機動戦士ガンダム-水星のLiberate- 作:水星のミドもみ
「なっななななななななななななんでですかあああああ!?」
スレッタの絶叫が響き渡る。唐突な決闘宣言に頭が追いついていないようだ。
「なんでって……うーん、スレッタさんのことがぁ、気になっちゃったからですかねぇ?」
「ふ、普通はそれでっでででけけけけ決闘しませんからああああ!!!そそそそれに私は貴方のコトも知りませんよおおおお!?」
もうお目々はぐるぐるである。言動はテンパり、自分でも何を言ってるのか分からないといった顔でスレッタがまくし立てる。
「まぁ……そうですねぇ? あなた自身のこともだけど、乗ってるモビルスーツ。エアリアルって言ったかなぁ? が気になっちゃったのが大きいんですよねぇ。あわよくば決闘で勝てたら乗りたいかなぁ」
「え、エアリアルが……です、か?」
「えぇ、えぇ。そうですとも」
ここだけは下心を敢えて存分に出し、あわよくばといった態度で伺うつもりのようだ。ミルナがいつもの笑顔でそう告げると、スレッタは後ろに下がりながらこう言った。
「だ、ダダダダメです! エアリアルは、私のっ、家族だし──それに、私しか賭けてるものがありませんっ!」
「……じゃあ、何を賭けてほしい?」
急に口調が変わり、冷たい雰囲気を纏い始めたミルナにスレッタも困惑し始めた。まるで先ほどとは別人である。
「なんでもお賭けいたしますよぉ。それこそ、私の身体でも? あぁ、少なくともその手のコトは貴女を満足させられるくらいには心得ておりますぅ」
「ひゅいッ!?!?」
「ま、冗談ですけどね〜。でも、大抵のことにはお答えできますよぉ?」
ケラケラとスレッタを揶揄うようにミルナが笑う。
「だから、なんでもいいですよぉ。私とかぁ、金銭とかぁ、それこそ会社……とかでも?」
にこっ、となんでもないようにまた笑い、とんでもないことを言い出した。
さて、『魔女の娘』スレッタ・マーキュリーはミルナに何を要求してくるのか。
「……勝ったら、お、教えてください。ミルナさんのこと。そして、と、友達に──」
「……おやおや。純情なんですねぇ。嫌いじゃないですよぉ」
世間知らず故なのか、はたまた別の理由なのかどこまでも純粋なことを言う。ここまで振り切れてくれるとミルナとしては好感度が高い。リベレイトポイントあげちゃいます、と思うレベルである。
「スレッタに何してんの」
ひゅいッ、と短い声がスレッタから出たと共に、背後がとたんに重苦しい雰囲気を纏う。あの人でしょうねぇ、とおおよその予測をつけ、後ろを振り向いたら──。
「おやおやおやぁ、ミオリネ・レンブランさんではありませんかぁ」
ミルナにとってはデリング総裁との繋がりがあるせいで見慣れたお顔が。スレッタの恋人ことミオリネの登場である。
声をかけられたその当人は青筋を立てながら叫んだ。
「『私の』スレッタに何してるのか聞いてんのよ」
「いいえ? 『何も』していませんがぁ?」
バチバチと鋭い目線がミオリネから放たれ、雰囲気がどんどん悪くなっていくがミルナは意に介さない。ソレをいつものことだと思っているような顔で見ているだけだ。
「いやぁ、何も取って食べようというわけじゃありませんよぉ。決闘で勝ったらエアリアルに乗せてくれって言ってるだけですからぁ。ホルダーの称号なんかに興味はないし、スレッタさんのことも純粋に気になるだけなんですよねぇ」
またけらけら、けらけらと。まるでミオリネもスレッタも揶揄うかのように、笑いながら言いきっている。
「……ほんとにこいつ、
理解できないといった様子でミオリネが首を傾げる。
「えぇ、えぇ。そうですとも。私はそれだけが目的ですよぉ? ま、再三言いますがスレッタさんのことも気になりますしぃ。
決闘で勝ったら、仲を深めるためにも教えていただきたいですねぇ」
「……分かり、ました」
◇
――『これより双方の合意の下、決闘を執り行う。勝敗は通常通り、相手MSのブレードアンテナを折った者の勝利とする。立会人はペイル寮のエラン・ケレスが務める』
両者のモビルスーツがカタパルトに乗せられ、射出される時を今か今かと待ち構えている。
『しっかし、互いに互いのことを知りたがるなんて随分可愛い決闘なんだね。土星ちゃん』
「モビルスーツでも賭ければご満足でぇ?」
『まさか。どんなに小さなものでも、強引に奪い合うならこの学園では決闘をするに値するのさ』
くくく、と決闘委員会委員長──シャディク・ゼネリが愉快そうに笑いながら端末を操作していく。ミルナは今回、決闘をするにあたって彼を頼ったらしい。
カタパルト内部の証明が緑に転化し、準備が整った。
『さ、学籍番号と名前を』
「分かりましたぁ。……MP-033、ミルナ・リベレイト。『リバレイト』、発進します」
ミルナの目つきが変わった。先ほどとは一転して刺々しい雰囲気を身にまとう。
『スレッタ、カタパルトをアクティブにするわ。射出権限をパイロットに委譲。学籍番号と名前を名乗って』
『はい!LP-041、スレッタ・マーキュリー! 『エアリアル』、
双方のモビルスーツが射出され、フロント宙域を駆け抜けていく。お互いに指定された地点で静止し、それぞれのMSの視線がお互いを射抜いた。
「おやおやぁ……相手のMSはリバレイトと似てるようですねぇ」
『エアリアルに、似ている――?』
見合い、対峙するエアリアルとリバレイト。
『両者、交顔』
エランの声と共に、お互いのモニターに相手の顔が映し出される。ミルナはいつもの胡散臭い笑みで、スレッタはどこか緊張したような表情で。
『私が勝ったら、ミルナさんのこと――教えてください!』
「心配しなくても、必ず話しますよぉ」
いつもの笑みでそう言った直後だった。ミルナから表情が抜け落ち、能面のようになったのは。
『――勝敗はMSの性能のみで決まらず』
「――操縦者の技のみで決まらず」
「『――ただ、結果のみが真実』」
決闘、開始。
◇
開始と同時に仕掛けたのはエアリアル。何かを感じ取ったのか、一切の躊躇なくガンビットを展開させる。
そのまま自立機動する大群のソレが目標へと向かっていくが、リバレイトは動かない。寧ろこちらを試しているように見える。
『動かないなら、こちらから行きますよ!』
ガンビットが
「ほう、想定より速いですねぇ」
ソレの速度を見据えながら、ミルナがそう呟いた。
ではそろそろ、こちらも動くときだろう? と言いたげにディスプレイが明滅する。
「ええ、行きましょうかッ!」
その瞬間、リバレイトが全推力をもって突貫。咄嗟にエアリアルもビットからビームを乱射するが、シールドに尽く防がれ、そうではなかったものも回避されてしまう。
『かわされた!? いいえ、まだですっ!』
ビットの速度がどんどん速くなり、人間然とした滑らかな挙動になっていく。それはまるで、スレッタだけで動かしているようではなく別の誰かの手によって動いているようで。
しかしリバレイトは止まらない。エアリアルに突進し、そのままビームサーベルを膝部から抜いて斬りかかる。接近さえしてしまえば、ビットは奥からは撃てない――!
「いけぇっ!」
すかさずエアリアルもサーベルを抜刀。鍔迫り合いが起きるが、エアリアルは逆手持ちの分相対的な出力が低下している。じりじり、じりじりとリバレイトが押しやっていき、ついに打ち勝ちそうになったその瞬間だった。
「おやぁ……ビットを躊躇いなく撃ちにくるとは」
『ウソっ!? これも!?』
水平軌道、それも奥から。自分ごとぶち抜く算段だったのだろう。リバレイトの頭部近くに一閃が走るが、それも躱される。
「全く……とんでもない強者ですねぇ、スレッタ・マーキュリー!」
ビットを呼び戻し、今度は身体に合体させるエアリアルを尻目に、リバレイトも秘策の一つを解放していく。胸部、股間部にあるシェルユニットが赤黒く光り輝き──。
「パーメットスコア3! さぁ行きなさい、私のガンビット達ぃ!」
シールドから6つのガンビットが分離し、エアリアルのそれと遜色ない機動で対象に飛んでいく。
流麗な、まるで軍隊のように統率されている挙動を見せたと思ったその時だった。
『っくッ!?』
リバレイトから放たれたビットが薄い水色の光を纏ったかと思うと、まるで特攻を仕掛けるような不安定な機動で突撃してきたのだ。これにはエアリアルとスレッタもたまらず仰天。回避するが足先を斬られてしまう。
「初見殺しすら咄嗟の回避判断で出来てしまうとはねぇ……やはり、貴女は『
足先だけで済んだスレッタの操縦技能に、彼は嫉妬を漏らすようにそう言った。
「けれど、『今回』ばかりは私が勝ちますよぉ!」
『負けて──負けていられませんっ!』
機動性は互角。膂力も互角。ガンビットの数はエアリアルが勝るが、個々の出力ではリバレイトが上回る。
機体性能はほぼ互角、であれば雌雄を決するのは──。
『まだ、まだです……! まだぁぁぁぁっ!!!』
スレッタが叫ぶ。それに呼応し、エアリアルのビームライフルからビームが発振されブレイドとでもいうべき見た目となった。
そのままビームブレイドを構え、エアリアルが突撃する。この一撃さえ通れば、勝てる──!
出力的にサーベルでは防げない。ならばリバレイトも。
「絶対に負けませんよぉ……!」
歯を食いしばり、こちらもライフルからビームブレイドを発振させ、激突。これまた鍔迫り合いを引き起こす。
一度、二度、三度。何度も何度も斬り合っては鍔迫り合い、エアリアルやリバレイトの装甲部表面に熱傷がついていく。
そしてこのままでは勝てないと判断したのだろう。リバレイトが一度離れ、ガンビットをエアリアルの方に向けてビームを照射する。
当然通さぬと言わんばかりに、エアリアルのビットが機体から分離しシールドへと合体。照射されたビームを完璧に防ぎ、機体と主を守りきる。
『絶対に、絶対に負けない……!』
スレッタから声が漏れる。ホルダーという称号を維持するためにも、絶対に負けていられないのだ。
そのままスレッタはビットたちを再び展開。ビームを照射しリバレイトのシールドに損傷を与える。
煙から出てきた6つのビットが、エアリアルではなくガンビットを潰すべくと判断したのかそれぞれを撃墜しようと仕掛けてくる。
勿論エアリアルのビットもそれに負けじと迎撃する。ビームを撃ち合い、お互いに避け合い。その繰り返しでビット同士が宇宙の彼方へと消えていきそうになる。
改めてスレッタ──エアリアルが攻撃を仕掛けようとしたその時だった。
『ぐぇっ!?』
突如、エアリアルの脇腹にビットが突き刺さる。装甲を貫いてはいないが、その衝撃に一瞬怯んでしまった。
『な、なんで……!? ビットが
「古典的な戦術ですよぉ、上手くいきましたねぇ!」
なんと、ミルナは最初のときから敢えて完全に分離させないビットを残し、意表を突いたのだ。
エアリアルのガンビットとサシでの射撃戦を行っていたアレから更に分離させ、スレッタ本人が気づかないように仕向けたのである。
そのまま残っていた最後のビットが、エアリアルのブレードアンテナを薙ぎ払わんと言わんばかりにビームを照射。ギロチンのように容易く切断していく。
決着は呆気なく。
エアリアルのアンテナは根本から溶断され、バチバチとその箇所が火花を起こしていた。
勝者、ミルナ・リベレイト。
◇
『……スレッタが、負けた?』
ミオリネが信じられないといった様子で慄く。
完全なる初見殺し、それをやられたとアンテナを折り取られた後でようやく理解したスレッタは、そのまま頭が真っ白になってしまった。
グエル戦で見せた圧倒的なビット捌きに敵がついてくるだけならまだしも、同等の力をもって対抗してきたのだ。
それだけなら、まだ分からなかった。
しかし、それだけではなかった。
そして、究極の初見殺しを仕掛けたその本人はといえば──。
「っく〜〜……や〜〜っと、勝てたぁ〜〜!!」
珍しく、子供が純粋に喜んでいるような笑顔で笑っていた。
勝利を噛み締め、ひとしきり喜んだあとにミルナはこう言った。
「さて、決闘は私の勝ちですねぇ。スレッタさんのことと、エアリアルのこと。教えてくださいな」
そう言い、スレッタの機体を抱き抱えて帰還しようとした瞬間だった。
フロント宙域の光源が消え、警告音がけたたましく鳴り響く。
『この決闘は無効となる! 繰り返す、この決闘は無効となる!』
若い男性の声。それが聞こえたと思ったら、次の声がフロント宙域全体に響き渡る。
『学籍番号LP-041、スレッタ・マーキュリー! 『ガンダム』を使用した嫌疑で、君の身柄とそのモビルスーツを拘束する!』
その声を聞いた瞬間、ミルナに秘匿回線で通信が繋がった。即座にリバレイトの通信機能を起動し、音声が外部に漏れ出ないようにする。
『私だ、デリングだ』
「総裁!? どうして……」
『フロント管理社が事を急いだらしい、一先ずソレを抱えて戻りたまえ。査問会を開かねばならない──出席の準備もしておけ』
「分かり、ました──」
そう返し、戻るミルナだったが、抱えられているエアリアルのコックピット内では──。
スレッタが、身に覚えのないことだと思いながら呆けていた。
お読みいただきありがとうございます。
次回、GUND-03「呪い」
※以下おまけの設定
ガンダム・リバレイト
ミルナ・リベレイトが登場する『GUND-ARM』。エアリアル同様、登場者に深刻な障害をもたらすデータストームは発生しておらず、パーメットスコアを3まで上げてもまるで代償はない。
であれば、なぜリバレイトではなくエアリアルのみが拘束されたのか──?
リバレイト外観
【挿絵表示】