今日誕生日を迎える幼馴染にプレゼントを渡すだけの話だ。
それ以外には何もない。

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本日11月14日はヤンデレCDの記念すべき第一作「ヤンデレの女の子に死ぬほど愛されて眠れないCD」のヒロイン、河本綾瀬の誕生日。
ということでやはり衝動的に書き流してみました。
お許しください。


この一瞬は永遠にあなたのものだ

 

 “秋の日は釣瓶落とし”とはよく言うもので、帰途の中で肌寒い風が吹きつける黄昏時はあっという間に過ぎていく。

 銀杏の落葉に秋の終わりと冬の訪れを感じる今日は十一月十四日。その他大勢にとっては大したことも何もない平日だけど、少なくとも彼女にとっては大切な日だ。

 大きなリボンに括られたポニーテールが秋風に靡く。

 ――河本綾瀬。今日というこの日は、彼女の誕生を祝うためにある。

 

「今日もまた、随分と暗くなってしまったねぇ」

「あなたが遅くまで図書室で勉強していなかったら、もう少し早く帰れたと思うけど?」

「そうかな?」

「そうよ」

「いや、でも待って欲しい。受験を控えた学生としては寧ろ一般的なんじゃないか?」

「……わたしは、あなたと同じ大学へ行くものだとばかり思ってた。まさか、進路が違ってただなんて」

「仕方ないだろ、やりたいことが見つかったんだから」

「やりたいこと?」

「あぁ。意味が無いとばかり思っていた人生だったけど、ようやく生きる目標が見つかったんだ。後はそれに向かっていきたい」

「それは、わたし抜きでやりたいの?」

 

 真っ暗闇の中で歩く彼女の顔は伺えない。それでも声が震えていることは解った。それが寒さだけが原因でないことも。

 

「……そう言われると、厳しい。隣に綾瀬がいて欲しいとは思うけど、それはタダのエゴでしかないし」

「ふーん、そうなんだ」

「でもこれだけは言わせてくれ」

「なに?」

「キミが好きだ」

「……今このタイミングでそのセリフを言うの?!」

 

 顔が見えないのがもったいない。今ならきっと耳まで、いや、首まで紅葉が散っているに違いない。

 

「今しかないと思ったんだ。嫌だったかな?」

「嫌なわけないじゃない! でも、こう、あるでしょ? もう少しムードってものが?!」

「あぁ、本当ならもう少し盛り上げたかったところなんだけど、今、ここで、やるしかないと思ったからね」

 

 慌てふためいているであろう綾瀬を尻目に、カバンの中から手探りで箱を取り出す。丁寧に包装された小箱。

今日、この場で最も価値のあるもの。

 

「これを受け取って欲しい」

「ねぇ、待って? この流れで渡す普通?」

「だって今日は綾瀬の誕生日だから」

「えっ?」

「綾瀬と二人きりになれる時間をこんな形でしか用意できなかったことは申し訳ないけど、このプレゼントに込めた思いは本物だということだけは理解して欲しい」

「あ、あっ、えっ? あ、あぁー、……開けていい?」

「勿論。主観で選んだから好みに合うかは分からないけど」

 

 綾瀬が箱を開ける。真剣に悩み抜いて選んだ答えがこれだ。

 消え物では味気ない。今日というこの日を永遠に称えるものが望ましい。

 彼女の趣味に合わなければ意味がない。口では大坂の城も建つが、保険なんて効力を発揮しないに越したことはない。

 そして最も重要なことは、そのプレゼントを綾瀬が大事に使ってくれていることが分かること。

 即ち――

 

「リボン……」

「綾瀬に似合うと思って作ってみたんだ。受験勉強の息抜きがてら手芸を嗜んでみたよ。どうかな?」

「ありがとう……って作った?」

「正確に言えばデザインした、かな。流石に織るところまではいかないよ」

「うんわかった、もうつっこまない。……嬉しいな、わたしの為にそこまでしてくれるなんて」

「綾瀬が好きだという心の現れを綾瀬自身にも示したくてね」

「もう、そこまで堂々と言われたら恥ずかしくなっちゃうじゃない」

「独占欲が強めの男は嫌いかな?」

「わたしがあなたを嫌いになるわけないでしょ?」

「それもそうだ」

 

 自然と笑みがこぼれる。綾瀬の口からも。街灯もなく、月明かりだけが照らす中で、二人きりの誕生会。愈々宴も酣だ。主賓自ら締めてもらおう。

 

「折角だ。それを結んで見せてくれ」

「ここで?」

「嫌かな?」

「わたしとしてはもう少し明るい所がいいけど……、うん、いいよ。ちょっと待っててね」

「いつまでも待てるよ」

「それは言い過ぎ」

 

 いつも結んでいるリボンをほどき、代わりにもらったばかりのリボンで髪を結う。瞬きすら惜しい光景だ。

 髪を下ろした姿も、髪を結うためにリボンを口に咥える顔も、今この瞬間だけは自分の為だけにある。

 

「どう?」

「綺麗だ。……いや、月並みな言葉しか出てこないな。歯の浮くような語彙が欲しい」

「必要ないでしょ。あなたがわたしを好きでいてくれる。それ以上の理由が要る?」

「要らないな。もう一度、改めて言うよ、綾瀬。好きだ」

「うん。わたしもあなたの事が好き。大好き」

「誕生日おめでとう」

「ありがと。――来月は楽しみにしててね」

「……何かあったかな?」

「それはお楽しみ。今日は本当にありがとね。このリボン、一生大切に使うから」

「そうして欲しい」

 

 二人は同じ道を辿っても、歩む先は違っているかも知れない。

 それでも、この一瞬だけは永遠に刻みたい。たとえそれが壊れやすい青春であろうとも。

 

 







『――次のニュースです。今朝、■■学園の花壇から同学園の女子生徒とみられる遺体が発見されました。この女子生徒は先月から行方が分からなくなっていましたが、「花壇の花から見覚えのあるリボンが見つかった」という生徒の証言から花壇を詳しく調査してみたところ、女子生徒と思しき死体が掘り出されたとのことです。検死解剖の結果、腹部を刺されたことによる失血死であると推測され、殺人および死体遺棄として警察は調査を進めています。この事件と何らかの関連性を持っているとして、同時期に行方不明になっている男子生徒を捜索しています。とある生徒の証言では、この男子生徒は被害者である女子生徒とは幼馴染の関係であり――』



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