時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
表面上、人として暮らしていくうちに、暁美ほむらと美樹さやかは酒を嗜むようになった。魔獣との戦いが無い時や、さやかの仕事が休みの日、あるいは逆に魔獣との激しい戦いの後、二人で互いの傷を確認し合ってからそのままBarに流れ込むことももう何度もある。あの頃の険悪だった関係は、長い時、時折訪れる奇跡的な平穏な瞬間を積み重ねていって徐々に解消されていったが、その要因のひとつが『アルコール』であったことは間違いないだろう。そして今夜も二人はバーで飲むことに…それはそんな平穏で不思議なひと時の話――
******
「私と宇宙まで行ってくれる?」
そう美しい悪魔がさやかに囁いた時も二人は行きつけのバーで飲んでいた。
こじんまりとしたオールドバー店内はカウンターにいる二人以外は客はいない。その前でシェーカーを振る初老のバーテン。流れるジャズ、バックバーの磨かれた酒瓶。悪魔のすぐ横にいる蒼い髪の女性はロンググラスを口に当てながら目を丸くした。
「へ?宇宙?」
ジンバックを口に含むのをやめて、さやかはいささか間の抜けた声で聞き返す。酔いが既に回っているのだろう、その目はどこか泳いでいて『あの頃』の面影を宿しながらもほっそりとした精悍な顔つきは見事に紅潮していた。そんな彼女を面白そうに眺めながら悪魔はカウンターに頬杖をついた。長い艶のある黒髪がさらり、と背中から流れ落ちる。
「そうよ」
切れ長の目に宿るアメジスト色の瞳が妖しく輝く。恐ろしいほどの美貌。TPOに合わせ今はある程度抑えているが、悪魔が持つ特有の妖艶さは隠しきれるものではなかった。溢れだす色香。悪魔―暁美ほむら―は美しい女性に成長していた。泳いでいたさやかの目が更に泳ぎ、酔いで紅潮した頬が更に赤くなったのはアルコールの所為だけではないのだろう。
「馬鹿ね」
くっくっと頬杖をつきながら笑う。いつもよりご機嫌で若干陽気なのは悪魔と化したこの美女にもアルコールが有効だからだ。その証拠に白磁のような肌には赤みが差していて。
「お待たせしました」
バーテンがほむらの前にカクテルグラスを差し出す。ショートグラスに透き通った爽やかな薄い緑色の液体、その淵にスライスしたライムが添えられている。ギムレットだ。
「ありがとう」
体を起こし、優雅にグラスを受け取ると、ほむらはスライスされたライムを指でつまんだ。艶のある唇とライムが軽く触れ合った後、赤い舌がそれを舐め取り、少量捕食する。
「エッロ…」
さやかがぽつりと呟くと、ライムを咀嚼しながらほむらが肩を震わせる。この蒼い髪の女性には『これが』非常に有効なのだと黒髪の女性はもう心得ていて、それを確信した笑いだ。10年の歳月は悪魔にこのような笑みを浮かべさせることも可能にさせる。こく、と喉を鳴らしライムを飲みこむと、ほむらは横目でさやかを舐めるように見つめた。左耳のイヤーカフスのペンダントが一瞬輝いて。
「貴方にはこれが『有効』なのよね」
「ゆ…ば、ち、違うわよ」
慌ててほむらから顔を逸らし、さやかはグラスの中の液体を一気に飲み干す。楽しそうにくすくすと笑うほむら。アルコールが入ると二人は普段よりも互いに対して馴れ馴れしくなるのだが、度合いは悪魔の方が高そうで。
「次は何にする?」
そう甘く囁くと、ほむらはさやかにもたれながら空になったグラスを取り、小首をかしげる。ああ、と気づいたようにさやかが『ジンバック』と呟いた。
「それをひとつ」
艶やかな声でほむらがバーテンに注文すると、初老の男性は目を細め頷いた。
「仲がよろしいですな」
低いバリトンの声が干渉するわけでもなく快く二人の耳に響く。照れたように笑うさやかとややすまし顔の美女。
「えへへ、そうなんで――」
「今夜だけなので」
「ひど!」
ほろ酔いながらも軽快なやりとりは、かつての二人を知っている者が見かけたなら驚くであろうが、あいにくもうかつてを知っているものは二人以外いない。その代わり、老齢のバーテンが穏やかに笑った。
***
カラン、とロンググラスに入れた氷が音を立てる、そこにジンとレモンジュースを注いで最後にジンジャーエール、シュワッと泡立つ音の後、カラカラと液体をかき混ぜる。そしてライムの輪切りをグラスの淵に添えればジンバックの完成だ。
「わあ、美味しそう」
子供の様な歓声をあげ、さやかが嬉しそうにグラスを手に取った。
「子供みたいね貴方」
「いいじゃん、たまには」
そう言ってグラスを口に当てた後、何かに気づいたように目を丸くする。
「そーいや、あんたさっき宇宙の話してたけど…」
「ああ…そうね」
額に手をあて、ほむらは首を振る。
「忘れて…大したことじゃないから」
「私答える前だったわ、答えさせてよ」
「ご勝手に」
「行くわ」
目を丸くするほむら、一瞬だけ酔いが醒めたようで。向かい合うさやかもまた顔は紅潮しているが、美しい悪魔に向けたその眼差しはしっかりしていて。ふう、と息を吐いた後、さやかは言葉を続ける。
「私、あんたに昔…高校生くらいだったかな?言ったでしょ『どこまでもついていく』って、あれ本気だからさ」
美しい悪魔は何も答えず、ただギムレットを口に含んだ。
「あんたのことだから、近い将来またまどかの為なら宇宙を改変しかねないからねえ、その時は私も形を変えてでもついていくわよ、ほら」
そう言って、『ガシャン』『ドカーン』と声をあげ、身体を大げさに動かしロボットの真似ごとをするさやか。その横で呆れたような顔を浮かべるほむらだが、次第にその顔は笑顔に変わっていき、とうとう吹き出した。
「ほんと…貴方って馬鹿ね」
喜んでいるような泣いているような不思議な笑い。その横で思いのほか穏やかに笑っているさやか。悪魔を気遣う鞄持ち、道化を演じる鞄持ちを受け入れる悪魔――10年の歳月が二人を大人に成長させ、そして軋轢を解消させていた。
「…また改変する気?」
「いいえ、まだだめよ、まだ…せめてまどかの生を見届けるまではそのままで…」
そのままでいたい――
そう囁いて目を瞑る。そんな黒髪の女性の横顔を見つめるさやか。そうして何か思いついたように
「ねえ、あんたの飲んでるギムレットと私が飲んでるジンバックって似た者同士なのよ、知ってた?」
不思議そうに鞄持ちを見つめる悪魔。しばらく間を置いてからゆっくりと喋りだす。
「……同じジンベースってことなら、当然知っているけど?」
「ちぇ、やっぱり知ってたか」
「それがどうかしたの?お間抜けさん?」
「ひど!」
くすくすと笑い合う二人、どうやらまたほろ酔いモードに戻ったようで。
「てかさ、似た者同士の飲み物をチョイスするんだから、私達も似た者同士だって思わない?」
「だから?」
「二人揃えば無敵ってこと」
「いい気なものね…でも、それもありかもね、いいわ――」
そうして鞄持ちを見つめて
「その時は問答無用で貴方も宇宙に連れていくわ」
「喜んで」
空になったグラス二つ
「ギムレットを」
「ジンバックを」
互いのカクテルをオーダーし合う二人。
彼女達の夜はまだまだ始まったばかりだ――
それから一時間後―カウンタ―で仲良く手を繋いでる女性二人が何を語り合っていたかは別の話――
元々は「ギムレットとジンバック」という題名でUPしましたが(10分ほどだけw)pixiv全年齢でUPするのにお酒をババーンと前面に出すのはいかがなものか?と自問自答してもんもん(何)してしまい、結局こちらの題名になったSSです。
もし、見滝原メンバーが大人になってお酒を飲む様になったとしたら、私はほむらとさやかが普段よりも仲良くなるんじゃないかなあと思っているんですよね(あくまで個人的妄想)大人になった二人があの頃よりも、そして普段よりも仲良く会話している姿が見たい…!そういう思いが強くてついついbarで飲む二人を書いちゃうわけです…これからもこのパターンのお話どんどん書くと思いますが、お気楽に読んで頂ければありがたいと思っています。ではでは…!