時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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時過ぎて

「ねえ」

 

美樹さやかは口にくわえていたストローを離し、隣の女性に声をかけた。

 

「・・・・何?」

 

ゆっくりと、瞳だけ動かし女性はさやかを見つめる。その紫の瞳に見つめられてさやかは一瞬体をこわばらせる。恐怖で身がすくんだわけではない。「恐怖」とか「憎悪」とかそう言った感情をもうこの黒髪の女性に対して美樹さやかは抱いていなかった。代わりにその妖艶な流し目が異性に対してどれだけ有効的かつ効果的かを何回彼女に進言したかわからない。・・だがいつも彼女はその話を聞くとただ虚ろに微笑むだけだった。

 

「・・・・何よ」

 

じっと見つめるばかりで何も語らない青い髪の友人をじれったく思ったのか、黒髪の女性は眉をひそめる。

そして、なにか合点がいったのかふと口元をほころばせた。

 

「また・・・記憶の錯乱?」

 

フフフと、彼女は笑いだした。美しい口元からさも嬉しそうな笑い声が漏れる。くっ、くっ、と体を震わせながらなんとか笑いをこらえている姿は、その美貌に似つかわしくない子供っぽい動作と相まって微笑ましいものだった。それに対し、青い髪の女性は心外だとばかり腕を組み抗議する。

 

「あーもう、ひどいよ・・・ほむら」

 

黒髪の女性・・・暁美ほむらが宇宙を改変してから10年が経った。周囲の状況も変化し続けさやかとほむらも人間社会での適応をはかるため生物的ルールに従い、成長し、そして社会人となっていた。

まるで「演技している」かのような気分で、時には「達観して面白がっている」気分で二人はこの世界を生き、そして戦い、傷つき、歳月を重ねてきたのだ。

二人の関係の軋轢も、互いの成長のおかげでようやく歩み寄りを見せ、収束しつつある・・・はずである。

 

「あら、ごめんなさい。つい」

 

フフフと笑いながら横目でさやかを見つめる。その視線にどことなく色香があるのは気のせいか。

ファサ、と黒髪を優雅に右手で流すと「あなたのしぶとさにはびっくりだわ」と呟いた。

 

「まあ、いいか、てかさ周りを見てごらんよほむら」

「え?」

 

目を子供のように輝かせるさやかに合わせ、周囲を見回してみると数名のカップルや男性がこちらを見ている。いや、正確にはほむらを見ているのだが。ここは映画館のロビー、かなり客が増えてきた様子だが、まるで映画挨拶にきた芸能人を見てるかのように、暁美ほむらを好奇の目で見ている。

 

「みんなあんたを見てるんだよ」

 

自分のことのようにドヤ顔で微笑むさやかを何故か落胆したように見つめ、ほむらはため息をついた。

 

暁美ほむらは恐ろしいほど美しく成長していた。

艶のある黒髪、白磁のような肌。そして相手をすくませるほどの眼力を持った紫の瞳。どれもが完成されすぎて、まるで人外のようだと大学では揶揄された。だがそれは実際には揶揄ではなかった。彼女はそもそも人外なのだから。タートルネック、ロングスカート上下共黒でまとめたその姿は美しくも禍々しい「人外の者」を体現しているかのようだった。

 

「・・・別に見られたいと思っているわけじゃないわ、それに美樹さやか」

「え?」

「あなただってそう悪くはないわよ・・」

 

ほむらの言うとおり、美樹さやかも美しく成長していた。青い髪は出会った当初から変らない髪形のままだが、少し大人っぽくなった表情と、そしてあの独特の誰の心もさわやかな気分にさせてくれる笑顔はかなり魅力的だ。そう、魅力的・・しかしその有効範囲が幅広すぎて今だにさやかには女子校的なノリの取り巻きが数名いる。え~そうかな、と頭を掻いて大げさに照れる友人を見て、またほむらは軽くため息をつく。言うんじゃなかった、とでもいうように。

 

「映画・・・早く始まらないかしら・・って、あなた何まだ喜んでいるの」

「え~やっぱり嬉しいじゃないですか」

「何がそんなに」

「うちの嫁が綺麗って言われているみたいでさ」

 

 

暁美ほむらは固まって動かない。まるで彼女が保有している能力「時間停止」のように。

 

「・・・ほむら?」

 

半分冗談、半分本気で言った台詞に返答がないことに美樹さやかは内心あせる。黙り込んだ暁美ほむらの美しい横顔に見惚れながら、ほむらの気持ちを確かめてみたいとさやかは思った。

ほむらの左耳のイヤリングが一瞬キラリと光る。

 

「違うの?」

「・・・・・・」

「ねえほむ・・わっ!冷たいっ!」

 

いきなりさやかの眼前に赤のコカコーラの紙コップが現れ、頬にあたる。

コップを持っているほむらの表情は見えない。

 

「・・・・違わないから飲みなさい」

「へ?」

「いいから!」

 

そう言って顔を見られないようにそっぽを向く。その頬に少し赤みがさしているのをさやかは見逃さなかった。

 

「ありがとうほむら」

「・・・・・」

 

しばし、心地よい沈黙が二人を包む。劇場案内のアナウンスが流れた時、ようやく口を開いたのは暁美ほむらの方だった。

 

「ねえ美樹さやか」

 

「ん、何?」

 

「私はまどかを愛している」

 

「うん、知ってる」

 

「まどか以外の人類なんてどうでもいい」

 

「うわ、怖、それはまあ・・・うん、あんたらしいわ」

 

「特に美樹さやか、あなたなんてどうでもいいし、愛してもいない」

 

「・・・・」

 

「好きでもないし、なんでもない・・・でも」

 

 

さやかの手に暁美ほむらの白い手が重なる

 

「傍にいて」

 

押し殺した声で

 

「ずっと」

 

 

 

縋るような想いを押し隠すように表情を見せないほむらにさやかは困ったように、しかし嬉しそうに微笑む。

 

「しっかたないなあー」

 

そうしてほむらの手を握り、立ちあがる。

 

「じゃあ、つきあいますよ、地獄の果てまで一緒にね、お嬢さま」

 

と、可愛くウインクするさやかに、ほむらはただ「馬鹿」と嬉しそうにつぶやいた。

 

 

 

END

 

 

 

 

 

 

 

余談

 

数時間後、映画が終わりぞろぞろと観客が入り口から出てくる。

その中でひときわ目を惹く人物が怒りの表情を隠すことなく出てきた。あまりの美貌のため怒りの表情さえ美しいが。

 

「ねえ、ほむら、何怒っているのさ?」

「・・・・別に、ただあなたが愚かなことにあきれているだけよ」

「え、何何?私何かしたっけ」

 

そして、あ、とさやかが何かを思いついたかのように、手を叩く。

 

「もしかして、あれ、?私いびきかいてたとか?うわ、恥ずかしいなあもう」

「なあもうじゃなくて!あなた、いったいどれだけ寝てたと思ってるの、全然映画観てないじゃない!」

「え、いや~ほむらは観てたんでしょ?ならいいじゃん、あとでストーリー教えてよ」

「・・・・嫌よ、絶対嫌」

「え~なんで?」

「ちっ」

 

ほむらは赤い紙コップを持った右手をさやかに向かって高々とあげる。

うわ、と言いながら頭をガードするさやか。しかし、彼女が公共の場でさやかを殴るという愚行はしない。それだけの社会性は十分身に付けていた。はああ、と長いため息をついてほむらは右手を下げる。

 

「愚か者には答える義務はないわね・・じゃあ、私タクシーで帰るから」

「ええ、ちょ、帰るとこ一緒じゃん、ちょっと待ってよ」

「嫌よ、どっかの路上でのたれ死んでればいいわ」

「悪魔~!」

 

映画もせめて一緒に情報を共有したい・・感動を共有したい・・そう思うのは人外の者も例外ではないようだ。

 

 

おわり

 

 

 

 

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