また作り物かと思われたそれは着ぐるみではなく。そしてそんなニュースを見てすぐに主人公・熊谷哲の通う学校に鳥男が現れた。
全世界で似た様なことが起きている。
熊谷はそう推測した。
昔から不可思議な物が見えていた。
人間は動物を連れていた。動物園に行かなければ会えないと言われる様なパンダだとかもそこらに居て。いつか父さんに連れてってもらった動物園は何が面白いのかも分からなかった。
そんな父さんは豚を連れていた。
母さんと喧嘩して家を出た。母さんの側には猫が居て、ニャアと鳴いていた。
「…………」
そんな母さんがライオンを連れたおっさんを家に招いたのは最近。同じネコ科でどこが噛み合ったか。狂った様に情事に耽る。そんな空間にいたくない俺はこうして無為に時間を浪費する。
「よ、この席いいか?」
「……良いけど」
コウモリだ。
クラス内の上位グループに所属してなあなあで生きてる奴。名前を覚えてない。実際、コウモリでいいと思った。どっちつかず野郎。自分の都合で生きる、世渡り上手。
「なあ、お前っていっつも一人だよな」
「……お前はいつも誰かといるのを見るけど」
「まあね。それがうまい生き方だよ。誰かに取り入って……気に入られてってね」
「その生き方、疲れない?」
俺はコイツと話すのは中々ない。
時折話しかけてくるコイツはいつもと何かが違っていて、俺に対しては気を張っている様子がない。
「疲れるさ。お前はそう言うのがなくて良いよ。一匹狼って奴?」
「……俺は熊だよ」
チラリと横を見る。
大きな熊が俺のすぐ側にいる。
「熊、か。はは、お前は案外そっちかもな。ちょっと周囲に鈍感な感じで、マイペース」
「まあ、そう言う事」
学食の席は少なくて、相席なんて仕方ない。俺の取った席が空いてたから。
「俺は何だと思う?」
「コウモリ」
「コウモリかぁ……カッコ悪。否定しないけどな」
「……コウモリって言ったら吸血鬼もコウモリだよ」
「嫌だよ。あんな弱点多いの」
何とも納得できてしまう。
「そうだ
そう言ってアプリを開いて見せてくる。
「……何これ」
写真も見つかってるらしい。
俺が違和感を覚えたのは写真越しでも見えるはずの動物が見当たらなかった事。
「ははっ! だよな。よくわかんねぇよな。着ぐるみとかじゃねぇかな」
「いや、違う。これ……本当に」
人間なのか。
人間には必ず動物がついてる。それはどんな格好をしていても例外なく。これはビッグフットとしてもおかしくない。
「…………」
俺は目の前にコウモリがいる事を確認する。どっちもいる。
「悪いけど、先に失礼」
俺は椅子から立ち上がり歩き始める熊が付いてくる。
「ねえ、どうなってんの。俺は一度もお前たちが居ない人間は見た事ないんだけど」
常に側を歩き、障害物をすり抜けて存在する、そんな透明な存在。
「……答えれる訳ないか」
コイツらは鳴き声すら出さないのだ。
「何なんだろ、アレ────」
そうやって思考に潜ろうとして、騒ぎの声が響き俺は顔を上げる。
「どうしたんだろ」
皆んなが逃げてくる中を突き進む。
悲鳴の先は教室。
俺の足は皆んなとは逆方向に。それは一眼見てからでも問題ないんじゃないかと思ったから。
「ん?」
教室の扉を開けると綺麗な羽が落ちてくるのが見えた。
煌びやかな羽が舞っている。この光景は美しいとすら思える。立っていたのは鳥の頭と神々しさと華美を感じさせる翼を生やした二足歩行。
動物の姿が見えない。
「孔雀……?」
喩えるなら、そう。
孔雀と人間をミックスした様な姿。
「あ、ああ……
「誰?」
翼が綺麗なのは雄だった気がする。
なら、彼は雄なんだろう。
「俺、羽生だよ。
「ごめん。俺、クラスメイトの名前覚えてなくて」
ただ、思い出した。
クラスの上位グループ。まあコウモリがついて歩いてたグループの中に鳥を連れて歩いてた奴がいた気がする。
「いきなり……いきなりだったんだよ! こんな姿なって!」
「…………同一」
「は?」
もしかして、あのビッグフットも同じなんじゃないか。何かしらの要因で人間の身体に影響を及ぼしてる。
「シンクロって言った方がいいか」
そっちのが俺には馴染みやすい。
「孔雀。それどんな感覚?」
「そんなの……!」
「ちょっと触ってもいいかな?」
俺の手が翼に触れた瞬間に体がフワリと浮く様な感覚がした。夢に落ちていく様な感覚。俺と熊は向き合った。
「お前らのせいか?」
俺の問いに熊は何も答えない。
結局、言葉を交わすことはできない。
「戻す方法は?」
答えない。
「はあ……」
俺は横を見る。
扉があった。取手にそっと触れると理解できた。これを開けると孔雀と同じになる。といっても危険な感じはしない。戻れる様な気がするから。
「戻れる……」
覚醒状態に戻って孔雀が立つ教室に戻ってきた。
「落ち着いて、孔雀」
俺は彼の肩を掴んで、落ち着く様に言う。
「扉が開いてる。それを閉めると戻れる筈だ」
「何だよ! 扉って何のことだよ!」
「一回、目閉じて」
動転しているからか一向に俺の言葉を信じようとしない。
「扉なんてねぇだろ!」
「だから、一回目閉じてって言ってるじゃん」
血走った目で俺を見てくる。
中々時間が掛かりそうだ。焦っている彼が苛立ち混じりに俺を突き飛ばす。
「が、は────っ」
吹き飛んだ。
俺の身体が。全身に痛みが走る。
「ひゅっ……ひ……ふ」
呼吸が浅い。
「あ、違っ……そ、そんなつもりじゃ」
「だ、いじょ……ぶ。落ち着い、て」
焦ってるだけだ。
別に文句なんてない。誰だって訳が分からなければ焦る。だから、仕方ない。ちょっと突き飛ばされただけ。
「扉を────」
ガァンッ!!
勢いよく扉が開かれる。
刺股を握る男性教師が突入してくる。
「待っ、て……先生。ソイツは……」
名前、何だっけ。
「大丈夫だ。あとはこっちに任せろ」
「違、う」
良くない。
なんだか、そんな予感がする。野生の勘という奴か。熊と繋がったせいかもしれない。扉越しではあるけれど。
「せ、ん……せ」
孔雀の苦しそうな声がする。
「警察に通報した」
先生たちのそんな声が聞こえる。
警察が来るらしい。孔雀人間なんて奇妙な存在、国に回収されてしまうかもしれない。実験動物になるかもしれない。
そんな陰謀論めいた推察が脳内で広がった。
「おい……逃げろ、孔雀ッ!」
肺が痛い。
別に彼とさして仲良くもないが、それでも見捨てるなんてのはできない。彼の力なら窓を割って。
空は飛べるはずだ。
孔雀がコクリと頷いて窓を割り、空へと羽ばたいていく。
これでよかったと思う。
「……ま、いっか」
もう、寝ても。
俺は瞼を落とした。
目を覚ますと、俺は病院にいた。
特に異常は無いと思うが、どうか。母さんも迎えに来ないだろうし。俺はベッドの上から起き上がって歩き出す。
「帰れるかな」
取り敢えず受付に行ってみよう。
「……ん?」
受付前にスーツ姿の男女が一人ずつ立ってる。どうしたんだろう。
取り敢えず、俺も用があるから。
「失礼します」
受付の人と話すためにその人たちの前に入る。
「あの、特に問題ないので……退院したいんですけど」
「お名前は?」
「熊谷
瞬間スーツ姿の女性の方が俺の肩を掴んでくる。
「君!」
「何です?」
この人は犬。
男の人の方は狐。
「教室で何があったか聞いていいかな?」
元々、俺と話したくて来ていたらしい。それを俺が爆睡こいてたから。
「良いですけど……」
話すくらいなら。
待合室にいるのもどうかと言うことで俺はパトカーに乗せられた。特に悪い事をした覚えはないのに。
「何で、鳥男を逃したの?」
客観的には悪い事をしていたらしい。
「……クラスメイトだったので」
「よく分かったね」
「そう言ってましたし」
「信じたんだ」
おかしい事だろうか。
俺は孔雀というか、鳥を連れていたクラスメイトを知っていたから。その鳥が見当たらなくなったから。なんとなく、そう。信じられると思った。
「疑うつもりは無かった?」
「別に、ちょっと話せば分かりましたよ」
「……そう」
「もしお姉さんなら、犬だと思いますよ」
彼女はハンドルを握って「どう言う事?」と言いながら車を発進させた。
「何となくです。義に厚いじゃないですか、警察って」
人によって変わると思うけど。
「じゃあ、鳥男は何で?」
「目立ちたがりだったから孔雀。そんなんです」
俺たちについてる動物はなんだか、その人間の精神性を表している様だ。
「……もし、俺もああなるって言ったらどうします?」
「……虚言でしょ」
彼女の言葉に男の方も頷く。
「そうですね、馬鹿馬鹿しい」
小馬鹿にした様な言い方で。
「大体、それだと自由に変身できるみたいな感じじゃないですか」
「そうですよ?」
少なくとも、俺はそう出来ると思ってる。ああ確実にそう出来る。だから肯定した。
「だから孔雀も戻れると踏んだんです」
邪魔さえ入らなければ。
と言っても孔雀とシンクロしてたから彼は飛んで逃げれた。その点は良かったのかもしれない。
「彼らは本来なら自由に出来る。あのビッグフットも」
「ビッグフット?」
女の人の方は知らないらしい。
ただ、男の人が
「これです、これ」
「……これも同じだって?」
信じられないらしい。
「そうです」
俺は仲間でもなんでもないけど。何が原因でそうなっているのかも分からない。ただトリガーは扉を開くことだろう。それが問題だ。彼もおそらく無意識で開いた。勝手に開いたのかもしれない。
「似たような現象がこの世界でいくつか起きてると思います」
ただ、これだけは確実だ。
「可能性は誰にだってあるって事ですね」
窓の外を見て俺はそう告げる。
「あ、そろそろ家近いんで……」
「タクシーじゃないのよ」
お姉さんが呆れた様に言った。
pixiv読まれなすぎるので、こっちにも。