才能溢れるスーパー最強ぼっちちゃん!!!   作:やみーさん

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決意

『それギターだよね! 弾けるのっ!?』

 

『その、実は今困ってて……』

 

『お願いっ! 私のバンドで、ギターしてくれないかなぁ?!』

 

 瞬きの間に流れる回想に目が眩みそうになる。視界の端に舞い散る金色。そして、思考が今へ追いつき目に入ったのは──、

 

「はい! これ! 今日のセットリストと楽譜!」

 

「あっ……はい」

 

 ──輝かしいばかりの笑顔。思わず、目の前の虹夏ちゃんを自分と比較して胸に激痛が走るが、どうにか抑える。

 

 ここまで来たのももう完全に勢いだった。ギターの話をしてくれる人。ギターで人気者になれるチャンス。

 

 人手不足の成り行きだけど、もし出来が良ければこのままバンドの一員に……そしてそのままバンドがメジャーデビューとかしちゃって…………あ、でも私の実力じゃ無理だ。

 

 喜んだり悲しんだりしていると、虹夏ちゃんが思い出したように付け加えてくる。

 

「あ、それと私たちインストバンドだから」

 

「……あっ、はい」

 

 要するに、ボーカルがいないみたいだった。尚更責任重大だ。

 譜面を見ると……難しくはない曲なんだろう。多分、ギターに慣れてる人ならすぐ弾ける曲。

 

 曲の難易度を理解したその瞬間、焦燥感が胸を燻る。楽しそうに話しているリョウさんと虹夏ちゃんに思わず目を向ける。

 虹夏ちゃんが気が付いて、ニコッと笑いかけてくれた。

 

「……あ、あ……ぇと」

 

 どうしよう。どうしよう。どうしようどうしよう。

 

 虹夏ちゃんに話し掛けてもらって、折角ここまで来たのに……──多分、この曲は私には弾けない。

 

「──よし! じゃあ1回あわせてみよっか!」

 

「……あ」

 

 そして悩んでいる内に、虹夏ちゃんとリョウさんは定位置に付いていた。後は私だけ。

 

「ひとりちゃん、こっちこっち」

 

 リョウさんが無気力に手招きしてくる。その瞳には微かな感情が見て取れた。

 どんな子なんだろう。どんな演奏をする子なんだろう。──どれくらい上手いんだろう。

 

「──ひっ」

 

「……んー? あー、大丈夫大丈夫! さっきもいったけどリョウは表情に出ないんだよ! きっとひとりちゃんの演奏聞きたくてわくわくしてるって!」

 

 人差し指をリョウさんの頬に当て、にーっとつり上げる。ポカリとリョウさんが虹夏ちゃんを叩いた。

 気を和らげようとしてくれている。気を遣われている。その事実が、これまでまともに人と話したことない私にはやけどしてしまうんじゃないかってほど、暖か過ぎた。

 

「ま、そんなに気を張らなくても大丈夫だよ、ってこと! ほらほらー!」

 

「あ……はい」

 

 そのまま、流されるままに私はギターを手に取って、そして……演奏が始まった。

 

 

 ◆◇

 

 

「──ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 

「しょうがないよ! 即席バンドなんだし! ね?! ひとりちゃん、おーい……ゴミ箱から出て来てー……」

 

 それはもう大失敗だった。普通にすら弾けなかった。それもそうだ。なんで1人でしか練習してこなかった私が、突然みんなとリズムを合わせられると思ったのだろう。

 いや、そもそもリズム感がないのにどうやってリズムを合わせるんだろう。考えれば考えるほど泥沼にはまっていた。

 

「どうも……プランクトン後藤です……へへっ」

 

「売れないお笑い芸人みたいな人でてきた!」

 

 どうしよう。申し訳なさで頭がいっぱいになる。人並みには弾ける、なんて最初にいってしまった報いがここで帰ってきたのだ。

 

「……あ、ほら! それにどうせうちのバンド見に来るの私の友達だけだし! 普通の女子高生に音楽の善し悪しなんて分かんないって~」

 

「私はわかる」

 

「リョウはふつうじゃないでしょ!」

 

「……てれっ」

 

「褒めてな……いや、褒めてたかも」

 

 2人が楽しそうに会話を始める。やっぱりここに私なんかはいらない気がしてくる。

 

「……そうだ。ひとりちゃん怖いならこれに入って演奏したら?」

 

 いつの間にか『完熟マンゴー』と書かれた謎の箱を持っていたリョウさんに、流れるようにそれを被せられる。避ける気力もなかった私は次の瞬間には暗闇の中にいた。

 

「……あ、なんかいいです。 いつもひいてる環境と同じ!」

 

「いつもどんなところに住んでるの?」

 

 リョウさんから進んで会話を振ってくれている。多分、リョウさんはあんまり喋らないタイプだと思う。

 なのに、ここで進んで話しかけてくれるのは……きっとリョウさんの優しさだ。

 暗闇の中という安心感も相まって、私はいつの間にか口を開いていた。

 

「……その、私、ずっとバンドとか組むの憧れだったんです……あと、ギターを話せる友達とか、ずっと欲しくて……」

 

「うん」

 

 虹夏ちゃんが頷いてくれる。それに勇気づけられ、更に言葉が溢れ出る。

 

「……そ、それで。いつも練習ばっかしてて……流行のバンドの曲とか全部練習して……」

 

「全部……」

 

「すごい」

 

 虹夏ちゃんがなにか引っかかることがあるかのように呟き、それにリョウさんが続いた。私はそのまま自白するつもりで口を──

 

「なんか──ギターヒーローさんみたいだね」

 

 ──止まった。

 

「誰それ?」

 

「えっ、あー……ギターで演奏してる動画を数年前から投稿してる人……なんだけど。どう言えばいいのかな」

 

「そうなんだ。知らなかった。上手いの?」

 

 完全に停止していた。だって、『ギターヒーロー』は私が下手くそな曲を投稿してる、登録者30人くらいのアカウントの名前で。

 思考が纏まらない中、虹夏ちゃんは言葉を紡ぐ。

 

「……なんていうのかな。別に上手くないんだよ」

 

 そう。そのはずだ。だから、なんで虹夏ちゃんはギターヒーローなんていうど底辺動画投稿者を知っているのか──、

 

 

「──でも、大好きなんだ」

 

 

 ──息が止まった。五感が聴覚だけに集中する。息遣いだけが世界に反響していた。

 

「……演奏に独特な癖があって、それが好きみたいな?」

 

「いや……なんていうんだろ。そういう訳でもない。むしろ逆に定型にそった弾き方に近いかな?」

 

 そう。そのはずだ。コピー版とすら呼べない、完全な劣化。私が弾く音楽はオリジナル性も何もない、ありふれたゴミそのもの。

 それを否定するように、虹夏ちゃんが続ける。

 

「……でも、好きなんだ。なんか見てると、聞いてると努力とか熱意とか、そういうのが凄い伝わってくるんだよ。それに押されてか分かんないけど、コメントとかはじめてしちゃったし……うん、そういう演奏をする人かな」

 

「……そっか」

 

 リョウさんが納得したように呟く。そこで、私はいつの間にかジャージが湿っていることに気が付いた。

 声も抑えられなくなっていた。漏れるように嗚咽がのぼってきた。リョウさんから貰った箱まで濡れないよう、もぞもぞと脱いで外の空気に触れる。

 そこで、耐えきれなかった。

 

「──うっ、うう……ううう……うぁ、うぁあ──」

 

「えっ?! ひ、ひとりちゃん?! ご、ごめんね!! 完全にこっちの話しちゃって──あ、リョウ! 水! 水!」

 

「ラジャー」

 

 リョウさんから水を受け取る。ぐしぐしと湧き上がる感情を拭き取る。

 心配そうな虹夏ちゃんの視線を感じる。そんな中、脳裏に浮かんでいたのは虹夏ちゃんが放った言葉だけだった。

 

『でも、大好きなんだ』『コメントとかはじめてしちゃったし……』

 

 ……そっか。多分、あのときの──。

 

 そこまで考えたとき、虹夏ちゃんが本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

 

「ごめんね! 本当にごめん! 変にプレッシャーかけちゃったかな?! あ、もし出るのが無理そうでも──」

 

「──出ます」

 

「──心配しないで……って……え?」

 

 呆然としたように虹夏ちゃんが顔を上げる。リョウさんが目を瞬いた。

 

「出ます──に、虹夏ちゃんと演奏……したい、ので」

 

 再び世界が止まった気がした。そして、虹夏ちゃんが勢いよく私の手を握る。

 

「ほ、ほんとっ!? ありがとう!! 本当にありがとう!!」

 

「……ありがとう、ひとりちゃん」

 

「ちょっと足引っ張っちゃうかも知れませんけど……が、頑張ります」

 

 最後に残った涙を拭いて、虹夏ちゃんを見詰めているとリョウさんが思い出したように口を開く。

 

「そういえば、ひとりちゃんって呼びづらい。なんかあだ名とかないの?」

 

「え、えっと……中学校とかだと『あの』とか『そこの』とか呼ばれてました……」

 

 昔の呼ばれ方をいうと、虹夏ちゃんが絶叫する。

 

「それあだ名じゃなくない?!」

 

「……ひとり……じゃあ、ぼっちとかは?」

 

「デリケートなところを!!」

 

「ぼ、ぼぼぼぼっちです……!!」

 

「なんか胸がジーンとしてきた……」

 

 初めてのあだ名に感動していると、虹夏ちゃんが優しげな目でこっちを見てくる。その母親を想起させる瞳に一瞬息が詰まる。

 

「──結束バンドさん、そろそろ出番ですけど~」

 

 そして、虹夏ちゃんが止まり、リョウさんが立ち上がる。

 

「……結束、バンド?」

 

「私たちのバンド名」

 

 ちょっとびっくりしていると、虹夏ちゃんが隣で声を張り上げた。

 

「ダジャレ寒いし絶対変えるからね!」

 

 虹夏ちゃんが変えたいなら変えたいかも……と思っていると、手が引かれる。

 

「じゃあぼっちちゃん! 少しくらい下手でも大丈夫!! 音楽って感情が乗るからね!! 楽しくやればみんな楽しいよ!」

 

「は、はい!」

 

「演奏技術はこれからこれから! 次頑張ろっ!」

 

 ──次。その言葉に声が詰まる。感涙に喉が窄まる。

 

 虹夏ちゃんの手に引かれるままに進んでいると、ステージの光が目に入った。

 

「よし、行くよ!」

 

 そして虹夏ちゃんのその掛け声と共に、私の初めてバンド演奏が始まった──。




作者はぼ虹過激派です。対戦よろしくお願いします。
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