時過ぎて(大人悪魔ほむら×大人さやか短編集)   作:さんかく@

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大人ほむらとまどか、そしてさやかが遠出する話。もしかしたら遠い未来美樹さやかは二人の鞄持ちになるのかもしれません(何…)
ほのぼの、エロ(匂わせ)、ちょっとした伏線(シリアス路線の)あり、「ほむら買い物に行く」(R18)の続きでもあります。


ほむら旅行する

ガタン、と大きな音を立てて車体が揺れる。ワインレッドに塗装された車体に、森の影が映し出され、モザイクのような模様が浮かんだ。

ここは○市の郊外。すでに道は舗装されてなく、青い空と緑生える林道を、4WDのワインレッドの無骨な車が颯爽と走っていた。

 

「いや~いい天気になったわねえ」

 

運転席でハンドルを握っている蒼い髪の女性が、陽気な声で後部席にいる友人達に話しかけた。デニムに白のパーカーとスポーティなファッションに身を包んだ彼女は、手慣れた動作でハンドル横にあるシフトレバーをチェンジする。

 

「ちょっと、貴方」

「へ?」

 

パチン

乾いた音が響いた。

後部座席から運転席へ身を乗り出した黒髪の女性が、後ろから運転手の額を器用に叩いたのだ。

 

「あいたっ…ちょっとお」

「運転手は前を見て、黙りなさいな」

「はあ?私ちゃんと…」

 

白い手が伸びた。後ろから黒髪の女性が運転席ごと運転手を抱きしめる。ぎゃあ、と変な悲鳴があがった。

 

「今、こっち向いたわ…」

「今でしょ!てか、やめて、首が苦しい!あ、危ないわ!」

 

必死に抗議する運転手、それでも視線はしっかりと前方に向けられて。

 

「ほむら!降参!」

 

運転手が叫んだ。後ろから運転席ごと抱きしめている女性は、その美しい容貌をとうとう耐えられないという様に緩ませて吹き出した――彼女は運転手をからかっていた。

 

「もうほむらちゃん、危ないよ?」

 

同じく後部座席に座っている、桃色の髪の女性が、黒髪の女性の奇行をたしなめる。あら、と黒髪の美しい女性――暁美ほむらは振り向くと、髪を右手で梳きながらおとなしく座席に座りなおした。

 

「まどかがそう言うならやめるわ」

「ひど!ひいき!」

 

運転席の蒼い髪の女性が抗議の意を表して、頭を揺らす。そのユーモラスな動きに今度はまどかが吹き出した。中学時代から周囲を明るく盛り上げてきた蒼い髪の女性は、10年経って成長した今でも変わらずそうらしい。まどかは頬に手をあてながら、笑顔で囁いた。

 

「もう、さやかちゃんは相変わらずだね」

「ほんと相変わらず馬鹿ね」

 

そして黒髪の美女も合わせたように囁く。息ぴったりだ。

 

――何これ、なんかの罰ゲーム?

 

思わず美樹さやかは心の中で呟いた。そうしてバックミラーに映った後部座席の二人の女性を見る。

ミント色のショートパンツに白の可愛らしいブラウスを着た幼馴染と、淡い水色のロングワンピースに白のカーディガンを羽織った相方。二人は似ていない姉妹のように仲睦まじく笑っていた。いつも何かに追われているように緊張している表情の相方が、こんな風にリラックスしているのをさやかはあまり見たことがない。

 

――よかった

 

ふ、と口元を緩め、さやかは運転に集中する。と、頬に柔らかいものが触れた。

 

「ワン、ワン!」

「わあっ、モ、モカ!」

 

へっ、へっ、へっ、と口元をだらしなく開けながら、つぶらな瞳でさやかを凝視している大型犬――モカは、さっきまで、窓の外に身を乗り出していたというのに、いつの間にか助手席に収まりさやかにじゃれはじめていた。モカは「おいでおいで」をしているかのように、右脚をちょい、ちょいとさやかにあててくる。それがちょうどさやかの頬に当たったのだ。犬の柔らかい肉球の感触を味わいながら、さやかは叫ぶ。

 

「ちょ、モカやめなって、遊ぶのはペンションに着いてから、こらっ」

「ワン!」

「わかってないじゃん!」

 

その様子を見て、後部座席からひと際大きく笑い声があがった。

 

 

*      *      *

 

まどかの手作りチョコレートのお礼にと、ほむらが郊外の旅行を提案したのは二週間前の事。まどかは驚いたが、喜んでそれを享受することにした。ほむらも大層喜んで、二人の旅行計画の話ははずんだ。

 

『郊外なら…モカも連れて行きたいなあ、いつも公園でしかお散歩できないから』

『それはいいわね、郊外にいいペンションがあるのよ、ペットも同伴可能よ』

『うわあ、嬉しいなあ、広いところでモカとお散歩したかったの…でもどうやって行くの?』

 

ほむらが車(しかも4WDの大型車)で出かけるのを提案した時には、まどかも驚いた。だって、提案した友人は車の免許を取得していなかったから。

 

『家に優秀な運転手がいるのよ』

 

運転手…?首をかしげるまどかにまた、黒髪の友人が追い打ちをかけるように囁いた。

それはもう嬉しそうに微笑みながら。

 

『それにモカのお相手に私も犬を連れて行くわ』

 

*     *       *

 

「…運転手で犬かあ」

 

フフ、とまどかの口元が緩む。

 

「どうしたの?まどか…」

 

急に何かを思い出したように微笑んだまどかをほむらは優しく見つめた。

 

「うん…ほむらちゃん家のワンちゃんはおりこうだなあって…」

 

ティヒ、と子供っぽく笑うと、まどかは視線をほむらから前方の運転席へと移した。つられてほむらも視線を映す。

蒼い髪の運転手がカーオーディオに触れようとする大型犬をたしなめていた。

ほむらの形のいい口元が一瞬緩む。

 

「まあ、そうね…車の運転も出来るから上出来かしら」

「もう…ほむらちゃん、ちゃんと褒めてあげないと、犬は意外と寂しがり屋だよ?」

「あら、そうなの?」

 

二人、一瞬見つめ合うと、同時に笑った。

話題になっているとは夢にも思わず、モカとじゃれている運転手。

 

「…いいなあ」

「え?」

 

まどかの呟きに、不思議そうに反応するほむら。

車窓の風景に視線を映してまどかが呟く。

 

「こんな時間がずっと続けばいいのに…」

「まどか………」

 

ほむらはそっと、目を伏せて、……そうね、と小さく囁いた。

 

「ほむら!」

 

名前を呼ばれ、彼女は顔をあげる。

運転席の彼女の「忠犬」が、したり顔で前方を指差していた。何やら林の中に建物らしきものが見える。目的地のつもりだろうが、それはただの廃屋だった。はあ…とため息をつくと、黒髪の飼い主は運転席に身を寄せた。

ぱちん

いつものとおり、飼い犬の額を叩く。

 

「あいた!」

「馬鹿ね、あんなにちっちゃな建物な訳ないでしょ?」

「だって…わっ苦し!」

 

そうしてまた運転席ごと飼い犬を抱きしめた。

 

「ほんと馬鹿ね…」

 

悪魔の表情はとても…。

 

* * * * * * *

 

目的地に着いたのはそれからほどなくして。

 

広大な敷地を有し、犬同伴可能なそのペンションは、緑豊かな静かな林の中に佇んでいた。ほむらの大学時代のツテで予約が取れたのだが、予約待ちで一年以上はかかるほど人気があるクチコミの店だ。

 

「うわあ…綺麗」

 

車から降りたまどかが感嘆のため息を漏らす。

白を基調とした美しい二階建ての木造洋風建物。周囲には青々とした木が茂っていて、

鮮やかな緑映える洋芝に、レンガの歩道が敷かれている。それが駐車場から本館の玄関まで孤を描くようにして続いていた。

 

「ほんとうねえ」

 

まどかの傍でさやかもその風景に見惚れながら囁く。

 

「さやか」

 

ほむらが車のトランクの傍で手招きしながら相方を呼んだ。

 

「あ、ごめん」

 

反応よくさやかは駆け寄ってきた。満足気に頷く黒髪の相方。さやかが中の荷物を取り出しはじめると、二人で手分けして荷物を車から降ろす。

 

「ありがとう、さやかちゃん」

 

まどかが普段持ち歩いているバックを受け取る。そしてほむらも。さやかもリュックを取ると、今度は大きめなピンク色のスポーツバッグを持った。

 

「あれ?さやかちゃんそれ私の…」

「いいのいいの、私が持つって、それよりさ、モカちゃんよろしく」

「ワン!」

 

助手席の窓から顔を出し、主人を見つめているモカ。まどかは破顔して、モカの元へ駆け寄っていく。

 

「あら、優しいのね」

 

さやかの傍にほむらが寄り添うように立つ。ほむらが目を細めてさやかを見上げると、さやかは得意げにえへへと笑った。が、次の瞬間顔をしかめる。ほむらが脇を小突いたのだ。

 

「いたた…っ、な、何よっ」

「へらへらしてるからよ…ほら」

「へ?」

 

ほむらの白い手がさやかの足元を差す。白の上質な革製のトランクケース。一泊にしてはかなり大きい。

 

「私のケースに貴方の着替えも入っているのよ?」

「そうだったわ…」

「寝坊した誰かさんの代わりに、服も下着も身の周りのモノも準備してあげたのは?」

「ほむら…」

 

よろしいとでも言う様に頷くと、美貌の主人は上目遣いで飼い犬に次の台詞を求める。

そのアメジストの瞳にはどこか殺気があって、さやかは心底怯えてしまった。

 

「ほむら、私が持つわ…てか持たせて!」

 

右手をお願いしますと言わんばかりにさやかはほむらの前に差し出す。

にっこりとほむらは微笑み、その手を握ると、さやかに顔を近づけた。まるでキスでもするかのような至近距離で囁いた。

 

「お利口さんね」

 

甘い声。そうして、ほんの一瞬だけ柔らかい唇が音を立てて触れる。

はっ、と驚くさやかをよそにくすくす笑いながらほむらはまどかの元へと去っていった。華奢な黒髪の相方と、小柄な桃色の髪の幼馴染の後ろ姿が仲睦まじく並ぶ。

 

「もう…なんなのよ」

 

ほんの少し顔を赤らめ、相方の後ろ姿に見惚れながら、さやかはため息をついた。そうして、さやかはまどかとほむらの荷物を運び始める――遠い昔に「鞄持ち」と己を称したことを思い出しながら。

 

――もしかして、私って、将来二人の鞄持ちになるんじゃ…?

 

「二大概念」の背中を眺めながら、ふと、さやかは逸脱した想像をした。

 

「ワン、ワン!」

 

モカが楽しそうに洋芝の上を駆けまわっている。我に帰ったさやかは何故か安堵した。

このペンションは犬のリードは不要らしい。

 

「さやか?何してるの置いてくわよ」

「大丈夫?さやかちゃん…」

 

気付けば二人がこちらを見ていて、さやかは驚くが、すぐに笑顔を浮かべる。

 

「大丈夫、今行くわ」

 

――まあ、それでもいいか。楽しそうだし…ね?

 

三人と一匹はレンガの歩道を歩きだした。

 

 

 *      *       *

 

玄関をくぐると、ペンションの中は、明るい陽光が射し込んでいていた。

 

「いらっしゃいませ」

 

受付のカウンターに品のいい壮年の男性が佇んでいる。銀髪に、ギンガムチェックのシャツにオーバーオール。ほむらがカウンターで手続きを済ませると、男性もついてきた。どうやらペンション内の案内と説明をしてくれるらしい。

 

受付のある本館には、一階に広々としたダイニングルームとテラス、バー、そして二階にはゲストルームがあった。三人が泊る部屋は別棟の平屋で、広大な敷地の中に7棟あるらしい。説明が済んで、興味深げにきょろきょろと周囲を見渡すさやかの足元に小型犬が寄って来た。プードルだ。尻尾をパタパタ振って「撫でて」と言わんばかりにこちらを見上げている。

 

「うひゃあ、可愛い…」

 

相好を崩して、さやかはしゃがんで犬と戯れる。気付けば、傍にもう一匹足の短い可愛らしい犬――コーギーもいる。わあ、とさやかは声をあげて二匹と戯れ始めた。まるで孫を前にした祖父母のようだ。

 

「まったく、でれでれして見てられないわ」

「だって、可愛いもの、ほら、見て見て!」

 

さやかは笑顔のままほむらにプードルを抱き上げながら自慢する。無邪気な犬の目にはさすがの悪魔も弱いのか、口元を緩め「そうね」と囁いた。

 

「でも貴方って、小型犬にモテるのね…飼い主としては複雑だけど」

「はあ、だから犬じゃないって…」

「冗談よ」

 

フフ、と笑ってほむらは目を細めた。

 

「ほむらちゃん、さやかちゃん」

 

まどかが二人を呼ぶ。声の方に視線を向けると、モカの傍にもう一匹同じレトリバーが尻尾を振りながらこちらを見ている。

 

「わ、モカの仲間まで!」

 

さやかのリアクションに微笑むまどか、その後ろでにこやかに佇んでいる老夫婦がいる。どうやら飼い主なのだろう。さやかとほむらは軽く会釈する。

 

「ペンションデビューも果たしたようだし、そろそろ行きましょうか?」

「そうね、無事モカもデビューしたし…なんだかわくわくしてきたわ」

 

ほむらの提案に、笑顔で応えるさやか。それに対しやや不可解な表情をして、ほむらが囁いた。

 

「…あら、貴方のペンションデビューも…でしょ?」

「もう!」

 

口を尖らせるさやかを見て、ほむらは吹き出した。彼女は相方をからかっていた。不思議と、彼女は相方をからかう時は無邪気な笑顔を見せるのだ。

 

…それにしても、とさやかは休憩室を兼ねたフロアを見て思う。老夫婦に品のいい中年の男女と、落ち付いた雰囲気の客層だ。さすがだ、とさやかは相方を内心賞賛する。若い浮ついた客層の中に入り込むと、ほむらやまどかは格好の注目の的になる。特にほむらは。さやかは大学時代にほむらを取り巻く騒ぎに何度も巻き込まれたことを思い出す。

 

…まあ、こいつのことだから、自分のことよりも、まどかの事を考えてのことだろうけど。

さやかはちらり、と黒髪の相方の後ろ姿を見て口元を緩めた。そうしてまた休憩室の客をチェックするかのように周囲を見渡す。一種の職業病だ。

 

『一見平和な所こそ、いざとなると危ないんだ、油断するな』

 

上司の言葉を思い出しながら、客の一人一人の顔を覚えるように眺める。犬を同伴させる客に悪い人はいないとは思うが…と、さやかの蒼い瞳が一人の男を捉えた。ワイシャツに黒のズボン、とこの場には相応しくない格好の中年の男が、一人離れた場所のソファに座っている。両手を組んで、その上にあごをのせて目だけできょろきょろと周囲を見ていた。傍に彼の犬らしきものは…いない。

 

要注意人物としておこう…何もなかったら失礼だけど。

 

そう思いながら、さやかは休憩室を後にした。

 

*  *  *  *  *  * 

 

「ひゃあ、雰囲気あるわ…」

 

本館から10mほど離れた三人の泊る平屋は、ログコテージ風の建物だった。でしょ?といわんばかりの得意げな表情を浮かべ、ほむらは「中も結構なものよ」とさやかに囁いた。

 

中はロフトと天窓付きの部屋になっており、洒落た作りになっていた。カップル用としてなら雰囲気満点だろう。窓の外はウッドデッキになっており、そのまま緑豊かなドッグランへ犬は駆けまわることができるようになっている。犬ではないさやかも思わず窓から飛び出して駆けまわりたくなる衝動にかられた。

 

「ねえ、ほむらちゃん、私ここ使っていい?」

「ええ、いいわよ、私はこちらを使うわ」

 

窓の外に見惚れていたさやかは、二人の楽しげな会話を聞いて振り返る。二人はベッドの上で荷物を広げていた。と、さやかが怪訝な表情を浮かべる。

 

「ねえ、ほむら」

「何?」

 

暑いのだろう、白のカーディガンを脱ぎながら、ほむらがさやかの方を振り向く。露わになった華奢な肩が眩しいが、動揺しているさやかはそれどころではない。

 

「ベッドが二つしかないわ…」

「それがどうかしたの?」

 

呆然としているさやかに、不思議そうに小首をかしげるほむら。驚きで叫びたくなる衝動を抑えながら、さやかは相方に恐る恐る尋ねる。

 

「…私はどこで寝ればいいの?」

「どこでって…モカちゃんを見習いなさいな」

 

ワン、と元気良く吠えるレトリバーは、まどかのベッド下の床で行儀よくお座りしている。

 

…まさか…!

 

口をぱくぱくさせて、しばらく言葉が出ないさやかを面白そうに眺めるほむらと、困ったような顔をしているまどか。ようやく、さやかに声が戻る。

 

「私はあんたのベッド下の床で…寝ろと?」

「あら、飼い犬なら主人の傍で寝るのが当然でしょう?」

 

恐ろしいほど美しい顔で、ねえ、ワンちゃん?と囁かれ、さやかは固まった。

そうして、泣きそうな顔でとうとう叫ぶ。

 

「人権っ!私の人権は!?」

 

我慢できないとでもいうように、ほむらが吹き出した。そうしてお腹を抱えながらベッドに倒れこむ。まどかが困ったように、さやかに言った。

 

「ごめんねさやかちゃん、驚かせちゃって、違うのよ」

「へ?違うって…」

 

苦しそうにお腹を抱えているほむらが、右手を上へ向ける。

 

「…ロフト」

「へ?」

 

さやかが上を見上げる。二つのベッドの傍に階段があり、ちょうど吹き抜けを利用した感じで四畳半程度のロフトがあった。軽い身のこなしでさやかが階段を上がる。

そこは畳が敷かれており、布団が二組置かれていた。さやかが安堵で長いため息を漏らす。

 

「なあんだ…早く言ってよ、もう!」

 

ロフトの柵から身を乗り出して、さやかがまだ苦しそうにお腹を抱えている黒髪の相方に抗議する。3メートル程度の高さのため、三人の距離は意外と近い。

 

「あら…別に私のベッドの傍でおとなしく寝てもいいのよ?」

 

涙目でほむらがさやかの方を見上げる。これでも必死に笑いを堪えた方なのだろう。さやかは舌を出して、「床でなんてお断りよ!」と叫んだ。

 

…いつもお間抜けな顔で床で寝てるくせに

 

ほむらは、普段、ベッドから落下して眠りこけている相方の寝顔を思い出して、ひとりほくそ笑んだ。

 

*      *     

 

荷物の整理を済ませ、三人(と一匹)は外へ出た。

このペンションの売りである広大なドッグランと、美しい並木道を散策するためだ。

 

「ワン、ワン!」

 

モカが元気よく吠えながら、まどかの周囲を駆けまわる。

 

「フフフ、モカ嬉しいんだね…よかった」

 

時折前脚をまどかの腰にあてて、モカは愛想よく尻尾を振る。よっぽど嬉しいらしい。確かにリード無しで走り回れることは犬にとって最大の喜びには違いない。すごい勢いで前方に走っていったかと思うと、Uターンしてこれまたすごい勢いでまどかの元へと戻ってくる。

「こりゃまた、モカちゃんも激しいねえ」

「あら、貴方は走らないの?」

「ええ?」

 

相方の言葉にさやかは驚く。

 

『私もまどかとお揃いがしたいわ』

 

そう言って、口を尖らせた相方の表情をさやかは思い出した。確かあの時、まどかと一緒に犬を連れてお散歩したいと言っていたような…。

 

「まさか、私もあんな風に…?」

「ええ、そうしてくれたら私も嬉しいのだけど…」

「そんな!」

 

さやかは自分がモカと同じようにドッグランを走り回り、Uターンしてほむらの元へ一直線に駆け寄る姿を想像した。そこには笑顔で迎える飼い主(ほむら)がいて…。

 

――い、いかがわしいわ!てか、なんか恥ずかしい!

 

首をぶんぶんと振って、拒否の意を伝えるさやかを見て、ほむらは風でそよぐ髪をおさえながら微笑む。

 

「馬鹿ねえ、あんな風に速く走ろとは言ってないわよ?」

「いや、それでもできないわ!」

 

ワン、ワンとモカは嬉しそうに何度も飼い主の周囲を駆けまわり続けた。

 

*      *

 

「いやあ…結構歩いたわね」

「えへへ、さやかちゃん、歩いたっていうよりも走ったって感じだけどね」

 

まどかが疲れた様子のさやかを見て笑う。結局あれからほむらのリクエスト通りに、さやかはドッグランを走り回ったのだ。頼まれると嫌とは言えないお人好しな幼馴染をまどかは微笑みながら見つめた。

「ん?何、まどか…」

「ううん…なんだか、さっきのさやかちゃん楽しそうだったなあって…」

 

さっきの、とは飼い主に一直線に向かっていくモカの模倣のことである。さやかの顔が赤くなる。

 

「え、い、いや楽しそうとかでなくてあれはっ…」

「もう照れなくていいよ、さやかちゃん…?」

「そうよ、別に照れる必要はないわ」

 

わ、とさやかが驚いて振り返る。

濡れた髪をバスタオルで拭きながら、黒髪の相方がさやかを見下ろしていた。

 

「あ、ほむらちゃん、お風呂もういいの?」

「ええ、まどか、次どうぞ」

 

うん、と頷くとまどかはすでに準備を整えていたのか、素早くお風呂に入っていった。ほむらとさやかの間に久しぶりに沈黙が訪れる。いつも家では二人だというのに、何故だかさやかは気まずくなり、ほむらから視線を逸らした。ほむらの口の端が微かに上がる。

 

「変な人」

 

そう言うと、ほむらは気にするそぶりも見せず、ベッドに腰かけてるさやかの傍に座って

バスタオルで髪を拭き始めた。さやかはちらりとそんなほむらを見つめる。いつもの風呂上がりとは違う相方の薄手のワンピース姿に、何故か動悸が早くなり、さやかは呻いた。

 

――ど、どうしちゃったのよ私!

 

そんなさやかの姿を見て、ほむらはさも可笑しそうに目を細める。

 

「ねえ、さやか…」

 

そうして白い手を伸ばし、ほむらは相方に触れた。

 

*       *

 

「さやかちゃん、お待たせ、お風呂空いたよ…って、どうしたの?」

「い、いや、なんでもないわ!」

 

妙に顔を赤くして、逃げるように浴室へと駆けこむ幼馴染と、すっきりした様子でベッドでくつろいでいる黒髪の友人を見比べて、まどかは首をかしげる。

 

「ねえ、ほむらちゃん、さやかちゃんどうしたの?」

「そうね…小型犬に発情でもしたみたいね」

「?」

 

くすくすとさも嬉しそうに笑うほむらをまどかは不思議そうに眺めた。

 

* * * * * * *

 

本館のダイニングルームの夕食は豪勢なもので、地元の旬な素材を厳選した料理はどれも素晴らしいものだった。三人は食事に集中してしまい、会話は少なめになってしまったがむしろ食後のワインで酔いが回り、多いに語ることとなった。終始おとなしかったのは、三人の食卓の下で食事を摂っているモカだけだった。

 

「…フフフ、楽しかったぁ、いっぱい喋っちゃったね」

「そうね」

 

ベッドのヘッドボードにもたれながら、まどかはほむらに微笑む。まだ酔いが醒めていないからか、顔はほのかに紅潮していた。ほむらもまどかを見つめ微笑む。そうして、ふとほむらは天井――正確にはロフトを見上げた。食事を終えて、部屋に戻ってからも長い間三人で語り合ったが、つい先ほど蒼い髪の相方は根をあげて床についていた。時計の針ももう深夜に近い。

 

「さやかちゃん、今日は一番働いたから…疲れたんだよ、きっと」

「そうね…」

「私達もそろそろ寝よっか?ほむらちゃん」

「ええ…」

 

そうして誰からともなく、二人はベッドのシーツに潜り込んだ。

二つのベッドはほぼくっついているといっていいほど近いため、二人は横になりながらも互いの顔を見つめることができた。

 

「なんだか不思議…こうして三人で過ごせるなんて」

 

まどかが嬉しそうに微笑む。それを何故かほむらは寂しげに見つめて。

 

「またこうして旅行したいな、三人で…」

 

そう言って、まどかはほむらへ手を差し伸べる。戸惑いながらもほむらはその手をしっかりと握る。最愛の人の手の感触を忘れないようにと。

 

――私は今死んでも構わない。

 

目の前に最愛の人がいて、見つめていてくれる。そうして、相方が――最大の理解者が傍にいる。二人と共に同じ空間で眠りにつくことができることにほむらは喜びを感じていた。このまま、眠りについて二度と目覚めなくてもいい…そう思うくらいに。

 

「ありがとう、まどか」

「え?やだなあ、ほむらちゃん、お礼を言うのは私だよ?こんな楽しい旅行に誘ってくれて…ありがとう」

「ううん…礼を言うのは私よ、あなたのおかげで私は…」

 

うまく言葉にならない。しばらく沈黙した後、ほむらは掠れた声で「また、旅行に行きましょう」と囁いた。

 

「おかしなほむらちゃん」

 

まどかはにこりと微笑んで、目を瞑った。二人はしばらく手をつないだままでいた。

 

*      *       

 

オオ――ン…

オオ――ン…

 

「ん?」

 

犬の遠吠えでさやかは目が覚めた。

寝ぼけながらも目をこすり携帯を確認すると、まだ午前5時。薄暗い室内で、「なんなのよ、もう…」とひとり呟きながら上体を起こした。そうして、ゆっくりと足音を立てないように階段を降りる。案の定、ベッドの二人は気持良さそうに寝息を立てていた。

 

オオ――ン…

 

「あれ…モカ…」

 

さやかは目を丸くする。

モカが窓の外で遠吠えしていたからだ。

 

――いつの間に外に?

 

不思議に思いながらも、さやかは手早く着替えを済ませ、玄関から靴を取り出し、窓へと向かう。ウッドデッキから外に出るつもりだ。ゆっくりと窓を開けると、まだ暗い朝の冷気で身体が震えた。

 

「寒…」

 

そうしてさやかは外へ出る。待ってましたと言わんばかりにモカがさやかを見て、ワン、と吠えた。

 

「こら、モカ!あんた朝っぱらから何遠吠えしてんのよ!」

 

さやかが叱ると同時にモカは林の奥へと駆けだした。

 

「あっ、こら!モカ、待ちなさい!」

 

さやかは駆け出した。薄暗い上に、霧がかかって前が見えないが、何故かモカの姿だけははっきりと見える。

 

――もう!昨日も散々走り回ったのに、なんなのよ!

 

木々の間を抜け、ようやくモカに追いつこうとした頃、目の前に黒い人影が見えた。思わずさやかはぎょっとして立ちすくむ。

 

「ワン!ワン!」

 

モカは何故か人影に向かって尻尾を振った。どうやら知り合いらしい。

 

……一体誰?

 

人影は黒衣を纏っていた。まるでおとぎ話の魔女のようにすっぽりと頭からフードを被っており顔は見えない。黒衣から白い手が伸びて、モカの頭を撫でた。

 

「あなたが連れてきてくれたのね?」

 

くうん、とモカが嬉しそうに黒衣の人物に甘えた声をあげる。さやかは驚いた、その声は彼女が知っている者の声だったから。いや、知っているというレベルではなく、彼女にとっては…

 

「ほむら…あんたそんな格好してどうしちゃったのよ?」

 

さやかは戸惑ったように黒衣の人物に声をかける。

 

…一体どういうことだろう?さっきまで彼女はベッドで眠っていたはずだ。

ゆっくりと、白い手がフードを下ろす。長い艶のある黒髪が現れる。長い睫毛で伏せられたアメジストの瞳、恐ろしいほどの美貌。

 

「さやか…」

 

ほむらはゆっくりとさやかに近寄ると、その頬に白い手を這わせた。そのアメジストの瞳には疲労の色が滲んでいた。

 

「人間の姿の貴方に会うのは久しぶりだわ」

「は?何言ってんの?私、い、犬じゃないわよっ!」

 

思わず、動揺する相方を見て、ほむらはくすくすと笑う。

 

「そうね…貴方はまだ知らないのよね、にしても…相変わらずね」

 

さも可笑しいといわんばかりに目を細めると、ほむらはさやかに口づけをした。何度もついばむように唇を重ねてくる。

 

「…ん…ちょ、ちょっと…ンっ、ま、まどかに見られたらどうするの!」

「見られないわ…もう誰もここにはいない…」

「へ…?」

 

 

艶やかな唇をさやかの顔に近づけ、ほむらは囁く。

 

「この世界には貴方と私しかいないのよ…」

 

そうしてほむらは強く、さやかを掻き抱いた。

 

*  *  *  *  * 

 

――ぱちん、

 

「あいた!?」

 

目が覚めると、目の前に恐ろしいまでの美貌があって、さやかは驚いた。

 

「ほむら…」

 

相方が心配そうにこちらを見ているのを見て、さやかが微笑むと、黒髪の美女は、はあ、とため息をついて、また手を動かした。

ぱちん、

 

「痛っ、ちょっと、2回も叩かないでよ!」

「…しーっ、まどかが起きるわ」

 

人さし指を唇にあてて、ほむらがさやかが起きようとするのを制止する。

 

「…うなされていると思ってわざわざ上がってきてみれば、貴方ってほんと変態ね」

「へ?な、なんでよ?」

 

…そういえば夢を見ていたんだっけ

 

だが、不思議と夢の内容がさやかには思いだせなかった。

 

「「まどかに見られたらどうするの?」って貴方呟いてたけど、どういうこと?」

「へ?何それ、私知らないわ」

 

ちっ、とほむらは舌打ちをすると、「変態」とまた囁いた。どうやらもっと致命的な寝言を呟いたらしい、身に覚えのないさやかは焦る。

 

「ほんと…知らないわ、私」

「誰と夢の中でしたかは知らないけど…昨日の「アレ」じゃ足りないみたいね?」

 

ニイ、とほむらが笑う。さやかはゾッ、としたこの笑みは「お仕置き」の笑みだ。逃げようとしたが、もう遅い。ほむらはさやかの上に覆いかぶさる。

 

「途中までしてあげるから、せいぜい悶々しなさいな?」

「ご…ごめんほむら…待っ」

 

妖艶な笑みを浮かべ、ほむらはさやかの頭を抑えると口づけを交わしはじめた。

やけに元気のない幼馴染を見て、まどかが不思議そうに首をかしげるのはそれからちょうど二時間後の朝食の時だった…。

 

*       *

 

「ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」

「こちらこそ、いい旅行が出来たわ、また利用させてもらうわね」

 

慇懃無礼に頭を下げる受付の男性に、ほむらは上機嫌に微笑みかける。傍には対照的に疲れ果てたような相方。少し遠目にまどかとモカが老夫婦に別れの挨拶を交わしている。さやかの足元には別れを惜しんでか、プードルとコーギーが尻尾を振って座り込んでいた。思わず口元を緩めるさやかを見て、ほむらがじろりと睨む。

 

「…ほら、行くわよ…まったく尻尾ばかり振って」

 

…な、なんでこんなに怒られなきゃいけないのよ!

 

身に覚えのないさやかからしたらたまったものではない。と、さやかの前に男が立ちふさがる。昨日、さやかが「要注意人物」と認識した男だ。訝し気な表情を浮かべ、さやかが男を見つめると、男は相好を崩して、名刺を差し出した。○○県警と名刺にはあった。刑事だ。

 

「あっ…あなたは」

「どうやら同業者らしいですな、いや、すみません、昨日貴方が私を睨みつけるもんですから、どういう人物かオーナーに尋ねたんです」

 

さすがは刑事といったところか、結構細心の注意を払って客を観察していたはずだが、「睨んでいる」と認識するなんて…さやかは内心驚いた。

 

「いえ、そんなこちらこそすみません…ところでここへは?」

 

さやかの質問を遮るように、男は掌をあげる。

 

「それは野暮なので聞かない方がいいですよ、そういうものでしょ?」

 

事件には立ち入るな…と言ったところか、さやかは微笑んで「そうですね」と答えた。確かに、こちらも旅行を楽しんできたのだ、首を突っ込むほど馬鹿じゃない。

 

「さやか」

 

待ちくたびれたかのように、ほむらが声をかける。おやおや、と言う様に男が苦笑した。

 

「結構な美人さんですね、怒ったら怖いでしょう?」

 

危く、「はい」と言いそうになり、さやかは堪える。代わりに苦笑して刑事と別れた。

 

*       *       

 

行く時は、楽しいものだったが、帰りはなんとなくもの寂しいのはそれほどこの旅が楽しかったからだろう。ラジオから流れる洋楽を聴きながら、さやかはハンドルを握っていた。

 

「…楽しかったね」

「そうね…」

 

バックミラーを覗くと、まどかがほむらに膝枕されて眠りについていた。気持ちよさそうに寝息を立てている。ほむらはさも愛しそうにその桃色の髪を撫でていて、まるで母親のようだった。思わずさやかはその光景を見て目を細めた。

 

――こんな風にずっと三人で過ごすことができればいいのに。

 

「さやか」

 

後部座席から、ほむらがまどかを見つめながらさやかを呼んだ。

 

「何?」

 

長い沈黙の後、ほむらは囁いた。さやかに笑みが浮かぶ。

 

――ありがとう

 

と彼女はさやかに礼を述べたのだ。

照れ隠しに、さやかはラジオのボリュームを上げた。

 

*  *  *  *  * 

 

二人が家についたのは、夕刻近くになってからだった。

荷物を解き、片付けを済ませたほむらとさやかは白いテーブルに腰かけ、コーヒーを飲んでいた。時折窓の外を眺めては、今回の旅行のことを、ぽつり、ぽつりと会話する。

 

「ねえ、今度はどこへ行くつもり?」

 

さやかがコーヒーを飲み干すと、ほむらに尋ねた。まどかが帰り際、また三人で一緒に旅行しようと約束を取り付けたのだ。

 

「そうね…」

 

窓の外を眺めながら、ほむらは囁く。

 

「別にどこでもいいわ、まどかと貴方と一緒なら…」

 

そうして、さやかを見て微笑んだ。

 

「ほむら…」

「私…昨日眠る時、このまま死んでもいいって思ったの」

「え…」

 

さやかは驚くが、その真意を知るために敢えて口を挟まない。ほむらは目を瞑りながら、言葉を紡ぐ。

 

「貴方がいて…まどかがいる…それだけで幸せだった」

「……」

「幸せだったのよ…」

 

うっとりと目を瞑るほむらは美しく、さやかは見惚れていた。そして同時に切なさで胸が痛くなる。彼女の、まどかを想い続けてここまできた彼女の生きざまをさやかは全て知っているから。彼女は大きな代償の元、これからも生き続ける、そんな人にどんな言葉も軽すぎて、さやかはかけることができない。

沈黙するさやかを見て、目を開けたほむらはくすくすと笑う。

 

「何も喋らないだけ、貴方もお利口さんになったのかしらね?」

「まあね…」

 

相方の軽口に、さやかは安堵する。そうして囁いた。

 

「…あんたとまどかが一緒に暮らせたらいいのに…ね」

 

ほむらの目が見開かれた。

しまった…とさやかは自分の失言を恥じた。そうだ…それができれば元々彼女はこんなに苦労はしていない。近づけば、まどかが記憶を取り戻し、今の生活を失う。最愛の人を守りたいために、自らの愛を封じ込め、見守り続ける。そう決意した彼女にこの言葉は、あまりにも愚かで…残酷だった。

ガタン、とほむらはテーブルから立ち上がると、台所へ向かった。

 

――傷つけた。

さやかは動揺する。

 

「待って、ほむら、ごめん!」

 

慌てて台所まで追いかける。ほむらの後ろ姿を見つめながら、さやかは詫びを何度も入れる。だが…なぜか触れることができない。彼女が壊れそうだったから。

 

「ごめんほむら…私、ひどいこと言った」

 

意を決して、さやかは左手をほむらの肩に伸ばす、触れようとした瞬間…ほむらが振り向いて手を伸ばしてきた。

 

――がちゃ

 

「え?」

 

気がつけば、さやかの首に何か巻かれている。にやりと笑うほむら。

どこかで見たような…蒼色の、ベルトのようなものに、肉球のデザインのマークがついていて…さやかは青ざめる。

 

「こ、これって…く…首輪じゃないのっ!」

 

吹き出すほむら、笑いながら、さやかにしなだれてきて、いつの間に持っていたのか、リードまで取り付けはじめた。大の大人の女性同士が必死に首輪の取りつけで攻防を始める。必死にほむらから逃れようとするさやかと、必死にさやかの首に腕を回すほむら。台所が妙に騒がしくなった。

 

「ちょ、ちょっと、やめ…やめてってば!」

「あら、だめよ、せっかく買ってきたもの、おとなしく…しなさい」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぎながら、しばらくして、がちゃん、とひと際大きい音を立てて、リードも装着された。観念したのか、さやかは情けない声をあげておとなしくなった。嬉しそうに笑うほむら。腰に手をあて、主人然として右手のリードをくい、と引っ張る。

 

「さあ…観念なさいな、ワンちゃん?」

「うう…」

 

…な、なんなのよこれはっ!なんの罰ゲームよっ!

 

と、ぐい、と強くリードを引っ張られ、さやかは前のめりになり、ほむらの胸に顔を激突させる。笑顔のご主人に抱きしめられ、複雑な表情の蒼い犬。

 

「さあ…ベッドに戻るわよ?」

 

こくん、とおとなしく犬は頷くしかない。そのままリードで引っ張られ、ベッドへと押し倒される。リードを掴んだまま、飼い犬に跨ったご主人はさもご満悦な表情で。

 

「朝の続きをしましょう…?」

 

そう囁いて、犬と熱い口づけを交わす。

満足気に朝を迎えた主人の手にはずっとリードが握られたままだったという…。

 

 

END

 

 

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