田の匂いと番を求める蝉のやかましい夏の日。
待ちに待った小学校2年目の夏休み。
僕はド田舎にいた。
一通り宿題を終わらせた子供たちが海面倒な学校から開放され娯楽に飢えた彼らが海だ、ゲームだと湧き出す時期だ。
そのうちの一人である僕の寝起きは憂鬱であった。目ボケまなこを擦り、夏休みに入りめっきり見なくなったカレンダーに目をやると御盆があと2日すれば訪れる。
僕はお盆が嫌いだ。
車でほぼ一日かけようやく着くド田舎に向かわなくては行けない時期。
別に祖父母が嫌いな訳では無いけど
電話がかろうじて繋がるほどの辺境にインターネット環境などは備わっておらず、
現代っ子である僕には山ばかりの環境は苦痛でしか無かった。
じっとりとしめった寝巻きのまま嘆いてばかりはいられずのそのそと着替え
『グゥゥゥ……』
の前に体が朝食を求め暴れ始めた。
時計を見ると午前8時半、もう起こしに来ても良い時間のはずなのだが…
「ゴメン!じいちゃん達の家には一人で言ってくちょうだい!」
散乱する原稿に資料やプロット表、
バチバチと炭に変わる目玉焼きに沸騰する味噌汁、ドロドロのお粥になったご飯が炊飯ジャーに鎮座する朝に母から伝えられた一言。
その後僕は多少のお金とリュクサック、お土産を持たされて送り出された。
……別に虐待を受けている訳では無い。
父さんは会社員、母さんは作家として働いている。
余談だが母さんは家事が壊滅的にできない。
料理は炭にし、洗濯掃除は機器が謎のショートを起こす程に。
普段なら父さんと僕が分担してこなしているけど現在父は単身赴任中で青森行きだ。
朝の惨状をから考えると
僕と一緒に祖父母の田舎へ向かう予定だったが母の作品と同じ雑誌に連載している他の先生が何時もの愚図りで御盆付近にある掲載が間に合いそうにない。そこでその付近に担当のない母に白羽の矢が立った。
せめて朝ご飯くらいはと張り切ったはいいものの惨敗した。
こんな所ではないだろうか……。
「はぁ……」
途方に暮れ天を仰ぐと憎らしいほどの青空が広がっていた。
「行くも何もどうやって………ん?」
何かないかリュクサックを漁っていると見たとこの無い箱が…コレ、スマホの?でもなんで…
件の箱の中には新品のスマホと1枚のメモ用紙が入っていた。
***
【メモ用紙】
父さんから僕に向けてのメッセージ。
スマホと共にしまわれていた。
『自宅と母さん、父さん、じいちゃん達の家の連絡先が入ってるから使いなさい。
お金は父さんの部屋のデスクにあるから
買い物忘れた時はピザでも頼みなさい。母さんには内緒だぞ!』
と書いてある。
***
ありがとう父さんッ!!
有難く使わせてもらうよ!
……
「じいちゃん達の家に近いところ…皐月駅?」
「そこに師走駅が有るから葉月駅まで行って乗り換える…さらに乗り換えて、バスに乗って次の駅まで……そこからまた電車。
うわぁー、めっちゃ時間掛かる。着くの夜じゃん。」
「もしもし?じいちゃん?うん、真斗だよ。
今日の夜そっちに着くから皐月駅に夜迎えに来て〜。え?電車で行くことになったの。
うん、1人で。ありがとう、お願い。またね」
……
近所のコンビニでおにぎりを買って
師走駅へに向かった。
迷子と間違えられたけど順調に乗り換えられ
現在葉月駅から終点皐月駅行に乗車中。
青々と茂る稲穂の間を進んでいく。
進む電車はどこか古びていて昨今見ない一両編成、僕以外の乗客は反対側に座る、麦わら帽子を被った女の人。
何かブツブツと言ってるけど微妙に聞き取れない。濁った魚のような目が変な熱を帯びて僕を視界に収めている。
背筋が泡立つような、鳥肌が沸き立つような
どこか落ち着かない気分になってリュクサックを漁り車内に溢れるガタンガタンと電車の進む音に電子音が加わった。
***
【ネット記事】
UFO、怪談陰謀論何でもござれのオカルトサイト。
何故か夏に沢山出てくる。
今回は某掲示板で話題になった怖い話がテーマだった。
【topic きさらぎ駅】
某掲示板で話題になった怖い話。
気がついたら知らない駅に着いてしまった方の話。道中お爺さんに出会い帰還の報告は……
***
そのままウトウトと、更に数時間。
『次は皐月〜、皐月に止まります。
1番前の車両の運転席側の扉のみが開きますのでご注意下さい。』
我が家から持ち出した水筒を飲み干してしまった頃、祖父母の住む田舎へと到着した。
外はすっかり暗くなっていて、あの女の人が座っていた席には麦わら帽子だけが残っていた。
忘れ物なのかな?
まだ乗っていたとしてもここは終点だし、駅員さんの所へ……
ぞわりとした。
なにかが後ろに着いている。
振り向いてはいけない。
顔を上げてはいけない。
未知の恐怖心に突き動かされ、
麦わら帽子をそっと椅子に戻して
俯いたままできる限り全力で
僕は駅舎へ駆け込んだ。
*
改札をぬけると、ベッタリ張り付いていた気味が悪い感覚はなくなった。
「なに……今の…」
眩しいくらいに白く映る視界と感覚の差からか鳥肌が沸き立つような不快感が止まらない。
"カチっ、カチっ、カチっ、カチっ……"
蟲の声は聞こえず、駅舎窓口の上にある時計の音だけがやけに大きく聞こえた。
時刻は21時を過ぎていて待合室には誰もいない。
短い駅舎を抜けると見慣れた田舎の町がそこにあった。
『かごのめ…かごめ…籠の中の鳥は……♪』
気がついたら握りしめてた携帯が震え出す。
明らかにデフォルトの着信音ではない。
でも変更した覚えもないし……
「はい、もしもし真斗です。」
『もしもし?真斗くん。文あやだけど、今どこ?』
「文お姉ちゃん!?久しぶり!
今?駅に着いたところだけど……あっ!」
電話の主は従姉の清正きよせ 文あや、文お姉ちゃんだった。
***
【文姉ちゃん】
近所に住んでた優しくて大きいお姉ちゃん。
いつもいっぱい遊んでくれる。何故か、何時も何かをかぶってる。
ライターの仕事をしてるらしい。
でも、いつも怖い話をしてくる。
好きだけど、好きじゃない
***
軽トラのライドだけが照らす山道を進む。
ガタガタと揺れる車内、
負けじと流る地方FMラジオの深夜特番。
バックミラーに映る空の荷台、
道路脇にこれでもかと生い茂る雑草の中から
早鳴きの虫の声が聞こえる。
「ねぇ、マナくん?学校はどう?楽しい?」
「ううん…楽しくない。」
「どうして?」
「だってみんな子供っぽいんだもん。
アニメとかゲームなんて何が楽しいのかわかんない。なのに僕の事ハブってくるし……」
「マナくん大人だもんねぇ。でも友達と話合わせるのも大切よ?」
「知らない!あいつらなんか友達じゃないし!」
「アッ、ハハハ。そうかそうか寂しいか、
よし!お姉ちゃんが面白い話をしてあげよう!」
やっぱり文姉ちゃんは僕の話を聞かない。
ーーーーーーー
ある年の夏のお祭りに取材に行った時のお話。
御狐様を祀る神社でお祭りが行われるんだけど
昔はそのお祭りは少し変わっていて毎年、親のいる子供を山に繋いで置いていく。
今では人形になったらしいんだけど、続いていてね。
山にご先祖さまがいてそれが守り神と田の神様になって私たちを守ってくれている信仰が山岳信仰って言うんだけど、
何でも、その繋がれた人形が神様を連れてきてくれるらしい。
そのお祭りのお話を聞いているとさ、
神社に人形が届いたの。でもその人形は、お地蔵さんでね。
お地蔵さんの身体に直接、戒名…お地蔵さんの名前が掘られてるし、お地蔵さん自体もなんか彫りが甘いとうか…雑というか……
まぁ、なんだかんだ参加させて貰えることになってその時に、神主さんから
「おめさ、祭りのとぎに下向いとげ。
顔上げだり、声出じではなんぇぞ。
神さんがぎにいって おめの事連れてっちまうガンな。うぢの人もみん゛な上げね。
そういうぎまりだ。守んね゛がったらオラだじじゃどうしようもねぇ。どうしようもねぇがんな。」
ーー
「っと、到着。続きはまた後で.
忘れ物なら山の奥。
さぁ、いらっしゃい真斗君。
ようこそ、山髪村へ」
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何処からか視線を感じる