森羅万象破壊勇者ちゃん@魔王討伐RTAクリア後攻略   作:柳之助@バケつ1~4巻発売中

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チート・チート・チート

 

 ロータス・ストラスフィアは転生者である。

 

 2000年代の地球日本で生まれ、そして死んで、今この世界に生まれ変わった。

 18年間生きてきて、1年ほど前、朝になって家の扉を開けたら聖剣がスタンバっていた。それから三か月……というよりも一月半の復興と一月の移動で実際魔王を倒す為に戦った時間は一週間と少しだったような気もする。

 ついでに言えば転生者というのは自分だけではなく、気づいたら使えるようになってた掲示板や動画配信で魔王打倒の旅を別の世界に向けて見せたり。

 魔王を倒した後、異世界に行ってたりして自分以外の転生者と出会ったりとかもしたが、いったん落ち着いて。

 新しい目的を持ったロータスは、

 

「ぁぁぁ……もぉぉぉおなんなのよあいつらは!! 感じ悪い!! 最悪! 理不尽! 村ごとぶっ飛ばしてやりたい!!」

 

 森の中、端正な顔を歪めてキレ散らかしていた。

 

 

 

 

 

 

 ロータスがある目的のためにある村を訪れてから一夜明け。

 

「仕方ないよ、お姉ちゃん。あの人たちの対応は普通なのさ」

 

 即ち、ユーマと出会った次の日だ。

 ロータスの愛竜、白鱗のシュリの背に乗る反転瞳と斑髪の男の子。

 病的な青白い肌、痩せすぎた華奢な体、体の汚れは落としたが服は手に入れられず未だ下着にもならない襤褸切れを纏っただけ。

 10歳程度にしか見えない彼は、しかし極めて冷静だった。

 

「あの村の人たちだけじゃない。きっと、どこに行っても僕はあんな扱いだよ」

 

 四本の足で優雅に歩くシュリに揺らされながら、彼は自らの反転瞳に手を当てた。

 

「むぅ……!」

 

 ロータスは頬を膨らませるが、起きたことは変わらない。

 昨夜出会い、共に眠り、朝起きて、近くの村に行くまでは平和だった。

 問題はその後だ。

 ロータスも一度は立ち寄り温かく迎えてくれた小さな農村は、しかしロータスとユーマを受け入れてくれることはなかった。

 

 正確に言えばロータスではなく―――ユーマの眼を見て、だ。

 

「この目は人類と魔族の混血の証だからね。人も魔も、この目を呪いと忌み嫌う。だから、仕方ないんだ」

 

 白目と黒目が反転した瞳。

 それは彼の言う通り、不倶戴天の敵である人類と魔族が交わり、結果生まれた子供に現れる先天的な体質だ。

 争いはあまりにも長く続いていたが故に、そういったものを生まれてしまう。

 そして生まれた子はどちらかも異端として忌み嫌われていた。

 

「でも別にそれ、何か特別な呪いとか魔法があるわけじゃないんでしょ?」

 

「そうだね。見た目が違うというだけだ。でもね、お姉ちゃん。差別も迫害も、それで十分だよ」

 

「…………君、子供ぽくないなぁ」

 

 ユーマの表情は変わらない。

 二色の瞳も、少女と見間違うばかりの顔立ちもまるで揺らがなかった。

 村の人々に忌み子と罵られた時もそうだった。

 ロータスという勇者がいるにもかかわらず、石や農具を握った彼らに対してユーマは表情を変えず、その敵意の視線を当然の様に受け流していた。

 むしろ、反論するロータスを制したほどだ。

 

「そんなことより」

 

「そんなこと!?」

 

 思わずロータスが立ち止まったが、シュリは歩みを止めなかった。

 

「昨日の話の続きをしようよ。結局村なんて入れなかったし。魔王を倒したお姉ちゃんは今、何をしてるの?」

 

 一度首をひねってから、問いに彼女は少し小走りで追いつき、

 

「十二天魔将って知ってる?」

 

 そんなことをユーマに問いかけた。

 そして彼は小さく頷く。

 

「魔王の配下といえば四天王だけど、それに匹敵する将軍たちだね。四と十二が匹敵なのかは置いておいて。四天王は魔王の直属の部下として護衛をしているけれど、八天魔将は魔王から離れて人界への侵攻や占領、支配をしている」

 

「詳しい」

 

「ずっと幽閉されていたから本を読むしかなかったんだよ」

 

「…………」

 

 地雷を踏んじゃった……とロータスは落ち込んだがユーマは反応を見せずに言葉を続けた。

 

「そもそも、僕を幽閉していたのはその十二天魔将のヴァイシュラ・クーヴェ・ヴェサーヴァだったわけだし」

 

「それもそうか」

 

 ヴァイシュラ・クーヴェ・ヴェサーヴァ。

 3メートルはある巨体、八本の腕と八本の剣。一振りで人の戦士を10人断ち切り、千人の兵士を一人で壊滅させたという逸話もある異形の暴風。その体はこの世で最も固いとさ言われ、まともな刃物は通らず、八刀流は文字通り人の領域を超え、四天王でさえ一目置いていたという。

 それがユーマを人界の大陸の果てで幽閉していた魔族である。

 人間の強さをレベルとして数値化したら、大体二桁が限界だが。

 魔族というのは当たり前のように三桁を超え、数値を重ねていく。

 人間の限界を99としても十二天魔将は平気で200や300あるのだ。

 

「物心ついた時から、僕はアレに幽閉されていてね。拷問されたりとかはなかったし、同情でもしたのか色々本は読ませてくれたけどね」

 

「逃げようとは考えなかったの?」

 

「まさか。あんなの、本来人が倒せる相手じゃないよ」

 

 なにせ、知る限り200歳だったはずだ。

 人界で人を支配し、人と戦い続けているのがその証。

 なのだが、

 

「お姉ちゃん、一撃で殺してたね」

 

「私強いからね!」

 

 閃光一閃。

 ただそれだけ。

 それだけで魔族の将は200年の生に終止符を打たれた。

 言葉にすればあまりにもあっけなく、ロータス・ストラトスフィアの並外れた強さを証明している。

 

「あの時、君と一緒に囚われた人たちを助けられなかったのは後悔してるけどね。……ヴァイシュラはどうしてあの村を滅ぼしてたの?」

 

「さぁ……気づいたら村は燃えててヴァイシュラが奴隷の人間を殺してて、僕も殺されかけたところでお姉ちゃんに助けられたし。僕が知りたいところだ」

 

「そっか……うん、大変だったね」

 

 気遣うようなロータスの言葉にもユーマの表情は変わらない。

 

「それで、その十二天魔将をお姉ちゃんは倒す旅をしてるの?」

 

「わっ、凄い! なんでわかったの?」

 

「魔王も四天王も倒した人がそのうち一人を倒したんだ。そうなのかなと思っただけ」

 

「うーん、賢い。そうそう、今の私は十二天魔将倒す旅をしてるんだ。人界のあっちこっちにいるらしいからね」

 

「一人で?」

 

「ぐるっ」

 

 唸るような鳴き声はロータスではなく、ユーマがまたがるシュリだった。

 静かに進んでいた竜は振り返り、水色の視線が彼に向けられる。

 

「ごめんね。1人と1竜で?」

 

「あはは。そうだね。そんな感じ」

 

「そう。どのくらい進んでるの?」

 

「えーと、昨日で4人目かな。旅初めて一月たったけど」

 

「1月で4人」

 

 週1ペースだった。

 十二天魔将は最低でも100歳は行っているはずで、人界にいながら人類には倒せなかった絶対者のはずだったのだけれど。

 それをロータスの言動からはまるで感じさせない。

 

「どんな相手だったの?」

 

「えーと、昨日の八本腕に八本剣でしょ? 全身燃えてる太陽みたいなのと、空から隕石降らすのと、天候好きに変えちゃうのとかかな」

 

「一撃で殺したの?」

 

「概ね」

 

「………………そっか」

 

 人類が数百年かけてもなしえなかったものを彼女は一瞬でやり遂げる。

 そう思いユーマは僅かに目を伏せた。

 

「んでも、どうしよっかなー」

 

 森の中を進みながらロータスが首をひねる。

 

「ユーマを預けるとこを見つけないとだし、そもそも服もだね。裸足のままだし……」

 

「僕は気にしないよ、お姉ちゃん」

 

「いや、そういうわけにも」

 

 彼女は腕を組み考え、

 

「よし。シュリ、止まって」

 

「?」

 

 竜の歩みが止まる。

 大きな馬よりもさらに大きいが、足音は静かだ。

 

「ユーマ、今天魔将たち倒したって話だけど、そのうち一人は倒してないんだ」

 

「逃がしたの?」

 

「ううん。顔合わせた途端に降伏したから、倒さなかったの」

 

「……え?」

 

「むしろ他の十二天魔将のこと教えてくれたり、旅の支援とかしてくれる協力者なんだ」

 

「えぇ?」

 

「だから、今から会いに行ってその人と話してユーマの今後を決めよう」

 

「今から? 近くにいるの?」

 

「ううん。人界大陸の北東の端っこ。普通に行ったら半年ちょっとかかるね。だから転移魔法で行こうか」

 

「…………転移魔法って、人類で使えるのは歴史上ほんの数人程度じゃなかったかな」

 

「うん。大魔導士さんが使えたから、()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この世界の魔法は先天性の才能である。

 生まれながらにして魔力を持ったものが研鑽と勉学に励むことで体現できるもの。

 魔力の有無の割合は大体半々なのだが、魔法使いとして一人前になれるのはさほど多くない。

 そして魔法は大きく分けて二種類ある。

 魔力があることを前提した上で、学べば誰でも使える≪共通魔法≫。

 そこからさらに先天的な才能により、個人のみが使える≪固有魔法≫。

 どちらが強い弱い、という話ではないが≪固有魔法≫は使用者に最適化されたり、精神性を象徴するようなものなので、比較的に言うのならばだが固有魔法の方が規模や効果が大きい場合が多い。

 四天王や十二天魔将が人類と隔絶した強さを誇るのは、魔族の誰もが魔法を使え、上位種となれば≪固有魔法≫を持ち、それを人よりも遥かに長い年月を研鑽に費やしてきたからだ。

 

 超長距離の転移魔法は共通魔法にしても固有魔法にしても、魔法の頂点に位置する領域だった。

 人類の才能あふれる魔法使いが人生を費やすほどの研鑽の果てに手に入れられるかどうかというそれを、魔法を使い始めてたった半年程度の勇者は会得していたのである。

 

 そうして僅かな浮遊感が二人と一竜を包み込み、次に見えたのは曇天下のある山の麓だった。

 四方をいくつかの山と丘に囲まれた大きな湖、小さな森があり、その手前に石造の小さな家がある。

 それだけ見れば辺境に隠居した賢者が世を疎みながら何かしらの研究をしていそうなものだが。

 

 問題は。

 石造りの家も、その正面も、視界いっぱいに。

 何百本もの枯れた木の枝のようなものが地面から突き出して生えていたということだった。

 

「…………変わった場所だね」

 

「ほんとはもっときれいな所だよ―――グラハ! 何をしているの!」

 

「いやぁ、堪忍なぁ勇者はん」

 

 声を張り上げた先、答えたのは扉に枯れ枝で括り付けられたかのように拘束された青年だった。

 真珠色の長髪、開いているのかわからない細目。外見だけでいえばほぼ人間と変わらない。

 だがグラハという名をユーマは知っている。

 グラハ・ナーラ・シャンドラ。

 十二天魔将の一人。

 あれが、ロータスの味方を? とユーマと思い、聞こうとして、

 

「――――ん?」

 

 地面から高速で伸びた枯れ枝がロータスの右胸と左脇を貫き、右腕をもぎ取った。

 

「……!」

 

 鮮血が舞い、少女の体が鈍い音と共に倒れる。

 

「お姉ちゃん!!」

 

『――――キキキ、ヤット、来た』

 

「!」

 

 倒れたロータスの隣に枯れ枝が出てくる。

 その先端に蕾が生まれ、華が開き―――眼球が実のように現れた。

 声は、どこから聞こえてくるかは分からない。

 全ての枝が震え、木霊するように全方位から聞こえてくる。

 

『奇襲は、効く、ンダナ。勇者、お前をコロス、ためにオレは待ってイタ―――』

 

「…………イサナか」

 

 木々の化け物。

 十二天魔将イサナ・シューベラ・イザミ。

 この周囲に広がる枯れ枝は―――イサナの端末だ。

 

『アァ?』 

 

 眼球が、ユーマを向く。

 訝しむようにその瞳孔が収縮し、

 

『お前、ハ――――』

 

「痛っったいでしょーが!」

 

 飛びあがる様に立ち上がりながら抜刀したロータスが剣を振り―――――魔力が炸裂し、枯れ枝ごと眼球が蒸発する。

 

 

 

 

 

 

「あーもう、最悪。服に穴開いちゃうし。ユーマ、怪我はない?」

 

「…………うん。いや、お姉ちゃんは?」

 

()()()

 

 小さく答える彼女の右胸と左腹。

 

 ――――肉と血管が蠢き、傷口が塞がっている。

 

「えーと、腕腕。そりゃ」

 

 切断された腕を彼女は雑に切り口にくっつけて―――それも、すぐに繋がる。

 彼女は繋がったばかりの腕を何度か振り、あたりを見回して声がないことを確認し、

 

「グラハ! 状況!」

 

「イサナが急に来て、勇者はん殺す言い出してなぁ。それで僕は餌として括り付けられてたちゅーわけ」

 

「追い返せばよかったのに」

 

「勇者はんとの約束で、魔族としての力大半ないなってもうたやん僕」

 

「あぁ……それもそうか」

 

 右腕の布を捨て、右胸は布の位置を調整して零れそうな乳房を覆い隠す。

 

「あのー、勇者はんー? 助けてくれへーん?」

 

「それよりも、さっきの木の化け物が先よ。さっきので死んだわけじゃないでしょう」

 

「うん。イサナの能力だけは前教えてたよね」

 

「えぇと。木の魔族で、他の動物や植物の生命力を奪って増殖し、強化する―――だっけ」

 

「そうそう。イサナはそれでここら辺の木々から生命吸って待ち構えてたちゅーわけやけど。ほら、正面の一番大きい山、あるやろ?」

 

 枯れ木によって拘束されたまま、彼は場違いな笑みを張りつけ、視界にある山を顎で指した。

 

「あの山、丸ごと命喰ったみたいや」

 

「―――――」

 

「……………」

 

 ロータスはその言葉に目を細め、ユーマは息を呑んだ。

 山を、丸ごと。

 イサナの生命力奪取の効率はわからないが、一つの山にどれだけの動植物がいるというのか。

 標高1000メートルほどの山だ。

 まるで、想像もつかない。

 

「…………あの山、中腹に集落あったよね」

 

「うん。だからそれも、全滅やろな。あの山全部、イサナちゅーことや。勇者ちゃんの回復力にびびって、仕切り直すんちゃう?」

 

「そう、分かった」

 

 彼女は小さく頷いた。

 それからユーマに向き直り、

 

「ごめん。ちょっと倒してくるから、あっちの胡散臭そうな糸目のとこにいてくれる? 大丈夫、噛みついたりしないから」

 

「そんな犬やないんやからー」

 

「……解ったよ、お姉ちゃん。体はもういいの?」

 

「ん?」

 

 ユーマの気遣う言葉に、ロータスはきょとんとした表情を一瞬浮かべ、

 

「―――うんっ、ありがとう! それじゃ行ってくるね!」

 

 笑顔と共に彼の頭を一撫で。

 視線を上に向けて。

 

 音もなく掻き消えるように、姿を消していた。

 

「…………」

 

「――――」

 

 残されたのはユーマとグラハとシュリだけ。

 沈黙が一瞬あり、

 

「お久しゅうございます、殿下。こんな恰好ですみませんなぁ」

 

「……殿下とか、思ってもないことを言わないでよグラハ」

 

「あはは。殿下は殿下ですからなぁ」

 

 ユーマは無表情のまま、グラハは笑ったまま。

 少年は空を見上げ、男はそんな彼を見据えていた。

 ユーマ――ユーマラード・ラーク・ラセイオンとグラハ・ナーラ・シャンドラ。

 魔王の息子と魔王の配下。

 十二天魔将全てと面識があるわけではなかったが、それでもグラハのことは知っていた。

 別に、仲がいいわけではないけれど。

 

「君は、彼女に降伏したんだね」

 

「はい、魔王様が倒れて、勇者はんが十二天魔将討伐に乗り出した聞いてすぐに」

 

「何故?」

 

「それは――――まぁ、アレですなぁ」

 

 グラハが空を仰ぐ。

 分厚い雲の覆われた鈍い空。

 

 その天上に、極光が輝いた。

 

 

 

 

 

 ロータスは天を落ちながら聖剣を握る。

 風が叩きつけられるが別に構わない。

 彼女はただ、見ていた。

 イサナが融合した山を。

 

「反撃されてすぐに逃げるのも気にくわない―――けど」

 

 そして思う。

 木の魔族が飲み込んだという集落のことを。

 その人たちのことをロータスは知らない。

 グラハから存在だけ聞いていて、いつか行こうと思っていただけの場所。

 それでも人は生きていた。

 営みがあった。

 家族がいた。

 それを、イサナ・シューベラ・イザナは奪い取った。

 それは理不尽であり、

 

「理不尽を――――私は許さない」

 

 握った聖剣から虹色の火花が溢れ出す。

 空間を削る様に弾け、輝きの奔流が迸る。

 空色の瞳が、イサナと同化した山を見つめ、転生によって与えられた特権を発動する。

 

『――――激烈!』

 

 叫び、聖剣を強く握りしめた瞬間、光の火花が刀身の先に幾つもの巨大な魔法陣が展開された。

 虹色の複雑な文様。この世界の言語ではない、誰も読めない複雑な文字。

 そして、

 

『バーストブレイクワイドロングインパクトブラストアルティメットシャイニングスラァァァァァッシュ!!!!』

 

 やたら長い名前を、一切噛まずに吠え―――聖剣を振りぬいた。

 極光。

 斬撃が光波となり、空を切り裂いて、雲を千切り、山に直撃し、

 

「だ―――らああああああああ!」

 

 着弾地点から、山の表面が硝子のような虹色に変貌する。

 木々が、大地か、生命力を吸われた死体が、何もかもがステンドグラスのように輝いて。

 割砕音。

 風と風がぶつかり合い、雲は完全に吹き飛び、差し込んだ陽光の中、

 

 ―――――――山が丸ごと砕け散り、十二天魔将イサナ・シューベラ・イザミは消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

「クゥ」

 

 シュリが一鳴きして、翼を広げて飛びあがる。

 軽やかな非常は落ちていく彼女を迎えに行くのだろう。

 

「ほらぁ。見ました? 十二天魔将が、あの山が、一瞬で、あのあまりにもだっさい技名で消えましたでしょ? あんなん敵に回す理由あります?」

 

「…………技名が酷いのはまぁ、そうだけど」

 

 山という大質量が消滅したせいで巻き起こる風と上空から聞こえて来た技名にユーマは眉をひそめた。

 

「あれが、お姉ちゃんの固有魔法?」

 

「あれら、言うべきでしょうなぁ」

 

 グラハが服を叩きながら立ち上がる。

 周囲一体に生えていた枯れ枝も山の消滅と共に砕けて消えていた。

 

「まずは超回復。困ったことに急所当てようが腕切り落とそうが再生するし、くっつくし。痛みはあるらしいんやけど全然気にしまへん。事実上の不死身や。イサナはそれ狙って、勇者はんの生命力を奪おうとしたんやろうけどなぁ」

 

 まず一つ。

 

「そいからさっきの瞬間移動。視界内に限っては無音で一瞬で移動するちゅーもんらしいですで。勇者はんが1人で移動してたのもそれのせい」

 

 それで二つ。

 

「極めつけが、あの光波」

 

 それは、

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ただ、それだけの魔法……魔法って言っていいのか僕には解りませんけどなぁ。なんかもうそういう次元ちゃいますし」

 

「抵抗はできるのかな」

 

「魔王様も四天王も十二天魔将も消滅してる。それが答えでしょう」

 

 言葉にすれば簡単だ。

 効果も、結果だって簡単だ。

 あの光波に飲まれたら、何も残らず、何もかも壊れて消えるだけ。

 それを以て、ロータス・ストラスフィアは世界を救ったのだ。

 

「ついでにいうと一目見ただけでどんな技術も魔法も真似するちゅーんもありますけどね。いや、これもあほみたいですわ。人類が何十年かけてやっと手に入れられるかどうかの蓄積を、あの子は一目で凌駕するんですから」

 

 グラハはヘラヘラと笑っていた。

 

「イサナはちょっと脳が足りんかったですなぁ。自分ならなんとかなる……年食った魔族特有の油断ですわ。魔王様倒されてんのになにゆーてんって感じですけど」

 

 質の悪い冗談を口にするかのように。

 魔王軍、十二天魔将の参謀だった男は手が付けられないと言わんばかりに手を広げて笑っている。

 

「勇者はんは理不尽ちゅーのが嫌いらしいですけど―――――アレ以上の理不尽なんてありませんわ」

 

 だから彼は魔族を裏切り、勇者に跪いた。

 魔人としての能力も封印してまで。

 どうせ、絶対に勝てないのだから。

 

「………………」

 

 グラハの解説を聞きながら、ユーマは空を見上げた。

 光波による残滓なのか、虹色の粒子が周辺に漂っている。

 その中でゆっくりと純白の竜にまたがり、煌めく金髪を棚引かせるロータスを見つめていた。

 青い空、虹色の光、竜を駆る女勇者。

 それはまるで絵画のようで。

 あらゆる理不尽を淘汰する人の形をした理不尽。

 人の為に怒り、人の為に剣を振るう救済の勇者。

 完全無欠、世界最強、唯一無二。

 生命として圧倒的に隔絶された絶対強者。

 魔族という人類の上位種を一振りで打ち砕き、人類が魔族と戦うための研鑽を一目で上回る。

 この世で最も鮮やかな理不尽。

 

「あぁ―――」

 

 ユーマは息を零す。

 白と黒の瞳に映る虹色に対して、彼は思うのだ。

 

「――――綺麗だ」

 

 

 




ロータス
転生者
超再生
瞬間移動
破壊特権
三つの転生チートを持ち、一目見ただけで全てを模倣学習する。
理不尽を嫌う理不尽。
滑舌もいい
ただしネーミングセンスは×


ユーマ
不穏ショタ

グラナ
糸目の長髪イケメン裏切りもの
もーどうにでもなれ~~~~~!!って魔族裏切った
詳しくは次話

イサナ
木の魔族で生命力を奪うことにより一夜にして一国を食らい尽くすとかもできるレイド系ボス
枯れ枝一本もあれば再生する上に討伐しようと思っても、戦う人間が彼の養分になってしまうので本来人類ではどうあがいても討伐できなかった存在……なのだが「山=イサナ」という認識による『破壊特権』で完全消滅した。
レベル500くらいあった

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