TS転生ぼっち冒険者、パーティを組む。   作:ぼっちTS百合推奨派

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ぼっち冒険者、キレイと褒められる。

 アンデッド。

 報われぬ死者を、冥界の神が利用して生み出した死の尖兵。この世界には善い神様と悪い神様がいて、善い神様は人間に益するものを生み出し、悪い神様は人間に害するものを生み出すという。

 魔物、というのが悪い神様の生み出す代表的な存在だ。冥界の神もこの悪神に分類される。その冥界の神が生み出すのがアンデッド――と、一般には言われている。

 

 実際のところ、魔物というのは淀んだ魔力によって発生する。澱んだ魔力というのは前世で言い換えれば排気ガス。この世界でそれが生まれる要因は「負の感情」が大きい。

 墓地というのは負の感情が溜まりやすい場所だ。単純に死者が亡くなったことによる悲しみだけでなく、「墓地とは暗い場所」という認識そのものにも負の感情はたまる。

 つまり、心霊スポットにそういう認識が集まりやすいのと同じこと。

 

 この世界では、それが物理的な力をもつというだけで、基本的な原理は前世とそう変わらない。人の考えることは、どの世界でも概ね同じということだ。

 

「――クロア。私がアンデッドを無力化する。無力化したアンデッドを浄化して」

「は、はいっ」

 

 今、目に前ではセナさんが鬼神の如き活躍を見せていた。墓地にはボクが測定した通り、百体くらいのアンデッドがうぞうぞとうごめいていた。

 すごい光景だ。前世の行列はもっと整然としていたな、とテレビでしか見たこと無い光景を思い出しながらセナさんの戦いを見守る。

 

 凄まじい、の一言だった。

 剣を構えて飛び出して、アンデッドの()()()()()()()()まで一秒も経っていない。瞬き一つしている間にことが終わっている。二つの剣を同時に振るって切り飛ばしたのだ。

 それが息継ぎの間もなく十秒近く連続する。あちこちにアンデッドの破片が転がって、その一部がボクのもとへ飛んできた。

 

「わっ」

 

 思わず飛び退いてしまうが、セナさんはこれを浄化するよう言っている。慌ててゴツゴツとした手袋に覆われた右手を翳して体内の魔力を循環させる。

 

「――第二下級神聖魔術」

 

 光が右手から漏れて、ボクはそのままそれを倒れるゾンビに翳した。

 

「“聖別(ターンデッド)”」

 

 直後、その光がアンデッドを包み――気がつけば、アンデッドはまるで最初からその場にいなかったかのように消えてしまった。

 アンデッド、というのは別に墓地から這い出てきたわけではない。魔力によってその形が作られているというだけだ。だから“聖別”で浄化してしまえば消えてなくなる。

 普通はこういうのは、魔力がアンデッドになる前に浄化するのが鉄則なんだけど、今回はそうも言っていられない。

 

 ああ、“第二下級神聖魔術”というのは魔術の難易度を指す。第一から第九までが存在し、第一から第三までが下級、第四から第六までが中級、それ以上が上級という呼び方がされる。

 神聖魔術は、光に関する魔術の種類。他にも火魔術、水魔術、風魔術、土魔術、暗黒魔術が存在する。神聖と暗黒だけ呼び方が違うのは、宗教的な理由だ。ぶっちゃけ白と黒に言い換えてもいい。

 

 ともかく、飛んできたのが一体だったから“聖別”したけれど、これでは一向に数が減らない。

 

「せ、セナさんっ」

「これは、まともに相手できないね。ある程度数が減ったら撤退してギルドに報告。ちゃんとした討伐隊を組まないと」

 

 アンデッドの腕を秒速二本の速度で切り飛ばしながら、セナさんは言う。

 さっきの一撃もそうだが、凄まじい速度でアンデッドの腕や足を切り飛ばしているというのに、数は一向に減った様子がない。それは当然、アンデッドは再生する。切り飛ばした先から再生していてはキリがないのだ。

 これが、セナさんの言っていた「自分だけではこの依頼を達成できない」理由。

 

 だからそのために、ボクがアンデッドを浄化しなくちゃいけないのだけど。

 

「クロア、大丈夫? そっちにアンデッドがいったら言って」

「え、あ、な、なんでです、か?」

「――クロアが、危険」

 

 セナさんは、ボクにアンデッドを投げてくれない。ぽい。ぽい。と時折四肢を切断した状態で動けなくなったアンデッドが投げ込まれる程度。これでは効率が悪くて、セナさんも思うように戦えないと思うのだけど。

 そもそもセナさんは、殆ど動かずに戦っている。ボクの前に立って、迫り来るアンデッドを迎撃する戦い方をしているのだ。

 

 本来なら、もっと縦横無尽に戦場を駆け抜けて、攻撃なんて一度も貰わずに戦闘を終了させるのがセナさんのスタイルだろうに。

 いやまぁ、今も傷なんて一つも負っていないんだけど。

 

「危険、って、そん、な」

「……安心して」

 

 ――ふと、ここまで幾つか引っかかっていた認識が頭をよぎる。

 そもそもこの依頼は、どう考えてもCランクでは収まらない。まず、ギルドが想定していた状況と今の状況が異なる。なんだ百体って、多分ギルドはいても数体のアンデッドで、最悪セナさんがぱぱっと四肢を切り離せばそれで問題ない状況を想定していたはずだ。

 どう考えてもBランク――原因によっては、最悪Aランクすらありうる事態。セナさんが撤退というのも当然だ。それがベターな選択なのだから。

 

 そしてもう一つ。ボクはセナさんに何といった? そう、たしかこうだ。『得意な魔術は?』という質問に、『特に無い』と答えた。でもってボクは、実情としてはCランクに上がって新人を卒業したばかりの一人前“見習い”。ああ、つまり――

 

 

「……クロアは、私が守るから」

 

 

 ()()()()()()()

 いや、違う。そうじゃない、それは思い上がりだ。ボクが悪いんだから、ボクがキチンと伝えなかったから。こんな状況想定していなかったというのも、言い訳にもならない。

 必要ないのに。

 ボクなんて、守ってもらう必要もないのに。

 

 だからボクは――また、誰かに迷惑をかけてしまったんだ。

 

「ぁ、ぅ、せ、セナ、さん」

「……ん、何」

 

 セナさんは何気ない様子でアンデッドを切り捨てながら視線を向ける。それでも腕は一切止まらないどころか、むしろ勢いよく加速しているようにすら見えるのだから、その実力は本物だ。

 

「だ、だぃ、じょ。ぅぶ……です。心配、し、なくて」

「クロア」

 

 何とか、伝えた。セナさんの剣が肉を切り裂く音の方が大きい状況だったけど、正確に伝わったかわからないけれど。とにかく、伝えた。

 ――返ってきたのは、

 

「――気にしなくていい。これは、私がしたくてしてること」

 

 どこか、ボクを諭すような声。

 ああ、それはボクがコミュ障だから――見ていて心配になるような奴だから。そう言わせてしまっている。

 

「だって私は、()()()()()()()()()()んだから」

「――――え?」

 

 ――そう思っていた。

 

「言ったでしょ、パーティ組むのは初めてだから、楽しみだって。……でも、それだけじゃない」

「ぁ、ぇ」

「アイリが――」

 

 アイリさん。受付のお姉さんの名前だ。

 いつもボクもお世話になっているあの人が、……なんだろう。もしかして、と思ってしまう。

 

 

「――君のことを話す時、とても楽しそうに笑うから」

 

 

 セナさんは、アンデッドと切った張ったを繰り広げながら、そう言った。

 

 ――思わず身構えてしまった自分を反省する。そりゃそうだ、この話の流れでアイリさんがボクを悪く言うはず無いじゃないか。ボクのことを噂するのは、ボクに悪意のある人だけだなんてそんなの、普通はありえないんだから。

 でも、嫌われるのが怖くて、噂されるってことは、バカにされてることだなんて思ってしまって。

 

 ああ、でも。

 

 でも、でも、でも。

 

 

 そもそもボクは、ボクのことを認めてくれる人がいるから、冒険者を続けていたんじゃないか――――

 

 

 ▽

 

 

 一人が好きで、孤独が嫌いで。

 多数派でいると安心して、群れの中にいると居心地が悪い。

 認められたくて、けれど目立ちたいわけじゃない。

 

 はっきり言って、面倒くさくてどうしようもなく心の小さい――自分が嫌いだ。

 それでも、ボクはボクのことを認めてくれる人も、この世界にいることを知っている。

 

 ギルドの人たちは、本当にいい人たちだ。今回のことだって、ボクのこれからを色々と考えてくれた末のことなんだろう。

 実際、引き合わされたセナさんはとてもしっかりした人で、ボクにも根気強く付き合ってくれた。

 そんな人達がいることを、ボクは知っている。

 

 ああでも、それは決して、彼らが()()()()()()()()そうしているわけじゃないことも、知っている。彼らだって好き嫌いはする。「低ランク」の冒険者のことを彼らは決して好いてはいないし、その存在に頭を悩ませてもいるんだ。

 

 同じように、ボクがコミュ障で人付き合いがまともに出来ないから、「低ランク」はボクのことを攻撃する。これはボクが悪いのかといえばそうではないけれど、彼らがボクを嫌いになる理由にはなる。

 同じことだ。

 

 ギルドの人達は、()()()()()()()()()()()()()からボクに良くしてくれている。それもまた、ボクが特別優れているからとかではなくて、たまたま彼らの好みにボクの行動が合致しただけのことで。

 

 ――世界って、多分そういうものなんじゃないだろうかと、たまに思う。

 

 ボクが人付き合いを苦手としているのも、セナさんが一人で生きていけるタイプなのも、結局は一人ひとりの個性に過ぎなくて、それらを好ましいかそうじゃないかで、人は人との付き合い方を決める。

 

 ボクの場合は、それが冒険者ギルドの職員さんたちで、どうして彼らが好きかといえば。

 

 ――ギルドの表で掃き掃除をしていたおじさんが、

 ――ボクがセナさんとパーティを組むと言い出した時のアイリさんが、

 

 そして、今ボクの前でボクを守りながら戦うセナさんが――――

 

「――ボク、は」

「……ん?」

 

 一歩、前に出る。

 

 人は、一人じゃ生きていけないと誰かは言う。

 そんなの、一人ぼっちのボクは誰よりも解ってる。きっと、世界の誰よりも知っている。それは単なるうぬぼれかもしれないけれど、でも。

 

 そう思うことで、ボクはようやく前に出る。

 

 少ない勇気を、止まったまま錆びついた心への着火剤に変えて。

 

 それまでずっと、うつむいていた顔を前に上げるんだ――!

 

 

「ボクは、ボクに笑顔を向けてくれる人のために、戦ってるんだ」

 

 

 ――セナさんは、笑っていた。

 表情の変わらない人だと思っていた。けどアンデッドと相対しながら、セナさんは笑ってたんだ。ボクを守ると口にした時から、ずっと。

 

 だから、ボクはセナさんのために戦いたい。

 魔術は好きだけど、魔術師は嫌いで。

 冒険は好きだけど、冒険者は嫌いで。

 争いは嫌いで――――でも、戦うことは嫌いじゃない。

 

「――第三下級炎魔術」

 

 熱の籠る右手を突き出して、

 

 

「“火精(イフリート)”」

 

 

 ボクは反撃に打って出た。

 

 ――途端に右手から生み出された炎が、セナさんの脇をすり抜けてアンデッドへ襲いかかる。それらはアンデッドの顔を的確に焼き尽くすと、そのまま別のアンデッドに襲いかかった。

 さながら炎の鞭。うねるように飛び回り、アンデッドたちを焼いていく。

 

 第三下級炎魔術“火精”。その特性は一言でいうと「操縦性の高い炎」だ。生み出された炎はボクの意のままに操作することができ、炎でありながらその熱で味方を傷つけることはない。

 代わりに威力は他の攻撃的な第三下級魔術に比べるとおとなしいが、アンデッドを焼き尽くすには十分。

 

 突き出した右手を横に振るって、ぐっと力を込める。

 炎が弾けて飛び回り、更に無数のアンデッドを焼いていく。アンデッドに火葬は有効だ。少なくとも切り落とすよりも再生はずっと遅い。

 

「セナ、さんっ。ボクの魔術で焼けてないアンデッドの足を、切り落としてください」

「……分かった。その後は?」

「まかせて、ください」

 

 両腕を指揮者のように古いながら、ボクはアンデッドを焼いていく。右腕が熱い、ちょっとだけそれに顔をしかめながら、それでも構わず炎を放つ。

 

 セナさんはうなずくと、ボクの放つ炎を避けながら、戦場を駆け回り初めた。その姿はもはや線となって空中を奔るのみ。空気すら蹴っているのではないかという機動で、アンデッドを滅多斬りする。

 ――凄い。これが、近接系の一流冒険者。間近でみるのは初めてだ。美しいその機動に、思わず見惚れてしまいそうになる。

 

「――クロア」

 

 そして、そんなセナさんの声が耳元で聞こえた。

 

「ぇ、ぁ?」

 

 思わず、視線が声のした方に向く。そしてその直後に気付く。ボクの真後ろに、アンデッドが出現している――!

 

「後ろ、危ない」

 

 ボクが反応するよりも早く、セナさんはボクの真後ろで、出現したアンデッドに剣を振り下ろしていた。バラバラになった死体もどきをみやりながら、着地のためか態勢を低くしていたセナさんと目が合った。

 ――多分、その時ボクは初めて上からセナさんを見て、その時初めてセナさんはボクを()()()()

 

 だから、セナさんは初めてボクの顔をまじまじと覗き込んだんだろう。普段は前髪で目元を隠しているから。故に思わずぽつりと、漏れてしまった言葉は多分――セナさんの心からの本音、だったんだと思う。

 

 

「――キレイ」

 

 

 ただ、それだけの言葉。一瞬にも満たない視線の交錯。見惚れてすらいなかったが、ボクがセナさんを初めてみたときのようにセナさんはそう言った。

 次の瞬間には既にセナさんはまた移動していて、ボクも火精の操作に意識を移す。

 

 ――それでも、心の何処かでその言葉の余韻が残っていた。

 キレイ、とセナさんは言った。ボクを見て、間違いなく確かにそう言った。それは多分、ボクの顔立ちとか、そういうものに起因するのだろうけれど。

 

 それでもボクは、セナさんがそれをぽつりと零したことが――嬉しかった。

 

 ああ、そうだ。

 ボクはセナさんを初めてみた時、キレイだと思った。その根底にあるのは間違いなく“羨望”だ。そうなりたい、キレイでありたいという羨望。

 顔立ちが、じゃない。心が、だけじゃない。

 

 全てが、優しさとか、慈しみとか、そういうものを内包したモノ。

 

 ――ボクは、だから、

 

「――()()()()()()()()

「……え?」

 

 

 だから、そういうキレイなモノに、なりたかったんだ――!

 

 

「“聖杯(ヘブンズグレイル)”!」

 

 直後、ボクの足元から魔法陣のような文様の光が広がる。

 第七上級魔術。つまり、上から数えて三番目。浄化系の神聖魔術においてもっとも効果の強力な範囲型浄化魔術をボクは起動させる。

 これのいいところは、一定の範囲内の魔物の魔力を正常なものに戻す左様がある。聖別はアンデッドにしか効果がないが、これは魔物なら何にでも効果があり特にアンデッドに効果が強い。ただし、効果範囲が決まっているので可能な限り敵を掃討して、一度に使用する必要があった。

 

 でも問題ない。ボクが焼き払い、セナさんが切り払ったアンデッドたちは、もうどこにも逃げ場はない――!

 

「終わりだ、アンデッド」

 

 迷いない瞳で無數のアンデッドをにらみ、そして――

 

 

 後に残ったのは何もない静寂に包まれた墓地と、ボク――それからこちらを驚いたように見るセナさんの姿だった。

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