TS転生ぼっち冒険者、パーティを組む。   作:ぼっちTS百合推奨派

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ぼっち冒険者、実は強い(強い)

 セナさんには話していなかったけれど、話すことなんてボクには到底無理だったけれど、実はボクはそこそこ強い……らしい。

 魔術に関して、才能があるのは確かだ。故郷において、ボクより才能のある魔術師はいなかった。

 もちろんそれは、ボクがコミュ障であったせいで誰かに知られることはなかったのだけども。

 

 もしかしたら、父さんと母さんは知っていたかもしれないというくらい。それすらも、今となってはどうか知れない。もう一度故郷に帰れたら、確かめられるといいのだけど……

 

 ボクが使った第七上級神聖魔術“聖杯”は、先も述べたけど主にアンデッドに対して効果の高い魔物を足止めする魔術だ。結構高度な魔術で、使うにはそこそこの修練が必要だと思う。

 ボクの才能はこれを、ほぼ感覚的に使うことができるということだろう。

 本来の魔術行使には類稀なる集中力が必要になる。魔術を思い描くのも、常人には魔術という存在が神秘的なモノに思えて難しいのだとか。

 

 自分が魔術を使うなんて恐れ多い。それがこの世界の人間の普通らしい。

 ボクにしてみれば魔術はゲームや漫画で慣れ親しんだものだし、使うのに遠慮なんて要らない。便利だからもっと皆使えばいいのにとすら思う。

 

 ようするに、転生者ゆえの価値観の違いが、この世界の魔術を行使するための認識にいい方向へ左右しているということ。

 問題はそれを、ボクは他人に伝える術を持たないということ。

 ただでさえ人と違うという感覚もあり、うまく人付き合いができないのに、そこへ更に革新的な概念を相手にうまく伝える方法なんてボクには到底思いつかない。

 

 まぁ、でもそれでもいいんだ。ボク一人でこの世界の魔術に対する常識を塗り替えることはできないし、できたとしてもそれはあまりに世界へ影響が大きすぎて、ボクなんかにその大役が務まるとは思えない。

 

 ともあれ今はセナさんの助けもあり、百体にものぼるアンデッドを一気に浄化することができたというだけで十分だ。ボクとしても、初めてのパーティを組んでの依頼が大成功に終わって万々歳……なのだけど、問題も少しは合った。

 具体的に言うと――

 

 

 アンデッドを浄化してから以降、ほぼずっとセナさんから褒め倒しされてしまったということだ……!

 

 

 敢えて言おう、陰キャは褒められても嬉しいけど素直に受け取れない! 自己肯定感が低く、自分が褒められても本当にそうなんだろうかと思ってしまう。

 ハードルが高いというか、基準である自分が低水準過ぎてハードルを見上げている気持ちになるというか。

 まぁ、その、なんというか。

 

 とってもむず痒くて、依頼が終わった後はしばらく布団の中に引きこもることになってしまったのでした。

 

 

 ▽

 

 

 夜、冒険者ギルドでの仕事を終えた受付のお姉さん――アイリはふぅ、と一息付きながら夜の街を歩いていた。今の時間は町の住人は既に眠りにつき、冒険者(ゴロツキ)たちは酒場で盛り上がっている頃だ。

 だから、街に人気はない。

 女性が一人で歩くには危ない時間帯でもあるが、アイリはそもそもギルドのすぐ近くに住んでいるし、同じようにギルドから仕事を終えて帰途につく人間と共に帰るから普段は問題ない。

 

 今日の場合は――

 

「――お疲れ、アイリ」

「あら、そっちこそ待っててくれてありがとう、セナ」

 

 頼りになる護衛がいる。闇の中からすっと現れた黒衣の女性――セナにアイリは慣れた様子で声をかける。普通なら完全に気配のないところから現れるセナには驚いてしまうものだが……流石にアイリももう慣れた。

 

「今日は色々と話したいこともあるし……何より、アイリにはお礼を言わないと」

「ふふ、こちらこそ。……クロアちゃんのことよね」

「……ん、歩きながら話そ」

 

 かつかつと、二人の足音だけが夜の街に響く。

 二人が思い出すのは、つい先程まで二人と関わっていた魔術師の冒険者少女“クロア”。とにかく人付き合いが苦手で、一人で居ることを好む性質があるが悪い子ではない。

 少なくともアイリは、彼女が好きだ。一個人の人間として。

 

「……びっくりした。クロアがあそこまで凄いとは、思わなかった」

「ごめんね、先に言っちゃうとセナが余計クロアちゃんを緊張させちゃうから」

「何故? 凄いものは凄い」

()()()()()()()()()()子なのよ、クロアちゃんは」

 

 アイリの言葉に、セナはより一層首を傾げる。クロアが自己肯定感の低い少女だというのは、彼女と別れるまでの間にさすがのセナも理解したが――それにしたって、実力をパーティメンバーに隠す必要があるとは思えない。

 もちろん、クロアが自分でそれを伝えられなかったことはセナも理解している。だからセナが気にするのは、それをアイリが教えなかったこと、この一点に尽きる。

 

「何より、アレは実際に見てもらわないと凄いことを認識し辛いから」

「そう。まさかアンデッド百体をあそこまで簡単に浄化するとは思わなかった」

「それはギルドとしても想定外だったってば、ごめんごめん」

 

 後はまぁ、事前情報との差異。

 アレ程のアンデッドが一度に出現するなど普通は考えられないことだ。だからこそギルドが把握できないのも自然なことだし、そこはセナも承知しているが。

 

 加えて言えば、もっと突っ込んだ話は既にクロアを交えて進んでいる。今ここでアンデッドについて掘り返すものではない。セナは話をクロアに戻した。

 

「とにかく、ギルドがクロアを重宝する理由は何となくわかった」

「そうねぇ、あの子は本当に得難い人材だわ」

 

 沁沁とうなずくアイリに、セナはギルドも大変なのだなと他人事のように考える。まぁ実際他人事なのだが。

 

 ――クロアがギルドで重宝されるのは、他人のやりたがらない仕事を率先してやるから……だけではない。むしろそれは彼女をより好ましく思う材料の一つに過ぎず、本質はクロアが、他に類を見ない優秀な魔術師であるという点。

 実力だけではない、知識という面においてもクロアは優秀で、これまで何かとギルドの要請に答えてきたことでクロアの実績は揺るぎないものとなっている。

 

()()()()()()()()はそれだけで、魔術師としては絶対に代わりのきかない存在よ。それが、アレだけの才能と実力を有するとなればなおさら」

「…………そうだね」

 

 セナも名前は知っている。クロウリーと呼ばれる里で魔術師たちが研究を重ねていることを。その研究の成果は外界とは数十年も差があると言われていることを。

 クロアは――間違いなく“神童”だ。それが何故、外界に放逐されたのかはしれないが。

 

「……だからこそ、解せないことがある」

「……何?」

「――低ランクのこと」

 

 それを踏まえた上でセナは話題を切り替える。アイリもそのことは解っていたので、促すように問い返した、

 低ランク冒険者。

 ――どのギルドでも、彼らが悩みのタネであることに変わりはない。民度が低く、ゴロツキや犯罪者一歩手前のチンピラばかりが固まって集まり、時には街に迷惑をかける。

 一番の被害者は品行方正な高ランク冒険者だ。低ランクと彼らは完全に違う人種でありながら、人々の感情は常に高ランク冒険者とギルドへ向けられる。

 

 無論、低ランクの存在を理解していながら対処できていないことに、責任がないかといえばそうではないが。そもそも悪いのは、その低ランク冒険者そのものだ。

 

「彼らはクロアを“攻撃の対象”としていると私は聞いた」

「話したのは私だけどね」

「だからこそ、どうしてギルドは対処しない? 全ての低ランクをどうにかすることはできなくとも、クロアへの干渉を防ぐことなら可能なはず」

 

 別にセナはギルドを――アイリを責めているわけではない。できることをしないのは、実績を大事にする冒険者にとってあまり良いことではない。

 そういう“常識”にもとづいてアイリに事情の説明を求めているに過ぎないのだ。

 

「原因は――」

 

 アイリは、少しだけバツが悪そうに視線を逸らす。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()よ」

 

 

 答えは、セナが思う以上に単純だった。

 

「……クロアが望んでいない?」

「そうなの、あの子は争いを好まない優しい子よ? だからこそ、自分が低ランクの冒険者に軽蔑される分には、それでいいって考えてるみたい」

「…………」

 

 セナは押し黙る。

 いくらなんでも、それは他人に対して優しすぎる。いっそ甘いといってもいい。甘くするからつけあがる、決して低ランクの連中は善人ではない。自分勝手で、自己中心的で、彼らに甘くすれば甘くした分だけ、彼らはクロアを()()()()ことしかしないだろう。

 

「最初は、よくある新人同士の因縁付けみたいなものだったの」

「ああ……私もよくやられた」

一人(ソロ)だとどうしてもね、周りから妬まれちゃうもの」

 

 ソロ――つまり単独で冒険者をするということは、それが可能な実力があるということだ。セナもそうであるように、そういった冒険者はパーティを組む冒険者から嫉妬の対象になりうる。

 自分たちが四人でようやく攻略し報酬も四分の一になっている依頼を、ソロの冒険者は一人でこなし、彼らからしてみれば報酬を()()()()しているようなものなのだから。

 

 だから、後に低ランクになるような新人は、そういったソロ冒険者に一度は突っかかるものだ。

 

 そして大抵の場合は――

 

「私は、返り討ちにしたけど」

 

 セナのように、反撃してそれを追い払ってしまえば、舐められることもないのだが。

 

「……クロアは、そうしなかったんだね」

「決してクロアちゃんが、他人と戦えない弱い子ってわけじゃない。アンデッドとの戦いを見ればわかるでしょ?」

「クロアは……あの状況をむしろ楽しんでいるようにも見えた」

 

 アンデッドは一般的には冥界の神が死者を蘇らせた尖兵と言われているが、実際には違う。クロアが楽しんでいるというのは、彼女がそれを知っていて、普通の魔物と同様にアンデッドを扱っているということでもあり――

 だからこそ、言い換えれば彼女は普通の魔物との戦闘を()()()()行える冒険者なのだ。

 

「適性がある。クロアはとても冒険者向きな冒険者だね」

「……人と争うことが苦手っていう点を除けばね」

 

 冒険者とは、すなわち冒険を楽しめるモノこそが適正のある冒険者だと言える。生命の危機や未知との遭遇。絶体絶命の状況にあっても、むしろそれを楽しんで突破する。

 かつて冒険者として名を残した偉大な先人は、皆そうだった。セナだって、冒険は楽しい、好きだ。だから冒険者をしているし、同じ冒険を楽しむクロアとパーティを組めたことが嬉しい。

 

 ――そんな冒険者らしい冒険者の少女が、人との柵なんていうモノで束縛されなくてはいけないのは、あまりにも不憫だ。

 

「……私に、できることってあるのかな?」

「あるわよ! あると思ったから、私は貴方をギルドに推薦したの」

 

 力強くうなずくアイリに、セナは表情を変えず、されども照れくさそうに頬を掻く。二人の関係性が何となく推し量れるやり取りだ。

 だからこそ思う。クロアともこういうふうに、何気ない会話ができればな、と。

 

「といっても……考えることは苦手だ。クロアがどうして人と話すのが苦手なのかも、私にはよくわからない」

「うん、うん」

「だから……好きなようにするよ? 私は私のやりかたで、クロアと仲良くなれるよう努力する」

「お願い、セナならできるわ」

 

 うん、とセナも頷いて、考える。

 初めてアイリからこの話を持ちかけられた時、セナはあまりパーティに興味がなかった。もとよりソロでBランクの冒険者になれるほどの一流と呼ぶに相応しい実力を有するセナにパーティはあまり必要ない。

 特にセナが得意とするのは隠密――先のアンデッド戦のように前衛もできなくはないが、どちらかといえば一人で動いて一人で事態を解決するほうが向いている。

 

 興味を持ったのは、アイリの態度からだ。

 アイリは優しい人だけれど、好き嫌いははっきりしている。好きな人間はどこまでも大好きだし、嫌いな人間はとことん嫌う。もちろんその基準は人としてちゃんとしたものだけれど、そんなアイリが本気で“好き”だという相手。

 自分でもそこまで好かれているかは――まぁ、本人の前で口にするタイプではないけれど――わからないのに。

 

 だから多分、最初にセナが感じた感情は、

 

 

 ()()()

 

 

 それに尽きるのだろう。

 だが、アイリの話を聞いて、クロアの境遇を知って。そして何より、セナ自身がパーティを組みたいと思わせる何かがクロアにはあって――そして出会ってそれは確信に変わった。

 クロアのことが放って置けない。見てられないというよりは――ずっと見ていたくなるし、お世話したくなる感じ。

 

「多分それはクロアが――自分の正しいと思ったことをずっと続けているからだよね」

 

 クロアは魔術師だ。それはクロウリーの里を出奔して、一人冒険者になっても変わらない。だからクロアは、生まれてからずっと魔術の研鑽をしてきて、今もそれを続けているということだ。

 クロアは冒険者だ。低ランクの冒険者に嫌われようと逃げることなく、誰かが嫌がる仕事を率先して引き受ける。それを何年も継続する努力は、彼女の美徳だ。

 クロアは一人だ。孤独を嫌い、誰かと交流を持てるほどの積極性がなくたって、それでも前を向いていきれる力が彼女にはある。

 

 そうして続けてきたことは、ギルドの人間によって確かに認められ、こうしてセナはクロアと出会うことが出来た。だからこそ、セナはその偶然とクロアの行動に感謝している。

 なぜなら――

 

「これからきっと、楽しくなる」

 

 具体的にどうしてとは説明できないけれど、心の底からそう思うのだ。

 

「……クロアちゃんのこと、よろしくね」

「よろしくされるのは、私かもしれない」

 

 故に――アイリの言葉に、どこかセナは冗談めかしてそう答えるのだった。

 

 

 ――ところで、

 

 

「そういえば、アイリはもう一つ教えてくれなかった」

「あら、何かしら?」

 

 ふと、セナが不意に足を止める。少し進んで振り返ったアイリは、不思議そうにセナをみた。表情からはセナの感情は読み取れないが、なにやらぷるぷると震えているようにも見える。

 セナはしばらくそうしてから――

 

 

「クロア、顔が良すぎる」

 

 

 至極真面目くさった顔でそう言った。

 ――沈黙。

 アイリとセナは互いに顔を見合わせ、しばし視線を交わす。そして不意に――

 

「でしょう!?」

 

 アイリはその瞳をランランに輝かせてセナの手を取った。

 

「もーーーーー、クロアちゃんってすっっっっごく可愛いのよ!」

「何をすればああなるの? 肌はもちもち、瞳はとてもキューティクル。すごすぎ」

「何と、本人に聞いたら“髪は最低限手入れして、肌は水魔術が美容にいいので、いつもそれで体を洗っている”って答えたの」

「――――!?」

 

 セナに衝撃が走る。

 驚くべき点は二つ、クロアがほとんど肌の手入れをしていないということ。あのもちもちぷにぷに(であろうと推測できる)魅惑のボディはまさしく天使の柔肌。

 だというのに殆どノータッチ。いやもしかしたら水魔術の美容効果が凄まじいのかもしれないが――実際、クロウリーの里で実証された効果であるため、凄まじいのはその通りなのだが――それにしたって、クロアの美貌はそれだけでは説明がつかない。

 

 もう一つは、そもそも水魔術に美容効果があるということだ。

 

「……覚えなきゃ、水魔術」

「ふふふ、私はもう覚えたわ」

「……! ず、ずるい」

 

 ドヤ顔のアイリに、セナはむすっと嫉妬の視線を向ける。アイリはそれを意図してスルーしながら、笑みをうかべて言った。

 

「何よりも、クロアちゃんは前髪で顔を隠しているから、この美貌は“下から”覗き込まないと解らない」

「……私も、間近で見たのは実は偶然。思わず見惚れて、その後に上級魔術を使うものだから、少し呆けてしまった」

 

 ――だから。

 まぁなんというか、結果としてではあるが。

 アイリとセナ。二人はクロアの顔の良さにやられてしまったのだ。

 

 前髪を隠し、美貌に頓着しないあの小動物。

 

 ――なぜだか余計可愛く見えてくる。

 二人は、そんな話を夜通し――目的地であった女性向けのバーでも延々と語り明かすのだった。

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