時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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あっという間に大晦日…(なんと)


年の瀬に

年末の慌ただしい雰囲気を隠すことなく賑わう街の中、人目を引く二人の女性が歩いていた。

 

はあ…とそのうちの一人の女性が白い息を吐く。

 

「さっむいわねえ」

 

蒼い髪の女性が己の身体を抱えて震える。それを見て口元を緩める長い黒髪の女性。

 

「情けないわね、『力』を使ったら?」

 

冷笑ともまた違う、薄い笑みを浮かべる黒髪の女性はとても美しかった。降り注ぐ雪と同じ様に白い肌、艶のある長い黒髪、そしてほっそりとした繊細な輪郭に整った顔立ち。切れ長の目の下に微かに隈があるが、それはやつれ切ったというよりもどこか病的な妖艶さとでもいうのか、不思議な雰囲気を醸し出していて。長い睫毛の下からアメジスト色の瞳が蒼い髪の女性を映しだす。その瞳を見つめ返し、ダウンジャケットにデニムのパンツ姿の蒼い髪の女性がふるふると頭を振った。

 

「……いいわよ、もったいない」

 

少し間があったのは黒髪の女性に見惚れていたからなのだが、慣れているのか、それとも無頓着なのか当の本人は蒼い髪の女性を見つめながら無邪気に小首をかしげた。

 

「あら、出し惜しみするなんてらしくないわね」

 

黒髪の女性が右手で髪を抑えながら寒そうに囁いた。雪の中風で舞う長い黒髪。黒のコートとスカートという黒ずくめの姿は彼女の透き通るような白い肌と見事に対照的で、まるで世界が白と黒しかないようなそんな錯覚を蒼い髪の女性に思い起こさせた。

 

「いや…そんなんじゃないわよ」

 

頭を軽く振って、蒼い髪の女性は呟いた。肩まで伸びた髪、その毛先が風でゆらゆら揺れる。髪と同じ色のダウンジャケットにかかった雪を払いながら、少しだけまた間を置いて女性は言葉を続けた。

 

「なんかさ、変な話、大人になるにつれて魔法の力が減っていっている気がするのよね」

 

えへへ、と人の好さそうなたれ気味な目を細め、蒼い髪の女性は黒髪の女性に笑いかけた。左手で己の髪をくしゃくしゃと掻く。その気さくな所が彼女の魅力だ。黒髪の女性の妖しい美しさとは対照的に彼女はどこか中性的で人好きのする顔立ちをしていた。その顔をじい、と見つめる黒髪の女性。その表情にはわずかだが怒りが込められてきていて。

 

「それ、本当?」

「本当かは…わからないけど実感よ、だからもったいないから『節約』してんの」

 

並んで歩いている二人だが、黒髪の女性が距離を詰めてくる。そうして蒼い髪の女性にもたれるかと思いきや軽く体当たりしてきた。

 

「おわっ」

 

妙齢の女性らしからぬ、変な声をあげて蒼い髪の女性が2mほど横に滑るようにスライドする。両手をバタバタと振りながら、バランスを取ってようやく落ち着くと、たれ気味な目を丸くして蒼い髪の女性は口を尖らせた。

 

「ちょっと、あんた…」

 

黒髪の女性に抗議しかけて、蒼い髪の女性は口を閉ざす。往来の人々が何名か興味深げにこちらを見ていることに気づいたからだ。最初は挙動不審な蒼い髪の女性をそして次に隣にいる怖いくらい美しい女性に皆目を奪われていく。気まずそうに肩をすくめ、歩き出す蒼い髪の女性を見て、くすくすと黒髪の女性は笑いながらついてくる。恨めし気にそれを横目で見つめ(迫力は全く無いが)蒼い髪の女性はまだ笑っている美女に囁いた。

 

「…もう急になにすんのさ、ほむら」

 

名前を呼ばれた黒髪の女性――暁美ほむらは、隈のある目を細め囁く。

 

「貴方がくだらないこと言うからよ、美樹さやか」

「くだらないことって…ひっどいわねえ、私は結構気にしてんのよ?」

 

蒼い髪の女性――美樹さやかは口を尖らせながら抗議した。実際彼女は魔獣と戦う時も力の放出を調整している。攻撃する時には魔法を使い、回避する際にはほぼ己の人としてのフィジカルな部分に頼り切っている。そのおかげでだいぶ鍛えられて、今では力をまったく使わなくとも刀さえあれば魔獣を斬ることができるのではないかと思うくらい、さやかは自身のフィジカル面を過信していた。その反面、力については本人が言っていた通り『減って』いる気がして正直気が気ではないのだが…

 

「この世界に戻ってこれたとはいえ、10年も経てば、やっぱ力も減るものなのかしらね」

「ほんとに貴方って…」

 

美しい顔を少し曇らせ、そうして、はあ、とほむらは白い息を吐いた。

 

「私、前に言ったわよね、覚えてる?」

 

歩みを止めて、さやかがほむらを見つめる。少しだけさやかの方が背が高いため、ほむらは見下ろされる形になった。上目遣いでほむらはさやかを睨んだ。そうして蒼い髪の女性の言葉を待たずに自身の気持ちを吐き出した。

 

「勝手にのたれ死んだら殺すわよ」

 

それはドスの効いた艶のある低い声で、得体の知れない恐怖と同時にまたある種魅惑的なものをさやかに与えた。今に始まったことではないが、おそらく初めて出会った瞬間からさやかは彼女に魅了されていたのだろう。少女の時に抱いていた彼女に対する羨望の様なものは成長してからはまた複雑な想いへと変化していて、それがさやかの頬を紅潮させる。恐怖を感じているのにだ。ダウンジャケットのポケットに入れていた手をさやかは出して、参ったといわんばかりに胸の前へとあげた。

 

「…覚えているわ」

 

眉を下げ、心底困ったような表情でさやかはそう言った。二人を囲む空気が周りとは違う異質のものになる。緊迫した空気の中、さやかは黒髪の女性から放出される「力」を感じた。まるで静電気の様な痛みがさやかの身体に走る。

 

――無尽蔵

 

こんな時、さやかは相方の力の凄まじさを痛感する。とにかく差が歴然としているのだ。まるで地の底、いや、地球そのものから得ているのではないかというくらい果てしのない力をを感じ、さやかは思わず後ずさりする。だがそれを美しい悪魔は許さなかった。上目遣いで睨んだまま、さやかの体に接触するギリギリの距離まで近づいてくる。陰鬱なだが怖いくらいに惹きつけられる双眸。

 

「ほ――」

 

あの瞬間をさやかは思い出す。かつて仲間であった少女が悪魔と化して挑発的にさやかを見上げていた瞬間を。元々美少女だと認識していた少女がまるで見た事の無い妖艶な笑みを浮かべたあの瞬間、さやかは怒りよりもむしろ――

 

ゆっくりと美しい顔がさやかに近づいて、そうして何も見えなくなって、さやかの唇に温かいものが触れた。ほむらの唇だ。さらに押し付けられてさやかの口の中に何か液体が入ってくる。さやかは目を丸くして身じろぎするが、肩に置かれたほむらの手がそれを許さない。

 

 

――飲みなさい――

 

 

「!?」

 

さやかの頭に直接ほむらの声が響く、念話だ。顔を重ねたまま、さやかの喉が鳴る。だが、それでも二人の顔は離れなかった。雪も二人の周囲の人の波も全て動きを止めていて。ようやくどこか名残惜しそうに二人の顔が離れた時には、二人共顔は紅潮していて。

 

「ちょっと…あんた何を飲ませた…」

 

そう言いかけてさやかは目を丸くする。視線の先の美しい女性の唇に赤い一筋の線が見えたからだ。

 

「血…」

 

ほむらは己の唇を白い指でなぞるように撫でると、赤い舌を出してその血を舐め取った。

 

「どう?少しは元気出たかしら」

「え…あ」

 

さやかが己の手を見る。アメジスト色の光が一瞬掌を駆け巡って。

 

「すごい…」

 

その手で胸元を抑えながらさやかが呟いた。内なる力がみなぎってくるのがわかる。時折悪魔の力を手を繋ぐことで借りることはあったが、あの時よりも彼女の力がダイレクトに体に入り込んできていて。かつてあそこ(円環の理)にいた頃よりも力が増しているのではないかと思うほどだ。

 

「ほむら、ありが――」

「なんで言わないの」

「え?」

 

アメジスト色の瞳が困惑するさやかを映し出す。瞳の主の表情は険しいままで。

 

「力が減ってきていると感じているなら、何故もっと早く私に言わないの、それとも貴方はそのままのたれ死ぬつもりだった?」

 

腕を組んで上目遣いのままほむらはさやかに背を向けた。

 

「だったら貴方なんて――」

 

だがその声は微かに震えていて。そうしてさやかはようやく気付く。彼女の本当の気持ちを。

 

「ほむら――」

 

だがさやかが最後まで言い切らないうちに異変が起こる。顔をしかめ、さやかが項を抑えた。

 

「――魔獣が来るわ」

 

さやかの言葉でほむらが振り返る。その瞳の色は血の色に変わっていた。

 

 

******

 

幼馴染である鹿目まどかが改変した世界での記憶をまだ全て取り戻していないさやかにとって、魔獣は魔女よりある意味手ごわい相手であった。魔法少女であったものが敵でない点については申し分ないのだが、それ以外については何一ついいことはない。まずその形態。全てが謎のままである。魔女に似た風貌のものもいれば、巨大な仙人を思わせる風貌のものもいる。とにかくバラエティに富んでいて、しかも攻撃方法も様々なのだ。そして最もさやかを悩ませていたのが彼等が人間と融合することだった。この場合、どうしてもさやかは躊躇してしまい、怪我を負ってしまう。自らが保有している治癒能力に再生能力が備わっていることに感謝しながらさやかは失った四肢を再生したこともあった。

 

――今夜は人間と融合していない

 

秘かに安堵の息を漏らしながら、さやかは宙を舞う。相方である美しい悪魔の様に空を飛ぶことはできないが、その代わり、何度も高く跳躍し魔獣に近づいていく。今夜の魔獣は古代の空を飛ぶ恐竜にどこか似ていて。変身しないまま、さやかは両手に剣を携えて魔獣を切り裂いていく。その背後に現れる黒いコートの女性、その背中には大きな黒い羽根が生えていて。

 

「どきなさい」

 

その声で反射的にさやかは素早く体を捻る。と、黒い羽根の女性――ほむらの手に収められたダークオーブから光が放出され、数匹の魔獣が瞬時に消失する。

 

「すげ…」

 

さやかが目を丸くしながら傍らの魔獣を倒す。それからほどなくして襲い掛かっていた魔獣を全て倒し、二人は結界が消え去った夜の公園で佇んでいた。そこは小高い丘になっているため、夜の街を見渡せることができる。しばらく二人は何も語らなかったが、さやかが沈黙を破った。

 

「はあ~…大晦日だってのに、魔獣はほんと日を選ばないわねえ」

 

おどけたようにほむらに話しかけるが返事は無い。ほむらはというと、腕を組んで無表情に前方を見つめている。その横顔を見て、秘かに息を吐くと意を決したようにさやかはほむらの傍に寄り添った。拒む様子が無いので怒っているわけではないらしい。

 

「ねえ…あんた、私のこと心配してくれて…だからああ言ったんでしょ?」

「……」

「私、『ずっとあんたと一緒にいる』って約束を破るつもりなんてない、でも…そのためなら力が減ってきたことを相談するべきだった…ごめん」

 

風が二人の髪を揺らす。ここはかつて黒髪の女性が悪魔となる前、結界にも反映された場所だった。花壇の花や草もゆらゆら揺れて――

 

「自惚れないで」

 

ようやくほむらは口を開いた。そうして目を瞑ると長い溜息をついて。

 

「まあでも…わかったなら…いいわ」

 

その言葉で嬉しそうに微笑むさやか、その顔を見てようやく溜飲が下ったのか、ほむらは肩をすくめる。

 

「今度何かあったらあんたに必ず言うから」

「お気楽ね」

「あんたが守ってくれるからね」

 

そう言って、目を細めたさやかを見て、何故か

一瞬驚いた様な表情をほむらは浮かべた。そうして目を伏せると彼女は唇を噛んだ。先ほど蒼い髪の女性に与えたように血が浮き出てくるが、気にせずにそのままさやかを見つめる。驚いたさやかの瞳。

 

「貴方は絶対に死なせない、もし死ぬなら」

 

悪魔はかばん持ちに身体を寄せる。肩に手を置き引き寄せて、顔を近づけた。触れるほどの距離で見つめ合う二人。そして

 

「私が殺すわ」

 

唇が重なった。

 

微かな血の味を感じながらさやかはゆっくりと目を閉じた――

 

 

 

END

 




下書きはもっとキスが濃厚でしたが、あっさり目に変更しました。
R18でそのあたりは頑張ろうと思います(何)

ではよい大晦日を…
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