森羅万象破壊勇者ちゃん@魔王討伐RTAクリア後攻略   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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ボーイ・ミーツ・ガール

 

 それは闇を切り裂く光だった。

 

 薄い水色の水晶でできた剣から生まれた光。

 ただの水晶ではない。その世界における最も魔力・魔法伝導率に長け、それ自体が膨大な量の魔力を蓄える特別な鉱物でできており、それを精霊の民と呼ばれる長命種のみが魔法で加工できる剣の形をした魔法具。

 おおよそ、数百年前からこの世界に伝わる≪聖剣≫だ。

 それを握るのは金髪碧眼の少女だった。

 腰まで伸びる金紗のようなロングヘア。

 澄み渡る青空のような紺碧の瞳。

 鎧は胸当てや腰、腕や脛といった最低限。しかし決して粗末ではなく、細やかな装飾はきらびやかに。道で通り過ぎる誰もが思わず振り返ってしまうような美貌の少女の魅力を引き出している。

 一国の姫君、高貴な貴族のお嬢様、そう言われても誰も疑わない。

 

 そんな彼女が聖剣から放った光が、少年を死から救っていた。

 

 硝子が砕けたような割砕音が耳に残る。

 彼はもう、ほんの数瞬前まで自分が死にそうだったことさえ忘れていた。

 黒と白が入り混じった髪。服ですらないぼろきれだけを纏った痩せこけた体。

 身長は彼女の胸あたりまでしかない。

 少女と見間違う中世的な顔立ち。

 右の瞳は黒く、左の眼は本来白目が黒く、瞳は白い独特の反転瞳。

 白と黒にはただ一つの景色を移していた。

 

「…………すみません、遅くなって」

 

 笛が鳴る様な澄んだ声だった。

 悲しさを滲ませながら、それでも凛と伸びる言の葉。

 

「えっと……名前を教えてくれるかな?」

 

「ぁ……」

 

 声がすぐに出なかった。

 何度かえづき、それからどうにか言葉を絞り出す。

 

「…………ゆー、ま」

 

「ユーマ、良い名前だね」

 

 彼女は微笑む。

 まるで綺麗な花のように。

 

「私はロータス」

 

 彼女は自らの名を告げる。

 

「ロータス・ストラトスフィア」

 

 救済の意味を持つ花と瞳と同じ空の色の名前を。

 彼女は微笑んでいた。

 少年は茫然としていた。

 

「初めまして。そしてこんばんわ、ユーマ」

 

 どっぷりと暮れた夜には星一つなかった。

 村だったはずの建物たちはとっくに原型を失い何もかもが燃えていた。

 光も希望もない光景。

 

 そんな中で、彼女は彼に手を指し伸ばした。

 

 でも確かに。

 少年の目には穢れた泥の中で、それでも綺麗に咲き誇る華のような美が映っていた。

 

「私が君の――――蓮華の花(キュウサイ)だよ」

 

 

 

 

 

 

 

 魔王が勇者に倒されて数か月の時が立っていた。

 数百年前から人類は魔族、魔人、魔物と呼ばれる、人とは異なる文明、文化、容姿を持つ戦争状態に陥っていた。

 その戦争の始まりが単なる生存競争だったのか、政治的なものだったのかもう誰も覚えていないという。

 ただ事実として人類と魔人類という二つの種族は不倶戴天の敵として戦い続けて来たのだ。

 そんな戦いがあって、

 

「その魔王を倒したっていうのがこの私なんだよ!」

 

 ふふんと、彼女はユーマへと胸を張る。

 夜明け、森の中だった。

 先ほど壊滅したばかりの村からしばらく進んだ―――と思われる場所だ。

 

 というのも、ユーマは現状を何も把握できていなかったから。

 気づいたらロータスに助けられて、意識を失ったと思ったらこの森の中。

 だから、少年は彼女の話を聞いている。

 

「ゆう、しゃ……」

 

「うん、そうだよー! あ、ほら。食べて食べて。君、すっごい細いんだから。とりあえず消化に良い物作っておいたよ」

 

 二人は焚火とそこに掛けられた鍋で囲んでいた。

 彼女の背後には白い鱗の竜が翼を畳み座っており、その背には鐙やかばんが括り付けられていた。

 それから取り出した野営道具で、やけに手慣れた手つきでロータスが粥を作ってくれたのだ。

 

 竜である。

 

 竜とは魔族でありながら、しかし魔王の支配下にも人類にも与さない孤高の生命体。それが馬かなにかのように彼女の下にいた。

 

「ん、あぁ。シュリ……この子のことは安心して。噛みついたりしないから。ささぁ、早く食べて、冷めちゃうよ」

 

「…………ぅん」

 

 安心してと言われて安心できるようなものではない気もするけれど。

 軽い木のカップを包んだ手にはじんわりとした温かさが沁みる。ゆっくりとスプーンを逆手、四本の指を使いたどたどしく握り、粥を口に運んだ。

 

「おい、しい」

 

「よかった! 料理は結構得意なんだよねー。これでも農家の娘だったから」

 

「それで」

 

「うん?」

 

「おねー、ちゃんは。ゆうしゃになって、どうしたの?」

 

「あぁ。えっとね」

 

 ロータスは自らも粥を手に取りながら記憶を辿る様に視線を夜空に上げる。

 

「急に聖剣が飛んできて、なんだこれと思ったけどお父さんやお母さんや村長が騒ぎ出して、王都に行って勇者に選ばれたんだ。そっからは一先ず戦えるように剣技を勉強したかな。剣なんて振ったことなかったし」

 

「大変、だったんだね」

 

「まぁ三日で終わったけどね」

 

「…………………………え?」 

 

 三日。

 剣の勉強を?

 

「それ、は……握り方を覚えて……追い出された、とか」

 

「まさか! そんなことされないよ! 先生役の騎士団の人、全員倒しちゃったから、もう学べることがなかったんだよ。一日目は手こずったけど、二日目に覚えちゃって、三日目で卒業って感じ」

 

「…………………………」

 

 人類の騎士が弱いというわけではない。

 そして国の騎士団というのは人類の中でも強者に入る。

 その知識をユーマは持っていた。

 なのにたった三日。実質、剣を握って二日の彼女が全員を倒すなんて。

 

 なんて、でたらめ。

 

「凄い、ね。おねえーちゃん」

 

「ありがとっ!」

 

 ニコニコと、彼女は花の様に笑う。

 それを二色の眼で見ながらユーマは問を重ねた。

 

「それから、どうしたの?」

 

「えーっと。王様から仲間を紹介されたんだよね。大魔導士と盗賊ギルドのマスターの人と王都のコロシアム王者の戦士の人、あと大司祭さんも」

 

「一緒じゃないんだ」

 

 ロータスはどう見ても1人旅の装いだ。

 仲間がいるようには見えない。

 

「あぁ、うん。紹介されて―――次の日にパーティー解散しちゃった」

 

「次の日に」

 

 なんだろう。

 やたら判断が速い。

 

「それは……追放したってこと? 貴女が」

 

「え? いや……うーん……?」

 

 ロータスは首を傾げた。

 

「そんな強い言葉じゃないけど……でも私が無理ですって言ったからそういうことになるのかな……?」

 

「どうして、解散したの」

 

「えっとね」

 

 彼女はまず指を一本立てて、

 

「大魔導士の人はもうお爺ちゃんで、ご老人が魔王を倒す旅なんてできないでしょう?」

 

 二本目の指が立ち、

 

「盗賊のおじさんは腕利きだったんだけど、会った時からお酒飲んでて。聞いてみたらお医者さんから禁酒されてたのにお酒飲んでたから、そのまま病院に叩き込んで」

 

 三本目、

 

「戦士の人は元々奴隷で、コロシアムで勝ってやっと解放されて、お姫様と婚約までしてたから旅なんか出ずに新婚生活を送ってもらうことにして」

 

 四本目、

 

「大司祭さんは――――小さな女の子に、その、えっち……こほん、悪いことをしたのがバレたから私が監獄に放り込んだんだよ」

 

「………………………………」

 

 ユーマはしばらく開いた口が開けなかった。

 最後はあまりにも酷いけれど。

 それでも、彼女は勇者であり魔王討伐パーティーである。

 なのに、連れて行かないのはユーマには意味が解らなかった。

 

「あとね」

 

 ロータスは全ての指を閉じ、やはり笑って、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そんな、ことを当然のように言う。

 大魔導士も盗賊ギルドのマスターも王都コロシアムのチャンピオンも、大司祭さえも。

 人類においては上澄みに位置付けられる人なのに。

 そんな人たちを、何でもないというように言う。

 

 それが――――勇者。

 

「それで、1人で、魔王を倒したの?」

 

「そうそう。大体三か月くらいかな。といっても、ほら、人魔海峡は知ってるかな」

 

「人界大陸と、魔界大陸の間にある、海だよね。人族と魔族が戦い始めてから海峡って呼ばれ出したけど、実際は海峡って言うより普通の、海」

 

「そうそう、物知りだね」

 

 文字通り、人類が住まう人界大陸と魔族が住む魔界大陸。

 その間には人類の船で数日は掛かる海が広がっていており、戦争が始まった時点で魔族の支配・封鎖されていた。

 魔族は転移魔法や水棲の魔物でその海を支配し、人界大陸に攻め込んでいたのだ。

 ちなみに今ロータスとユーマがいるのは人界大陸である。

 

「あそこ、魔族の大将軍? とかいうのが封鎖しててね。海底に要石を仕込んで人類が通ろうとすると嵐が起きたり、魔物が邪魔したり。自分が死んだら海が大荒れして大津波が起きるような呪いもかけてて。その津波の被害受けた人助けたり、荒れが収まるのに一月半も足止めされちゃったから……実際は一月半? くらいかな。もうちょっと短かったかも」

 

「………………その大将軍は、簡単に倒せたの?」

 

「うん。私、凄く強いから」

 

 数百年続いた戦争を、たった一月半で終わらせた勇者の言葉は、あまりにも説得力があった。

 そもそも二つの大陸を最速で移動するのだって、1年は掛かってもおかしくないはずなのに。

 

「おねえーちゃんは凄いんだね」

 

「ありがとう! 君は、結構物知りなんだね! 言葉も最初は喋れないかと思っちゃった」

 

「それは……びっくり、というか。何が起きてるのか受け入れられなかったから」

 

 粥はを食べ終わり、カップを置く。

 

「ありがとう、おねえーちゃん。美味しかったよ。……それに、助けてくれて」

 

「全然! ……むしろ、もっと早く来れたのなら、もっと沢山の人を救えたのに」

 

 一転して、彼女の顔が曇る。

 あの村。

 ユーマがいた村。

 ユーマが――――()()()()()()()()

 

「……それでも、僕は救われたから、ありがとう。…………むしろ、どうしてお姉ちゃんは来てくれたの?」

 

 人界大陸の南西の端。

 大して大きな街もない田舎も田舎。

 そんなところに、どうして世界を救った勇者が来たのだろうとユーゴは思う。

 

「ん。それは……って、今更だけどこんなに話してて大丈夫? 疲れてない? 私、聞かれるとついつい色々喋っちゃうから……」

 

「…………そう、だね」

 

 眉を潜めて心配そうなロータスにユーマは小さく頷いた。

 

「言われてみたら、疲れちゃったな」

 

「そっか、そうだよね。もう遅いし、今日は寝ようか。明日、近くの村に移動してそこでゆっくり話そう。それでいいかな?」

 

「うん。何から何までありがとうお姉ちゃん」

 

「いいの!」

 

 だって、と彼女は笑う。

 蓮の花のような穢れ一つない笑みで。

 

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 それは何を指していたのだろうか。

 ユーマの命の危機に対してか。

 或いは彼の反転瞳に対してか。

 それから彼女は竜――シュリに括り付けられたかばんから大きな外套を取り出す。毛布にもなるようなそれを羽織り、

 

「それじゃ、一緒に寝よっかユーマ」

 

「………………え?」

 

「疲れてるのに羽織るものもなかったら風邪を引いちゃうよ。私1人旅だから、これしかないし。だから一緒に寝よう?」

 

「………………」

 

 ユーマは、彼女の言葉には逆らえなかった。

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 背中に柔らかさと暖かさがある。

 布団代わりの外套とロータスの体にすっぽりと包まれながらユーマは息を吐いた。

 身動きは取らないし、取れなかった。

 彼女はすぐに眠ってしまったけれど、彼は眠れなかった。

 

 なぜなら――――――ロータス・ストラトスフィアは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 勇者ロータスが殺した魔王ラーヴァ・ラーク・ラセイオン。

 ユーマ――ユーマラード・ラーク・ラセイオンはその息子である。

 ある意味において彼は魔族における王子であり、しかしある理由から人界大陸の辺境に幽閉されていた。

 勇者が倒したのは、その幽閉を任されていた魔族軍の幹部の一人。

 

 ロータスがあまりにも早く、最速で魔王を倒してしまったために魔族軍の残党は人界大陸にも魔界大陸にもいくらでもいるのだ。

 

 それを倒す為に、ロータスは旅をしているのかとユーマは考える。

 彼は彼女が想定するよりもずっと賢い。

 だからある程度の推測はできたし、そして本人の口から聞かなければわからないこともある。

 

 ユーマはロータスの胸の中で動かない。

 ただ、黒と白の瞳だけが虚空を見つめている。

 何を考えているのか、それを誰にも読み取らせることない対極の色だった。

 

 はっきりとしていることは一つ。

 

 

 これは少女が少年を救い、希望を与え、共に幸福へ至る物語ではない。

 

 

 これは―――――美しき救済の蓮華を忌まわしき汚泥が穢す物語である。

 

 

 




ロータス
最強にして救済の勇者
ごり押しで世界を救った
ユーマの仇

ユーマ
モノクロショタ
魔王の息子

あらすじにも書きましたが自作、『超天才魔法TS転生者ちゃん様監修@バカでもわかる究極魔法の使い方』のスピンオフです。
https://syosetu.org/novel/273259/
こちらを読まなければ楽しめないということはないように独立した物語になっていますが、こっちも読んでると楽しめる……って感じです。
よろしければごらんください。

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