機動戦士ガンダム-水星のLiberate- 作:水星のミドもみ
「エアリアル……あれは、『ガンダム』か?」
「ま、十中八九『ガンダム』でしょうねぇ。データストームは発生していないようですが」
暗い部屋の中で、声が響く。一人は壮年の男性、もう一人は女と聞き間違えるほどの澄んだものが。
「見た感じ、リバレイトより世代は後──つまり、最新鋭のGUNDフォーマット搭載型モビルスーツというわけですねぇ」
調子のいい声がまた響く。あのエアリアルというモビルスーツについて、何か知っているようだった。
「リバレイトと同じ系譜か?あれは」
「ええ。一目でわかりますもの」
「ならば──」
男が何か言い淀み、考え始める。
「どんな理由であろうと、
「えぇ、えぇ。そうですとも」
「GUND-ARMは相手はおろか、搭乗者の生命すら奪う欠陥品だ。リバレイトと
リバレイト。その機体はGUND-ARMの中でも違うらしい。
「まぁ! 私の製作品を評価していただけるなんて、開発者としては冥利に尽きます。
──それで、エアリアルはいかが致しますかぁ?」
「強引に接収して調べ上げてもいいが、一先ずは情報を得る期間が欲しい。学園に生徒として潜入し、アレのデータを入手しろ。
ついでに、あの魔女の娘もな」
「ふふふっ、分かりました。あの娘はいい子ですから、すぐデータを提供してくれるはず。個人的には、あんまりそんなことしたくないんですけどねぇ」
「分かっている。私の娘が花婿に選んだ女だからな。
──頼んだぞ、ミルナ」
「えぇ、えぇ。承知致しました。デリング・レンブラン総裁」
◇
アスティカシア高等専門学園。
世間的にはエリート中のエリートが、モビルスーツ産業に携わる者となるための学校である。
まあその実、ドロドロとした権力闘争の場なんですけどね──と、この学校に転校してきた男『ミルナ・リベレイト』は呟いた。
「さて、どうなるかな……まずはコネクションを作るべきですね。ジェターク社かペイル社か……マシなのはジェターク社ですし、そちらにしましょうかねぇ」
ミルナには表向きの後ろ盾はない。デリング総裁との繋がりがあるがそれは裏のものであり、到底明かせるものではないし何よりバレるとまずいのだ。
表向きの理由にしても弱い。肩書こそ『アフター・グロウMS開発公社』の社長令嬢という、普通ならエリートと言っても問題ないのだが、そもそもの所在地が土星の辺境でなおかつ無名の会社であり知るものがあまりいないのだ。
その理由からまず何かしらの、それこそ弱い繋がりでもいいのでスポンサーを探しておいた方が都合がいい。あわよくば契約を結んでもらうと尚良しだ。
「ペイル社は論外なんですよねぇ。倫理もクソもない強化実験、何よりあのクソババアどもの下に就くのが嫌だし。ならジェターク社の方がマシですね」
と、いう訳で。
とりあえずジェターク寮にやってきたのだ。
「たのもーう」
間の抜けた声がジェターク寮に響き渡る。周りの生徒の声が急に聞こえなくなり、周囲の視線がミルナに釘付けになった。
「……あれー?」
また間の抜けた声がミルナから出る。
「……おい女、見ない顔だな。ジェターク寮に何しに来た?」
広間奥からまた別の声。そしてそこから一人の男が肩を怒らせて歩いてきた。
グエル・ジェターク。ジェターク寮現寮長であり元ホルダーだ。
「あらあら〜……ジェターク社社長の息子さん、グエル先輩じゃないですか〜」
当然知っていると言わんばかりの態度で返す。
「俺を知っているのか? まあ良いが……改めて聞こう。何しに来た」
ほんの少しの敵意と、疑問を綯交ぜにしてグエルが目的を問う。彼からしてみたら、この女は急にやってきたし目的も不明なのだ。
その今何をしにきたかを問うている女は、急にどこか抜けた顔からミステリアスな雰囲気を出したと思うと、こう言った。
「──寮、入らせてくれません?推薦されてここに来たばかりで、何も分かりませんから」
途端にグエルは姿勢を崩した。端的に言うとずっこけたのである。
変な女に絡まれるのはこれで2度目かよ──そう思いながらも、この女は寮に入りたいだけだと認識した。
「……学生証はあるか? それと学籍番号と名前を言え。俺の方で受諾しておいてやる」
「えぇ、えぇ。もちろんありますとも。あ、学籍番号MP-033、ミルナ・リベレイトです」
そう言い、ミルナは学生証をグエルに渡した。グエルはボヤきながらもそれを確認し、電子タブレット上の書類にサインしていく。
「確かに相違ないみたいだな。おい女……ミルナ・リベレイト。ジェターク寮へようこそ」
「よろしくお願いします。それとグエル先輩……」
そう言い、グエルに近寄り耳打ちする。
「私、オ・ト・コ♡ 女じゃないですよ〜。でも、貴方なら……」
先程とは同じと思えないほどの艶のある声で、囁かれてしまった。息遣いが直に伝わり、グエルの脳を悪い意味で刺激していく。
面食らい、顔を朱に染めたグエルだったがギリギリで耐えたようだ。
「……こんな白昼堂々俺を口説くな。それにそんな趣味はない」
「あらぁ? その割には満更でもない、という顔をしていますが?」
また、鬱陶しい妖艶な声で語りかけてくる。眉間に皴を作りながらも、それをグエルは振り払った。
「んもぅ、いけずぅ」
残念そうに言うミルナだったが、本来の目的は別にあった。
時系列的に、最短だと
それにグエルという、ある意味でのキーパーソン。彼に出会えたのは更なる幸運である。
ただ、これからの没落が確定してしまっているのでその点では別の人物と連絡を取った方がいいだろう。
更なるコネクションを作るために、ミルナが動き出そうとしたその時だった。
「兄さん、こんなところでどうしたの?」
また別の、男の声。
「こいつが寮に入れてほしいらしい。書類上の手続きは済ませたから、部屋を案内してやれ」
「彼女が?」
そうらしい……と怪訝そうな顔でミルナを見つめたもう一人の男──ラウダ・ニール。グエルの異母兄弟でもある彼を視認した瞬間、ミルナに電流が走った。
この人だ。
彼の雰囲気がたちどころに変わったのを察して、ラウダは冷や汗をかきながらも兄に言葉を投げかけた。
「……人を食いかねない雰囲気に変わったんだけど。ほんとにこの人は入りたいだけなの? 隙あらば僕や兄さんに飛びかかって既成事実を作りかねないんじゃないかい?」
「そんなことはないだろ。多分な」
「そんなことはしませんから」
散々な言われようであったが、どうやら入寮は完了したらしい。
「ともかく、部屋に案内しますから来てくださいね。名前は……」
「ミルナ・リベレイトです。あと私は男ですよぉ」
「はいはい、ミルナさんね。じゃあ部屋に案内しますから、ついてきてください」
◇
「おー、流石ジェターク寮。ベネリットグループ御三家の企業が管轄しているだけあって設備も豪華ですね」
その通り、まるで何かをもてなすような部屋のつくりを見てミルナはそう呟いた。生活に必要なものは全て揃っているし、そのどれもこれもが高品質。専用のタブレット端末まで存在し、暇なときはこれで調べ物をしろということらしい。
冷蔵庫を開ければそこにはウェルカムドリンクがぎっしりと。しかも定期的に補充されているらしく実質飲み放題。
それに、なんとルームサービスの呼び出しボタンまで。困った時は常駐してるから呼び出してみろと言わんばかりにある。
「至れり尽くせりじゃん……」
こんな至れり尽くせりな環境だと少なからずだらけてしまうのではないか。そう危機感を覚えたミルナだった。
ともかく、当面の部屋は確保できた。あとは例の『魔女の娘』ことスレッタ・マーキュリーの情報を収集するだけ。
「それでは、僕はここで。副寮長としての仕事がありますし、あまり案内できなくてごめんなさい」
「えぇ、えぇ。ありがとうございました」
いつもの胡散臭い笑顔でミルナが対応する。ちなみに本人いわく全力の笑顔らしい。
ラウダが出ていく寸前に、ミルナは声をかけた。
「ラウダさん。その──」
「……?」
「また、話す機会があれば話しましょう!」
「──えぇ、そうですね」
ふふっ、と微笑んでラウダは扉を閉めた。
表情がコロコロ変わり、人を食いかねない雰囲気を出したと思ったら言うことは意外と純情で。見た目からもそのちぐはぐさが伺えた。
「面白い人が、入ってきたものだね」
◇
時間は進んで、そろそろ昼である。
昼とはすなわち、食事の時間でもある。
ここでは自炊をすることもできるが、基本的に生徒たちは給食を食べるのだ。ちなみに、献立は寮に関係なく好きに選ぶことができる。
「何を食べようかな、っと……おっと」
献立を選んでいるときに例の少女、スレッタ・マーキュリーを発見。話をするときは食事中が一番いいのだ。
ともかくさっさと声をかけてしまおう。そう思い、献立を素早く選んでミルナは近くに寄った。
「あのぉ……」
「わひゃぁぁぁぁっ!?」
どうやら、声をかけたら驚かせてしまったらしい。
図らずもそうさせてしまったことを心の中で恥じながらも、次にこう続ける。
「よかったら、一緒に食べませんかぁ?」
◇
「どこか、空いてるところはありませんかねぇ……お、あそことかいいですねぇ。お邪魔しましょうか」
「は、はひぃぃ……」
どうやらこのスレッタという少女は内向的らしい。他人と一緒に食事をするのにもタジタジだが、それとは別に一生懸命グループの中に混ざろうという前向きな姿勢も持っている。
ミルナとしてもこのような子は嫌いではない。
「すみませぇん、お邪魔しても?」
「あ、いいですよ!」
快諾してくれたのは、青色の目に濃い青緑の髪が特徴の優し気な女子生徒だった。他にはピンク色のポンポンが二つくっついたような巨大なシニヨンが特徴である髪型をした女子生徒と、キノコ頭で弱気そうな男子生徒がいる。
「見ねー顔だな、あんたら。来たばっかりか?」
「えぇ、えぇ。そうですよ、ここに入ったばかりでして」
「は、はひゅいっ!!」
見ない顔というピンク髪の女子生徒からの質問に、にっこりと笑顔で答えるミルナ。なお当然のごとく胡散臭さを感じさせるような表情である。スレッタは何故か噛んでいた。
「ふーん……そうなんだな。で」
「「?」」
またもや今度は何か言いたげなピンク髪の生徒に対し、首を傾げた。
「あんたら、スペーシアンか?」
「「え?」」
思わずミルナも真顔になる。スレッタすら呆気に取られている。
「スペーシアンか、アーシアンか。返答によってはあ~しが殴る」
「えぇ……?」
いきなり変なことを聞かされるミルナ。しかも返答によっては殴られるというのだ。
「うーん、スペーシアンですけど……」
少し悩んだ末に正直に答えることにしたらしい。その瞬間、彼女から拳が飛んできた。しかも腰の入ったやつが。
当然翻して避ける。
「あっぶないですねぇ……いきなりどうしたんです?」
さも自分が避けるのは当然のことという笑顔で、ミルナは相手をうかがうように疑問を投げかける。
その気合の入った拳をミルナのもちもちした頬にデリバリーしようとした本人は、眉間にしわを寄せながらこう言った。
「クソスペーシアンが!! こいつ……!」
「チュチュ! やめなさい!」
「……! ニカねえ……!」
隣の青緑の髪の女子生徒──ニカねえと呼ばれていたか──の言葉で、やっとチュチュと呼ばれた女子生徒は止まった。
憎々しげにミルナたちを睨みつけながらも、食事に戻っていく。
「……何か、嫌なことがあったんですかぁ? スペーシアン絡みで」
「ご、ごめんなさい……チュチュはスペーシアンを嫌ってて」
「成程ぉ……まぁ、私の出身は土星ですし。辺境も辺境ですから田舎者、アーシアンの方とそう変わりませんよぉ」
「そうだったんですね……あ、そういえば」
チュチュをなだめながらも、ニカが何か言いたげにミルナに顔を向ける。
「名前……聞いてなかったなって。ホルダーさんの方はともかく、貴女とは今日会ったばかりだから」
「えぇ、えぇ。そういえばそうでしたねぇ。じゃ、改めて」
ニカに目を向け、今度は少し胡散臭さの解れた笑顔で。
「ミルナ・リベレイト。よろしくです」
「ニカ・ナナウラです。よろしくね!」
◇
「そういえば、スレッタさん」
「むぐむぐ……なんでふか?」
「私、貴女に決闘を挑もうと思うんです。受けていただけますかぁ?」
「ブーッ!!!!!!」
その言葉を聞いた直後のスレッタは、せっかくの口に含んでいた食事を噴出した。
お読みいただきありがとうございます。
次回、GUND-02「決闘」
Q:ミルナは男と称されているのに初見で女に間違えられたのは何故?
A:男の娘だからです。