TS転生ぼっち冒険者、パーティを組む。   作:ぼっちTS百合推奨派

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 ぼっちと無口系が出会って曇る、そして幸せになるお話。


ぼっち転生者、パーティメンバーと出会う。

 ――一人が好きだ。孤独が嫌いだ。

 

 ――多数派が好きだ。群れるのが嫌いだ。

 

 ――認められるのが好きだ。目立つのが嫌いだ。

 

 それは、前世(むかし)から変わらなかったボクの在り方。

 

 ――魔術が好きだ。魔術師が嫌いだ。

 

 ――冒険が好きだ。冒険者が嫌いだ。

 

 ――戦いが好きだ。争いが嫌いだ。

 

 それが、転生してから(いま)のボクの在り方。

 

 昔から、人見知りのくせに、孤立するのがいやで。

 かといってそれをどうにかするために行動を起こすバイタリティなんてなくて、気がつけばぼっちのまま大きくなって、そしてどこかでボクは死んだ。

 

 どうして死んだのかは覚えていない。

 思い出したくもないし、死んだということだけははっきりしている。ただ、来世というものがボクにはあって、ボクは転生者になったということだけが真実。

 

 想定外は、性別が女だった(TSしていた)ということ。

 

 何にしたってボクは生まれ変わった。性別も、環境も、生き方すらも何もかもが変質した。それでも、一つだけ変わらなかったことが在る。

 なんてことはない、あまりにも当たり前で、考慮する必要すらない事実。

 

 

 ボクがぼっちであるということだ。

 

 

 そしてそれは――救いようがないくらいにボクが愚か者であるという、何よりの証明だった。

 

 

 ●

 

 

 朝、目を覚ますと最低限の髪の手入れだけをして、衣服に袖を通す。

 最近、ますます服がきつくなってきた気がするが、だからといって代わりの服とかボクにはよくわからない。この服は故郷で正装として使用されていた魔術師用ローブだから、どこに着ていくにも無難なので、かえたくない。何とかぎゅうぎゅうに押し込んで、服を着た。

 肌の手入れとかはよくわからない。一応、幼い頃に水の魔術には保湿の効果があるとか聞いたので、朝は欠かさず魔術で水を生み出して顔を洗っている。

 そうして準備を整えると、人に見つからないよう祈りながら宿を出る。

 朝はまだ日が登り始めた頃、こんな時間に出歩くのは一部の職人くらいなもので、彼らと面識のないボクを、彼らが注目することはない。

 

 だから大丈夫、この時間に外を出れば冒険者たちと出くわすことはない。そうであってくれと、心の中だけで祈る。

 残念ながら、結果は無惨にも失敗だった。どうやら昨日から一日かけて討伐にでもでかけていたのか、この時間に帰ってきた冒険者パーティとすれ違ってしまった。

 しかも悪いことに、ボクは彼らの顔に見覚えがある。向こうだってきっとそうだろう。悪い意味で、ボクを認識しているはずだ。

 

 

「――ネズミ捕りだ」

 

 

 パーティの誰かが、ボクを指さしてそう言う。声をかけられないように早足でその脇をすり抜けて、向こうが気まぐれを起こす前に何とかその横を通り抜けた。

 

 ほっと一息。同時に、惨めさが湧いてくる。どうしてボクは、こんなことをしているんだろう。通り過ぎる際に聞こえてきたクスクスという嘲笑の笑い声は、もしかしたら幻聴だったかもしれない。

 

 やがて、冒険者ギルドが見えてきた。見慣れた看板に少しだけ心を落ち着けながら、外を掃除していた職員さんに目を向ける。知っている人だ。

 

「おはよう、今日も早いね」

「あっ……はい」

 

 殆ど挨拶にもなっていないような返事を返して、会釈をしてからギルドの扉を開く。中には数人の冒険者と、職員の姿も在る。

 思わず冒険者の姿に顔がこわばるが、この時間に来るような酔狂な人間は大抵理由があってそうしているものだから、何か言われることは一切なかった。

 

 冒険者ギルドは、冒険者がギルドから発せられた依頼――クエストを受注し、その達成を報告して報酬をもらう場所。前世の創作にあったギルドほぼそのままなその場所だが、しかしボクは依頼に目もくれず受付へ向かう。

 受ける依頼が、既に決まっているからだ。

 そもそも、依頼は朝の時間に一括で張り出されるが、張り出されるのはもう少し先である。ボクが依頼を受けることができるのは、既に受ける依頼をギルドの方も承知しているからに過ぎない。

 

 受付のお姉さんは、こちらに気がつくと笑顔で「おはよう」と言ってくれた。ボクもおはようございますと返すが、声が小さくて聞こえていないかもしれない。会釈してから、話を切り出す。

 

「あの、えっと」

「はい、いらっしゃいクロアちゃん。今日もいつもの依頼でよかったわよね」

「あ、お願いします」

 

 クロア、というのはボクの名前。名字はない、この世界で名字を持つのは貴族とかそういう人だけ。中世はどこもそうだった気がする。

 ――この時、ボクの思考はそんなどうでもいいことと、この後の依頼をどうやってこなそうかということに気を取られていた。

 だから、続くお姉さんの言葉に、一瞬反応ができなかった。

 

「――と、いいたいところなんだけど、ごめんなさい。実はその依頼、今日はもう達成されちゃったの」

「……あ、はい……え?」

 

 思わず脳死で返事をしようとしたところで、言われた内容が頭に入ってきて首をかしげる。

 達成された? 何故に? どうしてどうして? 嘘でしょ? ()()()()()()? まだ日も昇った頃だっていうのに?

 

「え、あ、う……ぜ、ぜ、全部……で、すか」

「そう、全部なの。地下水路の掃除も、ゴミの収集も、薬草の採取も」

「えぇ……」

 

 びっくりして開いた口が塞がらない。

 お姉さんが言っていたボクの受けようとしていた依頼を聞いて何となく想像がつくかもしれないが、これらの依頼は冒険者が受ける依頼としては、非常に面倒かつ誰も受けたがらない依頼である。薬草の採取っていうのはピンと来ないかもしれないけど、まぁこれも面倒な依頼なんだ。いつか触れると思う。

 だから他の冒険者とかち合うことがないためボクとしてはそれを気軽に受けれるし、この時間にはもう今日の分が依頼として出されているため、この時間に来て受けることができていたのだけど。

 

 それが、終わっている。

 毎日のルーチンとしてこれらの依頼をこなしていたボクとしては、思わずびっくりしてしまう。お金には困っていないから必ずしもそれを受けなきゃ行けない、ということはないんだけど。

 

 そうやって困惑していると、お姉さんが見かねてか、はたまた最初からそう提案するつもりだったのかボクにある提案をしてきた。

 

「でもね? 代わりにクロアちゃんにお願いしたいことが在るの」

「おね、がい……ですか?」

 

 お願い。

 なんだろう、できることならそのお願いには答えたい。お姉さんには……というか、ギルドの人にはいつも本当によくしてもらっている。だから、その恩を返せるというなら是非ともそうしたいのだ。

 

 ただ、何となく嫌な予感もしていた。

 こういうお願いって、言ってしまえば変化を促すということだ。これまで毎日を鬱屈とはしているけれど、ルーチンでこなしてこれていたボクにとって、変化が受け入れやすいものかどうかは内容による。

 そして実際、その変化はボクにとって嬉しいものではなかった。

 

 

「――パーティを組んで、依頼を受けてみない? もちろん、断ってくれても全然いいんだけど」

 

 

 ――パーティ。

 冒険者におけるパーティとは、運命共同体。二人から六人の、役割を分担した冒険者からなる一つの部隊である。依頼を共に受け、その困難と報酬を分かち合う。

 常に共に行動し、生活すらも近くで行う分、仕事の同僚というには近すぎるくらいの関係性を要求される。

 

 まぁ、言うまでもなくボクには無縁で、そして無茶な代物であることに違いはない。

 

「むむむむむ、無茶、ですよ……ボクに、パーティ、とか。そんなの、絶対」

「クロアちゃんがここまで強く否定するなんて……!」

 

 なんでそんなことに成長を感じるんですかお姉さん! 嬉しそうにしないでください!

 ぐすんと涙を流した受付のお姉さんは、涙を拭ってから改めて説明をしてくれる。

 

「もちろん、無理ならそれでもいいのよ? でも、相手はギルドとしても信用できる……()()()()じゃない、ちゃんとした冒険者なんだから」

 

 ――低ランク。そのことを口にする時、お姉さんは少しだけためらった。

 ボクも、その言葉を聞くとちょっとだけ身がすくむ。なんてことはない言葉だけれど、ボクを見下してバカにしてくる冒険者のことと同義なんだから、致し方のないことだと思う。

 

 そして、お姉さんの言い方から、お姉さん……というよりもギルドがボクのことを考えてその人を紹介してくれているということは理解できた。

 多分、本当にいい人なんだろう。ボクのようなぼっちに対しても偏見なく受け入れてくれて、ボクのことをバカにしない、全うでちゃんとした人なんだ。

 

 ……だったら、

 

「だったら、なおのこと、だめ、ですよ。そんな、人と、パーティ……組んだら、迷惑……かけ、ちゃいますし」

 

 だんだん、言葉尻がすぼんでいって、最後は顔を伏せて殆ど相手に伝わっていないんじゃないかというような話し方をしてしまった。

 ……自己嫌悪が湧いてくる、どうしてこんな事を言ってしまったんだろう。

 ギルドの人を困らせてしまう。ああ、やっぱりボクは最悪だ。

 

「…………」

「その、ごめん、なさい」

 

 お姉さんは、ボクの言葉を最後まで待ってくれていた。多分、この提案をした上で、こうなることはお姉さんにも解っていたと思う。ボクにしてみれば、そもそもギルドの人にこれだけ気にかけてもらうことですらおこがましいのだ。

 ボクみたいな存在が、誰かに認められるとか、愛されるだとか。

 

 そんなの、少し吐き気がする。

 

「分かったわ、こっちも変なこといってごめんね」

 

 ――後ろでぎぃ……と音がした。

 

「ああ、でも」

 

 なぜだか、話の最中だというのに視線がそちらへ向く。お姉さんの視線に誘導されたか、もしくはボクが自然とそうしたのか。

 後になって思い返しても、その答えはないのだけれど。

 

 ――でも、振り返った。

 

 多分、そんな何気ない行動が、ボクの運命を変えるとも思わずに。

 

 

 女の人が、立っていた。

 

 

 長い銀髪をでっかい三つ編み一本結びにして、服装は動きやすそうな黒い服。和装というわけでもないのに、忍者服のような印象を受ける、不思議なデザインの服だ。

 でかいマフラーで口元を覆って、表情を読み取れないのが原因だろうか。

 身長は百六十後半くらい、ボクが小さいのもあって、頭一つ分違うんじゃないだろうか。

 

 すらっとした美人さんが、そこにいた。ボクはそれに視線を奪われて、ぽつりと口に出していたのだ。

 

「――キレイ」

 

 ――と。

 とはいえそれは、誰に届くこともなく。女の人はつかつかとこちらによってきて、視線でお姉さんに挨拶する。お姉さんも「おはようございます」といつもの笑顔で応対していた。

 

「ほらクロアちゃん、この人よ?」

「え? あ……」

 

 この人、この人、この人。ええっと……ああ、うん。この人か。

 これまた顔のいい女の人に意識が取られていて認識が遅れた。つまりこの人が、今日パーティを組むことになっている人。

 

「――君が?」

 

 透きとおる声だ。

 すごく、はっきりと通る鈴のような声で問いかけられた。思わず、ちょっとだけ背筋が伸びる。

 

「あ、はい……く、クロアです」

「ん……セナ」

 

 ――セナさん。

 美人で、浮世離れした雰囲気をもっている大人の女性。うん、なんというかこの人は、セナさんって感じの人だ。思わず、見惚れてしまった。

 

「今日は、よろしく」

「…………へ?」

 

 よろしくされてしまった。

 ……ああいや、それもそうか。断ったのはたった今だし、この人は知らないよねうん。一瞬お姉さんの方を見ると、申し訳無さそうに視線を返された。

 

「セナ、それなんだけどね? 実は――」

「――――すごく、すごく楽しみにしてた」

 

 お姉さんは、こちらを気遣ってかボクが断ったことを切り出そうとしてくれていたみたいだ。いやまぁ、ボクから言えるかって言ったら、言えるはずもないんだけど。

 ああ、それでも申し訳ないことをしている。その上、セナさんはそれに気付かずこちらに視線を向けている。

 

 すっごくきらきらとした、眩しい視線を向けている……!

 

「私……パーティを組むのは初めて、貴方は?」

「え、あ、は、初めてです……」

「お揃い、嬉しい」

 

 何気ない手付きで、手を取ってセナさんは顔を近づける。あ、ああ、ちかい、とてもちかい! 思わず視線を落とした。野暮ったいローブが視線に入り、若干の落ち着きを得る。

 ――この人、あれだ。口数は少ないっぽいし、表情の変化も乏しい、一人でいるのが好きなタイプなんだろう。

 

 だけど、愛嬌が凄い。きらきらと輝いた瞳は、表情がなくとも感情をダイレクトに伝えてくる。手を取って、親しげにそれを揺らすのも可愛らしさを感じさせる仕草だ。

 本人にその意図はないけれど、人間力が高い……!

 

「ぴ、ぇ、ゃ、ぁ、ぅ」

 

 それなのに何だその音は、口から漏れた声にもなっていないような音を漏らすバカはだれだ! ――――ボクだ。

 

「す、ストーップ! セナ、クロアちゃんが驚いてるから落ち着いて!」

「わ、ごめん」

 

 ぱっと、手を離すセナさん。ぬくもりだけが残されて、ボクは距離を取ったセナさんに視線を向けて――それがあって、慌てて逸した。

 人の目は、簡単には見れない。

 

「い、いえ……その、大丈夫、です」

「もう、セナは初対面の相手にも遠慮が為さすぎるわ。クロアちゃんも、強く言っていいんだからね」

「わかった」

「あ、はい」

 

 二人が頷いたのをみて、お姉さんは話をまとめるように、セナさんの方を見る。

 

「それで、さっきも言おうとしたんだけど――」

 

 つまり、それは。

 

「クロアちゃんね?」

 

 ――つまり、それは、

 

 お姉さんはパーティを組むことを断ったと伝えるつもりだ。

 

 視線がさまよう。遠く、朝早くから依頼を確認しに来たりしている冒険者たちは、こちらに興味を抱いている様子はない。他の受付はまだギルドに来ていない。

 

 セナさんとお姉さんの話に入れるのは、ボクしかいない。そしてボクは先に断った。だからお姉さんはそれを伝えようとしてくれている。

 誰も悪意を抱いておらず、善意だけでボクはまたぼっちに戻ることができる。

 

 なら、それもいいか、なんて。

 

 思う自分も、心の何処かにいて。

 

 でも、今のボクは、それだけじゃなかった。

 

 ――それだけじゃ、なかったんだ。

 

「パーティの件――」

 

 

「――セナさん。パーティ」

 

 

 お姉さんが言うよりも早く、ボクは一歩前に出た。セナさんが遠慮して離れた分を埋めるように。お姉さんはこっちを見て笑顔を浮かべて口を閉ざす。

 ボクは何とか視線を彷徨わせながら、顔を上げてセナさんを見た。

 言うべきことは、決まっていた。

 

 

「……パーティ、よろしく、おねがいします」

 

 

 ちょっと吃ってしまったけれど、それでもいつもよりはっきりと、ボクはその言葉を口にすることができた。

 セナさんの顔が、変化はないのに明らかに華やいで――

 

「――うん」

 

 力強く、頷いた。

 

 前世と今、二つを合わせて数十年。

 今まで、一度として仲間(パーティ)なんてものを作ったことはなかった。

 そんなボクが、この日初めて――

 

 

 生まれて初めて、パーティを組んだ。

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