時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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ホワイトデー大人になった二人の甘々な話―


白い日の悪魔

「さやか、私決めたわ」

「へ?何を」

 

ぱちん、と軽やかな音が立つ。軽く額をほむらに叩かれたのだ。

はあ…とため息をつきながら、ほむらはさやかに顔を近づけた。長い睫毛でアメジストの瞳は半ば隠されて。思わずさやかは体を後ろに逸らしてしまう。恐怖ではなく、彼女の妖艶な魅力で。

 

――いつになっても慣れないわ。

 

さやかは内心動揺していた。

この10年、彼女とは共に暮らしているというのに、まださやかはほむらの美貌や、彼女の放つ、尋常でない魅力に慣れていない。白磁のような肌に整った容貌を見ていると、どうにも落ち付かなく、視線を逸らしてしまう。それを面白そうに目を細め見つめるほむら。

 

「…あら、顔赤いわよ?発情でもした?」

「ちっ、違うわよ!…な、なによその憐れむような目!」

「お預けさせすぎたのかしら」

「犬じゃないってば!」

 

さやかの叫びでほむらはさも楽しそうに笑う。

窓辺でじゃれあう大人二人。久しぶりの平和な休日になりそうだ。

 

「…ところで、なんなのよ決めたって」

「あら、貴方まだわからないの?『お返し』よ」

「お返し…ああ、そっか!」

 

はっ、と何かに気付いたさやか。ほむらの顔をしばらく見つめ、思わず呟いた。

 

「やば…」

 

口を抑えて、さやかは慌てて回れ右をする。

 

「まったく…」

 

あきれたようにそれを見つめるほむら。そうして、さやかが2、3歩離れたところで、ほむらは腰に手をあてたまま、もう片方の手でくいと人さし指を曲げる。まるで見えない手で掴まれたように、さやかのすらりとした肢体がそのままほむらの元へと引っ張られる。ほむらの白い細い腕が背中からさやかを抱きしめた。情けない悲鳴をあげる蒼い髪の女性をよそに、その背中に顔を押し付け黒髪の美女は笑う。相方が顔を覗けない時はこのように彼女は笑うのだ、――幸せそうに。

 

「その様子じゃ、貴方は何も決めてないわね?」

「うう…ご、ごめんなさい、て、てか仕事忙しくてついうっかり、なんというか・・」

 

長くなりそうな相方の言い訳をため息で遮り、腕に力を込める。

 

「さやか」

「はい」

「殺されたい?」

 

ひい、とさやかの口から洩れる悲鳴。

背後で声を殺して笑うほむら。

 

「ご、ごめんなさい!約束守ります!」

 

ほむらに抱きしめられたまま、直立不動の姿勢になるさやか。

 

「あら、じゃあ貴方なんでも言うこと聞くのね?」

「う、うん、あ、はい」

「それじゃあ…ひとまずは許してあげましょうか」

 

ほっ、とため息をつくさやかの後ろで、くすくすと笑うほむら。

まるで単純な馬鹿犬をからかって楽しむご主人のように、彼女は背の高い忠犬の頭を撫でて。

 

「楽しみだわ、明日のホワイトデー」

 

嬉しそうな悪魔。世界の終わりのような表情の天使。

 

――やってしまったわ

 

さやかはものすごく後悔した。

 

『まどかのお返しは私が考えるわ』

 

そうあの日悪魔は言ったのだ。

 

『だから、貴方は私のお返しを考えて』

と。

 

まどかからバレンタインのチョコをもらった二人は、お返しを必死に考えた。思いつかないので結局ほむらが考えることになったのだが、予想外だったのは、ほむらからお返しを催促されたことだった。

その時には手のひらサイズのチョコしか「頂かなかった」のだが、その後、更に濃厚で煽情的な方法で彼女はほむらからチョコを貰っていた。

 

――な、何を要求されるかわかったもんじゃないわ!

 

(比喩でなく)ガタガタ震えるさやか。コーヒーを淹れながら、過去に思いを馳せた。

確か社会人になって、初任給をもらって舞い上がった時もひどい目にあったのだ。

 

『よおし、今日はさやかちゃんがなんでも奢っちゃいますよぉ!』

『あら、言ったわよ、さやか?』

 

あの時の大盤振舞いは二度とできないと思う。

ほむらが微笑んで、数時間後に、さやかの初任給は半分になっていた。

 

――こ、今度は何をされるのかしら…

 

思わずコーヒーがカップから溢れそうになって、さやかは我に帰る。

 

「おおっと」

 

伸びた蒼い髪を揺らして、カップを持ち上げる。8年間、悪魔にコーヒーを淹れ続けた彼女の腕前はなかなかのものになっていた。カップを手に持ち、振り返るさやか。

視線の先には、白いテーブルでくつろいで座る彼女がいて。

白いテーブルに白のワンピース、白い肌、そして長い黒髪。白と黒のコントラストはそれだけで眩しく、美しく。もの憂げに外を見つめている恐ろしいほど美しい横顔。

 

――ああ、でもどうでもいいかも。

 

さやかはふと、口元を緩める。その大人びた顔に浮かぶ無邪気な笑顔。

そう、こうやってこいつと過ごせるだけで私は幸せなんだ。

 

「ほむら、コーヒー淹れたよ」

 

そう言って彼女は、黒髪の美女にカップを差し出した。

嬉しそうに、アメジストの瞳はさやかとカップを映し出していて…。

 

 

 

 

 

*********

 

<余談、あるいはホワイトデーの事初め>

夜の帳も更けた頃、二人は眠りにつく前に軽くブランデーを傾けていた。

 

「ところでさ、まどかへのお返しってなんなの?」

「あら、言ってなかったかしら?」

 

グラスを手に、ほむらはさやかを見つめて囁いた。

 

「お出かけするの、郊外にとてもいい森があって」

「へえ、旅行ねえ、いいわねえ、あんたにしてはかなりロマンチックね」

「あら、ひどいわね」

「えへへ、ごめんごめん、いいじゃん楽しんできなよ」

 

ほむらが眉をひそめる。

それに気付くさやか。

 

「え、な、何?私変なこと言った」

「…貴方も行くのよ?」

「嘘!」

 

さやかは驚いた。そんなさやかに驚くほむら。こういうところは似ているらしい。

 

「嘘って、貴方…どういうつもりよ?」

「いや、どうって、こういうもんって二人で行くもんじゃないの?いいの?あんた」

 

お金の事なら、二人のお返しとしてさやかも払うつもりだが、旅行自体にさやかは行く気はなかった。だって、ほむらのまどかへの想いを知っているから。

 

「いいも何も…貴方が行かないと始まらないわ…」

「ほむら…」

 

じんときた。酒のせいか、思わず泣きそうになる。

 

「だって、「人数」合わせないと…」

「へ?」

「まどかに連れがいるのよ」

「ええ?」

 

さやかは初めて心で幼馴染を批判した。まどかってば、あの子だってほむらの想いには気づいているはずなのに…なんで?

 

「連れって、誰よ?タツヤ君?それとも…」

 

もし新手の存在(特に男)だったら追い出してやろうとさやかは決心した。

 

「モカちゃんよ」

「モカ?………」

 

モカ…モカ?公園でまどかと会った時にそんな名前聞いたような…しばらくさやかの頭は考える。そして数秒後。

 

「犬じゃないの!!」

 

叫んで、椅子から立ち上がった。さやかのグラスが揺れる。

きょとんとする悪魔。優雅に黒髪を手で梳いて。

 

「ええ、そうよ、まどかが郊外でお散歩させたいって言うから…」

「別にいいじゃない、二人と一匹で!」

 

口を尖らせる悪魔。一瞬それが可愛いと思ったのだろう、さやかがはっ、と見惚れる。

 

「だって私もお揃いがしたいもの」

「お揃い?」

「まどかと一緒に、私も犬を連れてお散歩がしたいわ」

「マジ?てか、なんで私?犬役?」

「貴方しか私に懐いてないし」

「マジだ!あ、あんたじゃあ、あの棚にある袋…」

 

わなわなとさやかの手が震えながら、台所の棚を差す。にっこりと微笑むほむら。

 

「ええ、お店で買ってきたの、新作だって」

「………」

 

呆然とするさやか。あの袋は見覚えがあった、ほむらがさやかに「犬のおもちゃ」を買ってきた時の袋だ。さやかが深呼吸した。彼女が本気か冗談か見極められないのはいつものことだ。落ち着こうと。

 

「もしかして…リード?」

「あら、よくわかったわね」

 

ジーザス!

頭を抱えるさやか。大人の女性らしからぬコミカルな動きで唸ると、さやかはほむらを見つめた。

 

「お願い!ほむら!リードだけはやめて」

「なんで?新作よ?結構長さもあるし問題ないわ」

「あるわ!大ありよ!」

 

大の大人が、それもいい年の女性が、首輪をつけられリードに繋がれているのだ。しかもそれを握っているのは、更に恐ろしいほど美しい女性。いかがわしいにもほどがある。

 

 

「リードをしなくていいなら、私も行くから!」

「あらそう?…仕方ないわねえ、じゃあリードは我慢してあげるわ」

 

ほっとするさやかに、微笑むほむら。

もしかしたら、彼女はもうすでにいいように操られているかもしれない。気を取り直して飲み直す二人。

酔いもまわってきていい頃合いに、さやかはほむらに尋ねた。

 

「まあ、でも楽しみね、いつ行くの?」

「まどかの休みに合わせて明後日から行くわ」

「そっか…」

 

そうしてさやかは時計に目をやる。まもなく深夜だ。

楽しみだね、と言ってたちあがるのをほむらが手で止めた。

 

「?何」

「もうすぐ14日よ?」

 

ぎくっ、とするさやかを目を細めて見つめるほむら。酒の所為か、ほむらの目は潤んでいて。そしてさやかも少し酔いが回って来たのか、ノリがいい。

 

「うう、まだちょっと覚悟はできてないけど、何?なんだって聞くわよ?」

「…そうねえ、今日一日は何百回と言うこと聞いてもらうけど、最初は…」

 

そうしてさやかの手を引っ張ると、顔を近づけて。

 

「キスして」

 

手と手が絡み合って

 

「うん」

 

そうして二人の顔は角度を変えて重なった。

まだこれが一回目。

「ん…」

 

何回まで続くかは悪魔次第。

ゆっくりと互いの腕が体にまわされて、強く強く抱きしめ合う。

二人は立ち上がり、そのままベッドへと連れ添った。

ホワイトデーはまだ始まったばかり…。

 

END

 

 

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