて強くなるはたくさん見てきた。その強さにあこがれもした。
ソードアート・オンラインの世界に閉じ込められて、自分もそんな主人公みたいになれると思った。
とんだ勘違いだった。仲間を失って、ビビッて、立ち上がることすらできない、ただの中学生だった。
音が近づいてきている。頭の中には、もう会うことのできない家族の顔が浮かんでいた。
「ごめん…、父さん、母さん、兄ちゃん…」
その日、アインクラッド第1層の生命の碑に、二つの取り消し線が追加された。
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2024年1月某日、都内の病院で
SAO事件発生から1年強、死者数増加の勢いは収まっていることもあり、いつか家族が戻ってくるという希望を持ち始める人も少なくなかった。
俺もそんな人間の一人だった。
「なんでだよ…なんで仁人が死ななきゃいけないんだよ…。」
ただ新しいゲームをしたかっただけなのに。数時間体験するだけでよかったのに。
「ごめんな
「その話はしないって言っただろ。」
この1年間何度もこんなやり取りをした。たらればの話をしたところで仁人が戻ってくるわけじゃない。
それでも思わざるを得ない。後悔というのはそういうものだ。俺もつい、口に出してしまった。
「俺があの時、じゃんけんでグーを出していたら-、」
拳を握りしめ、壁を強くたたいた。
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「痛ッ。」
ふと目が覚めた。布団の中だ。汗だくになりながら伸びた爪を手のひらに食い込ませている。
「なんだよ…なんか変な夢をみてたような気はするけど…。」
思考がはっきりしない。モヤモヤしながら、寝巻から適当な服に着替え、リビングに向かう。
「じゃんけんでグーって…じゃんけんに負ける夢でも見てたのか…?」
そんなことをつぶやいていると、なにやらリビングが騒がしいことに気が付いた。
「また仁人がなんかゴネてんのか…、しょうがねぇなぁ。」
リビングの扉に手をかけ、部屋に入る。
時計には 2022年11月6日 8:30 と表示されていた。
第0話、プロローグから夢オチです。
裏ダンジョンの戦闘シーンが原作のどこかで起きていた正史の世界線で、
最後の起床シーンから今作のIFストーリーが始まるという設定です。
まだどんな物語になるかは描けていませんが、自分のペースで更新していこうと思います。
ちょっとで気になっていただけたら嬉しいです。