TS転生ぼっち冒険者、パーティを組む。   作:ぼっちTS百合推奨派

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ぼっち冒険者、クエストに挑む。

 クロア。

 それが転生した今のボクの名前だ。

 転生したボクの故郷は、魔術を研究する一族の里だった。一族全員が魔術師という、この世界においても稀有な環境で育ったボクは、当然魔術に傾倒した。

 ただ、当然と言えば当然だけど友人は一人もいなかった。

 

 常に一人で魔術を学ぶだけの子供。周りの子供からしてみれば面白い存在ではなかっただろうけれど、故郷では魔術を学ぶことこそが至上の命題であり、それに忠実なボクは評価される側の存在だ。

 排斥されることは、一度もなかった。

 まともに会話したことも、なかったけれど。

 

 ただボクは――故郷でのある出来事をきっかけに故郷を出奔した。両親はボクの好きなようにすればいいと言っていたけれど、正直それがボクを認めての発言だったのか、放逐する上での発言だったのか、今でもボクにはよく解っていない。

 

 一人で故郷を出るということは、どこかで働いてお金を得なくてはいけないということだ。魔術を使える以上、ボクは魔術師として国や学校に雇われるか、冒険者として活動するかの二択を迫られた。

 もちろん、選んだのは後者だ。どう考えても人に仕えるとか、教えるとかそういうことが向いている人間ではボクはなかった。

 

 ――ただ、だからといって冒険者が向いているかといえばそんなこともなかった。

 冒険者というのは原則パーティを組むものだったし、何よりボクはそんな徒党を組んだ連中からしてみれば、()()()に見えたんだろう。

 ぼっちだから、陰キャだから、というよりも反撃してこないだろうから、と。

 

 冒険者になって数年、今やボクは見かければ攻撃してもよいものとされているような状況だ。

 「低ランク」と呼ばれる冒険者たちの間で、ボクは格好の標的となっていた。

 冒険者にはランクと呼ばれるものが存在する、「Aランク」から「Eランク」まて、よくあるやつだが、この内DランクとEランクが低ランクである。

 ちなみにボクはCランクだ。実はボクを攻撃してくる連中よりランクが高いのである。というよりも、品行方正にクエストをこなしたりしていれば、二年もすればCランクまでは自然と上がることができる。

 

 冒険者は誰だってEランクからスタートするが、冒険者にたって二年経つまでは「新人」と呼ばれる区分で呼称される。だが、二年経ってもなおCランクに上がれていない冒険者が「低ランク」に区分される。

 はっきり言って、落ちこぼれだ。依頼の達成率が低かったり、依頼を達成してもその報酬をすぐに使ってしまって、借金を抱えてしまったりするとCランクに中々上がれなくなる。

 

 実はこの「低ランク」の冒険者は非常に多い。冒険者としてその日暮らしをしていくにはDランクもあれば十分で、熱意の低い冒険者はだいたいそこで満足してしまうからだ。

 他にも才能がなくて実力が根本的に足りなかったり、それを何かしらの方法で補おうとしなかったりすると、ランクはいつまで経っても上がらない。

 

 ちょっと工夫して、上に上がる熱意さえアレばCランクになることは難しくないのだが、それをしようと思えるほど精神的な余裕がないのは、「低ランク」の特徴といえば特徴だろう。

 ボクに対して、嫉妬混じりの侮蔑を投げつけるのも、そういう人間性から来る……と言ってしまうのは暴言だろうか。

 

 とはいえ、ボクがそういう連中から攻撃されてしまっていることに違いはない。正直、やり返してしまえばそれで彼らは攻撃をやめるかもしれない。

 でも、ボクは争いが嫌いだ。誰かを攻撃して、誰かを傷つくのを見るのは嫌だ。

 戦うなら、魔物だけでいい。

 それに、ボクが避けていれば、衝突なんて起こらないのだ。だからああして、朝早くからギルドにでかけて依頼を貰っているわけで。

 

 ボクが貰っている依頼、「地下水路の掃除」、「ゴミの収集」、「薬草の採取」は冒険者ギルドでもっとも人気が低く、そして毎日発生する依頼だ。

 誰もやろうとしないのに、やらないといけないわけだからボクはこれを受けることにしている。

 何よりそれを受ける利点がある、一人になれるということだ。他の冒険者が受けないこともあって、毎日それをしているだけで一日がすぎる。報酬も悪くないから、生きていくには困らない。

 

 そうやって、誰も受けたがらない依頼を受けているうちに、どうやらギルドの人はボクのことを気に入ってくれたらしい。顔を合わせれば挨拶をしてくれるし、まだ依頼が張り出されない時間でも、依頼を融通してくれるようになった。

 彼らがいなければ、ボクはこの街で冒険者を続けていられなかっただろう。

 

 ただ、最近はどういうわけか不思議なことに、これら三つの依頼をボクが受ける前に誰かが達成しているなんて状況が発生していた。

 「ゴミの収集」は頑張ればすぐに終わるかもしれないけど、「地下水路」と「薬草」はそれぞれの事情ですぐに終わるものではない。

 

 今日に至っては、ついに全ての依頼が達成されていた。一応、これらの依頼以外にも食い扶持を稼ぐ方法はあるので困らないというか、むしろ他の人の手を煩わせてしまって申し訳ない限りなのだけど。

 

 ――果たして、一体だれが依頼をこなしているんだろう。

 

 とはいえ、今はそんなことよりも――

 

 

 眼の前の問題、すなわち初めてのパーティで挑むクエストの方に意識を向けるべきだった。

 

 

 ▽

 

 

「――クロアは、どんなことができるの」

「あ、えっと、魔術を……少し」

 

 ―――――――――そして、今ボクは最大のピンチを迎えていた。

 

「魔術、凄いね。私はできない……クロアの得意な魔術は?」

「あの、えっと、得意なのは……ないです。一応、一通りは、つかえます、けど」

「ふーん、そっか」

 

 ――沈黙。

 

「クロアはどうして魔術を覚えようとおもったの?」

「こ、故郷が……魔術師の里だったので」

「あ、知ってる。クロウリーの里、だったっけ」

「あ、はい」

 

 ――――沈黙。

 

「これから向かう場所のおさらい、しておく?」

「あ、いえ、覚えてます。大丈夫です」

「わかった」

 

 ――――――――――沈黙。

 

 気まずい。

 話すことがない。

 何を答えたらいいか思い浮かばない。

 

 結果、言われたことに適当な返事を返すいい加減なコミュ障の完成だ。

 

 セナさんは口数が少ない。しかし、ボクとふたりきりだと必然的にセナさんから話題を振って、セナさんが喋ることになる。もしかしたらセナさんの人生で、今が一番会話の多い時間かもしれないと思うほどに。

 ボクの方が、よっぽど話す言葉は少なかった。

 

「でも、おさらいは大事。もう一回確認するね」

「あ、はい」

 

 そして、ついに話すことがなくなってしまったからだろうか、気を使ってセナさんは今回の依頼を振り返ると言ってくれた。

 返す言葉のないボクが完全に悪いのに、セナさんはいい人だ。

 

「私達はこれから、町外れの墓地の見回りをする」

「は、はい」

 

 墓地の見回り。

 言葉にすれば簡単に聞こえるが、難易度Cランクの危険なクエストの一つだ。というのも、この世界の墓地に眠る死者は時折アンデッドとして墓の下から這い出してしまうのである。

 なので定期的に見回りをして、墓地からアンデッドが這い出してきてしまいそうなら、それを浄化して防ぐ必要がある。

 

「今回は、ほぼ間違いなくアンデッドが発生している。前に見回りをしたのが、もう一年前らしいからね」

「そ、そうですね……」

 

 放置しすぎでは? と思ったがうまく口にできなかった。

 実際、放置しすぎである。口に出すまでもなく。というよりも、これまた冒険者にとっては人気のない依頼なのだ。アンデッドは臭いし、浄化のための道具か魔術が必要で準備も大変だ。

 

「クロアはアンデッド、怖くない?」

「え、えっと……その、浄化、は……できるので、あまり」

「すごい。幽霊とかも?」

「は、はい……浄化できるなら、別に」

 

 で、ボクたちの場合、ボクが浄化の魔術を使うことができるので準備はあまり必要ない。本来なら、これもボクが受けるべき依頼の一つなんだろう。だけどCランク以上の依頼は、一人で受ける場合一つ上のランクじゃないと行けないからボクはこの依頼を受けられない。

 危険だからだ。下手にアンデッドと戦闘になって浄化に失敗した場合、新しいアンデッドが一人増えてしまうことになる。

 

「私はBランクだけど、浄化できないから、これまで依頼を受けられなかった」

「そ、そうなん、ですね」

「クロアのおかげでやっと解決できる、ありがとう」

「あ、はい」

 

 セナさんは、見た目のできる雰囲気に違わず、高ランクの冒険者だった。一般的にCランクで一人前、Bランクで一流という評価がされる。

 Aランクは雲の上の存在なので、もしかしたらセナさんはあのギルドで一番高ランクの冒険者かもしれなかった。

 

 そう思いながら、ふと口から言葉が漏れる。

 

「あ、あ、ああの、せ、セナさんはどうで、すか?」

「どう、って?」

「え、う、あうあ、あ、ぅ……幽霊、です……」

 

 ――やってしまった。

 主語がないせいで、セナさんが意図を読み取れなかった。慌てて付け足すけれどうまく言葉がでてこず、最終的にすごく小さな声で付け加えてしまった。

 これで聞こえていなければ、ボクはなんというか、ここで死ぬしか無いかもしれない。

 

「幽霊……」

「あ……」

 

 よ、よかった。

 聞こえてた。……聞こえていた、のだけど。

 

 ――ピタ、とセナさんが停止した。

 

 え? と疑問符を浮かべていると――

 

 

「こ、こわい……ゆうれいむり」

 

 

 ぷるぷると震え始めてしまった。

 

 え、ええ!?

 

「せ、せせせ、セナさん?」

「ななななにかな。あ、ああああああ。ひひひひとりにしないで、クロア」

 

 吃ってるボクと、バイブレーションするセナさん。何か同じ単語ばっかり繰り返しているような。なんて考えている場合じゃない。

 

「おおお、おちついてくださいセナさん」

「あばばばばばばばばばばば」

 

 う、ううう、だめだ。セナさんが抱きついてきた。あああなんかいい匂いする! 違うそうじゃない。あと思ったより体型はスレンダー寄りだった。ゆったりとした服装なのでシルエットははっきりしないのだ。

 ……違う!

 

「せ、セナさん。大丈夫、です。浄化、浄化しますから」

「――はっ。そっか、安心した」

 

 復帰はや!?

 あっという間に平静を取り戻してしまった。これは……一流冒険者。いやなんか違うような?

 

「ごめん、取り乱した」

「あ、こ、こっちこそ、不用意に、ごめん、なさい」

 

 ぱっと体を離してセナさんが頭を下げる、とはいえ元はと言えばボクが不用意な発言をしたのが悪いのだ。それにしても、セナさん暖かかったな……

 何考えてんだバカ! ボクのバカ!

 

「でも、安心して」

 

 不意に、セナさんがそんなことを口にする。

 

「幽霊は無理だけど、アンデッドなら大丈夫。――切れるから」

「切れる」

「そう、切れる。私は剣を使うからね」

 

 ふふん、とセナさんは胸を張った。剣士なのは、身のこなしというか体の動かし方で何となく解る。それもかなりの使い手だ。ただ、それ以上のことは解らない。

 何だけど……今の会話、ちょっと違和感があるな?

 

「……そろそろ到着する」

「あ、はい。そう……ですね」

 

 このあたりに来たことはないけれど、たしか地図ではこのあたりが墓地だった……気がする。町の中央にある大きな地図、人がごった返す場所にあるので、二年前にこの街にやってきた時にしか見てないけれど。

 

 ともあれ、こうしてボクはセナさんと話しをしながら――言い換えれば、セナさんとの話というピンチを乗り越えて墓地にたどり着いた。

 はっきりいって、激戦だった。今も心臓は緊張でバクバクしているし、いつ精神が限界を迎えるかわかったものではない。

 

 でも、ここまでくればもう安全である。後やることといえばアンデッドの浄化だけ、そボクはアンデッドの浄化ができるし、セナさんもBランク冒険者だ。そうそう変なことは起きないだろう。

 人付き合いと死者づきあい、大変なのがどちらかといえば、ボクは断然人付き合いである。なにせ一度は死んだことの在る身だ。死者のほうが親近感がある。

 

 なんて、冗談というには少しばかり不謹慎なことを思いながらも――ふと、足を止める。

 

「――まって」

「あ、あの」

 

 同時に、セナさんも気づいた様子で足を止めた。そこでお互いに視線を合わせて――不思議と、ここはあまりにも自然に呼吸が合った――意識を切り替える。

 セナさんは一体どこから取り出したのか、ショートソードくらいのサイズの剣を両手に構えた。どちらも逆手、その機敏さも相まってやっぱり忍者みたいだ。

 

「クロア、詳しい数わかる?」

「えっと……」

 

 セナさんが感じ取ったもの、ボクが察知したもの。それは言うまでもなくアンデッドだ。墓地の周りにはアンデッドが外に出ないよう結界が張られている。

 だから、ボクにはその結界がどこかほころんでいるように思えた。対してセナさんは、おそらくアンデッドから発せられる殺気みたいなものを感じ取ったんだろう。

 

 明らかに殺すつもりで、アンデッドがこちらを待ち構えている。

 

 問題は、数。セナさんはあくまで直感で察知したにすぎないから、ボクがそれを正確に把握する必要がある。ボクが気付いたのは魔術による気配探知のおかげだから、そのまま数を推察することも可能だ。

 

 そして――

 

 

「――約百体です。……百体?」

 

 

 とんでもない数の数字を、気がつけば口にしていた。

 

「…………やっぱり」

 

 警戒を強めるセナさん。

 ああ、しかしこれは……なんだ。

 

「――放置されすぎ、この墓地」

「そうですね……」

 

 セナさんの言う通り、原因は放置されすぎた墓地。そこから無数のアンデッドが這い出している。最大数は約100だがもう少し増える可能性もある。

 簡単だったはずの依頼は、気がつけばとんでも難易度のクエストへと発展しようとしていた――

 

 

 ……そういえば、今の「そうですね」は吃らずに言えてなかったか?




会話>クエスト難度は絶対の決まり。
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