ボイロマスターを曇らせたい   作:Roo・Cthulhu

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懐かしい味

 

 

 

 

優しい出汁と味噌

焼けるベーコンの甘い脂、

炊きたてご飯特有のえも言われぬあの香り。

日本固有の朝の匂い。

 

懐かしい自分の部屋、

珈琲片手に顰めっ面で新聞と格闘する親父。

髪が纏まらないと焦る妹に、戯れるにゃー助。

ソレには流石の親父の眉間のシワ取れたよな。

不貞腐れる妹の髪やらされて、

上手くいかなくて怒られて、

結局、時間ギリギリになって…

 

あぁ、そうだ。

母さんが味噌汁を…、

 

「『おはよう』ございます。『○○、』マスター」

 

「おはよう」

 

何処か感じる懐かしさのせいか、あの日の実家の夢を見た。

飛び出して早2年。

あの家への郷愁が込上げる。

 

「マスター…なにか不備がありましたでしょうか?」

 

この子は先日、中古屋から買い取ったAHS社製ボイスロイド『結月ゆかり』その57番型F機 。4年前に発売された2世代前の旧型。

当時、流行した小型バイオ発電機能を搭載することで維持にかかる電気代を大幅カット!

を目玉として一般販売に踏切ったのだ。

 

しかし実際の所、バイオ発電機の維持のために大量のバッテリーを消費する必要があり過去機よりもバッテリーのもちは悪くなった。

が!

VOICEROIDと飲食ができるという一点のみで過去機の売上をブッチギった……

 

オタクの根性は凄まじいものがある。

 

そんな57版型の当機は初期ロットなのだが提示されていた予想稼働年数らは何故の「?年(劣化無し 新品同様)」。

(付箋にて、

『店頭で売り子として5ヶ月程動作させましたが一切の劣化が見られませんでした。メーカーに問い合わせましたが問題ないとの事です。

ですが、原因不明のため大幅値下げしております。(>”<)』

との説明があった。)

 

さらに各家庭用ということで感情プログラムと表情プログラムは基礎設定済み、その上 接客の頃の記録は引き継いでいる…

…はずなんですけど

 

ヤケに無表情だなこの子……

 

まさか不良品掴まされたか?

いや、微妙に口元下がってるし首傾げてるから動作不良の(バグってる)訳でもない。

 

「…なさそうですね。

朝食の準備が出来ております。

直ぐに出発なされますか?

お時間があれば温かいうちに召し上がってください。」

 

四畳二間を仕切る薄い襖。

望郷の匂いはその先らしい。

 

 

「これは…君が?」

小綺麗になった居間にはこれまた美しく配膳された食器。

 

美味い。

光り輝く銀シャリ。

プックリ程よい塩気の塩鮭。

艶々カリカリのベーコン。

箸が止まらない。

 

目の前には頷くゆかりさん。

表情は変わってないが少しドヤってる気がした。

いやドヤっている。かくじつにコレはドヤっている。

具体的には物理的に謎原理で

背後に『( ・´ー・`)ドヤァ』と視認できる。

( ・´ー・`)ドヤァの後光が見える。

 

満を持して味噌汁を啜る。

味噌の味に醤油を感じた時、

無意識に泣いていた。

 

ゆかりさんは困惑しているようだ。

当たり前だ。美味い美味いと食べている人間がいきなりなり泣き始めたのだ。無理は無い。

ゆかりさんの声が何か言っているがよく分からない。

そのまま味噌汁片手にポロポロ泣き続けた。

 

 

講義には遅れた。

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