「え?峡谷で岩塩を採取?」
それは、ラギアクルスたちと会ってから約2週間後の夕方のこと。さっきまでしていた勉強がひと段落ついたのでベッドで休んでいたとき。ザックがそんな依頼を受け取ったというのだ。
「そうだニャ。でも、今は環境不安定らしいニャ」
「環境不安定か……」
神出鬼没なモンスターはいつ出現するかわからない。環境不安定というのは、その大型モンスターが出現する可能性が高いことを示唆している。
「どうするニャ?行くニャ?」
「うーん。まあ、パパッと行ってパパッと取ってパパッと帰るだけだし。大丈夫じゃない?」
「その油断が隙を呼ぶニャ」
「大丈夫大丈夫。一応、モドリ玉持っていくから」
そう言いながら僕はボックスの中から以前意味もなく、ただ興味本位で調合したモドリ玉を取り出す。
「準備満タン!ところで、出発はいつ?」
「明日の朝ニャ」
「じゃあ、体力温存のために早めに寝ようか」
「分かったニャ」
僕は少し峡谷について調べた後、夕食を食べ、すぐに眠りについた。
NOW LOADING
「ふわぁ~……」
「あ、おはようニャ」
早朝。まだ、日が昇って間もない時間だ。
僕はあくびをしながらうんと腕を伸ばす。
既に起きて毛づくろいをしていたザックに挨拶をしてから、僕は眠気を覚ますために顔を洗いすぐに朝食をとる。
「いただきまーす」
「頂きますニャー」
今日の朝食はオニオニオンとシモフリトマトのサラダ。そして、朝から贅沢にもこんがり肉である。
そんなふんだんな量でありながらも案外ペロッと食べてしまう僕も結構ハンターに慣れてしまっている気がした。
「えーっと……ピッケルと、モドリ玉と……」
食器を片づけてから荷物の確認をする。昨日寝る前もしたから泥棒が来ない限り大丈夫なのだが、それでも再確認してしまうものだ。
「じゃあいこっか」
「ニャ」
NOW LOADING…
「わ、風が強い……」
渓谷についてすぐの感想がこれだ。
渓谷には以前採取ツアーで1度だけ来たことがあるけど、結構前の話だからまるで初めて来たかのような感覚だった。
「目印となるものがあまりないなー……」
周りを見れば、ほとんどなにもなく、ただあるとすれば、サボテンくらいだろう。
岩塩が取れる場所は既にリサーチ済みであるものの、少し緊張していた。
「まあ、手には地図もあるし何とかなるかな……」
僕はそう思いながら岩塩のあるエリアへ向かった。
しばらくして……。
「……ここどこ?」
ま、迷ったー!!!!!!!
さて、ここはどっこかなー?
予習したのに!地図もあるのに!さっぱりわからない!
「あれれーおかしいなぁ……」
「ニャ~……。シュウはいつから方向音痴になったんだニャ……」
「そ、そんなこと言わないでよ!そんなこと言うならザックが案内してよ!」
「ニャニャ……。……あ、そうだニャ!こんなときこそモドリ玉使うんだニャ!」
「おおー、ナイスザック!よし、それでは早速!」
僕はポーチからモドリ玉を取り出し、地面に叩きつけた。途端に緑色の煙が吹き出し、瞬く間に目が開けられないくらい煙に包まれていった。
「……あ、ここは?」
目を開けて周りを見ると、なんとそこはベースキャンプだった!」
おおー、やったやった!へぇー、モドリ黙ってすごい!本当に戻れちゃうんだ!不思議ー!
地味に初体験だったモドリ玉にさっきまでの状況を忘れ、感動してしまう。
「ほらそこ、感動は良いから岩塩取りに行くニャ」
「ええー。ザックは無関心だなー」
「良いから行くニャ」
「はーい」
僕たちは、気を取り直し、最初から進むことにした。
しばらくして……。
「……あれ?あれれ?」
も、もしかして……。
「ま、また迷ったのかニャ……?」
ザックの核心的な一言に地図を落とし、膝をつく。
「な、なんで……?地図をしっかり見ているはずなのに……」
僕は落胆しながら渓谷の地図を見渡す。
……うん?
今、何か違和感を感じたような……。
「ねぇ、ザック」
「なんだニャ」
「ここは、どこでしたっけ」
「え?何言ってるニャ。峡谷に決まってるニャ」
「じゃあ、この地図が示しているのは『峡谷』ではなく『渓谷』である件についてはどう思われますか」
「…………」
僕たちはしばらく沈黙した後。
一斉に口を開く。
「「そういうことかぁあああああああああ!!」」
確かに!峡谷も渓谷も名前若干似てるけど!地図間違えますかねスタッフさん!!
はぁあ……。
僕はそうため息をついて地面に座り込む。
というか、地図が全く違うのになんとなく正解だと思って進んでいた僕も馬鹿というか天然というか……。
「どうしよう……。一回村戻ろうかな……。あ、でも、もうモドリ玉ないし……」
当然、モドリ玉は環境不安定の緊急用として持ってきていたため、予備の調合材料は持ち合わせていない。
……あ。
「今、環境不安定なのか。万が一のこともあるし、少し安全な場所に移動しないと……」
『大丈夫。その必要はないよ』
「え……?」
「ニャ……!?に、逃げるニャー!!」
「え、え?」
僕が聞いたことのない声にぽかーんとしていると、急にザックが地面に潜ってしまった。何事かと思い後ろを振り向くと……。
「え、べ、ベルキュロス……?」
『ああ、そうだ。俺はベルキュロス。君たちが噂の声が聴こえる――』
「おんぎゃぁあああああああ!?」
「え!?」
僕は何も考えず一目散に走った!
が、転んだ!
「うわ!」
ゴロゴロゴロとすさまじく地面を転げまわる僕!
う……もうだめだ!こんなことならモドリ玉使わなきゃよかった!
そんなことを思いながら目を瞑っていると……。
『ちょ、ちょっと落ち着いて!別に俺は襲うつもりなんてないから!』
「……え?」
恐る恐る目を開けてもう一度ベルキュロスの顔を見る。
『そんなに怖がらないでいいよ。本当に襲うつもりなんてないから』
声が聴こえる……。
も、もしかして……。
僕はとりあえず、ベルキュロスと話をした。終始ビクビクしながら。
「えっと、つまり、ベルキュロスはリオレウスと知り合いで、僕たちのことを前々から知っていて……。それで、偶然僕たちを見かけて、話しかけてみようって思ったわけですか?」
『そういうことだ。それにしても驚いたよ。なんてったって、人間の声が理解できたんだからね。これはもしやって思って、アプローチしてみたけど、正解だったよ』
僕はその言葉を聞いて、ほっと胸をなでおろした。
このベルキュロスとは初対面。前回のロアルドロスに引き続いてまだ話せるモンスターがいただなんて。
「良かったです。ベルキュロスがリオレウスと知り合いで」
『まあ、仮に俺が君のことを知らなかったとしても襲うなんてこと、しなかったけどな』
「え?どうして……」
「俺にとって無害だからかな。君が俺を初めて見たとき、一目散に逃げていたけど、君がシュウ君じゃなかったらそのまま見逃していたつもりだよ」
な、なんて賢くて優しいモンスターなんだろう……。確かに舞雷竜はモンスターの中でもかなり賢いモンスターとは聞いていたけど、まさかここまでとは。
それに優しいだなんて……。なんというか、彼に完璧・理想という言葉が浮かんだ。
なんか、かっこいいなー……。
『ところで、今日は何しにここに?』
「え?あ、えーと、今は岩塩を探していて……」
『岩塩?あー。あっちの方にあるよ』
ベルキュロスが指した方向は、崖と崖のだった。そこからそよそよと風が吹いていた。
「あ、ありがとうございます」
『俺あそこ入れないからここで待ってるよ』
「え、でも……」
『いいのいいの。ほら、俺が見ているから、安心して』
や、優しい……!
僕はそんなベルキュロスを待たせるわけにも行かず早急に岩塩へ向かった。
岩塩は思った以上にあっさりとゲットできた。
僕がベルキュロスの元へ戻る途中、いつの間にか戻ってきていたザックが小声で話しかけてきた。
「だ、大丈夫ニャ?ボクはとっても不安だニャ……」
「いつからそこに……さっき逃げた気が……」
「確かに逃げたニャ。でも、ずっとここで会話訊いていたニャ」
「ええー……。まあ、リオレウスの友達だって聞くし、性格もすごくいいから大丈夫だよ、きっと。じゃ、僕は戻るね」
『あー、じゃあボクはここで待機を……」
「はいはい」
なんだかんだで臆病なザックをここに置いて僕はベルキュロスの元へ戻った。
『あ、おかえり。どう、岩塩は取れた?』
「はい。良いのが取れました。ありがとうございます」
『はは、いいよ、お礼なんて』
笑いながらそう言うベルキュロス。
僕はベルキュロスに対する恐怖は既に消えていた。それと同時にベルキュロスの容姿が目に入ってきた。
……立派な鬣に長く伸びた鉤爪で見た目だけでも強いと感じる。
強さも心も容姿も素晴らしいだなんて少し憧れてしまう。
こんな感じな先輩がいたら嬉しいなー……。
『ん?どうかしたか?』
「いえ、ちょっとかっこいいなって思って……あ」
思わずそのまま口にしてしまった。
それくらいキリッとした凛々しい表情だった。
『はは、いいよ、お世辞は。俺自身まだ自分に満足していないから』
ま、まだ己の高みへ目指しているだなんて……ますます憧れる!
『あ、そういえば、さっき……俺とシュウ君が出会う前、オトモアイルーの……えーと……』
「あ。ザックです」
『そうそう、ザック君。その子と迷子になってるって話を聞いたんだけど』
「あ、そうなんです。もう戻る術がなくて……」
『じゃあ、俺がキャンプまで送っていくよ』
「え?ホントですか!」
『いいよ。今日から同じ仲間だし』
「ありがとうございます!」
『あ、でも、ザック君がここにいないけど……』
「大丈夫です!」
『で、でも……』
大丈夫です!大丈夫なんです!」
『そ、そうなのか。わかったよ』
僕の強い押しにベルキュロスは圧倒されていた。でも、気にしない。
だって……。
(同じ仲間かぁ……嬉しいなぁ……ふふ)
『じゃ、飛ぶよ!しっかり捕まってて!』
にやけながらそう思っていたらいつの間にか空を飛んでいた。僕は慌ててベルキュロスの身体を掴む。少しだけ身体に電気が伝わる。
その飛行能力は、空の王、リオレウスよりも正直上手い気がする。
そして、ベースキャンプへの道にあっという間に着いてしまった。
『はい、到着。この道を真っ直ぐ歩けば、君たちの拠点に』
「ありがとうございます!」
僕は、初めて出会った時とは打って変わって笑顔でお礼を言う。
もはやベルキュロスは本当に憧れの先輩のような感覚だった。
『あ、そうそう。これからは俺のことはため口で――』
「いえ!敬語で大丈夫です!むしろこっちの方が良いです!」
『え?そ、そうか?まあ、シュウ君がいいなら別にいいよ。じゃ、またね』
「はい!」
ベルキュロスは少し戸惑いつつもすぐに受け入れ、この場を離れた。
僕がザック以外の他人に対してここまではきはきと喋るのは初めてだった。
また、会いに行きたいな~。
そう思いながら僕は村に帰った。
急ピッチ更新!後に細かい訂正とかあるかも!