人生はいつだって理不尽に満ち溢れている。
そう感じたのは、僕が4歳の頃だった。
この世界は、大多数の人々が個性と呼ばれる超常的な能力を持って生まれてくる。
しかし、中には少数派である個性を持って生まれてこれなかった社会的障害者達が存在する。
その人達を無個性者と呼び、僕は4歳にして無個性(しょうがい)者と判断された。
僕には夢があった。そして、その夢は僕にとって生きる希望だった。
英雄(ヒーロー)。
それは、個性社会において、個性を悪用して社会に混乱と恐怖を与える敵(ヴィラン)を倒し、人々の平和を守る存在だ。
テレビや雑誌、ネットなどの多くのメディアに取り上げられ、ヒーローは一種のアイドルの様な立ち位置の存在だ。そして、その中でも人一倍凄くカッコいい存在が居る。
"No.1ヒーロー 平和の象徴 オールマイト,,
彼は僕の憧れだった。
彼の様なヒーローになる事が僕の夢だった。
この夢があるから、僕は多くの理不尽に抗えた。
幼馴染からの酷いイジメやクラスメイトと担任からの人格否定。毎日一人泣いている母の姿。社会全体で共通してある、個性至上主義的な価値観による無個性者の生きにくさ。
この十年、ヒーローになる夢だけが僕を支えて来た。
しかし、この夢は叶わない。それは、目の前の人物によって、夢は叶うと言って欲しかった僕の英雄(あこがれ)によって否定されてしまった。
僕の名前は緑谷出久。
ヒーローになりたいと心から願う無個性者だ。
僕はある学校の帰り道、オールマイトに出会いヒーローの現実を教えられた。それでも、僕は諦めきれなかった。認めたくなかった。だって認めてしまったら僕は、僕を保てなかった。
しかし、残念ながらNo.1ヒーローの強い優しさは、時に少年の心を砕く暴力へと変化してしまった。
「"現実をみろ,,かっ……。ハハッ……。現実なんて、ずっと見て来たよ……オールマイト……。僕はこれから、何を生き甲斐に生きれば、良いんだよっ……!!」
少年は気が付いたら歩いていた。
オールマイトが去った後、通称ヘドロ事件に遭った幼馴染の救援に駆け出した。
事件の後、個性の相性が何だと右往左往していたヒーローに怒られ、自身の行動を否定された。その反面、助けられた強個性な幼馴染は、ヒーローにチヤホヤされて居るのを見て、胸が苦しくなり逃げる様に駆け出した。
そして、様々な事が一気に起き過ぎて茫然自失した様に歩き、気が付けば近くの公園に足を運んでいた。夕方の平日。普通なら、少年よりも幼い子供達が遊んでいる公園だが、もう夕飯に近い為か少年以外誰も居ない。
紅く照らされた静寂の中、僕はブランコ乗りユラユラと揺られながら、気が付けば涙を流していた。
自分に降りかかった理不尽に、社会の不条理に耐えられなかった。
心が痛かった。胸にポッカリと空いてしまった空洞が、何かで無理矢理埋めたいと言う衝動に駆られ、ズキズキと締め付ける様な痛みに涙を流していた。
「ヒーローに……なりたかったなぁ……。あぁ……もう無理なんだっけ……。ハハッ……もう、どうでも良いや……」
少年の心に陰が差す。
普通の少年であれば、燃え尽き症候群で今後の人生に障害を与えるだけで済まされるだろう。
しかし、この少年は本来、No.1ヒーローから個性を継承し、最高のヒーローになる事が約束された主人公だ。そんな、本来なら光り輝く心を持つ少年の心に差された陰。強大な光と闇の反応に、とある存在が引き寄せられた。
『シューッ』
少年の前に現れた存在は、人型の真っ黒なナニカだった。アニメーション作品に出てきそうな、可愛い見た目の真っ黒い人型の細菌を模したナニカだった。
「……? 君は、確か……」
僕は、目の前に現れた存在に身に覚えがあった。ここ最近、ニュースで現れた謎多き敵だ。
一説では、とある敵の個性だとか、凶悪組織の実験生物だとか言われているが、ヒーロー、ヴィラン共に襲い掛かる謎な存在だった。幸い一般人でも倒せるくらい弱い存在で、撃退すると霧の様に消えるため注意を呼び掛けられていた。
『シューッ。シューッ』
「っ? ごめんね。何を言っているのか分からないよ……。でも、そうだね……僕も、君達の仲間になりたいな……もう、疲れたんだ……」
僕には彼等の言葉が分からない。それでも、彼等の存在が何なのか何と無く分かった気がした。彼等は、今の僕と同じなんだと思った。
僕はずっと一人だった。
個性社会で無個性者とは、自然に社会と言う集団から除外され孤立した存在だった。それは、社会の害であるヴィラン以下の存在だった。たった個性が無いってだけで、ヴィラン以下の扱いを受けるのが無個性者だ。
当然ながら、対等な友達なんて以ての外。僕世代で絶滅危惧種扱いの無個性者同士が出会うなんて、極々低確率で宝くじを当てるよりも難しいのがこの社会の現状だ。
だから、目の前の存在は、真の意味で対等な仲間になれると心から思った。握手をした際に、持っていたノートが地面に落ちる。大切で大事な焦げたノートだが、もうどうでも良かった。
「あ、あぁ……! ハハッ……もう、どうにでもなれ……」
目の前の存在、ピュアブラッドのハートレスと自身の陰が反応して、僕の身体はハートレスになった。ポッカリと空いた胸の痛みが強くなる。心が欲しい、心を満たしたいと衝動に駆られる。
深い闇の扉が開かれる。
そして、僕達はこの世界から消えた。
「……ハァッ、ハァッ。マスコミやファンを撒くのに、時間が掛かり過ぎてしまったっ……! 緑谷少年に伝えなくてはっ……! 君はヒーローになれるって! 確か緑谷少年はこっちの方角に……おやっ? これは、緑谷少年のノート……」
この日、一人の少年が行方不明になり、彼や少年の幼馴染に小さく無い後悔が生まれた。
ハートレスは喋らない……よね?
でも、小説の都合上何が無いと厳しいから
『シューッ』にした
ゲームで消える時、そんな音がしたから……