まったり更新
「目が覚めるとそこは一面の大海原だった」
なぜこのような場所にいるのか、そもそも自分はいったい何者なのか。多少パニック状態になった私を、いったい誰が責められよう。
周りを見渡しても一面海、海、海。
人工物はおろか、島らしいものも見えない。ここはいったいどこなのだろうか。
とりあえず場所のことは考えたところで分かるはずもないなと、私はそれについて考えるのを一旦取りやめた。
ところで、自分の体はなぜ海の上に立っているのだろう。
ヒトはいつから水面に立てるようになったのか。意識を失ってる間に進化でもしたのだろうか。まさか。
海面に映る自分の姿を見てみた。そして気が付いた。私の身体に着いているこの機械みたいなのは一体なんだ。
形からどうやら大砲?のような感じだが…
触ってみると確り金属の感触を感じ、大きさを加味してもかなりの重量があることがわかる。
「これだけの大きさだというのに、重さを全く感じないというのはどういう訳なんだ?」
まるで身体の一部のようだ。一体全体どういうことなんだろうか。
『主人!お気づきになられましたか!』
!今の声は一体なんだ。どこから聞こえる?
私は周りを見渡す。しかし周り一面海なのだ、ヒトが居るわけはないはずだ。
『こちらです、主人!』
声の聞こえる方に目を向けると、身体についてる機械の大砲の様なところに驚くべきモノがいた。
15センチぐらいだろうか、なんとも小さな二頭身の人形の様なものがいた。なんだこいつは。
「……貴様は一体何者だ?」
私の問いかけに、その小さなヒト擬きは私の肩に乗り答えてくれた。
『自分は主人の装備する51㎝三連装主砲の妖精であります、主人!』
この大砲は51㎝三連装主砲というのか。
妖精…、妖精?
「すまない。私は自分が何者なのか、何故此処に居るのか、何一つわかっていない。貴様は私を主人と呼んだ。なら私を知っているのだろう?教えてくれないか?」
私の言葉に『了解しました!』と敬礼して、妖精はこの状況について教えてくれた。
私はその昔、大日本帝国海軍が総力を挙げて建造をした、紀伊型戦艦一番艦、紀伊であるようだ。
しかし、私はヒトの姿をしている。鉄の艦ではない。
それについても教えてくれた。
今この世界は深海棲艦と呼ばれる異形の存在に脅かされているらしい。
深海棲艦は人類の兵器が全く通用しないらしく、唯一の対抗手段が過去の大戦で沈んだ軍艦の魂を持つ『艦娘』と呼ばれる者たちらしい。
艤装と呼ばれる装備を身に纏い、さながら古の軍艦の如く大海原をいく者たちのおかげで何とか人類は持ち堪えているそうだ。
その艦娘の1人として、私は此処にいるようだ。
しかし、何故目が覚めたら海のど真ん中にいるのだろう。
これについては妖精にもわからないらしい。
『実は主人は本来の歴史には存在しなかった戦艦なのであります。
詳しいことは自分にもわからないのであります』
何ということだ。私こと紀伊型戦艦は実在しなかったと言うのだ。さっき建造したと言ったではないか。
……本当に私は一体何者なんだろう。
「考えてみても、分からないものは分からないか。
ともかく、今後をどうするかだが…」
周りは見渡す限り海。島など一つも見えやしない。
これは本当に困ったな…
『主人、私を索敵に出してみてはいかがでしょうか』
また別の声が聞こえた。
なんだと思い、背中に背負っている機械の塊(私より大きいのだが、やはり重さは感じない)に例の小さい奴がいた。
此奴は零式水上偵察機の妖精というらしい。
簡単に言えば飛行機で飛べるそうだ。
特に断る必要もない為、私は偵察妖精に偵察飛行へ行ってもらうことにした。
その間、大砲の妖精が他の妖精も紹介してくれた。
電探、つまりレーダー妖精に、対空妖精。対空妖精はロケット花火みたいなものを持っていたが、間違っても背中で撃つなよ?
あとはさっきの偵察妖精に、大工の棟梁の様な格好をした連中がいた。大工たちは私が被害に遭った時応急処置をするのが仕事らしい。
しかし皆似た様な顔をしているな。
さて偵察妖精から連絡を待つだけで、特にやることがない。
一応にと、大砲の妖精が大砲の撃ち方や水上での動き方を教えてくれたので試してみたりもしたが、そうそう続くものでもない。
連絡はまだだろうか…。
『こちら偵察妖精!紀伊応答されたし!』
待ちくたびれた感が出はじめた頃、偵察妖精から何やら慌しい連絡が入った。
「こちら紀伊、何かあったのか?」
偵察妖精の報告は、私が今いる場所から南西の方角に艦娘の集団がいる事、そしてその艦娘達は例の深海棲艦と交戦中と言うものだった。
「さて、どうするべきか。いや、これは考える事ではないな」
私は艦娘。実感はまだあまり無いが、現実として艦娘なのだ。
であるならば、ここで採る選択は一つしかあるまい。
「これより艦娘の援護に向かう。各妖精達は準備を」
『了解であります!』
私が何者なのか、何故ここにいるのか、それらの疑問は何一つ解決していない。
同じ艦娘に会えば、何かしら糸口を見つけらるかもしれない。そんな期待を持って私は行動を開始した。