時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集) 作:さんかく@
「私はまどか以外はどうでもいい」
「まぁ知ってたけどね、でもそこまであからさまに言われるとあんまいい気はしない――」
「だから貴方がどうなっても私は気にしないわ美樹さやか」
「ちょっ…ちぇっ知ってるわよそれくらいいちいち言わなくても」
「あら、そうなの、それなら――」
この年月も悪いものではなかったようね――そう微かな皮肉を込めて美しい悪魔は微笑んだ。大人びた横顔。
時の流れは偉大だと何かの本で読んだ。それは病院にあった本だったのか、休憩時間手持無沙汰で図書館に入った時のことだったのか暁美ほむらは覚えていない。だがその一節だけは何故か悪魔になった今でも脳裏に刻みつけられていて、この愚かでおせっかい焼きな蒼い髪の少女と一緒にいる時よく浮かんでくる。いや、正確にはこの少女の時だけだ。
「はぁ…ったく、悪気があるんだかないんだか」
公園の芝生の上、くつろいで座っている悪魔の横ですっと立ち上がるさやか。まだ変身は解いていない。すらっとした肢体に翻るマント。だいぶ背が伸びたように感じるが実際そうなのだろうとほむらは思った。そうして己がまどか以外のことを考えていることに気づき、自嘲する。
いつから私はこうなったのだろう?
悪魔と化してから何かが変わった。
巴マミ、佐倉杏子を拒絶し、この愚かな少女もそうする予定だったのに、取り戻した記憶を奪うこともせず、こうして魔獣退治に共に勤しむようになり、あまつさえ談笑するようになった。かつての自分なら想像もつかなかっただろうが、これもまた「時」の力なのだと悪魔は自分に言い聞かせた。まさに時の流れは偉大なのだ。
「でも、あたしはさ…」
半分に欠けたままの月を見上げ、さやかは呟きそして途中で辞めた。それを面白そうに見つめる悪魔。
「なあに、もうぼけ始めたのかしら?
「ひどいわね、まだ18だっつーの」
そう言った後、こほんと咳払いしてしばらく逡巡するさやか。そうして意を決した様に低い声で囁いた。
「あたし…あんたも救いたい、まどかだけじゃなくて」
涼しい風が悪魔の頬をかすめ、長い黒髪が揺れる。
「貴方の記憶さっさと消しておけば良かった…でももう遅いわね」
ふわりと悪魔が立ち上がる。二人丘の上街を見下ろす形で並びあって。
「私は貴方に救われるほどひ弱じゃないわ、美樹さやか」
「知ってる」
「そんなおせっかいはあの子にだけ向けなさい、そうすればこれからも協力してあげるわ」
はあ、と息を吐いて、さやかは何も言わず頷いた。
「いい子ね」
妖艶な笑みを悪魔は元鞄持ちに向けた。そうしてその頬が赤くなるのを見て愉快そうに笑う。変わったのはきっと――
「ねえ、せっかくだからひとつお願いがあるのだけれど」
「なによ」
「もし、私が消えることがあったとしたら、貴方がまどかを守って」
「言われなくても守るわよ、てか、あんたが消えるなんてそんなの許さないわよ」
「本当におせっかいで愚かね貴方は、私は――」
「はいはい、『貴方はどうなっても構わない』でしょ?」
「そうよ、だから貴方も私のことなんて構わないで」
「わかった」
そう言って、さやかは悪魔をひと睨みしてから月を見上げる。そしてほむらもまた鞄持ちを見つめた後同じ様にする。
半分に欠けた月に見下ろされた二人、互いに何を思っているのか、それは誰にもわからない。だがひとつだけ確かなのは、この時二人は互いに嘘をついたということだ。
それはあと少し時を経てから判明する
とても綺麗な嘘―――