時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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お酒が入るとこの二人は1.5倍仲良くなりそうです(なんと)


悪魔は目で語る

 

カクテルで何が好きかと問われても、暁美ほむらは何も答えない。たぶん彼女にとって『好き』という言葉はとても特別なものだからだろう、と美樹さやかは思った。この幾つになっても鹿目まどか一辺倒の美しい女性は、あの頃と同じように不器用でそして哲学的なまでにストイックなのだ。

 

「…美味しい」

 

だから彼女が勧めたモスコミュールを飲んでそう呟いた時は、さやかはとても喜んだ。

 

「でしょ?」

「ええ」

 

ニヤリ、と何を思ったのか、ほむらは笑った。こうなるとさやかは何もできなくなる。見惚れてしまうのだ。『すっげー美人!』と無邪気に言った14歳の頃が脳内に浮かんでくる。長い黒髪に白い肌、それはあの頃と少しも変わらない。その美貌も。いや、正確にはさやかの斜め上を行くほどにその美しさも増している。成人してからの大人の魅力とでも言うのか、それに加え、悪魔と化した時に身につけた色香まであるときている。そして彼女はとんでもないことを呟いた。

 

「貴方みたいな味ね」

 

一瞬、息が止まって、心臓が跳ね上がる。それを見てくすくすと笑う黒髪の女性。

 

「ちょ…」

 

さやかは思わず自分の顔を撫でた。赤くなっていることは見なくてもわかった。もう、と口を尖らせ動揺を隠すさまをこれまた悪魔はさも楽しそうに見ている。

 

「それじゃあ、私は別のものを頼んでみようかしら」

「へ、何頼むの?」

 

優雅にバーテンに向かって手を軽くあげると、ほむらは艶のある声で囁いた。

 

「ソルティドッグを」

 

バーテンはかしこまりましたと静かに頷くと、カクテルグラスと小さな銀皿を取り出した。興味深くそれを見つめるさやか。銀皿にパラパラと塩がまかれ、薄くまんべんなく広がっていく。今度はグレープフルーツを半分に切り、バーテンはそれをカクテルグラスの縁に擦り付け、そしてそのまま逆さまにして塩に押し付けた。二、三回グラスを軽く左右に回した後ゆっくりと元に戻すと縁にはまんべんなく塩がついていた。まるで雪の様に綺麗な白、スノースタイルだ。

 

「わあ、手際いいわね」

 

さやかが思わずつぶやいた。満足気に頷くほむら。淡々とバーテンは次の工程に移る。ジューサーで先ほどのグレープフルーツから果汁を絞り出すと、こし器を通してシェーカーに注ぐ。さらにウォッカ30mlを加えると氷をいれ、すぐさまシェイクする。氷と液体がシェーカーにあたる音が心地よい。しばらくして、先ほどの「雪」のついたグラスに液体が注がれ、縁にレモンの輪切りが添えられた。ソルティドッグの完成だ。

 

「お待たせしました」

 

ほむらの前にカクテルグラスが差し出された。グレープの果汁の色と縁の塩が飲酒欲をそそる。ほむらはゆっくりとグラスを持ち上げ口に運んだ。艶のある唇が塩に触れ、そして少しだけ液体を口の中に含む。こくり、と喉が鳴った。

 

「…美味しいわ」

 

満足気に目を細めるほむら。それを見て嬉しそうに微笑むさやか。

 

「あんたのお気に入りのカクテル、ソルティドッグなんだ」

「この塩味とグレープフルーツの果汁がいいのよ、それに」

「それに?」

「カクテル言葉も気に入っているの」

「へ、花言葉みたいなものなのそれ?」

「ええ」

 

得意げに頷くほむらを見て、さやかは凝り性ね、と呟いた。まあそこが彼女の長所といえば長所なのだが。

 

「で、このカクテルの言葉はなんなの?」

「『寡黙』よ」

「あんたじゃんそれ」

 

さやかの言葉にほむらは「ぴったりでしょ?」と息を漏らして笑った。そうして何か言いたげにさやかを見つめて言葉を続けた。

 

「もうひとつこのカクテルが気に入っている理由があるのだけど、当ててみて?」

「へ、まだあるの?…そうね…色とか?」

「違うわ、名前よ」

「名前?」

「ソルティドッグ…甲板員を意味しているのだけど、当時のスラングで『しょっぱい犬』と呼ばれていたらしいのわ」

「へぇ…あんたってほんと博学よね」

 

大学では化学を専攻していたはずなのに、この悪魔の教養は果てしなく深くて広い。さやかが目を丸くすると、美しい悪魔はさらにこの鞄持ちが目を丸くするようなことを囁いた。

 

「私、犬が好きだから」

 

むせるさやか。だが悪魔はじい、とそんな鞄持ちを見つめて。酔いのせいもあるのだろうが、その瞳は少しだけ揺らめいていた。

 

「え、そ、そう?」

 

こくりと頷いてほむらは囁いた。さやかを見つめたまま。

 

「ええ、犬がね」

 

そうして、じい、とまたさやかを見つめ、そうして口元を緩めた。

悪魔に魅入られた鞄持ちはただ戸惑いながらその瞳を見つめ返すことしかできなかった。

 

二人の夜はまだまだ長くなりそうだ――

 

 

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