「大型モンスター……ねぇ」
僕は部屋で依頼主からの手紙を読んでげんなりしていた。
ハンターという職業に手を伸ばしてから早数か月、とうとう僕のもとにも大型モンスターの狩猟依頼が来たのだ。
僕は採取や小型モンスター、たまーにドスランポスなどの中型モンスター程度のクエストしかやったことがない。
しかも、ハンターは副業としてやっているので村の大半を占める本職ハンターと比べると経験も薄い。
僕の村は小さいため15歳程度から強制的にハンターにさせられてしまうのだ。
もちろん、強制といってもさっき言った通り副業としているハンターには依頼量も少なく、大型モンスターの依頼なんて基本的には来ない。
しかし、最近は温暖の気候になりつつあり、それに伴い大型モンスターが出没するらしい。
そのため、副業としているハンターにも大型モンスターの依頼を任されることがあるのだ。
「まさかその依頼が僕に来るとは……はぁ、やりたくない……」
「でも、シュウが選ばれたということはそれくらい期待されているということなんだニャ。それきっと喜ぶことなんだニャ」
「簡単に言ってくれるよ。ま、ザックはちょっと傷ついたら逃亡しちゃうような子だもんね」
「ぐ……。そう言われると心外だけど言い返せないないニャ……」
「しかも、そのターゲットがよりにもよってリオレウスってどういうことなの……」
僕はてっきりイャンクックあたりだと思い込んでいたけど……。
ガチじゃん!これ意外とガチモンじゃん!!
「僕の人生もここまでか……。最後にセブンスヘブンにトリップ出来るクスリを……」
「それは絶対ダメだニャ!」
僕がクスリの便を取り出そうとして手を弾かれてしまった。
「もう冗談だって。ま、大型モンスターと言っても行動パターンは決まってるだろうし僕は弓使いだからそうそう攻撃にも当たらないでしょ」
「突然死亡フラグが立ったニャ……」
「えっと、密林への出航は……うん、まだ、時間があるから支度したらちょっとだけリオレウスについて調べておこう」
このとき僕は知る由もなかった。
まさかモンスターと××してしまうということを……。
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時刻は回って翌朝。
僕は深夜にどんぶらこどんぶらこと舟を漕いで密林へとやってきた。
もう既に太陽が昇っている今は8時。
リオレウスについて調べていたため、睡眠時間はほとんど取れなかったが、元々夜通しすることが多いからさほど眠くない。
「主に火属性攻撃をしてきて、弱点は雷と龍……。ここは基本だね」
といっても、僕は雷属性の武器も龍属性の武器も一切所持していないため武器はパワーハンターボウIII。というかこれしか持ってない。
下位ハンターでも作れ、大型モンスターの素材を必要としない武器としては最強クラスのためうまく立ち回れば問題ない……はず。
防具はイーオスシリーズ……なのだが、火属性耐性は申し訳程度。
とはいえ、今はこれが限界だからしょうがない。攻撃を受けないようにうまく立ち回ろう。一応毒耐性ついてるし。
ボックスから必要なものは全部取り出したし、準備満タン!
「よし、じゃあ、そろそろ行こうか」
「ボクも頑張るニャ!」
初の大型モンスター狩猟ということで気合が入っているザック。いつも最初はこんな感じなんだけど、いざ鉢合わせるとすぐに逃げてしまうビビりザック。今回も逃げるんだろうなぁ……。
「ギシャァアア!!」
途中で居合わせる小型モンスターを弓で打ち抜いていく。弓は元々雑魚戦にはあまり向いていないけど、ずっと弓一本でやってきた僕にはちょちょいのちょいである。
「……あ、これ今ちょうど切らしてたキノコだ。これでまた再実験ができる!」
「再実験ってあの緑色のゲル状の何かが発生したあの実験のことかニャ……?」
「そうそう。あれ成功するとあんころもちになるはずなんだけど」
「あんころもち!?絶対嘘だニャ!」
「おらぁ、あんころもちがぁ、食いてえだぁ」
「初大型モンスター狩猟のはずなのに全然緊張感がないニャ!!」
ザックのツッコみではっと目が覚めた。ふぅ……危うくまたボケを連発してしまうところだった。
「……あ、近いニャ!」
「え、ホントに?」
僕はとっさに弓を構える。ザックは耳をピンと立てる。
「上だニャ!」
ザックが声を上げると同時に僕も空を見上げる。
そこにはザックの言った通り、火竜・リオレウスがいた。
リオレウスはちょうど僕たちがいるエリアへ降りてきた。
僕は間合いを取りながら様子を見る。
着地する寸前、リオレウスは僕たちの方を見た。すでに相手にはばれてるようだ。
僕は毒ビンを装着させ、弦を引き――
「うわ、ハンターかよ。せっかく引っ越してばかりだっていうのによ」
「……え?」
今、誰かの気怠そうな声が聞こえてきた。
え、い、今の声って……。
「ザックの声?」
ザックの聞いてみるも首を傾げるだけだった。
「え?何がだニャ?」
この様子……心当たりはないようだ。
ザックは一応会話までとはいかないけどモンスターの声を理解することはできるため、違和感を覚えてないみたい。
だとすると、やっぱり……。
「り、リオレウスの声……?」
僕は思わず声に出してしまう。聞き間違い……だよね?うん、モンスターの声が理解できるわけ――
「ん?今誰か俺の名前呼んだか?」
ガクガクガクガク……。
い、今反応した!?僕の声に反応した!?そして、その声も僕聞き取れた!?
いや、ちょっと待ってどういうことなの考えさせて!!
「んー?気のせいか?」
どうやら相手の方は気づいてない様子。
これは良いことなのか悪いことなのか……。
いやでも気づいてないってことはこのままじゃ……。
「ま、気のせいならいっか。おっしゃ俺達の新居を壊すニンゲンは追っ払うぞ!」
戦闘が始まる!!
「ちょっと待ってぇえええええ!!」
僕は思わず大声を出して戦闘開始を阻止する。ザックは何事だとビックリした形相でこちらを見る。
リオレウスは本来ならば僕の叫び声なんて無視して戦いを始めるはず。
だけど……。
「ちょっと待ってって……。え、えぇええええええ!!?!?」
リオレウスの方もようやく僕の声が理解できる……ということを理解したようだ。
「は!?い、今の声……このニンゲンの!?は!?ど、どういうことだよ!?」
リオレウスもパニックになっていた。モンスターもこんな感じに喋るんだ……。
「ちょ、ちょっといいですか!」
僕はパニック状態のリオレウスに声をかける。リオレウスもはっと正気を戻しおとなしくなる。
「ぼ、僕の声が理解できるんですか……?」
「お、お前こそ俺の言ってること、わかるのか……?」
自分のほっぺをぺちんと叩く。……うん、夢じゃない。
ということは……。
「ふ、二人はお互いの言ってることを理解できるのかニャ……?」
NOW LOADING…
とりあえず、僕たちは争うことをやめた。
リオレウスの方もイレギュラーな事態のため、戦う気がなくなってしまったという。
「……で、お前、名前は?」
「え?」
「いや、ニンゲンって一人ひとり名前ってのがあるんだろ?名前があるのにニンゲンって呼ぶのはなんだか気が引けるし……」
「はぁ……」
あれ、意外と良い人……じゃなくてモンスターだ。
「えっと、宗、です」
「シュウ……か。わかった。あ、一ついいか?」
「な、なんでしょう……」
「敬語、やめないか?」
「え?」
「身体の大きさは全然違うけど、喋ってる感じだとあんまり年齢変わんないみたいだし。それに俺、敬語とか苦手だからさー。……それにあいつのこと思い出すし。あー、とにかくタメ口で頼む!」
「あ、うん……わか……った」
なんとかタメ口にする。元々ザックと兄以外にはほぼ全員敬語だったから難しいな……。
「で、そっちのネコは?」
「ニャ!?」
ザックは突然話を振られて驚いていた。
「いや、よくわかんないけど俺、お前の言葉も理解できるみたいだからさ。オトモアイルーってやつにも名前あるんだろ?」
「え……。あ、えっと、ザックだニャ……」
「ザックか。よし、覚えたぞ」
リオレウスはここでいったん深呼吸をして、話を切り出した。
「えーと、ま、まあ、俺達は会話ができるということが判明したわけだが……」
「うん……」
「うおおおなんだこの違和感は!」
リオレウスは再びパニックに起こしそうなところを何とか自制する。
「ったく、なんなんだ……。今までこんなことなかったのに」
「僕もこんなの初めてだよ……」
一体全体どういうわけなのか……。
「まあ、せっかく話ができるんだ……。ちょっとニンゲンの事情も知りたかったし、いろいろ話を聞かせてくれ」
「まあ、それくらいなら……」
変なことを言って言いふらされないためにも最低限の情報にしておこう……。
「まず、だ。ここに来たってことは俺を倒そうとしたってことだろ?なんで俺を倒しに来たんだ?」
「それは確か……。リオレウスが現れて危険だから倒してくれって……」
「……ん?」
「え?いや、これだけだけど……」
「そ、それだけ?」
なぜだかリオレウスは焦っていた。
「別に俺、何にも悪いことしてないよな?な?」
「まあ、引っ越しに来ただけだから悪いことをしたわけでは……」
「うわぁ……。これってここに来たのがシュウたちじゃなかったら死んでたかもしれないってことだよな?あ、別にどんな奴が来ても負けるつもりはなかったけどな!」
リオレウスはふんすと胸を張る。これがモンスターのプライドなのか……。
「あ、ところでこれから俺と戦うっていうわけでもないよな?」
「ま、まあ……。でも、倒さなかったらまた別の人が貴方を狙いに来る可能性が……」
「そ、そうか……。無駄な戦いは避けたいんだけどなぁ……」
リオレウスは困ったなぁといわんばかりに頭を押さえる。モンスターのこの動き……なんて新鮮なんだろう……。
しばらく考えたのか、リオレウスは「そうだ!」と声を上げる。
「俺のこと、倒したってことにしてくれないか?」
「え?で、でも……」
「俺はニンゲンに見られないようなもっと奥の方に移動する。そうすれば万事解決!」
「それって……隠居?」
「まあ、そういうことになるな」
「でもそれって大丈夫なの?」
「なんとか頑張れば大丈夫!」
な、なんという根性論。そしてなんというポジティブシンキング。
「そうとなれば早速引っ越しの準備しないとな。あ、レイアになんて言おうかな……」
レイア……リオレイアのことかな。
「あ、そうだ。また、密林で俺と会ったら話そうぜ!」
「え?」
「敵じゃなくて会話ができてしかも同世代!これはもう友達だろ?種族を超えた友達っていうのもなんかかっこいいし!」
友…達……。
僕は思わずふふと笑ってしまう。
「どうした?」
「ううん。僕にとっての最初の友達がモンスターだなんてって思って」
「え、お前友達いないのか?」
「村ではあんまり人と話さないからね……」
「そうなのか……」
少しリオレウスのテンションが下がっていた。聞いてはいけないことを聞いた気持になっているのだろうか……。
「でも、大丈夫……」
「え?」
「まだ、ちょっとだけ違和感はあるけど……。また会ったときはもっと話そうね」
「……おう!」
リオレウスはそう元気よく返事をして飛び立っていった。
「……本当に会話してたんだよね」
僕はそっと胸に手を当てる。
あれだけパニックになっていたのに、いつの間にか友達になってる。
不思議……なんだけど、なんだか不思議じゃない。なんでだろう……。
シュウ「あれからリオレウスの新居に行ってリオレイアとも話せることがわかって……」
レウス「実験台にされたり実験台にされたり実験台にされたり……」
シュウ「だってクスリの実験結果って誰かに飲まさなきゃわかんないし」
レウス「おいちょっと待て。そもそも友達=実験台と思ってないか?」
シュウ「いやいやリオレウス=実験台だよ」
レウス「こいつ……!!初めて会ったときはこんな奴とは思わなかったよ……」
シュウ「でも、その前に1番の友達だよ」
レウス「な、なんだよ急に……。でも、ありがとよ」
ザック「なんか途中でボクの存在がかき消されてる気が……」
二人「はっ!?す、すみませんでした!」