レヴィア・テンペスト!!   作:ちりひと

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148. 可愛いよね

 王都を流れる河川。一行はその川沿いにあるレストランに移動。窓の外にはヤシの木が見え、リゾートな風な雰囲気がある場所であった。

 

「うーん、うーん」

 

 そのレストランのテーブル席に座るレヴィア。腕を組み、何かに思い悩んでいるようだった。まるで悪夢にうなされるような声を出している。

 

「どうしたのよレヴィアってば。しっかりしなさいよ」

 

 その彼女を、リズは隣の席からゆさゆさと揺さぶる。が、やはり反応はない。

 

 ぽけーっとしたかと思えば悩み始めたレヴィア。先ほどからずーっとこんな感じなので、休ませるためにこのレストランに入ったのだが、今だ彼女の様子はおかしいままである。

 

「フフフ。どうやら現実逃避してしまっているようだな。現実を受け入れられず。ウフフフフフフ……」

 

 一方、ネイといえば。

 

 先ほどからずっと嬉しそうだ。レヴィアの対面、リズの右手の席でとても嬉しそうに笑っている。

 

 片や悪夢にうなされ、片やこの世の春が来たように笑っている二人。一体何が起こったのだろうか。リズがその疑問を問いかけると……。

 

「フッ。まあ自尊心が崩されたんじゃないか? 負けを知らぬ者ほど負けた時は(もろ)いからな。やーい、負け犬。非モテ女」

 

 よくわからない答えを言うネイ。答えつつもレヴィアを煽っている。非モテやら負けたやら一体何の事だろうか? 勝負でもしていたのだろうか?

 

「ほらレヴィア。手くらい拭きなよ」

「うーん、うーん」

「全く、仕方ないな」

 

 そんな風にリズが首をかしげる中。対面に座る純花はレヴィアのお世話をしていた。

 

 お手拭きで手をフキフキしてやったり、食器を並べたりと非常にかいがいしい。まるで子供の世話をしているようだ。言葉では「仕方ないな」と言っているものの、どことなく嬉しそうな感じが見受けられる。

 

 それを見たリズは少し口元をひくつかせた。ちょっと前に考えた事が浮かんできてしまったからだ。

 

 ……いや、相手は病人(?)。あの程度の介護は問題ないだろう。

 

「フハハハハ。スミカ、残念だが今のヤツにはどんな気遣いも無意味だろう。放っておいてやるのが騎士の情けというものだ。フハハハハハ」

 

 頭に浮かんだ考えを追いやる中、ネイが嬉しそうに純花へと忠告。「そうなの? 迷惑だった?」と純花がレヴィアへと問いかける。が、やはり返事はなく、うなされているのみ。

 

 そのうちテーブルに飲み物とデザートが運ばれてくる。何も頼まないのは流石に店に悪いので、軽いものを頼んだのだ。もっとも、リズのはドでかいパフェなのであんまり軽くはない。

 

「で、ネイ。何したのよ。こんなレヴィア見た事ないわよ」

「私は何もしてないさ。しいて言えばヤツの自業自得。自尊心が高すぎるがゆえにこうなってしまったのだろう。少しでも謙虚さというものがあればこうはならなかっただろうに」

「や、そういう抽象的なのはいいから。はっきり言いなさいよ」

「フッ、分からんか。リズもまだまだ若いな。今のコイツはだな…………モテないのだ!!」

 

 ばーん! と言う感じでレヴィアを指差したネイ。

 

 モテない? レヴィアが? いやいや無いだろう。中身は置いといて、外見は誰もが認めるほどの美少女だ。少なくとも初見の者には非常にウケが……。

 

 と考えたところでリズは思い出す。男女の価値観が逆転していたのを。価値観が逆転している場合、レヴィアの立ち位置は……?

 

 リズは考えつつもレヴィアへ目を向ける。すると、そこでは……

 

「うーん、うーん」

「もう。しかたないな。レヴィア、あーん」

「うーん、あーん」

 

 パンケーキを切り分け、フォークをレヴィアの口元へと運ぶ純花の姿。腕を組み、うなされながらも口を開けるレヴィア。

 

 それを見たリズは再び口元をひくつかせた。病人の看護に見えなくもないが、二人の年齢的に別のものを想起してしまう。隣のネイが「フフフ。GLに走ったか。あまり好みではないが、ま、今の貴様にはふさわしかろう」とたわごとを……たわごと……? たわごとのはず……。

 

「スミカ。ちょっと来なさい」

「え? けど、ごはん……」

「いいから」

 

 リズは席を立ち、純花を手招き。渋る純花をせかし、外へと連れ出して口をすっぱくする。

 

「いい? スミカ。レヴィアと仲良くなっているのはとってもいい事だと思う。けど、流石におかしいから。大人相手にあーんとかするとか」

「そうかな?」

「そうよ」

 

 そうなんだ……と納得する純花。どうやら距離感がおかしい事に気づいていなかったようだ。

 

 他人に対してものすごく冷たい純花である。恐らく友人も狭く深く、といった感じなのだろう。自分たち三人が久々の友人で、久々ゆえに適切な距離感というものが分からないのだ。きっとそうだ。そうに違いない。

 

 とにかく、分かってはくれた。言えばちゃんと聞いてくれるようなので、おかしいところは徐々に直していけばいい。リズがそんな風に考えていると……。

 

「フハハハ。本当に与えられるがままだな。ほれ、あーん」

「うーん、あーん」

「ははっ。無防備なヤツめ。フフフ……これはまたとないチャンス……」

 

 窓から見える店内。そこではネイが純花の真似をし、レヴィアに餌付けしていた。純花の視線はそれに釘付けで、そわそわとした様子を見せ始める。

 

「ほれレヴィア」

「うーん、あーん……ぶっ! 辛ぁっ!?」

「ははは、美味かったか? 特製の辛子パンケーキだ」

 

 レヴィアとネイが店内でさわぎだした。どうやらネイが何かを仕掛けた模様。が、ソッコーで頭を殴られ復讐され返されていた。

 

 それを見た純花がぼそりと一言。

 

「ハァ……。レヴィアって可愛いよね。……お世話したい……」

「!?」

 

 可愛い? お世話したい?

 

 リズは驚愕に目を見開く。

 

「スミカ、アンタまさか……」

「え? ……あっ。い、いや、これは、えっと」

 

 頬を染めつつもドギマギとし始める純花。どうやら無意識の言葉だった模様。つまりは本音という事だ。

 

 確かにレヴィアは可愛らしい容姿をしている。が、中身を知る者なら可愛いなど口が裂けても言えないはず。もちろん純花はその正体をよく知っている。なのに、口から出た言葉に、この表情は……。

 

 ……世間では、父親と似た感じの男と結婚する娘も多いと聞く。そしてレヴィアは似た感じどころか同一人物。さらに性格はいい意味でも悪い意味でもオンリーワン。似た感じの者など存在するはずもなく……。

 

 信憑性を帯びてきた可能性。リズはものすごく顔をひきつらせ……

 

「ダメ!!! それだけはダメよ純花!!!」

「へ?」

 

 ものすごく深刻な顔になり、純花の両肩をガシッと掴む。

 

「いい純花? 人を好きになるのはとってもいい事だと思う。けど、世の中好きになっちゃいけない相手もいるの。同性はもちろん、肉親なんて論外。そんなのが世間様に知れたら村八分どころか追放もあり得るのよ?」

 

 男女でくっついて子供産んでナンボ。リズはそういうお堅い考えをしていた。

 

 それもそのはず。彼女の故郷は第一次産業がほぼ全てのド田舎。子供は働き手にして後継者である為、子を成すのは義務といっていい。子が出来ないだけでもヒソヒソされるのに、同性でくっついて結婚しないなんてなればどうなるか。村八分間違いなしである。

 

 さらに近親相姦なんてのが知れたら……。常識と言うものに厳しい田舎である。畜生扱いは勿論、最低でも追放、最悪は悪魔憑きとして処刑なんてのも大いにあり得るのだ。

 

 頭の中が修羅場のリズ。思いとどまるよう必死に純花を説得する。

 

 対し、純花は訳が分からないという顔をしていた。「肉親? 村八分?」と目をぱちくりさせつつも、リズの真剣さにちょっぴり気おくれしている様子。そんな彼女らを、店前の道を歩く人々が「何だ何だ」「修羅場か?」とやじうましている。

 

「こらこら。何をする」

「よくよく考えたらやっぱりおかしいんだよ。テメーがモテるとか。オラ、頭出せ。おでこに『行かず後家フォーエバー』って書いてやるからよ」

「フフフ。全く、自分がモテないからって……」

 

 そうした修羅場が店の外で展開される一方、店内でも騒ぎが起きていた。

 

 マジックペン的なモノを持ち、テーブルに乗ってネイへ落書きしようとしているレヴィア。その蛮行に店の店主が「あああ! やめてくれ! コップが! 食器が!」と嘆き叫んでいる。しかし二人に聞こえている様子はない。

 

「ね、ねえリズ」

「何!? 駄目なものは駄目よ!!」

「そうじゃなくて。ほら、あっち」

 

 リズの頭越しに、視線を遠くへ向けている純花。その視線の先を見ると、

 

「おい! 何をしているんだ!」

 

 道の向こうから二、三人の兵士が走ってきていた。騒ぎを聞きつけたのだろう。

 

 やばっと思うリズ。どうしようと店の中を見ると、素早く気配をかぎつけたレヴィアは店の裏口へと逃亡を開始している。ネイも同様である。

 

「ほら、行こ。捕まっちゃう」

 

 純花の言葉。言いたいことはまだあったが、ここで捕まるのも困る。そう判断したリズも逃亡を開始。純花もそれに続く。

 

 店の外で客の入りを妨害をし、店の中でも営業妨害。本日二度目の逃亡。

 

 ハタ迷惑すぎる四人であった。

 

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