運命上の魔王   作:a0o

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 今回で千秋楽です。


魔王の名を持つ者(下)

 

 

 

-03:42:50

 

 

 冬木市民会館、駅前センタービルと並んで冬木市のシンボルとして建設されている施設である。その中でも一際広いコンサートホールにアイリスフィールは横たわっており、既に儀式の準備は済んでいる。裏方には舞弥が待機しており施設周辺を使い魔で見張っており、セイバーもホールだけでなく、あらゆる場所に駆け付けられる位置に待機している。

 そして、司令塔である切嗣は屋上で煙草を吸い潰しながら決戦の合図を待っていた。魔王の宣言から丸一日以上経過しているが、冬の夜の空は澄み切っていて信号が上がれば一目で分かるが未だその気配は無い。暗殺者である切嗣には待つことは慣れているので至極落ち着いているが、何度か目にしたウェイバーの有様からすると物凄い緊張(プレッシャー)に苛まれているのは想像し易く、やはり戦うのは魔王になるかと想定する中でも最悪の展開を思案していた。

 

 そして、遂に柳洞寺から魔術師にしか判らない信号が上がった。されどそれは切嗣の想定する最悪を遥かに超えた物だった。

 

――――戦場の変更、決戦の場は冬木市民会館、場所は第二の信号の下―――――

 

 切嗣は固有時制御を発動しコンサートホールに向った。どうしても解せない疑問を抱えながら。

 

(聖杯の器の情報を知らなければ、僕の裏を掻くなんてことは不可能、一体どこらから情報を?)

 

 しかし、答えなど出るはずも無くホール裏方に居る舞弥を視認し指示を出そうと魔術を解除しようとするが、その目は明らかに正気ではなかった。舞弥の右手には拳銃が握られており左手には彼女には不釣合いな熊の人形があり、切嗣を見た瞬間に人形を投げつけ撃ち抜いた。

 

 その瞬間に人形は爆発、その威力はホールを吹き飛ばした。切嗣は固有時制御を限界まで引き上げ、地下の階段に身を投げ転がり落ちていった。魔術の反動、落下の際の打撲等の怪我も事前にアイリスフィールから譲り受けた『聖剣の鞘』で回復し、すぐさま上の階に戻ろうとするが切嗣の眼前にはある『異物』が映し出されていた。

 

「言峰、綺礼・・・・」

 

 殺意をたぎらせ黒鍵を構え切嗣の前に立ちはだかる代行者。

 

(そうか、そういうことか)

 

 この時、切嗣は全てを悟った。

 この男(言峰綺礼)は遠坂時臣でなく魔王の部下であり、城での襲撃も武家屋敷での一戦も聖杯の器の情報も全てこいつが手を貸していたのだと。

 正確には、そうなるように誘導し聖杯の器の情報も彼の不可解な行動から類推したのだが、切嗣にとっては知る由もない些事な事であり、今重要なのは目の前の〝状況〟だった。これが魔王の計略なら力技でブチ破るまで、その覚悟を再認識し障害を排除するため武装を解き放ち、何一つ交わす言葉もなく決戦が始まった。

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

「アイリスフィール!!」

 

 一方その頃、爆発で吹き飛んだコンサートホールにセイバーは駆けつけアイリスフィールを探していた。炎と煙で視界はすこぶる悪いが風王結界(インビジブル・エア)の風圧で吹き飛ばし、瓦礫が散乱する中で倒れているアイリスフィールを発見し抱き起こした。

 

 アイリスフィールはセイバーの胸元に倒れこみ、その時、グサリと何かが刺さる。

 セイバーが自らの胸元を見ると歪な短剣を突き刺し、口元を吊り上げたアイリスフィ-ルがあった。

 

 

「ア、アイリスフィール・・・いや!」

 

 セイバーはそれがアイリスフィールでないことに気付き、突き飛ばすが、短剣が離れた瞬間に赤紫の光が発した。アイリスフィールだった者は紫のローブの魔術師『キャスター』へと姿を変える。その右手の甲には切嗣の手にあった二画の令呪があった。

 

破戒すべき全ての符(ルールブレイカー)、あらゆる契約を断ち切る裏切りの宝具。アーチャーがこちらに来ていれば出番はまだ先になる筈だったけど、そうならなくて良かったわ」

 

 愉悦とも妖艶とも取れる笑みを浮かべるキャスター、その顔は勝利に酔っている様でありセイバーは透かさず反撃に出ようと剣を振り上げた。

 

「貴様!!」

 

「セイバー、私に従いなさい」

 

 キャスターの右手から令呪の一画が消える。その機能により自分の意思とは関係ない無情の縛りが襲い掛かるが、セイバーとしての対魔力でせき止めた。しかし、相反する二つの力のせめぎ合いはセイバーを思考も覚束無い金縛りの状態にする。

 

(森で仕込んだ暗示がこんな形で実を結ぶなんてね)

 

 アインツベルンの森で瀕死の舞弥に命令(コード)を仕込んだ時は、彼女を人間爆弾にでもするのかと思っていたが、終わりを見据えセイバーを手駒にする為の布石だったとは、説明を受けたときには随分驚いたものだ。

 

 悶え苦しんでいるセイバーを予定通りに見ていたキャスターは愉快に笑いながら水晶で、もう一つの戦場を確認していた。

 

 

 

-03:33:45

 

 

「AAAALaLaLaLaLaLae!!」

 

 空を駆ける戦車で新都方面を目指すライダー、火の手の上がった場所は完全に狼煙ではなく戦闘が始まったことを示していた。予想外にも程がある展開に一刻も早く戦場に向おうと手綱を繰り出す。

 

 だがしかし、突然空中から幾つもの鎖が出現し戦車を引く牡牛を拘束した。直後に宝具の雨が降り『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』を破壊した。

 

 ライダーはウェイバーを抱えて透かさず飛び降りた。

 そした着地点には黄金のサーヴァント、アーチャーが腕を組んで立っていた。

 

「ア、アーチャー!!なんで!?」

 

 脱落したと思っていたウェイバーは狼狽し戦慄した。

 

「やはりまだ残っておったか。お主があれで脱落するなど、どうにも腑に落ちなかったからな」

 

 一方ライダーは得心が言ったとばかりに頷いた。

 

「しかし、それでも解せんな?よもや魔王と手を組んだと言うわけではあるまい。何を考えておる?」

 

「確かにこれは魔王の望む展開だろう。だからこそ、それに乗った上で打ち負かす、それが我が決めた決定だ」

 

 威圧を込めて応えるアーチャーにライダーは怖じる事無く口元を歪め微笑した。

 

「流石は万夫不当の英雄王、敵の土俵を征しようとする心意気は余も通じるゆえよく判る。なればもう言葉は不要、敵の前に立ちはだかる障害となるなら全力を持って排除するまで」

 

 ライダーは剣を抜き放つ同時に熱砂の旋風が巻き起こる。

 

「来るがいい征服王、魔王の前に真の王たる者の格を見せてやろう」

 

 不適に囁く英雄王は旋風に巻き込まれ、そこに居た一同は跡形もなく消えていった。

 

 

 

-03:23:01

 

 

 キャスターを通じ、アーチャーとライダーの決戦が始まったことを確認した魔王は、自分のやる事はもう無いとスーツケースに腰掛け、目の前に居るアイリフィールと話をしようと彼女が横たわっている魔法陣を起動させる合図を送った。

 

「目が覚めたか」

 

「・・・・・あなたは・・・まさか・・・・魔王・・?」

 

 魔法陣から供給された魔力によりアイリスフィールは意識を取り戻し、目の前に居る男を見る。年齢は30はいってない20代の青年の様に見え、風体や流暢な言葉からは日本人だと思われる。

 

「会話が出来る程度の意識は安定したようだが、無用な雑談をする余裕は無さそうなので早速本題に入る。

 問おう。衛宮切嗣は何を思って、この聖杯戦争に身を投じたのだ?」

 

「なんで・・お前が・・・そんな事を・・・・気にする?」

 

 まるで理解できない問いにアイリスフィールは全身で息をしながら問い返す。

 

「あえて言うなら、それが私の参戦の理由だからだ。全てはこの会話の為、奴の本心を確かめる為にこの聖杯戦争(ゲーム)に乗ったと言ってもいい」

 

 魔王は一度言葉を切り、目を閉じて『魔王』と一緒に写った仏頂面の衛宮切嗣の写真と彼を指差しながら愉快そうに聞かされた話を思い出した。

 

「私にこのコードネーム()をくれた『魔王』は、昔戦った戦友の一人として語った。

 奴は機械のようにあらゆる感情を殺し、あらゆる敵を時には味方をも殺す決断と行動力、高度な戦闘技術を持っていたと、『より多くの人間を救う』と言う正義を成す為に・・・・その果てに自らの落差に打ちひしがれていた子供のような奴だと。

 それだけでも理解できんのに、こんな詐欺まがいな殺し合いに挑む思考、益々もってさっぱり理解できん。だから知りたくなったのさ」

 

「詐欺まがいですって・・・・」

 

「旨い話を掲げて金を巻き上げる。この聖杯戦争の謳い文句自体、まんま詐欺そのものではないか。

 その理論からすると、これは何でも願いが叶う宝物を巡っての殺し合いじゃなく、殺し合いをさせた果てに何かを成そうとする、魔術師(お前たち)風に言う儀式が聖杯戦争の本質ではないのか?」

 

 魔王の説明にアイリスフィールは絶句する。

 

「その顔は図星か。余裕がないのか素なのか知らんがポーカーフェイスの重要性は学ぶんだな」

 

「本当に大した男のようね・・・・それなら教えてあげるわ。確かに聖杯戦争の真意は別の事ところにあるわ。でも願望機としての機能も備わっているのも事実よ、切嗣はその力で奇跡を起こし恒久的平和を実現させるのよ」

 

 アイリスフィールの説明に今度は魔王が面を食らう。

 

「つまり争いのない平和な世の中を実現させると、まさに正義の味方だな。魔王たる私が立ちはだかることになるのは必然だったのかもしれないな」

 

 魔王の白けたように言う態度はアイリスフィールの神経を逆撫でした。それに構う事無く魔王は右の掌を見る。

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 魔王同様、アーチャーとライダーの戦いが始まったことを確認したキャスターは苦しんでいるセイバーを見ながら微笑んだ。

 双方とも規格外のサーヴァント、それがぶつかり合えば損傷、消耗は免れまい。そこに最後の令呪でセイバーをぶつければ、あわよくば相打ち、セイバーが敗れても空間転移で敵マスターの背後を突いて令呪を奪う時間くらいは取れるはずだ。

 完全に勝利を確信したキャスターはセイバーの顎に手をやり語り掛けた。

 

「セイバー、この戦いはもう私の勝ちよ。でも貴方が自ら私に従うというなら、共に聖杯を分かち合ってもいいわよ。幸い私のマスターは聖杯に興味がないどころか、未だに疑念を抱いているようだけど、私ならどうとでも出来るわよ」

 

 セイバーは渾身の殺意を込めた視線で睨むが、キャスターは愉快そうに更に指を這わせようとした。

 

「たわけが。それは王である我の物だ」

 

 上空からの突然の声に顔を上げると、空飛ぶ船の船先に立ったアーチャーが見下ろしていた。

 

 この想定外にキャスターは驚愕する。

戦いが始まったのは、ついさっきだ。移動距離を計算しても一瞬で片を付けなければありえない。しかし、全く消耗すらしていないアーチャーがここに居ることが結論を物語っている。直ぐに令呪を発動させようとするが―――――――

 

「王の宝に手を出す賊は、失せろ雑種」

 

 既に展開されていた王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)により、それよりも早く放たれた宝具によりキャスターは悲鳴を上げる間もなく串刺しにされ消失した。

 

 

 

-03:21:54

 

 

 

 掌に残っていた二画の令呪が消えるのを確認した魔王はつぶやいた。

 

「敗れたか、キャスター」

 

 それを聞いたアイリスフィールは勝ち誇ったように叫んだ。

 

「ざまぁみなさい!ハァハァ・・・聖杯を手にして奇跡を・・成すのは・・・・・」

 

「悪いが願いの是非について論ずるつもりはない。それこそ不毛だ。衛宮切嗣は人間の(さが)を自分好みに洗脳して、めでたし、めでたしを成そうとする。根底は一般人を見下す魔術師でしかなかった。それが判ったから、もういいさ」

 

 魔王は立ち上がり背を向ける。その先には扉があり逃走経路に繋がっているようだ。

 

「用意周到ね・・・・ハァハァ、でも逃げたって・・ハァハァ・もう・・お前の・・・ハァハァ・ような奴が・ハァハァ・・のさばる・・世は・ハァハァ・・なくなってるわよ」

 

 魔王は時間切れが近づいている人形を一瞥し語る。

 

「最後に、お前たちに見誤りを指摘する。これは第四次聖杯戦争なのだろう、つまり過去三回において儀式は失敗したということだ。ならば儀式か聖杯そのものに欠陥か落とし穴が存在すると言う考えには至らないのか?

 と言うか、お前自身もう落とし穴に嵌っているんじゃないのか?」

 

 そう言って歩こうとする魔王にアイリスフィールとは違う声が応えた。

 

「よく解ったね」

 

 ハッと振り返るとアイリスフィールだった物はなく黄金の杯からドス黒い泥のような〝何か〟が溢れ出ていた。

 

『お前じゃない』

 

 何処からともなく聞こえてくる声に魔王は構わず出口に向って駆け出した。

 

『お前は敗れた。それ以前に戦うことを放棄した。相応しいのはお前じゃない』

 

 だが間に合わず魔王は泥に呑まれ、泥は〝ある場所〟に向っていった。

 

 

 

 ×    ×    ×

 

 

 

 従うべきマスター()が消え、縛りが解けたセイバーは殺気の篭った視線のままアーチャーを見据えた。だが、アーチャーは微笑し舐め回すように彼女を見ていた。

 

「己が器を越える願いを抱いて身を焦がし、地を這う愚か者。だからこそ儚く眩く美しい」

 

 アーチャーの言葉の意図がまるで理解できずセイバーの警戒心を高めていった。

 

「我妻となり、我が腕に抱かれるがいい。それが万象の王である我が下した決定だ」

 

「ふざけるな!!!!」

 

 憤慨し光る聖剣を振り下ろすが当たる事無く空を切る。

 

「現界にも相当支障が来ているようだな。返答を誤れば―――――――」

 

 その時、黒い泥がアーチャーの背後の壁からな垂れ込み飲み込んだ。そのままセイバーも飲み込みそうな勢いだが、泥の一端が僅かに被ったところで限界を向えセイバーは無念の内に消えていった。

 

 

 

-03:20:47

 

 

 

(大きな勘違いだった!)

 

 言峰綺礼は胸から流れる血を押えながら俯せに倒され、背後にはコンテンダーを構えた衛宮切嗣が居た。

 

 切嗣との戦いで綺礼は長年追い求めてきた答えが得られると期待していた。だが、武装や技を応酬し伝わってきたのは、自分のような空虚な迷いを抱いていた心でなく、価値あるものを全て押し潰す歪んだ信念だった。綺礼は始まりから履き違えたことを悟り、同時に自分自身を貶められたと深い怒りが沸きあがっていた。

 

(こんな男に殺されて終わるなど冗談ではない!)

 

 追い詰められた綺礼は、目晦ましでもなんでもいい、この場に居る人間が消えればいいと目前の危機から脱する思いを頭に巡らせていた。

 

 一方、切嗣は令呪が消えたことにも動じず、目の前の男に止めを刺し魔王も倒して残ったサーヴァントと再契約して勝利を得ると闘争本能を滾らせ、先の戦いのことを考えていた。

 

 故に二人は気付かなかった。天井から黒き泥が落ちてきたことに、その泥は最後に残ったマスター、言峰綺礼に接触すると彼の考えていたことをそのまま〝願い〟として実行した。

 

 

 泥は強大とも言える閃光となり、その後に辺り一面どころかその先まで焼き尽くす炎となった。

 

 

 

 

-03:19:23

 

 

 

 死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)』あらゆる生命を殺戮し、あらゆる物を破滅させる為、生れ落ちた究極の呪い。

 

 故に、死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね

 

『馬鹿の一つ覚えのように煩いぞ。その程度がなんだと言うのだ』

 

 呪いは認識する。認識してしまった。否定しか有り得ないモノの中で『是』と謳う声を――――

 

 そして呪いは問う。何を持って是とすると?

 

『愚問だな。王が認め王が許すからだ』

 

 この消化できない異物に呪いは再度問うた。王とは何かと?

 

『この英雄王、ギルガメッシュに他ならぬ!』

 

 とうとう呪いは異物を吐き出そうとする。そこに更なる声が響く。

 

〝フハハッハハハ。ハーッハッハッハ!!〟

 

 新たに現れた異物に呪いは恐怖する。

 

〝滑稽だ。実に滑稽だぞ。この世全ての悪(アンリ・マユ)

 

 

 怨嗟と憎悪の嵐の中で消化し切れない新たな自我に呪いは逃れようともがく。

 

〝なにが嵐だ。こんなもの俺に言わせれば、心地良いそよ風でしかない〟

 

 呪いは思いだす。この声は自らが拒絶した『人間』のものだ。そして、こいつも魔『王』を名乗っていたと。

 

〝しかし、お前は本当に仕方のない『坊や』だな。この世全ての悪だの究極の呪いだと大口叩いときながら、我が身に許容できない存在に出くわした途端、尻尾を巻く〟

 

 呪いただ萎縮しながら魔王の言葉を聞き入るしか出来なかった。

 

〝お前、最高に格好悪いぞ〟

 

 そうして下れた言葉で呪いは完全に敗北を喫した。

 

 その間に、英雄王は呪いを飲み込み文字通りの意味で自らの血肉としていた。その右手には三つの円柱が連なった剣が握られていた。

 

「見つけたぞ!魔王!!」

 

 受肉を果たし、完璧な生命となった英雄王(ギルガメッシュ)は円柱を回転させ、獲物を仕留めようとした。

 だが、再び泥がギルガメッシュを押しつぶし阻もうとする。

 

「邪魔をするな!!この出来損ないがっ!!!」

 

 ギルガメッシュが泥を振り払っている間に魔王は踵返し、手を振りながら去っていく。

 それを感知したギルガメッシュは不十分な魔力で宝具を解放する。

 

「待てぇい!天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

 その威力は泥を一掃するだけに留まり、そこには魔王は影も形もなく、仕留めそこなった憤怒が残っただけだった。

 

「結局、魔王とは会えずじまいか。しかし、あの泥を支配して見せるとは、この時代もまだ捨てたものではないようだな」

 

 そう吐き捨てた後、瓦礫の中に居たマスター、言峰綺礼を見つけ出し安全な所まで引きずっていった。

 

 

 

 

-00:03:21

 

 

 

 

 

 県外にある高速バスの停留所で魔王は、来る途中で見た昨夜の冬木新都の大火災のニュースを思い出していた。

 

「やはり落とし穴があったか。あんな物のどこが万能の願望機だというのだ」

 

―――――ザー・・・ザーザー・・・ザーザーザー・・・―――――

 

 瞬間、感じたことの無い頭痛が襲う。

 

「イタチの最後っ屁か。何処までも仕方のない奴だ」

 

 この世全ての悪(アンリ・マユ)の泥を受けた影響だろうが、魔王はそれ以上に愉快なモノを見つけた事にほくそ笑んでいた。

 

「魔術師。取るに足らない輩だと言う評価は変わらんが、中にはいい『坊や』が居るのかも知れないな」

 

 そうしている間に乗車するバスがやって来た。荷物の入ったスーツケースは灰になってしまったので、懐に入っていたチケットを取り出しバスに乗り込む。

 

「まぁ、本番前の余興としては十分楽しめた。俺の本当の戦いはこれからだ」

 

クラクションを鳴らし発射するバス、行き先を示すヘッドマークには『富万別市』と表示されていた。

 

 

 

 0:00:00

 

 

 

 

 運命上の魔王・了

 

 

 




 短い間でしたが、ご愛読ありがとうございました。
 余談ですが、魔王はこの『数年後』勇者と本当の戦いを繰り広げます。

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