東方邪道録    作:流浪の東方厨

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東方邪道録 紅魔郷編 序

 かつて、現世には『幻想』が存在していた。奴等は人の営みに紛れ、かき回し、奪い、時に人から畏怖の対象となった。『幻想』はそうした人の心を糧にして永き繁栄を享受していた。

しかし、近世になると、科学を中心とした現実主義が現世に蔓延り、奴等に対する畏怖の心は薄れ始めた。このままでは、心を糧にする『幻想』は軒並み消滅してしまう。 そう危惧した奴等の長、『賢者』の12人は共同で、現世から隔絶された幻想たちの楽園『幻想郷』を造り出した。そして、その幻想郷で起きる様々な『異変』を解決する調停者として、一人の人間の少女を選出した。それが、『博麗の巫女』の始まりだった・・・・。

 東方邪道録 紅魔郷編

青々と茂る幻想郷の緑の中に、一際目立つ深紅の洋館があった。その立ち姿はこの世の物とは思えない程禍禍しいオーラを漂わせ、近くに人を寄せ付けなかった。この洋館の名前は『紅魔館』かつて幻想郷を奪取しようとした『ある吸血鬼』の居城だ。その館の大ホールに館の住民たちが集まり、何かの儀式をしている。床には魔方陣が描かれ、ホールの四隅にはどす黒い液体の入ったゴブレットが置かれて、いかにも黒魔術でございという雰囲気を放っている。

「さあ、始めよう。」

黒いローブを纏い、ローブの背中に開いた穴からコウモリめいた翼を生やした小柄な少女が呟く。彼女は『レミリア・スカーレット』この館の主で、かつて大量の吸血鬼と共に幻想郷を乗っ取ろうとした大吸血鬼だ。

「咲夜。連れてこい。」

「御意。」

レミリアの命令を受け、銀髪のメイドがテレポートする。彼女は『十六夜咲夜』レミリアの従者である。

「連れてきました。」

「ヤメロー!ヤメロー!」

咲夜が男を連れてきた。彼はレミリアの首を狙った新米吸血鬼ハンターだったが、咲夜に返り討ちに遭って捕縛されてしまった哀れな男だ。

「よし、磔にしろ。」

「御意。」

「ヤメロー!ヤメロー!」

「うるさい。」

「アバッ・・・。」

抵抗する男に手刀を一撃見舞って黙らせた咲夜は、そのまま男を柱に磔にした。

「よし、頼むわよ。パチェ。」

「はいはい。」

紫色の髪の少女が魔方陣に魔力を注ぎ込む。彼女はパチュリー・ノーレッジ。レミリアの親友の魔女だ。

「アバー!?アババッババッバッバッバババ!?」

魔方陣が光り、磔にされた男の体を電流が駆け巡る。男の生気はたちまち吸いとられ、顔面蒼白で失神した。すると、魔方陣の光がいっそう強くなり、辺り一面が赤い霧で包まれた。

「素晴らしい・・・。成功だ。これで再び我々の時代が来る。」

「さぁ、恐れよ愚民ども。夜の女王が誰か教えてやる。」

 

~翌日~

幻想郷の東端に自然に囲まれた小さな神社がある。神社の名は『博麗神社』。幻想郷の調停者である博麗の巫女が拠点としている由緒正しき社だ。普段のこの時間帯なら、綺麗な夜空と雄大な自然が調和した絶景の広がる神社周辺だが、今日は様子が違っていた。辺り一面が赤い霧に覆われ、空も木々も紅く染まり果て、周辺は地獄めいた風景が広がっていた。

「昨晩発生した紅い霧ですが、未だ発生原因は掴めず、人里ハンター協会はハンターを総動員して原因の急明を急いでいます。」

「嫌な天気ねェ。最近話題のえるにーにょってやつかしら。」

神社の社務所の中で、ラジオを聞きながら呑気に茶を啜る少女がいた。その少女は脇の出た紅白の巫女装束を着ており、服の間から見える腹筋はうっすら割れて健康的な雰囲気を漂わせていた。

彼女の名前は『博麗霊夢』当代の博麗の巫女で空を飛ぶ程度の能力者だ。

「こんな霧が出ていたらお洗濯が乾かないわ。」

霊夢がぶつぶつぼやきながら煎餅を齧っていた。すると、ものすごい勢いで魔法の箒に乗った少女がやって来て、神社の壁に激突した。

「れーむー!あぎゃっ!?」

「わっ!?びっくりした!なによ、魔理沙。そんなに慌てて。」

「いてて・・・。また事故った・・・。これじゃ免停になっちゃうのぜ・・・。」

この少女の名前は霧雨魔理沙。霊夢の親友で、普通の魔法使いと言う通り名で呼ばれる可もなく不可もない実力者だ。

「ンモ~。魔理沙ったら箒免許取りたてなのに見栄を張ってそんなピーキーなモデルに乗ったりして!それだから事故をおこすのよ。」

「だってェ、ディーラーの人が・・・・って、そんなことはどうでもいい!」

「外を見ろ!霊夢!」

魔理沙は外を指差した。

「なぁに?」

霊夢は外を見る。外は一面紅い霧に覆われた異常な状態になっている。

「これがどうしたの?」

「『どうしたの?』じゃない!紅い霧なんてこれはどう考えても異変だぜ!」

魔理沙が声を荒らげて言った。

「あ~、これは黄砂の親玉じゃない?」

「んなわけあるか!黄砂は黄色だぜ!」

「確かに、そう言われてみればそうね。」

「だろ?やっぱり異変だぜ。」

「まー、仕方ない。一応調査しに行こう。魔理沙待っててね。今準備するわ。」

「いーよー。」

霊夢は襖を開けて奥の部屋に入っていった。がさごそと音が聞こえた後、なにかさらに大きな音が聞こえた。

「ブォオォオ。」

「何ぜ?」

「魔理沙ァーこっちこっち。」

「え?」

魔理沙が表の方を見ると、霊夢が赤いトヨタ車に乗って魔理沙を呼んでいた。

「早く乗って!出発するわよ!」

「ちょっとまて。」

「何?魔理沙。」

「何で陸路で行こうとしてんの?」

「だってェ、空飛ぶの凄い疲れるから・・・。」

「横着するな!ほら!行くぞ!」

「や~ん・・・。」

魔理沙は霊夢を引っ張りながら異変解決に出掛けた。そのうち霊夢もやる気を出し始め、二人で本格的に調査をし始めた。そして、神社の裏手にしばらく進んだ先に広大な平原が広がる土地にたどり着いた。二人で本格的に調査をし始めた。そして、神社の裏手にしばらく進んだ先に広大な平原が広がる土地にたどり着いた。

「気持ちいいわね。」

「そうだな、夜風が気持ちいい。これで紅い霧さえなければ完璧なんだがなぁ。」

「どこにいったらいいかわからないわ。暗くて。」

「確かになぁ。」

「でも、魔理沙。」

「ん?」

「夜の境内裏ってロマンチックだと思わない?」

「呑気なこと言ってる場合か!」

「そうよそうよ。」

「だっ・・・誰だお前!?」

魔理紗が驚いたような声をあげ、二、三歩後退あとずさりした。魔理紗の眼前には、金髪に赤いリボンを着けた黒いワンピースの少女が、両手を大きく広げながらふよふよと浮遊していた。

「『誰だお前!?』って、こっちのセリフよ。此処は妖怪(わたしたち)の領域よ。貴女たちこそこんな夜更けに女の子二人にだけで何してるの?」

少女が魔理紗の顔を見て、怪訝そうに質問し返した。

「質問を質問で返すな。今はあんたの名前を聞いてんのよ。寺子屋で普通そういうことは習うでしょ。」

霊夢が煽るように口を挟む。

「何よ、生意気な人間ねェ。いいわ、冥土の土産に教えてあげる。私の名前はルーミア。人食い妖怪よ。」

「ひっ・・人食いだって!?」

ルーミアの言葉を聞いて、魔理紗が左足をザッと後ろに踏み込み、半身に構えて、右手で八卦炉をルーミアに向けた。これは彼女が妖怪と闘う時のベーススタンスである。

「あなたは食べてもいい人類?」

ルーミアはクスクス笑いながら両手に黒いモヤを生成した。ルーミアもどうやらやる気のようだ。

「ふん。私達を食べたきゃ力ずくでやってみな。」

霊夢はお祓い棒を正眼に構えた。周囲の空気がぐにゃりと歪むかのような、強者同士が相対した時に流れる独特の緊張感が周囲を包む。

「ルールはスペルカードでいいわね?」

霊夢がルーミアに問いかける。

「それでいいわ。貴女と私、サシでやりましょう。」

ルーミアが答えた。

「ちぇ、私は仲間外れかよ。」

魔理紗はちょっと不機嫌になった。それもそのはず、魔理紗はこの『スペルカード』という決闘スタイルが大得意なのである。

先ずは、そもそもスペルカードは何かということを説明しよう。スペルとは、一言で言えば個々が持つ必殺技である。そして、そのスペルのパターンを記した、謂わば必殺技発動の為の契約書めいたものが、スペルのカード、スペルカードである。このスペルカードにはいくつかルールがあり、その内の一つに『美しさ』

の追求がある。すべての攻撃にメッセージ性や美的センスを持たせ、その美しさが重要視されるのがスペルカードルールである。

勝敗の決定は先に宣言したスペルカード枚数の攻撃をすべて攻略されるか、明らかに美しさを放棄した無意味な反則攻撃をした方が敗けのシンプルなルールだ。

 「私は2枚でいいわ。あんたは?」

霊夢が懐からカードを取り出し、構えた。

「なら、私も2枚ね。」

ルーミアもカードを取り出した。再び辺りはぴりりとした緊張感に包まれ、風や木々がそれに呼応したかのようにザアザアと騒ぎはじめた。

「月符『ムーンライトレイ』!!」

緊張感を破り先手を取ったのはルーミアだった。大量の闇を纏った弾幕が霊夢を襲う。

「ッシャオラ!」

独特の掛け声と共に霊夢は大量の弾幕の間をすり抜け、封魔針を使った弾幕で反撃した。これは彼女のスペルカードですらない通常弾幕である。この程度の弾幕で撃破されるようであれば、相手が取るに足らない三下だったことになる。

「よっと♪」

ルーミアは余裕綽々で通常弾幕を回避した。

「あんな見た目でも人食いは人食いかッ!霊夢、気をつけて!」

魔理紗が霊夢に注意を促す。

「判ってるわ!出し惜しみは無用のようね!」

霊夢がカードを左手の中指と人差し指の間に挟んで、霊力を込めて叫ぶ。

「夢符『封魔陣』!」

霊夢のスペルカード宣言と同時に大量の弾幕がルーミアを襲う。

「ふっ。」

ルーミアは素早い動きで弾幕の間をすり抜け、霊夢に肉薄する。

「夜符『ナイトバード』!!」

「なんの。」

そのままワンインチ距離でスペルカードを発動するルーミア。しかし、霊夢は顔色一つ変えることはなかった。弾幕到達までのコンマ一秒の反応で瞬間的高速移動を放ち、弾幕を回避した。

「ひゅう!さすがは霊夢だな!私のライバルたるものこうでなきゃな。」

魔理沙が感嘆の声を上げる。

「そろそろカタをつけてやるわ。」

霊夢は光輝く御札を取り出し、念を御札に送る。

「はアアアアアアアア!」

(・・・来るッ!)

ルーミアが身構えるが、時既に遅し。

「封魔陣・改。」

「ッ!」

霊夢の御札から大量の弾幕が放たれ、空を隙間無く覆った。咄嗟にルーミアは回避行動をとるが、後の祭りだった。

「うぐはぁ・・・ッ。」

ルーミアの脇腹に弾幕が直撃。ルーミアはふらふらと地面に落下した。

「ううう・・・痛いよぉ・・。」

力なく地面にうずくまるルーミアに霊夢が近づく。

「安心しなさい、急所は外したわ。それよりあんた。この気持ち悪い霧の出どころを知らない?」

「し・・知らないわよそんなもん・・・いててて。」

「なによ。知らないのね。」

霊夢は軽く舌打ちをする。

「でも・・・。」

ルーミアが少し含みを持った言い回しをした。

「でも?」

「チルノなら知ってるかも・・・。」

「チルノ?誰よそれ。」

霊夢がルーミアに問いかけた。

「はいはーい!私知ってるぜ!」

魔理沙が口を挟む。

「魔理沙。そいつの事しってんの?」

「ああ。チルノってのは霧の湖に暮らす妖精でな。コミュニケーション能力や戦闘能力があの辺の妖精たちの中でずば抜けて高いから、あの辺の雑多な妖怪や妖精たちの顔役になってんだ。」

「ふーん・・・。なら、そいつに聞けば何か判るかもね。いいわ。そいつのシマに案内して。」

「おう!」

魔理沙と霊夢はふらふらのルーミアを置いてきぼりにして一路湖に向かった。

「あっ!待て!・・・・痛い・・ぐすん。」

ルーミアを倒して先に進んだ霊夢と魔理沙。果たして、二人の運命はいかに!

 ・・・一方その頃。

「大変だ!大のアネゴ!」

湖の畔の掘っ建て小屋にバタバタと若い妖怪が駆け込んできた。

「あれ、どうしたのタクちゃん?そんなに慌ててからに。」

小屋の中にいる緑色の髪が美しい妖精が若い妖怪に問いかける。その口調からは柔和でおっとりとした雰囲気を漂わせている。彼女は大妖精。チルノの相棒のような存在だ。

「ルーミアさんが博麗の巫女にやられた!」

「なにぃ!?それで、奴はどこに!」

若い妖怪の言葉を聞いた途端に妖精は血相を変え、口調も強くまるで無頼漢のようになった。

「それが・・・。霧の湖の方向に!」

(狙いはチルノちゃんか・・・・。)

「よし!タク、案内しろ。あたしが行く。」

「ヘイッ!」

(ふっ、博麗の巫女か、こんな奴にチルノちゃんの手を煩わせるわけにはいかないな。)

大妖精は懐からドスを取り出し、小屋の外に飛び出した。

「待っていろ博麗の巫女。友達(ルーミア)を傷つけた代償その体で払って貰うぞ。」 

 

幻想郷 平原

「アバァァァ!」

大柄な青年風の妖怪が霊夢のお祓い棒で頭を打たれて、膝から崩れ落ちた。

「はぁ・・・・。やけに妖怪連中が殺気立ってるわね。これもこの霧のせいかしら?」

霊夢が呆れたように呟く。

「魔理沙、そっちは大丈夫?」

「大丈夫だ!こんな雑妖直ぐに片付け・・・。」

「イヤー!」

「アブねッ!」

両拳にナックルダスターをはめた妖怪と交戦中の魔理沙が、霊夢の言葉に返答しながら妖怪の攻撃を回避した。

「ちょっとォ、本当に大丈夫なの?」

「あぁ、大丈夫・・・」

魔理沙は体勢を整えながら右手で八卦炉を構えた。

「だッ!」

魔理沙が気合いを入れたシャウトを放った瞬間、八卦炉から大量の星形弾幕がばらまかれ、妖怪を襲った。

「アバァァァ!?サヨナラ!」

弾幕を喰らった妖怪は爆発四散し、その場にPやBと書かれた四角いアイテムを残して消滅した。これらは妖怪が倒された時の残留魔力から産み出されるアイテムで、Pは体力回復、Bはスペルカード発動時のエネルギー源になる。

「ふぅ。」

魔理沙はアイテムを回収し、残心めいて八卦炉を構え直したあと、力を抜いて自然体に戻った。

「やれやれ・・・・。本当にこの辺は妖怪だらけだな。」

魔理沙が言った。

「そうね。まだまだ新手が来るかもしれないからあんたも気を付けなさいよ。」

霊夢が答えた。

「わかってるぜ。警戒しつつ先に・・・!?」

魔理沙が答えかけたその時!

「イヤァァーッ!」

「霊夢!後ろ!」

霊夢の背後に突如として緑色の髪の妖精が現れ、赤熱化したドスで斬りかかってきた。しかし、霊夢は殺気を感じ取って紙一重で回避したため、危機を逃れることに成功した。

「いきなりなによあんた。スペルカード決闘前には名乗りなさいよ!古事記にも書いてある常識でしょ!」

霊夢が切れぎみに問いかける。

「悪いな。私は今友達(ルーミア)を傷つけられて鶏冠(とさか)に来てるんだ。だからそんなルールに乗れる気分じゃあねぇんだ。それに、あたしはスペルカードを持ってねぇ。あたしはこの縦社会をこいつドス一本で生き延びて来たんだ。」

緑色の髪の妖精が答えた。その口調や立ち姿からはそれなりの強者オーラが漂っている。

(こいつ・・・できる。)

霊夢が固唾を飲み、お祓い棒を霞に構えた。その時だ。

「ちょっとまて!」

突然魔理沙が割り込んできた。

「さっきの宵闇も霊夢(おまえ)が倒したじゃないか。私だって大物退治したいぜ!だから今回は下がっていてくれ。」

「ちょっと・・・あんた本当に大丈夫?」

やる気に満ち溢れる魔理沙を横目に霊夢は心配そうな表情を浮かべる。

「大丈夫だ!この魔理沙様にまかせとけ!」

魔理沙はベーシックスタンスをとる。

「何をゴタゴタ言ってやがる。雑談は其処までにしてかかってこい。」

 大妖精が魔理沙を挑発する。その瞬間、二人の気がぶつかり合って剣呑な空気感が生まれた。どちらがいつ先手をとっても可笑しくない、一触即発の空気だ。

「疾ッッ!」

先手を取ったのは大妖精だった。赤熱化したドスを逆手にもち、瞬間移動と組み合わせて高速で斬りかかった。

「おっ!」

魔理沙は咄嗟に初級の肉体強化魔法を使って脚力を強化、赤熱化したドスを間一髪で回避した。そして、そのまま体勢を立て直し、手にもった箒に乗り込んだ。

「キュイイイ!」

けたたましい音と光と共に箒の魔力メカニズムが起動し、高速戦闘モードが発動。箒は凄い馬力で前方にぶっ飛んだ。

「ぐっ!?」

魔理沙は箒から振り落とされないようにしがみつきながら片手で八卦炉を構え直した。

「ちっ!ナナハン箒か!小賢しい!」

大妖精も空中に飛び出して追撃をかける。

「イヤァァ!」

「!?」

「イヤァァ!」

「なんの!」

 空中で極音速の戦闘を繰り広げる大妖精と魔理沙。大妖精がドスを振るい、それを魔理沙が回避して星形弾幕で応戦、それを大妖精が潜り抜け再接近。ドスで止めを狙うが魔理沙が防御魔法を使ってその攻撃を防ぐ。そんな戦いが繰り広げられていた。

(あの妖精、妖精の中では群を抜いて強いッ!魔理沙のやつ、大丈夫かしら?)

霊夢の心配をよそに魔理沙は戦いを楽しんでいた。幾度と無く大妖精の攻撃を回避するなかで、魔理沙は大妖精の攻撃パターンを覚えることに成功した。

(見えたぜ、必勝法が!)

「イヤァァ!」

大妖精が瞬間移動を発動しようとしたその時!

「恋符『マスタースパーク』!」

巨大な光線が大妖精を包んだ。これは魔理沙の必殺技マスタースパークだ。魔理沙は戦いの中で大妖精が瞬間移動する瞬間だけ一瞬硬直するという弱点を見抜いて、その瞬間を狙って最大火力を撃ち込んだのだ。

「アバァァァ!?」

大妖精は後ろに大きく吹き飛ばされて地面に墜落した。

「勝負あり、ね。」

霊夢が呟く。

「くそぉ・・・・。なんで私がこんな奴に・・・。」

大妖精は地面に這いつくばって怨み言を吐いたのち、糸が切れたように沈黙した。

「なかなかやるようになったわね魔理沙。」

「だろ!いつまでも『あの頃』の魔理沙じゃないぜ。」

「ふふっ。」

霊夢が奥ゆかしい笑みを浮かべたあと、魔理沙の肩に軽くタッチした。

「さて、先を急ぐわよ。魔理沙。」

「おう!」

二人が先に進もうとしたその時。

「あんたたちね!大ちゃんをいじめたのは!」

「「!?」」

 

 「誰よあんた。藪から棒に。」

突如として現れた妖精に戸惑う霊夢は、妖精の姿をじろじろと見回した。その姿は青いショートヘアーに青と白のワンピースを着て、大きな青いリボンを頭の後ろにつけている。そして、背中には氷の翼がついていて、如何にも妖精だという雰囲気を漂わせていた。

「霊夢。こいつがチルノだ。そんでさっき私が倒したのが大妖精。こいつの女だ。」

「あ~・・・。そうなのね。要はこいつがチルノで、さっき魔理沙が倒したやつがこいつの女だったからこいつはお冠ってわけね。」

霊夢は小指をたてながら言った。

「こら、霊夢。女の子が小指をたてるなんてはしたないぜ。」

魔理沙が霊夢を諫めた。

「なによ!あたいをむしするな!」

霊夢と魔理沙が自らを無視してどうでもいい話をしていることに業を煮やして大声を上げた。

「あ~?あによ、うるさいわねぇ。そんなに喧嘩がしたけりゃ買ってやるわよ。スペルカードを出しなさい。」

霊夢は懐からスペルカードを取り出した。

「やってやるわよ!うるさいっていったことをこーかいさせてやる!」

チルノもスペルカードを取り出した。決闘成立だ。辺りをひんやりとした嫌な空気感が包み、今にも闘いのゴングが鳴り響くかのようなイメージを見せてくる。

「ザッ・・・・。」

霊夢が後ろ足をしっかり踏み込んだ。

「夢符『封魔陣』ッ!」

 

先手を取ったのは霊夢だった。高密度の弾幕がチルノに襲いかかる。しかし、その弾幕をチルノは素早い動きですり抜け、霊夢に接近する。

「こんどはあたいのばんね!氷符『アイシクルフォール』!」

チルノがスペルカードを発動したその瞬間、大量の氷弾幕が周囲にぶち撒かれた。

「寒っ。」

霊夢は至って冷静に弾幕を回避して、チルノに肉薄してスペルカードを発動しようとした、しかし、そこで霊夢は異変に気づいた。

「なによ・・・コレ。」

足元を見ると、霊夢のしなやかな足が下からだんだんと氷に覆われていたのだ。この時の霊夢は知らなかったのだが、実は能力発動中のチルノは体から猛烈な冷気を放っており、不用意に近づくと冷気の影響で体がだんだんと凍結し、最終的には物言わぬ氷像となるという一種の防御システムをもっていたのだ。

「れ・・・・霊夢。足が・・・。」

魔理沙が震えた声で霊夢に話しかける。

「ちょっと不味いわね・・・・。」

霊夢の声色に少し焦りが見えてきた。

「仕方ない『あれ』をやるか。」

 霊夢はそう呟くと、両拳を強く握り締め、呼吸を整え始めた。

「ヒョー・・・こォ~・・・・。」

特殊な呼吸を始めると、みるみるうちに霊夢の体が火照りはじめて、凍結の進行が遅くなった。

「れ、霊夢・・・・。なんだ?その技は!?」

「博麗流対妖骨法術奥義『陰陽呼吸法』。この呼吸は使うことによって体温低下を防ぎ、戦闘力の底上げが出来る技よ。」

「ほー、便利だなそりゃあ。一時はどうなることかと思ったがとりあえずこれでひと安心だな。」

霊夢の声を聞いて魔理沙はほっと胸を撫で下ろした。

「さぁ、チルノとか言ったか?仕切り直しだ。かかってこい!」

霊夢はお祓い棒を正眼に構え直し、脚を踏み込んだ。

そして、しっかり地面を蹴り、勢いをつけて空中に飛翔した。

「あっ!まて!」

チルノも空中に飛び出し、空中戦闘を開始した。

「雹符『ヘイルストーム』!」

チルノの弾幕が霊夢を襲う。しかし、呼吸を使って能力の底上げをしている霊夢にとって、妖精程度の弾幕の回避など容易く、一瞬でチルノの二枚目のスペルカードの攻略に成功した。

「ぬう・・・。凍符『パーフェクトフリーズ』!」

ヘイルストームを攻略されて焦ったチルノは続けざまにもう一枚スペルカードを発動した。しかし、そんな焦りに任せた感情的な弾幕を攻略することなど霊夢にとっては朝飯前に過ぎない。これもあっという間に攻略してしまった。

「にぃぃぃ!!なんであたらないのよ!」

明らかに苛立つチルノ。

「こうなったらあたいのさいきょーのスペルカードをみせてやる!」

チルノはそう叫ぶと、周囲の冷気を自らに集約し始めた。

(凄まじい冷気だな、恐らく次がラストスペルか!)

霊夢が警戒態勢に入ったその時!

「雪符『ダイアモンドブリザード』!」

 猛烈な吹雪めいた冷気弾幕が霊夢を直撃した。

「れ・・・。霊夢ー!」

「あっはっは!かった!かったぞ!」

吹雪に飲まれた霊夢を心配する魔理沙。その眼前でチルノは勝利を確信して高笑いをする。しかし、吹雪が晴れた其処には・・・。

「ふぅ、危なかったわ。」

「なっ!?」

なんと、無傷の霊夢がいた。実は、霊夢はチルノのラストスペルが到達する直前に、先ほど倒した妖怪から入手したBアイテムを使用し、簡易的スペルカードを発動してそのエネルギーで吹雪を相殺したのだ。

「なによ・・・こいつ・・・つよすぎよぉ・・・。」

自らが持つすべてのスペルカードを攻略され、敗北が確定したチルノは膝から崩れ落ちた。

「勝負ありね。大人しく私の質問に答え・・・。」

霊夢がチルノに近づいたそのとき、突然チルノが霊夢に土下座した。

「ちょっ・・・。なによ急に!?」

「あたいをでしにしてください!」

「え。」

 突然のチルノからの懇願に一瞬フリーズする霊夢。

「おいおい、なんでまた妖精が霊夢に弟子入りなんてしようってんだ?」

魔理沙が不思議そうに言った。

「じつはちょっとまえから『こーまれんごう』ってやつらがあたいのしまにあらわれて、あたいたちを『さんか』にいれようとするの。だから、あたいたちのじゆうをまもりたいから、れいむにでしいりしてつよくなりたいんだ!」

「ほー、妖精の界隈も世知辛いんだな。なぁ霊夢?」

魔理沙が霊夢の方を見ると、霊夢の様子が明らかにおかしかった。

「紅魔連合・・・・ッッ。」

「おい霊夢、なにがそんなに引っ掛かるんだ?一体紅魔連合って・・・。」

「私の先代の巫女(おかあさん)が現役の頃に、幻想郷に大量の吸血鬼や雑種妖怪やらの混成軍が攻めてきた異変があったの。」

霊夢が語り始めた。

「あぁ、その話は香霖から聞いたことがあるぜ。あの時はあわや幻想郷が制圧下に置かれる所だったんだってな。」

「その時、奴等を率いてた吸血鬼が『レミリア・スカーレット』。吸血鬼の始祖の血を引く非常に強力な吸血鬼だったのよ。」

「レミリア?そんな名前だったのか。」

「奴レミリアは先代(かあさん)と数名の仲間が撃破したんだけど、先代かあさんは止めを差さなかったのよ。」

「ほう。それまたなんで?」

「先代かあさんは外界から追いやられたレミリアに同情したの。それで、先代の慈悲でレミリアとその仲間は幻想郷中に散らばって定住したのよ。そいつらがいつしか紅魔連合を名乗るようになり、今に至るってわけ。」

「ほぉ、て、ことはさ、そいつらは昔の異変の残党ってわけか。で、そいつらはどのくらいいるんだ?」

「10万人くらい。」

「ゑ?」

魔理沙はあまりに大きな数字を聞いて一瞬フリーズした。

「十万人!?さすがに嘘だよな?そんな恐ろしい組織があるのか?!」

「残念ながら本当よ。なんなら準構成員を含めればもっといるわ。」 

霊夢が真剣な顔になる。

「さらに残念な話をするけど、私たちは今からそいつらと闘うことになりそうよ。」

霊夢が続けざまに言った。

「えっ!?それはどういうことだ?」

魔理沙が驚いたように答える。

「この紅霧、吸血鬼異変の時に観測された物に酷似してるのよ。しかも、チルノの話によれば最近奴等は傘下を集めてるそうじゃない。妖怪組織が兵隊を集めるとなればやることは一つ。」

「・・・異変か。」

魔理沙が神妙な表情で答えると、霊夢は無言で頷いた。

「と、なればいくところは一つ。」

「そうね。行きましょう。紅魔連合の本拠地、紅魔館へ。」

魔理沙と霊夢は急いで飛び立った。

「あっ!おいていけぼりにすんな!」

チルノも勝手に着いてきた。

 

 霊夢と魔理沙と勝手に着いてきたチルノの三人は、湖の畔で連戦の疲れを癒すべく、束の間の休憩を取っていた。

「いやぁ、こう闘いばかりが続くと疲れるわね。」

霊夢がため息をつく。

「確かにそうだな。腹も減るし、ここいらで腹ごしらえでもするか。」

魔理沙が答えた。

「あたいこおらせたさかなもってるよ!」

チルノは懐から凍らせた鱒を取り出した。

「おっ!チルノでかした!じゃあこいつを煮込んでスープにしよう!」

魔理沙が指を弾きながら言った。

「煮込むって言ったってお鍋がないじゃない。」

霊夢が魔理沙の言葉に反応した。

「心配ないぜ。」

魔理沙はそう言うと被っていた魔女帽子の中に手を突っ込み、ごそごそ漁り始めた。

「「?」」

チルノと霊夢はその姿を不思議そうに眺めた。すると。

「あったぜ。」

なんと、帽子の中から片手鍋が出てきたのだ。

「すげぇ!ドラえもんみたい!」

チルノが感心して言った。

「どうなってんのよ、その帽子の中?」

「それは企業秘密だぜ。」

 魔理沙は片手鍋で湖から水を掬うと、地面に八卦炉をおいてその上に鍋を置き、中にさっきの鱒とこれまた帽子から取り出した調味料の類いを入れて火にかけた。それから三十分程度煮込むとスープが完成した。完成したスープをこれまた帽子から取り出した食器に開けて皆で食べた。

「うまー!」

「やっぱり魔理沙の料理は安定感があるわね。美味しいわ。」

「よかった、好評のようだな!まだまだあるから熱いうちに食べちゃってくれ。」

「「おかわり!!」」

そんなこんなであっという間に鍋は空っぽになり、また調査に行く準備をしていた時だった。ふと、魔理沙が呟いた。

「そうだ。私この前変な技を編み出したんだ。ちょっと見てくれないか?」

「あによ、藪から棒に。まぁ、別に構わないけど。」

「じゃあ、ちょっと私に弾幕を撃ってくれ。」

「え?大丈夫?」

「いいからいいから。」

霊夢は小さな弾を生成し、魔理沙に向け放った。

「よっ!」

すると、魔理沙はおもむろにお尻を弾幕に向けて、そのまま飛び上がり、ヒップアタックで弾幕を打ち消した。

「「・・・・。」」

 チルノと霊夢はどういう原理で今の現象が起きたのか分からず、ただポカンとするのみだった。

「ねぇ魔理沙、今の技は一体なんなの?」

「あぁ、私がバリア魔法の研究の一環で偶然編み出したんだ。」

「お尻以外じゃ発動しないの?」

「うん、なぜかお尻だけなんだぜ。不思議だろ?」

「不思議というか何て言うか・・・・。」

霊夢が口ごもるとすかさずチルノが

「ださいな。」

と、茶々を入れた。

「ダサいなんてひどいぜチルノ。」

「さっきまで殺しあいでもはじめそうだったのにもう仲良くなってる。さすが魔理沙ね。」

「あたいはあんまりかこはきにしないの。大ちゃんだってじじょうをはなせばわかってくれるよ。ね。」

チルノが言った。

「『ね』って、ここに大ちゃんはいないぜ?」

魔理沙が言ったそのとき。

「居ますよ。」

「「うわぁ!いつの間に!?」」

 なんと、突然背後に大妖精が現れ、霊夢と魔理沙は驚いて飛び上がった。

「大ちゃんはあたいがいるところならどこにだってくるのよ。」

「これぞ愛の力です。」

「凄いわねこいつ。」

「ぜ。」

そんな下らない話をしていた時だった。

「!」

霊夢が突然茂みに向けて針を投擲した。針が直撃した茂みから黒い影が飛び出し、霊夢に向けて鎖に繋がれた注射器めいた武器を投擲してきた。しかし霊夢は、それを中指と人差し指の二本で受け止めた。

「だれよ!ひとがはなしてるときに!」

「出てこいクルァ!」

「今出てくれば命は助けてやるぜ!」

霊夢以外の三人が謎の影に問いかけると、謎の影は潔く月の光の元に姿を表した。その妖怪は黒い髪の青年で、前髪は髪留めで止めて全身威圧的なブランドスーツでフォーマルに決めており、いかにもマフィアといった風体だった。そして、左腰には日本刀をさし、右腰には赤い液体の入った試験管をマウントしていた。

「ドーモ、紅魔連合所属、紅一馬(くれないかずま)です。貴様ら、ここは紅魔館の領地だぞ。何用で此処に来た。返答次第では貴様らを殺す。」

(紅魔の刺客!)

魔理沙が咄嗟に八卦炉を構えた。

「あっ!こいつだ!あたいたちにさんかになれっていってきたやつは!」

チルノが叫ぶ。

「てめえ、チルノちゃんに傘下に入れとか何様のつもりだゴラァ!」

大妖精が怒声を放つと同時にドスを抜刀、赤熱化させて妖怪に襲いかかった。

「シャオラッ!」

妖怪は大妖精の攻撃を回避するのと同時に注射器状の武器を大妖精の腕にカウンターで刺込み、大妖精の血液を少量抜き取った。

「ぐっ!?」

「大ちゃんだいじょうぶ?」

「あんた、大妖精に何をしたのよ!」

「な、なんだ今の技は!?」

 見たことのない戦闘術を前に戦々恐々とする霊夢たち。

「・・・女の子の血液を摂取するのは変態みたいで気が引けるが、有用な能力だし仕方ないか。」

そう言うと、妖怪は注射器の中に入った血液を飲み干した。そして、腰に差した刀を抜き、正眼に構えた。

(あの構え・・・。革新派(サステナヴル)・イアイドーか!)

霊夢が戦闘態勢を整えたその時、妖怪の持つ刀が赤熱化した。そして、瞬間移動して霊夢の背後から攻撃を放ったのだ。

「ぬっ!?」

 妖怪の攻撃をギリギリで転身して回避した霊夢。しかし、彼女の頭の中は疑問符で満たされていた。

(あの妖怪が大妖精の能力を使った!?やはり血液がトリガー?奴の種族は?わからないことだらけだッ!)

霊夢が思考を巡らせていると魔理沙が霊夢の肩に手を掛けた。

「だんだん敵さんも強くなってきやがったな。霊夢、タッチだ。大妖精(あいつ)の能力の弱点は闘った私がよく知っている。だから私にまかせとけ!」

「それを言ったらチルノのほうが良くない?」

霊夢は冷静に突っ込む。

「チルノの奴ぶっちゃけちょっとバカだろ?だからああいうインテリヤクザっぽい相手は荷が重いぜ。」

「しつれいな!」

「まぁまぁチルノちゃん。確かにああいうタイプの妖怪はどんなセコい手を使ってくるか解らないよ。チルノちゃんがいくら最強でも、搦手からめてを使われたら万に一つがあるかもよ?そうなったら私悲しいな。」

大妖精がチルノを優しく諭すと、チルノは納得したのか大人しく引き下がった。

「さァ、一馬とか言ったか?私と一対一サシでやろうぜ。」

 

 

「イヤァー!」

「なんの!」

魔理沙と刺客の激闘は続いていた。刺客が血液を採取すべく注射器めいた武器を投擲すると、それを魔理沙がヒップアタックでキャンセルし、今度は赤熱化した刀で刺客が斬りかかると、今度は初歩的強化魔法で魔理沙が体を強化して間一髪でかわす。そんな闘いが続いていた。

「あー!糞がッ!さっきからうぜぇんだよそのヒップアタック!いちいち俺の攻撃をキャンセルしやがって!」

霊夢は刺客が明らかにカリカリしだしたのを見計らい、すかさず魔理沙にアドバイスを与える。

「やっこさんかなり苛立ってるわよ魔理沙。止めを刺すなら今よ。」

「おう!」

魔理沙は八卦炉を刺客に向けて、エネルギーをチャージした。

「行くぜ!魔符『スターダストレヴァリエ』!」

その掛け声と共に八卦炉から色とりどりの星形弾幕が乱射され、刺客に襲いかかった。

「アバーッ!?アババッバッババッ・・・グワァー!」

全身に弾幕を浴びた刺客は大きく後ろに吹き飛び、年季の入ったぬいぐるみめいて力なく地面に倒れこんだ。

「がっ・・・・。はぁ・・。」

「勝負あり、ですね。」

大妖精が呟いた。

「はぁ・・・はぁ・・・。地味に強敵だったぜ。もっと体術の練習をしなくちゃ。いつまでも苦手を避けてもいられないな。」

「体術なら私が教えてあげるわ。チルノと一緒にしごいてあげる。」

「よろしくな!いもうとでし!」

「ちょ!誰が妹弟子だ!私が姉弟子だろ!」

そんなしょうもない会話をしていたその時。

「・・・と思うな。」

「「「「!?」」」」

倒れた筈の刺客が立ち上がり、血塗れの躰で息も絶え絶えに霊夢たちを睨み付けていた。

「これで終わりだと思うな!俺は紅魔連合でも混血種の末端!貴様らが下らねぇ会話をしているこの間にも、幻想郷各地から純血種の上級幹部たちが集結している!貴様ら人間の天下はじきに終わる!幻想郷の支配者は我等がレミリアお嬢様だァーッ!」

刺客は吸血鬼讚美の言葉を早口でつらつらと並べ立てた後、壊れたオートマタのように突然気絶した。

「全く・・・脅かさないでよね。それにしても、なんなのよこいつの執念は・・・。」

「そんなことより、奴の言葉を信じるならば、もう紅魔館に連合の奴等が集まってるかもしれないぜ?」

「それってかなりまずくない?」

「先を急ぎましょう。」

 

集結する紅魔の意志

 

霊夢たちが刺客を撃破した頃の紅魔館。赤黒く塗られた巨大な洋風の門の前に、建物に似合わない中華風の服を着た赤いロングヘアーの少女が立っていた。

彼女は「紅美鈴」紅魔館の門番だ。何をする訳でもなく真面目に門前で立ち、時に退屈からうたた寝をしたりする彼女だが、今日は一段と真剣な面持ちだ。何故なら、お嬢様の命令で大事な『お客様』を迎えるという任務を与えられているからだ。

時は丑三つ。ちょうど眠気に襲われ、美鈴がうたた寝をしようとしたその時、美鈴の目の前に三つの蝙蝠の群れが現れた。

「やっと来た・・・。お嬢様が幻視()たっていう大事なお客様ってこの方たちかな?」

三つの蝙蝠の群れはそれぞれ一人の吸血鬼の体を構成した。一つはパティシエ帽子をかぶり、フリフリのエプロンドレスを着た小さな少女になり、もう一つは身長が高く、ロングコートとスーツを着た、癖毛と尖った乱杭歯が特徴の美男子になり、もう一つは黒いゴスロリ風ドレスを着たピンクがかった銀髪の少女になった。

「よう、美鈴ちゃん。久しぶりだなァ。二十年ぶりくらいか?」

一番背の高い乱杭歯の青年が美鈴に話しかけた。彼の名前は『アーヴィング・スカヴェンジャー』。レミリアの旧友で死肉を喰らうと強くなる程度の能力を持った純血の吸血鬼だ。。

「お久しぶりです、スカヴェンジャー卿。いつもの御二人もご一緒で。」

「あァ、勿論だ。ほら、ソルビィ。挨拶して。」

「・・・こんばんは、美鈴さん。」

エプロンドレスの小さな少女が恥ずかしそうに挨拶した。彼女は『ソルビトール・スカーレット』。レミリアの従姉妹で有機物をお菓子に変えて操る程度の能力を持つ。勿論、彼女も純血の吸血鬼だ。

「こんばんは、ソルビトールさん。」

「ちょっとぉ・・・。ワタシのことは無視ぃ~?ローゼちゃん傷ついちゃうわぁ♡」

「げっ・・・。ローゼさんだ・・・。」

「ちょっとぉ、げって何よぉ?」

ゴスロリ風の服を着た少女が美鈴に話しかけた。彼女は『ローゼ・ストーカー』。七秒以上目があった敵を魅了する程度の能力者で、幻想郷では珍しくないレズビアンだ。彼女は好みの女の子が居るとすぐ誘惑してお持ち帰りすることから、仲間から淫魔という渾名で呼ばれているが、れっきとした純血の吸血鬼だ。

「おーい!咲夜さーん!お客様をご案内してください!」

「はい、只今。」

 美鈴が咲夜を呼ぶと次の瞬間、吸血鬼三人組はあっという間にレミリアの部屋に転送された。レミリアの部屋にはご馳走が準備された長いテーブルと沢山の椅子があり、その一番奥の豪華な椅子にレミリアが座っていた。

「・・・三人とも、久しいな。まあ座れ。」

「おう。じゃ、お言葉に甘えて・・・。お前らも座りなよ。」

アーヴィングが座ると、その両隣にソルビィとローゼが座った。

「20年ぶりだな、レミ嬢。あれからちったァ背が伸びたか?」

アーヴィングが話しかけた。

「生憎背の方は止まったままだ。どうやらスカーレット家はちびの一族らしい。」

レミリアが答える。

「あら、ワタシはそんなちっちゃなレミィも好きよ♡」

ローゼが口を挟む。

「フッ・・・。貴様のセクハラ癖は相変わらずだな、ルーマニアにいた頃を思い出す。」

レミリアがクスリと笑う。

「あの・・・。『フランお姉ちゃん』は元気かな?」

ソルビィがふと、思い出したかのように言った。

「フランか・・・・。まぁ、今は落ち着いているよ。」

 レミリアの顔が曇る。フランとは、レミリアの妹君である『フランドール・スカーレット』の事だ。彼女はかつては快活で明るい女の子で、ソルビィにとっては姉貴分だったのだが、ある時突然強大な能力を発現し、能力に飲まれて発狂してしまい、レミリアに地下に閉じ込められたのだ。

 かつてレミリアが幻想郷に侵攻した理由も、外界で滅びかけの吸血鬼の復権が半分で、一番の理由は幻想郷の竹林には月から来たどんな病も治す医者が居るという噂を聞いたからだった。レミリアは、幻想郷を制圧した後にその医者を探しだして妹の病を治してもらおうとしたが、異変は失敗して紅霧は消え、昼間の捜索ができなくなってしまった。それから二十年間レミリアはじっくり充電期間を設け、満を持して今再び異変を起こしたのだ。

「まぁ、この異変が成功さえすれば希望はあるし、そう湿気た面ァすんなや。」

そう言うとアーヴィングはたばこに火を着けた。

「アーヴィング・・・。ヤニは他所で吸ってくれ、体に障る。」

レミリアが言った。

 「うるせぇなァ。どうせ吸血鬼(俺たち)は不老不死なんだから細かいこたァいいんだよ。」

アーヴィングが不服そうに言った。

「煙いの嫌よねぇ。ねぇ、ソルビィ?」

レミリアはソルビィに同意を求めた。

「うん。くさいからあんまり好きじゃない。」

ソルビィは小さく頷いた。

「ちっ、しゃあねぇな。消しゃいいんだろ。」

アーヴィングは携帯灰皿を取り出して、たばこを押し当てて消した。

「・・・で、来たのはお前たちだけか?他の連中は来ないのか?」

レミリアが三人に問いかけた。

 「あァ、俺たちも結構沢山の吸血鬼(同胞)に声を掛けたんだが・・・。この二十年で皆だいぶ力を失っててな。吸血鬼異変(あのとき)の主要メンバーで来れそうなのはインパルスとコルト兄妹、ダグラス・ナハトにアナベル・リッパー・・・・。そんなところかな。」

アーヴィングが答えると、再びレミリアの表情が曇った。

 「たったそれだけか・・・。やはりあの時忌々しい博麗の巫女に負けてさえいなければ、我々も力を失うことはなかった・・・。くそッ。」

レミリアは少し苛立ちを見せた。

「レミィ、過去ばかり気にしてても始まらないわ。今はこの異変の成功に向けて全力を尽くしましょう。」

ローゼがレミィを諭す

「そうだな・・・。」

レミリアが冷静さを取り戻したその時、咲夜が突然現れた。

「お嬢様。失礼します。」

「どうした咲夜。」

咲夜はレミリアに耳打ちをした。

「・・・一馬が屠られたか。」

レミリアが呟く。

「いかがいたしますか?お嬢様。」

咲夜がレミリアの指示を仰いだ。

「美鈴に伝えろ。『お客様』を丁重にもてなせとな。勿論、悪魔式の歓迎でな。あと、パチェにもお客様がくることを伝えろ。」

「御意。」

レミリアの指示を確認した咲夜は時間を止めて瞬間移動した。

「ついに始まるんだな、レミ嬢。」

「あぁ。さぁ、来るがいい博麗の巫女。吸血鬼の恐怖をその体に教え込んでやる。」

 

続く。

 

 

 

 

 

  

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