才能溢れるスーパー最強ぼっちちゃん!!!   作:やみーさん

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ちょっとだけ悪化してる家庭環境

「ミスりまくった~~っ!」

 

「MC滑ってた」

 

 ライブは完全に失敗だった。

 

 はじめてだし、当たり前だ。そうかもしれない。けど、これから私がもっと上手くライブを出来るようになる未来が欠片も見えなかった。

 

 そもそも、一番の問題は私がリズムを取れないことだ。音の強弱も伸ばし方も全てがズレた。

 

 私だけ違う世界で生きているみたいだった。他の人は何の抵抗もなく動いてるのに、私だけ海の中にいる。そんな感覚。

 

 リョウさんも……虹夏ちゃんも、楽しそうに話してる。やっぱり私みたいな代役じゃダメだったんだろう。

 

 息を殺してそそくさとライブハウスから離れようと足を動かす。一息で挨拶を済ませようと、

 

「──よーし、じゃあぼっちちゃん歓迎会兼反省会しよっか!」

 

「ごめん眠い」

 

「……えっ」

 

 思わず止まった私を、虹夏ちゃんが不思議そう見てきた。

 こんな私でいいんですか、とか、不束者ですがよろしくお願いします、とか、やっぱり虹夏ちゃんは優しいなとか……いろんな言葉が脳裏に舞い散る。

 

 そして、口から溢れ出てきたのは──、

 

 

「……きょ、今日は人と話しすぎて疲れたんで帰りますほんとごめんなさいすいませんありがとうございました」

 

 

 ──今日一日の活動限界を告げる言葉だった。

 

 

◆◇

 

 

 嬉しいような悲しいような、何とも言えない爆発しそうな感情がこんがらかる。

 

「また……明日……」

 

 虹夏ちゃんはあんな悲惨なさよならを告げた私に、『明日ライブハウスに集合ね! 待ってるよ!』って言ってくれた……。

 

「へ……へへ、ふへへ……」

 

 家の前で笑い声が思わず漏れる。そのまま、敷地へ入り扉へ手をかけ──一瞬停止した。家は嫌いだ。いや、私が嫌いになっているだけなんだろう。

 だけど、嫌いなことに変わりはなかった。

 

(きょ、今日はバンドするなんていう、陽キャでパリピなことしちゃったし……大丈夫、大丈夫)

 

 そして、深く息を吸う。そのままガチャリと扉を開けた。

 

「あ、ひとり! お帰り!」

 

「ひとりちゃん、お帰りなさい~」

 

 お父さんとお母さんが、こちらを一度見てリビングから声をかけてくれる。楽しげだ。嬉しそうだ。

 

「……ただいま」

 

 いつもより帰る時間が遅れたことにも、何も言わないでくれている。これは配慮なのか、それともどうでも良いと思っているからなのか。答えの分かった疑問が脳裏に過る。

 カツカツと足音を立てて、リビングへ行った。

 

「そ、その……ば、バンドで友達出来ました……」

 

 えっ、と言う雰囲気がリビングに満ちる。ふたりだけが楽しそうにお父さんと戯れていた。

 そして、お父さんが心からの笑みで言ってくれた。

 

「バンド?! ほんとかい?! やったじゃないか!」

 

「あら、今夜はお赤飯ね!」

 

 心からの笑顔だ。娘に友人が出来て喜ぶ両親。それそのものだ。

 

「……虹夏ちゃんと、リョウさんで……ふたりとも女の子です」

 

 だけど、私はそれを受け止められない。純粋な瞳で見れない。

 

「……じゃあ、ブログ書かなきゃだから……佐藤さんから、連絡きてるかもだし」

 

「……あ、ひとり──」

 

 駆けあがる。どうしようもない。私には、両親の笑顔に下心がないのだと言えなくなっていた。

 私が、私で稼げるということを知ってしまって、両親の笑顔になにか裏があるんじゃないかと思うようになってしまっていたのだ。

 

 始まりは些細なことだ。ギターを新調しようと、大きめのお金を引き出した時。

 ちょっと厳しい目をして、お父さんが話し掛けてきたのだ。

 

『ひとり、その、お父さんもあんまりこういう話はしたくないんだが……40万って……いや、ひとりのお金だし、別に止めようってことでもないんだけど……その、こんなにお金おろして、なにに使ってるんだ?』

 

『……いつものバンドの雑誌とか……ブログとかプログラミングの勉強……です』

 

 そのとき向けられた目は、正直私に耐えられるものじゃなかった。しょうもない罪悪感が働いて、勉強以外にお金を使うということを明言するのを避けてしまったのが原因だ。そうだ。

 私が原因だ。

 

『そっか……了解、お父さんはこれ以上は何も言わないよ』

 

 そう言って、お父さんは笑ってくれたのを覚えている。

 私が悪い。ここで、『ギターを買おうと思って』って言えばもしかしたらおすすめのギターすら教えてくれたかも知らない。

 だけど、その選択は『もしも』だ。現実は、黙って下を向いた。ソレが私の選択だった。

 

 その後から、私は私が使うお金がまるで両親に見張られているように感じてしまった。月日が経つにつれ、いつの日から私のお金を両親が狙っているようにも感じてしまった。

 

 そんなわけない。それは知っている。あり得ない。だけど、一度考えた可能性は抑えきらなかった。

 そこから私の態度はどんどん悪化していった。両親との距離は遠くなったし、ふたりもいつの間にかほとんど話さなくなっていた。

 

「……練習、しよう」

 

 嫌なことを考えすぎた。考えるのは楽しいことがいい。

 

 そして、私は明日のことを考えながらゆっくりとギターを手に取った。




2巻読んでない人は少しネタバレかも。
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