「あれ、これなんだろう?」
ある日。僕が外出から戻ってくるとポストに一通の手紙が入っていた。
「どうしたんだニャ?」
「家に珍しくも手紙が入っててね。……あ、もしかして実験のオファーだったり!?ついに天才宗くんに目を付けた人が現れたか!良いセンスしてるなー」
「うん、それは絶対ないから手紙の中身を見てみるニャ」
「ぶー。ちょっとは乗ってくれてもいいじゃんー」
とか言いつつ自分でもそれはないなと思ってい普通に家の中に戻って便箋を読み上げる。
「えーっと、なになに。『最近、孤島で不思議なロアルドロスの目撃情報が相次いでいます。しかし、目撃者に何が不思議が聞いてみてもなぜか耳をふさいで教えてくれませんでした。そこで、学校でもレポートをまとめるのが得意な切鮫君にそのモンスターの偵察をし、まとめて欲しい』……!?」
「なんと、ハンターとしての依頼だニャ!しかも依頼主はシュウの学校の先生だニャ!」
「いや何これ!納品でも討伐でも捕獲でも撃退でもない!新しい!!」
「授業をまともに取り組んでいる成果が表れたニャ」
「そういうことかなのかなぁ……」
でも、まあ確かに誰かがやらなきゃいけないことだし、それにわざわざ僕に送るほど期待してくれてるのなら……ね。
それに……。
「不思議なロアルドロスっていうのは私的好奇心をくすぐられるよ。文章見る限りだとなかなか恐ろしい生態を持つみたいだし。うん、やろう」
「わー、簡単に釣られてるニャー」
「えーと、時間は……『昼に出没するようです。1週間以内に偵察し、なるべく早めにレポートを提出してください』と。別にいいんだけどさ。これ、断らせる気一切ないね。ま、明日暇だし朝一で行こうか」
「わかったニャ」
この村の生徒はほぼ全員ハンターのため学校に行く暇がない。それゆえに基本家庭勉強となっている。だから、学校にも狩りにも行かない僕はある意味常に暇と言っても過言ではないのだ。
僕は軽く準備をしてから、今日は早めに寝ることにした。
NOW LOADING……
朝起きてすぐに小舟に乗り孤島に着いた僕たち。
でも、プラット村から孤島まではそう遠くないため予定よりも早く着いた。
僕はせっかくだからロアルドロスの復習をしておくことにした。
「ロアルドロス、通称水獣。メスのルドロスを集めていわゆるハーレム状態で行動する。偵察するならルドロスにも気を付けた方が良いかもね。無駄に攻撃して怒らせるのもアレだし……」
「ハーレム、良いニャぁ。ボクも逆ハーレムしたいニャぁ」
「あ、そっか。ザックってメスだったね」
「そ、そうだニャ!ていうか、自分でザックだなんて男の子みたいな名前付けておいて間違えないでほしいニャ!」
「ごめんごめん」
僕は軽く謝っておく。でも、一人称がボクだと余計に間違われやすくなるんじゃ……とはあえて言わなかった。
「ちょっと早いけど行こうかな。パパッと見つけてパパッと観察してさっさと帰ろうか」
「ずいぶん軽いニャ……。襲われることだけはないようにしてほしいニャ」
「わかってるって。じゃ、レッツゴー!」
「目撃情報によるとこのあたりだよね」
その場所とはエリア6の陸地であった。周りを見渡す限りまだ来ていないようだ。
僕たちは岩陰に隠れて待つことにした。
そのまま数十分……。
「……あ、来た……!」
水獣が海辺から陸に上がってくるのを丁度目にした。パッと見普通のロアルドロスよりも小さめのような気がした。
まず第一に疑問に思ったことは……。
「ルドロスがいない……?」
いくら待ってみてもロアルドロス以外に海辺から上がってくる気配がなかった。
ルドロスを巣で待たせているのだろうか……?
しかし、この直後。
そんな疑問を吹っ飛ばす出来事が起こった。
「誰もいないよな……?よし、安心安心!ちょっと泳ぎ疲れたし休もーっと」
「……え?」
今の声……え?ろ、ロアルドロス!?
まさかまだ僕と話せそうなモンスターがいるとは……。
もしかして、変わった行動ってこれのこと?いや、でもモンスターと話せるのは僕だけのはず……。
一体どういう……。
――ポチャ
「っ!!」
僕はうっかりペンを岩場の水たまりに落としてしまい、小気味良い音が鳴り響いた。
当然それはロアルドロスにも届き……。
「わ!?誰だ!オレの休憩の邪魔するつもりか!?」
そう叫びながらロアルドロスが近づいてきた!
こ、こうなったら話しかけてみるしかない……!
大丈夫、相手は小さいうえにルドロスも引き連れていない。万が一襲われても倒せるかも……!目的変わっちゃうどころか失敗な気がするけど!
よし!
「そ、そこのロアルドロス!ちょっといいかな!!」
ビシッと人差し指を指して話しかけてみる。
反応は……。
「うわぁ!?え、え?あれ?オレ、今……」
やっぱり僕の声を理解できてるようだ。
困惑した様子であたりをきょろきょろ。僕と話せるモンスターおなじみの動きをする……
かと、思いきや彼は少し違ったようだ。
「も、もしかしてこれって兄ちゃんが言ってた……。おいそこのハンター!」
「なに?」
「ちょっと兄ちゃん連れてくるから待ってろ!」
「兄ちゃん?待ってろ?え?」
――バシャン!
ロアルドロスはそれだけ言うとまた海中に戻って行ってしまった。
なんなのだろうか……。
僕は仕方ないから言われた通り待つことにした。
しばらくして……。
「ほら、兄ちゃんこっちこっち!」
ロアルドロスが戻ってきた。その兄ちゃんというのも連れて。
まだロアルドロスしか顔を出してないからわからないけど……。
身体の大きさを考えるとまだあの子は子供なのだろうか?それで兄ちゃんというのは大人になった彼の兄。
それなら納得が――
「いったいなんだというのだ。私は今パトロー……は、しゅ、シュウ!?」
「ら、ラギアクルス!?」
僕の想像を一瞬でぶち壊してきましたとさ。
「なんと、ロアルまでもシュウと話せたとは……」
「僕が出会った話せるモンスターの中では一番小さいよ。まだ成体じゃないみたいだし……」
「こ、子供みたいに言うなー!」
ロアルドロスが連れてきた兄ちゃんとはなんとラギアクルスのことだった。しかも、僕と話せるタイプの。
そういえば、前会ったとき「弟のような存在がいる」と言っていたけど、この子のことだったんだ。
「それにしてもラギア。あんまり僕のこと言いふらさないでよね。アイルー経由とかで村人にばれたら大変なんだから」
「う、そ、それはすまない……。だ、だがこのことはロアルにしか……」
「でも、ロアルドロスがうっかり外部に漏らすかもしれないという事もあるでしょ?」
「こ、こいつはそんなことは……!!……いや、これはそういう問題ではないか……。本当にすまなかった……」
「まあ、聞いてる限りだとかなり信用してるみたいだし。大丈夫だと思うけど。……大丈夫だよね、ロアルドロス?」
「もちろん!兄ちゃんと他人に言わないって約束してたもん!」
ムンと胸を張るロアルドロス。どうやらお互いの信頼関係はかなり深いようだ。
「ところで、どうしてラギアはロアルドロスを?」
「ああ。それは私がいつものようにパトロールをしていたら、親から離れてしまったこいつを見かけたのだ。まだ小さいから泳げず溺れていたところだった。すぐさま助けに行ったらこの通り好かれてしまってな」
「当たり前だ!だって兄ちゃんは命の恩人だもん!オレ、兄ちゃんのこと大好きだぞ!」
「や、やめてくれ。照れるだろ」
ラギアは視線を外しながらも嬉しそうに笑う。
「違うモンスターだというのに優しいね」
「当然だ。私は困った者がいたら極力助けてやりたいのだ。それに種族は関係ない」
このラギアクルスは正義感が強く、この孤島の海でもよく慕われているという。
どうやら本当に「海の王」として活躍しているようだ。
それに体中に古傷があることから戦闘経験が豊富ともみられる。実は相当強いのでは……?
僕はここであえてラギアを困らせる質問をしてみた。
「じゃあ、もし僕の村のハンターが困っていたら助けてくれる?」
「あ、そ、それは……」
予想通りシュンと少し暗くなる。
「すまない、シュウ……。私たちにとってむたみやたらに攻撃してくる人間は敵なのだ。みな、シュウみたいに言葉を交じりあうことができればな……」
人間の話題となると僕と話せるモンスターでさえ否定をする。これが人間とモンスターとの間で生まれた本能なのだろうか。
それでもラギアは和解を望んでいるようだ。……やっぱり優しいなぁ。
「ふふ」
「ど、どうしたというのだ?」
「ううん。ラギアのそういう答えを聞きたくてね」
「そういう……?は、ま、まさか私を試したな!?」
「あはは、ごめんね」
「まったく……」
ラギアは「はぁ……」とため息がつく。ラギアは正義感は人一倍あるけど、たまに天然というか、抜けている部分があるから今みたいにイタズラな質問をしたくなってしまうのだ。まあ、イタズラだけが理由ってわけじゃないけど。
「でも、こういうところがみんなから慕われる理由なんだね」
「こういうところ?どういうところだ?」
「兄ちゃんっていつもはかっこいいけどたまに可愛いよなー」
「か、可愛い!?ろ、ロアル、何を言ってるんだ!?」
「あはは、なんでもないよ、兄ちゃん!」
「むうぅ……。気になるな……」
やはり自覚がないようで困惑していた。うん、今日もカッコ可愛い!
「とこでシュウ。今日は何しにここへ?」
「ああ。忘れてた。最近、ここら辺で不思議なロアルドロスが来るということで偵察しに来たんだけど……。まあ、ほぼそこのロアルドロスのことかと」
「だろうな。だが、別段不思議だと思うことは……」
ラギアはそう言いながら長い首を動かしてロアルドロス全体を見てみる。が、やはり見た目で変わったところはないようだ。
僕は手紙をもう1度読み直してみる。
「耳をふさいで誰も教えてくれないってことは恐怖を植え付けられたから?もしかすると……」
僕はラギアとじーっと見つめてみる。
さすがの彼もずっと見られてたじろいできた。
「な、なにをそんなにジロジロ見てるんだ……?」
「もしかして、原因はラギア?」
「な、わ、私!?」
自覚がないからかかなり驚いているようだ。
でも、たぶんこの原因は事実……。
「だって、このロアルドロスは本来引き連れてるはずのルドロスを引き連れていない。でも、代わりに海竜ラギアクルスが近くにいることが多い。これはもう確信犯でしょ?」
「た、確かにロアルは子供だから近くで子守することが多いし、人間が近づいたときは威嚇をして追い払っていたが……。。まさか、人間にそこまで恐怖心を植え付けていたとは……」
いくら嫌いな人間といえど知らないところで逆に嫌われていたというこにとはショックだろう。しかも、何もしていないとなるとなおさら……。
「兄ちゃん!子供って言うなー!」
「はぁ……。本当にロアルが大人になってくれたらな……。いや、でも、ロアルの素材は人間の間でもよく使われると耳にしたことがあるし、やはり放っておけん……」
……まあ、ラギアの過保護な部分にも少し問題がある気がするけど。
「ま、何はともあれ、ロアルドロスの不思議な部分っていうのがわかったし、そろそろ帰らないと」
「えー、もう帰っちゃうのー?」
ロアルドロスはつまんなそうに言う。
「こら、シュウだってやることあるんだから。それにここに長くいて他の人間たちにばれたら大変だろう?」
「むー、そっか……」
ロアルドロスはふくれっ面になりながらも納得してくれたようだ。
僕は最後に頭を撫でていく。
「孤島はよく来るし、見かけたら声かけてね」
「ああ!あ、そうだ!今度人間のこと色々教えてくれよ!いっぱり知りたいなー!」
「うん。ただ、これぐれも外部に漏らさないことね?」
「大丈夫だって!」
ロアルドロスは元気にそう言う。今まで会ったモンスターはみんな大人だったからこう言う無邪気なの良いなー。
「じゃあ、そろそろ……。あ、ラギア」
「どうした?」
「ロアルドロスとはなるべく片時も離れないようにね?」
「な、なぜだ?それだと余計に私の評価が……」
「とにかく!それに本当に悪口言われてるかなんてラギアにはわからないから気にしないの」
「まあ、それもそうだな……」
「え、これから兄ちゃんとずっと一緒にいてくれるの!?わーい!」
「だが、あまり人間が目を引くような行動取るんじゃないぞ?それに、敵が来たら真っ先に逃げるんだ」
「えー、俺兄ちゃんと一緒に戦いたいー!」
「駄目だ」
「えー!」
相変わらずラギアの過保護っぷりがすごかったけど、なんだかんだでお互い納得してくれたようだった。
「じゃ、また来るよ。またねー」
「ああ。帰りにモンスターの襲われるんじゃないぞ」
「また一緒に話そうなー!」
こうして、僕は孤島を離れた。
さてと……なるべくラギアとロアルドロスが狙われないようなレポート書かなくちゃ。
「『噂の不思議なロアルドロスはどうやらラギアクルスと共にいることが多いようだ。我々人間が近づいてきたときは激しく威嚇をしてくるが、危害は加えてこなかった。よって、見かけても速やかに立ち去るのが無難。間違っても攻撃しないようにした方が良い。』っと。ま、こんなんでいいかな」
「シュウにしてはかなりまともだニャ」
「あれ、ザックいたんだ。ラギア達と一緒にいたとき一切喋らなかったからどこかへ行っちゃったかと思ってた」
「え、ひどくない?」